パラメータ設計のための特性値

企業では、環境や劣化問題などさまざまなノイズに対して、機能のばらつきができるだけ少ない製品や生産工程を設計することが重要です。コストとは独立に、このような目的に対する最適設計の各制御因子の水準値を決めることをパラメータ設計といいます。

パラメータ設計においては機能品質を合理的に表現する特性値が必要です。いままでの実験計画法では、計測特性をそのまま解析の特性値にすることが多いのですが、パラメータ設計ではSN比という信号とばらつきの比に変換して、変換した特性値で解析をおこないます。

すなわち、今までの実験計画法が平均値の解析(因果関係の研究)を中心にしていたのに対して、パラメータ設計では、ばらつきの改善と平均値の調整を行なうことができ、安定性の良い製品設計が行えることになります。
例題で、以前の実験計画法とパラメ−タ設計の違いを説明しましょう。

例題1

スピンドルモ−タのスペ−サの接着を行うため、接着剤を選びたい。
接着強度の規格は50Kg以上である。3種類の接着剤でヒートサイクルの前後で接着強度を測定した。

 ヒートサイクル
接着剤
ヒートサイクル前
B1
ヒートサイクル後
B2
  計  
接着剤 A1  75  70 145
接着剤 A2 134  51 185
接着剤 A3  83  79 162
292 193 485

このような場合、今までの実験計画では接着剤Aの主効果の要因効果図からA2の接着剤を選ぶことになります。

しかし生データを見てもわかるようにA2は他の接着剤に比べて、ヒートサイクル前後でばらつきが大きく、安定性という面からよい接着剤ではありません。
我々は、接着強度が大きい接着剤を選ぶことと同時に、機能のばらつきを小さくするような条件を選ぶべきです。

パラメータ設計の場合はヒートサイクル前後のデータからSN比を求め、そのSN比を特性値とした解析を行います。
(この場合、望大特性のSN比に変換をおこないます)

接着剤A1のSN比
  η= -10log{1/2(1/75+1/70)} = 37.19
接着剤A2のSN比
  η= -10log{1/2(1/134+1/51)}= 36.57
接着剤A3のSN比
  η= -10log{1/2(1/75+1/70)} = 38.16

 ヒートサイクル
接着剤
ヒートサイクル前
B1
ヒートサイクル後
B2
  SN比  
接着剤 A1  75  70  37.19
接着剤 A2 134  51  36.57
接着剤 A3  83  79  38.16

望大特性のSN比は、平均値とばらつきを総合した特性値であり、平均値が大きく、ばらつきが少ないほど高くなります。

この場合、要因効果図より、SN比の高いA3の接着剤を選ぶことになります。
 

もちろん従来の実験計画法でも機能のばらつきを評価できないことはありません。
AとB(接着剤とヒートサイクル)の交互作用を求めて、そのグラフから最適条件を選択したり劣化条件ごとに強度を比較すれ ば良いのですが、これは効率の悪い方法であり、安定性の評価特性であるSN比を求めることが、損失関数にも直結していて合 理的な方法であるといえます。

一定の目標値が最適の場合も基本的な考え方は同じです。

例題2

ある製品はゴムローラにエアスプレーでウレタン塗料を付着させ、成膜を行なう。膜厚の目標値は30μmである。最適な塗布圧力(A)と塗布距離(b)を求めるため、2元配置で実験を行なった。 それぞれの実験条件で圧送タンクの液量をかえて2本成膜を行ない、ローラ軸方向に3箇所の膜厚を測定した。圧送タンクの液量は生産設備上一定にすることはできない。


塗布圧力

塗布距離
圧送タンク液量
1リットル 5リットル
A1 B1  12  15  13  14  18  16
B2  22  28  25  26  29  28
B3  33  35  34  36  37  35
A2 B1  22  22  18  23  26  26
B2  30  34  29  34  36  32
B3  40  42  39  42  45  43
A3 B1  21  30  25  31  39  36
B2  32  37  36  37  39  36
B3  42  45  44  42  46  44

設計定数を決定する際、目標値を合わせることは比較的簡単です。この例題の場合も目標値である30μmを得ることは容易にできます。通常に2元配置で解析をしてみましょう。

要因効果図より、塗布圧力と塗布距離の双方とも膜厚に影響を及ぼしていることがわかります。どちらの因子を用いても平均値を目標値30μmに調節することは容易です。

私達は今まで平均値のことしか考えていませんでした。また、ばらつきを少なくすることは許容差を狭くすること、すなわちコストが上がる事だと考えていました。しかし、そうではありません。このような場合は、望目特性というSN比を特性値で解析を行うのがよい方法です。

望目特性は、目標値にこだわらないでSN比を改善し、次にSN比に関係がより少ない要因で平均値を目標値に調節します。

望目特性で解析を行なってみましょう。
望目特性のSN比は、平均値と標準偏差の比の2乗で、ばらつきを相対的に表わしています。すなわち、SN比が高いほど安定した条件ということになります。
感度平均値の2乗の推定値を表わしています。

要因効果図より、塗布圧力(A)と塗布距離(b)は双方とも平均値には同じ様な影響を与えていますが、ばらつきへの影響は違います。
この場合、塗布距離(b)はSN比の高い3水準に固定し、平均値の調整は塗布圧力(A)で行なったほうが良い事がわかります。

SN比  望目特性《10*Log(m**2/Ve)》(db)

感度  望目特性《10*Log(m**2)》(db)

いままでの実験計画法が、制御因子も誤差因子も信号因子も区別なく、特性値に対する変数の影響を調べていたのに対して、パラメータ設計の場合は、信号因子に対する効果を維持しながら、誤差因子の総合的な影響を最小にするのが目的です。

ここではわかりやすいように、静特性を例にパラメータ設計の説明をしてきました。
しかし、開発設計で実際に研究を行なう場合は、寸法や品質項目に対する静特性を用いるより、動特性を用いて、その製品の機能が理想機能にどれだけ近いかを研究するほうが能率の良い方法です。接着強度の例では、接着面積を信号因子にして研究を行なうと良いでしょう。また成膜の実験の場合も、目標値が30μm以外の他の製品の場合も考え、できる限り動特性を用いて研究を行なうことお薦めします。

通信の世界では、通信機器・回線の良さ・信号の質の良さを表す特性値の一つとして信号と雑音の比の値が、SN比という名前で使われていました。
パラメータ設計でのSN比はこのSN比の概念を発展させ、「機能の安定性を表す測度」として考案されたものです。

SN比ができるまでは

  1. 交互作用のグラフにより判定する
  2. 標準偏差や範囲を目的特性にする
  3. 収率、不良率など品質上のデータを特性値にする
などで安定性を評価してきました。しかし、
  1. は因子が多い時判定が困難である
  2. は出力がゼロのとき安定性が最も良くなってしまう
  3. は特性値として加法性がないことが多い・多くのデータが必要であるため時間がかかる
などの問題点も多く安定性をうまく評価することはできませんでした。 このようなことから、SN比の重要性がますます大きくなっています。


はじめての品質工学セミナールーム
第一回・・・パラメータ設計のための特性値

第二回・・・因子の分類と一般的な実験の組み方

第三回・・・SN比とその種類

第四回・・・効率的な設計開発を行うために

第五回・・・SN比に変換する前に

第六回・・・動特性それとも静特性?

第七回・・・最適条件を推定してみよう(1)

第八回・・・最適条件を推定してみよう(2)

第九回・・・確認実験は必ず実施しよう

第十回・・・品質評価のためのSN比

第十一回・・・欠測値の処理

第十二回・・・わりつけ(ダミー法と多水準作成法)

第十三回・・・望目特性とゼロ望目特性

第十四回・・・誤差因子の調合

第十五回・・・直交表とその役割

用語集・・・これだけは知っておきたい品質工学用語


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