効率的な設計開発を行うために

設計開発の中心は、システム設計(システムの選択)と今回この講座で説明しているパラメータ設計です。ある目的を達成するためのシステムやコンセプトを創造・開発したあと、それらのシステムが市場で十分な競争力をもつためには、創造・開発したシステムに対し、パラメータ設計を効率的に行うことが重要です。

効率的な設計開発を行うために、目的特性や目的機能を調べずにできるだけ基本機能(技術的な手段)の機能性を評価特性に使用します。また、おおきなシステムや制御系を含む場合は、サブシステムに分割し、要素技術ごとの機能性の研究を併行に進めるとよいと思います。

パラメータ設計の手順は、品質工学のページ〜実験の基本的な手順〜を参照してください。

今回は、デジタル印刷機を例に、効率的な設計開発を行うためにどのような計測特性値をとりどのような評価特性(SN比)を考えたらよいかを、もう一度確認しておきたいと思います。

複写機や印刷機には、多くの品質項目があり、その仕様があります。
たとえば、複写機や印刷機の場合、作像プロセスだけでも、画像濃度、地汚れ、解像力、階調性、濃度ムラ、ベタ均一性など、数多くの品質項目があり、それぞれの項目に対して仕様が細かく決められています。この品質項目を個別に解析する場合、静特性が用いられ、たとえば、地汚れは望小特性、ベタ濃度は望大特性というように計算を行います。

しかし、品質特性はあくまでも結果でしかないため、特性値の加法性も低く、また、「地汚れを特性値に、解析を行い最適条件を求めると、地汚れはなくなったが、全体的に濃度が低くなり濃度不良が・・・」など、ある品質項目が改善されたら別の品質項目が見つかるという悪循環を招く可能性もあります。

品質特性と理想機能の関係

複写機や印刷機の製品としての機能を考えた場合、原稿の変化(いろいろな濃度やパターン)を確実に用紙に転写することだと考えることができると思います。そして、信号と出力の間に比例関係が成立することが理想関係となります。私たちは、この理想関係からのずれを個々の品質項目として定義しています。お客様の使用環境や、部品等の劣化が起きてもこの理想関係からのずれをなくすことができるのなら、品質上のトラブルは解決するのではないでしょうか。

この理想関係を解析する方法として、原稿の濃度とコピー画像の濃度をマクベス濃度計で測定し、光の吸収率のオメガ変換値を用いて入出力の関係を解析する方法が昔からよく用いられてきました。

重要なことは、
個々の品質特性を取り上げるのではなく、入力と出力の関係を理想関係に近づける事により、副作用に変換されるエネルギーを減少させ、品質問題を改善する
ということです。

さらに、機能性の改善を行う場合も、
製品の機能にとらわれるのではなく、独立な機能はサブシステムに分割し、要素技術ごとの基本機能の機能性の研究を、分割されたサブシステムごとに併行して進める
ことが設計開発の効率化につながります。要素技術ごとの基本機能の機能性の研究は、同様な機能を持つ他の製品でも活用できるからです。 制御系を含む場合も同様です。

複写機や印刷機の場合も、原稿の画像を用紙に転写するという目的を達成する技術的手段は、数多く存在し、計測上の制約がない限り、技術要素別に分解を行い、その技術的な手段における機能性の評価を行うことが、設計開発の効率化につながると思います。

デジタル印刷機の場合は、まず、原稿を光学的に走査して読みとり、それを電気信号に変換します。
その電気信号によって、サーマルヘッドの表面にライン上に並んだ微小な発熱体素子を発熱させます。
その個々の熱エネルギーによって、熱可塑性樹脂フィルムに穴をあけて、出力したい画像パターンを、マスターとよばれている製版用原紙に形成します。
つぎに、その穿孔された部分(マスター孔)にインキを通過させて、画像を形成します。


 入力と出力の関係を図に整理してみると下の図のような関係になります。

デジタル印刷機の入出力関係(モジュールへの分解)

読みとりでは、画像パターンが信号であって、変換された電気信号が出力となります。
サーマルヘッドに関しては、電気信号が入力で発熱体の熱エネルギーが出力となります。
また、熱可塑性樹脂フィルムの穿孔では、発熱体素子の熱エネルギーが信号であり、穿孔されたマスター孔のパターンが出力となります。
また、インキの通過というプロセスに着目してみると、穿孔されたマスター孔のパターンが信号であって、用紙に転写される画像のパターンが出力となります。

当社では、デジタル印刷機の実験は、このような4つのモジュールにわけて併行開発を行ってきました。
この要素技術別の機能性の研究が、個別の製品だけでなく同じ要素技術を使用した製品をチューニングだけで開発することを可能にすると私たちは考えています。

第3回品質工学フォーラム研究発表大会では、デジタル印刷機の要素技術の一つである、マスター孔のパターンを画像パターンに転写するというモジュール(孔版印刷)で使用されているインキの最適化に品質工学の考え方を取り入れ検討を行った事例をご紹介しました。参考としていただければ幸いです。


はじめての品質工学セミナールーム
第一回・・・パラメータ設計のための特性値

第二回・・・因子の分類と一般的な実験の組み方

第三回・・・SN比とその種類

第四回・・・効率的な設計開発を行うために

第五回・・・SN比に変換する前に

第六回・・・動特性それとも静特性?

第七回・・・最適条件を推定してみよう(1)

第八回・・・最適条件を推定してみよう(2)

第九回・・・確認実験は必ず実施しよう

第十回・・・品質評価のためのSN比

第十一回・・・欠測値の処理

第十二回・・・わりつけ(ダミー法と多水準作成法)

第十三回・・・望目特性とゼロ望目特性

第十四回・・・誤差因子の調合

第十五回・・・直交表とその役割

用語集・・・これだけは知っておきたい品質工学用語


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