SN比に変換する前に

品質(製品が出荷後に与える損失)を評価するには合理的な測度が必要です。
品質工学の特徴は分布の形を考えずに、理想機能からの差の2乗で損失を表現し、その平均をいかに小さくするかを考えることにあります。 必要なものは2次のモーメントであり、分布は考えていません。

SN比は、特性値の種類と理想機能の定義の仕方によって、その計算式は変わりますが、すべてその損失の逆数を現しています。
したがって、実験において、どのような入出力関係を仮定し、どのような誤差を取り入れデータを計測するかが、解析特性としてのSN比の質を大きく左右します。

今回は、SN比に変換する前の生データのチェック方法について、ご説明したいと思います。

データのモニタリング

SN比に変換する前に

  1. 信号因子と実際のデータの関係はどうなっているのか。
  2. 誤差因子に本当に定性的傾向はあるか。(望目特性や動特性で真値のあいまいな場合は特に重要)
  3. データの中に飛び離れた値はないか。
  4. SβとSeとの関係はどうなっているのか。
  5. 可能な校正方法はなにか。
などを検討することは実験を成功させる上で非常に重要になります。
「RQE」では、【解析(A)】→【データのモニタリング(M)】を選ぶことにより、生データのプロットを行うことができます。SN比に変換する前にデータを確認するのも良いでしょう。

「データのモニタリング」では

  1. 各実験ナンバーのデータのプロット
  2. ゼロ点比例式、基準点比例式、1次式の各関数関係における回帰直線の表示、データのプロット、STとSβの表示など
を行うことができます。

静特性の場合

静特性の場合、各実験ナンバーのデータをプロットすることにより

  1. 誤差因子に本当に定性的傾向はあるか。
  2. データの中に飛び離れた値はないか。
などを確認すると良いでしょう。

誤差因子に定性的傾向がある場合は、グラフの線と線は重なることなく、間隔が変化します。実験ナンバーによってその間隔が大きく変化する場合などはSN比の改善を期待してもよいでしょう。


   図5.1 誤差因子に定性的な傾向がある場合(調合した場合)

反対に、誤差を調合したにもかかわらず、線と線の間隔に変化がなかったり、クロスしてしまう場合などは注意が必要です。


   図 5.2 誤差因子に定性的な傾向がない場合(単なる繰返し)

そのような場合は誤差因子が、本当に特性値に影響を与えているか、また因子以外のもので大きくデータが動いていないかなど再確認して下さい。
望目特性の場合は誤差因子の役割が特に重要です。誤差因子が出力特性に定性的傾向を与えているかどうかSN比に変換する前に「データのモニタリング」で確認することをおすすめします。
場所間差などを誤差因子する時も同じ場所を続けて測定するのではなく、出力特性にプラスの影響を与えそうな場所とマイナスの影響を与えそうな場所を測定箇所に加えます。MAXとMINが測定できるならその値を使用してもよいでしょう。

単なる繰返し(定性的傾向のない偶然の誤差)でSN比に変換して最適条件を求めても再現する可能性はほとんどありません。

動特性の場合

動特性の場合、「データのモニタリング」のメニューに「ゼロ点比例式」「基準点比例式」「1次式」が用意されています。
入力(信号因子)M と出力(データ)y との間に、どのような関数関係を理想とするかにより計算式を選んで下さい。選んだ計算式で、各実験ナンバーごとの回帰直線の表示とデータのプロットを行います。
(通常は、入力信号がゼロのとき出力がゼロであることが明白なので、特殊な事情がない限り、ゼロ点比例式を利用します。)

動特性の場合、それぞれの条件での回帰変動(比例項の変動)がSβとなり、回帰直線からのずれの2乗和が誤差変動Seになります。各実験ナンバーごとの回帰直線の傾きとそのまわりのデータのばらつき状態を見ることによりSN比の高くなる条件がある程度推定できるでしょう。

動特性の場合

などの他に などを検討することをおすすめします。

右上に「注意」という文字が表示された実験ナンバーは、SβよりSe(誤差因子の効果、一次効果からの残差を含む)が大きくなってしまった場合です。

理由としては

  1. 誤差因子を調合したため誤差因子の効果が大きい
  2. 信号因子の真値があいまいのため直線からのずれが大きい
  3. データの測定ミス・入力ミス
  4. 計測の精度がない(ある実験ナンバーでは出力が小さすぎて計測ができないなど)
  5. 信号因子以外の要因によってデータが大きく動いている。または、信号因子の効果がない。
などが考えられます。

「注意」という文字が表示された場合はもちろん、表示されない場合でも、(1)(2)以外の理由が考えられる時は注意が必要です。データの入力ミスでないことを確認したあと、データのばらつき状態)をよく検討してそれぞれ適切な処理を行ないます。

ある実験ナンバーだけがおかしいと思われる場合は、とりあえず欠測値の処理を行ない、最適条件を求めて、確認実験によって現状からのゲインを実証するのも一つの方法です。
利得が再現しない場合は、特性値、制御因子、信号因子、誤差因子などを見直すことも必要になります。

また、画面の左辺にはその実験ナンバーの因子名と水準、STとSβ、βの推定値、αの推定値(1次式の場合)などが表示されますので参考にして下さい。


はじめての品質工学セミナールーム
第一回・・・パラメータ設計のための特性値

第二回・・・因子の分類と一般的な実験の組み方

第三回・・・SN比とその種類

第四回・・・効率的な設計開発を行うために

第五回・・・SN比に変換する前に

第六回・・・動特性それとも静特性?

第七回・・・最適条件を推定してみよう(1)

第八回・・・最適条件を推定してみよう(2)

第九回・・・確認実験は必ず実施しよう

第十回・・・品質評価のためのSN比

第十一回・・・欠測値の処理

第十二回・・・わりつけ(ダミー法と多水準作成法)

第十三回・・・望目特性とゼロ望目特性

第十四回・・・誤差因子の調合

第十五回・・・直交表とその役割

用語集・・・これだけは知っておきたい品質工学用語


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