SN比とその種類

どのSN比を使用するかは、システムの基本機能をよく考え決めることが大切です。あらゆるシステムは、入力としての信号と出力の関係を利用し、目的を達成しています。目的を達成するための基本機能(技術的な手段)をよく考えて、その機能性の研究を行うことが、開発設計を効率よく行う上で重要となってきます。

基本機能の理想関係が不明の場合や、計測上の制約があり、動特性が使用できない場合は、目的特性を用いて、静特性で解析する方法もあります。
SN比はそのシステムの機能性の相対値であり、主なものとして以下のSN比があります。


 動 特 性  静 特 性 百 分 率 特 性
■ゼロ点比例式  ■望小特性    ■オメガ(Ω)変換
■基準点比例式■望大特性■ID→オメガ変換
■1次式■望目特性 
■画像転写性■ゼロ望目特性

動特性
あらゆるシステムは入力としての信号と出力の関係を利用して、目的を達成しています。 信号として用いられる因子は、出力特性と直線関係にあるのが普通です。ただ、その直線関係は完全なものではなく誤差を持っているので、制御性の良否を評価するのに直線の傾きと誤差の比をとることになります。
信号因子の単位変化量に対する目的特性の変化をβ、誤差分散をσとすると、この場合のSN比ηをdb単位で

η=10log (β/σ

と定義します。

ゼロ点比例式(SN比)   10*log(b**2/ve)
ゼロ点比例式(感度)   10*log(b**2)
信号因子すなわち入力をMとして、M=0のとき出力yがゼロであることが明らかで、yがMの比例式

y=βM

が理想的である場合、ゼロ点比例式を用います。

基準点比例式(SN比)   10*log(b**2/ve)
基準点比例式(感度)   10*log(b**2)
ある基準点となる点 Mの標準があり、その点での偏りがゼロになるように基準点校正したうえで、基準点がゼロ点であるかのような比例式

y−y=β(M−M

が理想的である場合、基準点比例式を用います。

  • 「RQE」では、基準点のデータをキーボードから入力した場合は、
    Ve=(ST-Sβ)/(全自由度-1)
    リターンキーを押して、基準点の全データの平均値を計算させた場合は
    Ve=(ST-Sβ)/(全自由度-2)
    で計算を行い、SN比への変換をおこないます。

1次式(SN比)   10*log(b**2/ve)
1次式(感度)   10*log(b**2)
信号因子とデータの間に、特に制限なしで直線関係を想定した場合です。Mとyの間に、1次式

y=α+βM

を仮定して解析を行います。

誤差を調合した場合
ゼロ点比例式(SN比)   10*log(b**2/V)
基準点比例式(SN比)   10*log(b**2/V)
1次式(SN比)   10*log(b**2/V)
ゼロ点比例式(感度)   10*log(b**2)'
基準点比例式(感度)   10*log(b**2)'
1次式(感度)   10*log(b**2)'
誤差を調合した場合、Seの中には直線性からのずれなどによる誤差の他に調合したNの効果が含まれています。これをその自由度で割ったVeは、SN比を求める分母のVeとしては妥当であるが、βを推定するときのVeとしては大きすぎることがあります。
そのような場合分子の方の誤差変動を求める際にNの効果(SN)をSeから除く必要があります。
「RQE」では、『誤差を調合した場合』を選ぶことにより分子の方の誤差変動は

Se=ST−Sβ−SN

として計算します。

信号因子の精度がよくない場合
ゼロ点比例式(SN比)   10*log(b**2/ve)Mres
1次式(SN比)   10*log(b**2/ve)Mres
信号因子の水準値が一応はわかるが誤差が大きいと考えられる場合は、 直線からのずれは信号にも誤差にも含めないような計算を行います。 すなわち、信号による変動SMをおおよその水準値に比例する部分Sβ と、一次効果からの残差SMresに分離します。
実際の計算では、直線関係をどのように想定するかによって、ゼロ点比例式、一次式に分けることができます。

試料間の変動を信号とする場合(信号因子の真値が不明)
ゼロ点比例式(SN比)   10*log(VM/ve)
1次式(SN比)   10*log(VM/ve)
信号因子の水準値についての正確な情報がない場合、便宜的に試料間の変動を信号と考えます。
ただし、信号とデータの間に直線関係が成り立つか、十分精度の高い関係式を用いることが前提となっています。特に信号以外の要因でデータが大きく変化しないことを確認することが大切です。
実際の計算では、直線関係をどのように想定するかによって、ゼロ点比例式、一次式に分けることができます。

画像転写性(SN比)   -10*log(ve)
画像転写性(感度)    Σ(y-M)/r
アナログ複写機の場合、入力が原稿の濃度M、出力がコピー画像の濃度yになります。
理想的には出力yの値は、原稿の高濃度から低濃度までのすべての領域で入力Mと一致すればよいと考えられます。
したがって、45°線からの誤差分散よりSN比を求め、濃度差の平均値を感度として解析します。

静特性
望小特性(SN比)   -10*log(VT)
非負で小さいほど良い特性です。摩擦,騒音などは望小特性になります。
このような特性値は、平均値が小さくなればばらつきも小さくなる傾向があるので、平均値の解析でも間違いとはいえません。 しかし、平均値は同じでもばらつきが小さくなることもあるので、このSN比に変換して解析したほうが合理的です。 平均値とばらつきが小さくなるとSN比は高くなります。

望大特性(SN比)   -10*log(1/y**2)
非負で大きいほど良い特性です。強度などの特性は望大特性になります。
このような特性値の場合は、平均値は大きくばらつきは小さいことが理想です。 そこで、特性値の逆数の2乗平均をSN比として解析を行います。 平均値が大きくばらつきが小さくなるとSN比は高くなります。

望目特性(SN比)   10*log(m**2/ve)
望目特性(感度)    10*log(m**2)
ある有限の目標値があって、目標値よりも小さくても大きくても望ましくない特性です。 寸法とか時間とか負にならない場合、この特性を使います。
  • 負にならない望目特性の場合、SN比は平均値mと標準偏差σの比の2乗になります。 分散だけでは最適条件を求めることはできません。分散が2/3になっても平均値が半分になってしまうのでは誤差率がふえてしまうからです。 平均値がゼロになれば、分散もゼロになることからも判ると思います。 平均値の大きさにくらべて誤差の大きさが小さい条件(m/σが大きくなる条件)を選ぶことが大切です。 mの推定値は感度Sと呼ばれています。
  • 望目特性の場合、はじめは目標値にこだわらないでSN比を改善し、次にSN比に関係がより少ない要因で感度Sを目標値に調節します。 ここでは、目標値からの偏差をとっていないことを注意してください。 平均値と目標値の間にかたよりがあっても平均値を目標値に一致させる対策は、比較的に容易にとることができるからです。
  • 誤差因子は、出力特性に定性的傾向のあるものを必ずとりあげて下さい。 望大、望小特性のSN比が平均値とばらつきを総合評価しているのに対して、望目特性のSN比は、ばらつきの相対的な評価であるため、誤差因子の役割が特に重要になります。
  • 望目特性の場合、生データファイルから2つの新しいファイル(SN比,感度)を作成する必要があります。

ゼロ望目特性(SN比)   -10*log(ve)
望目特性は大きく2種類に分けられます。 目標値ゼロの望目特性など負の値をとり得る場合こちらのSN比で解析します。 感度には平均値(生データ)を用います。
  • 負にならない望目特性の場合、SN比は平均値mと標準偏差σの比の2乗でした。 しかし、負の値をとる場合の分散は平均値によって影響されないため、分散の小さくなる条件を選べばよいことになります。
  • この場合も同様に、はじめは目標値にこだわらないでSN比を改善し、次にSN比に関係がより少ない要因で感度Sを目標値に調節します。

百分率特性
オメガ(Ω)変換   -10*log(1/P-1)
熱効率のようにゼロから 100%までの値しかとらないデータはオメガ変換をすることにより算術的加法性が成り立ちます。
ID→オメガ変換   10*log(10^ID-1)
マクベス濃度計の読み値から吸収率を求め、吸収率をオメガ変換します。
    像濃度について
    • コピーのような像濃度を測定する場合、光をあてて、光の反射率Pを調べ、その値の逆数の対数を濃度として定義しています。

      y=log (1/P)

    • この変換によってyは0から∞をとり、像濃度が濃い(P=0)のところの計測の精度が上がりました。 しかし全範囲の品質改善のためには、P=0の付近と同様にP=1の付近も重要です。 P=1の付近の精度を上げるためには、マクベスの読み値から反射率Pを求め、吸収率qをオメガ変換することをお勧めします。

      y=−10log(1/q−1)

    • オメガ変換によりyは−∞から∞をとり、全範囲での精度が上がり、加法性も期待できます。
    • 「RQE」では『ID→オメガ変換』を選ぶことにより、マクベスの読み値から吸収率のオメガ変換値を直接求めることができます。


はじめての品質工学セミナールーム
第一回・・・パラメータ設計のための特性値

第二回・・・因子の分類と一般的な実験の組み方

第三回・・・SN比とその種類

第四回・・・効率的な設計開発を行うために

第五回・・・SN比に変換する前に

第六回・・・動特性それとも静特性?

第七回・・・最適条件を推定してみよう(1)

第八回・・・最適条件を推定してみよう(2)

第九回・・・確認実験は必ず実施しよう

第十回・・・品質評価のためのSN比

第十一回・・・欠測値の処理

第十二回・・・わりつけ(ダミー法と多水準作成法)

第十三回・・・望目特性とゼロ望目特性

第十四回・・・誤差因子の調合

第十五回・・・直交表とその役割

用語集・・・これだけは知っておきたい品質工学用語


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