品質評価のためのSN比

通信工学の世界では、通信機器・回線の良さ・信号の質の良さを表す特性値の一つとして信号と雑音の比の値が、SN比という名前で使われていました。
品質工学でのSN比はこのSN比の概念を発展させ、「機能の安定性を表す測度」として考案されたものです。

パラメータ設計では、設計を変えることで、機能をばらつかせる環境や劣化などのばらつきの影響を、いかに減衰させるかということが重要で、そのための安定性の評価測度としてSN比を使用します。

具体的には、内側に制御因子を、外側に誤差因子信号因子を割り付け、最適な制御因子の水準を選択するためにSN比を利用します。詳しくは、「因子の分類と一般的な実験の組み方」を参照してください。

SN比は安定性の評価測度ですので、パラメータ設計で最適な制御因子の水準を選択するのに使用したのと同様に、計測器や工作機械などの優劣の判断や、測定条件や製造条件選択など、あらゆる機能品質の評価に活用することができます。

今回の講座では、2つのSN比を比較し機能品質の優劣を判断する場合(SN比を機能品質の評価に用いた例)をご紹介したいと思います。

例題1

簡易型の周波数測定器がY社とH社から販売されている。
この2台の測定器の性能を比較し購入時の参考としたい。

信号因子としては、基準の発振器にて真値とみなしてよい周波数を作成した。また、複数の波形の対して周波数を計測することが求められているため、誤差因子として波形の種類を変え測定を行った。

以下のデータは、ゼロ点校正後の計測器の周波数測定データである。 SN比を求め、周波数測定性能の比較をせよ。

Y社の測定器
 信号因子
誤差因子
M1
(1MHz)
M2
(5MHz)
M3
(9MHz)
M4
(15MHz)
N1(正弦波) 1.002 5.011 9.008 14.942
N2(短形波) 1.008 5.014 9.021 15.088
N3(三角波) 0.995 5.003 9.012 15.069

H社の測定器
 信号因子
誤差因子
M1
(1MHz)
M2
(5MHz)
M3
(9MHz)
M4
(15MHz)
N1(正弦波) 1.033 5.175 9.305 15.501
N2(短形波) 1.038 5.183 9.312 15.508
N3(三角波) 1.027 5.166 9.283 15.482

信号は、、基準の発振器の周波数
M1=1MHz
M2=5MHz
M3=9MHz
M4=15MHz

周波数測定器として、複数の波形の対して周波数を計測することが求められているため、誤差因子として波形の種類を変え測定を行った。
N1=正弦波
N2=短形波
N2=三角波

解析手順

この例題では、2台の周波数測定器の性能を比較したいので、周波数測定器が制御因子となり、第1水準がY社の測定器、第2水準がH社の測定器となります。(1元配置の水準2)
コンボボックスで完備型を選択し、1元配置の水準2と指定してもよいのですが、RQEにはSN比の比較のためのL2というモード(前回の講座「確認実験は必ず実施しよう」で使用したモード)があるのでそちらを利用するとよいと思います。

ゼロ点校正後のデータなのでゼロ点比例式を使用し、周波数計測器の比較をしてみましょう。

もうお分かりだと思いますが、このような計測器の性能を比較する場合でも、望目特性と同様に、はじめは目標値にこだわらないことが大切です。比例定数βは誤差因子間で変化するのでなければ、後で校正することでより正しい測定結果が得られます。使用環境などの誤差因子の条件下で、入出力の比例関係が成立することが重要です。

解析の手順を以下にまとめておきます。

  1. 直交表の選択【コンボボックス】
    L2を選択します。

  2. データの新規作成【ファイル(F)】→【新規作成(N)】
    メニューバーから【ファイル(F)】→【新規作成(N)】を選択します。

  3. ファイル名の入力
    ファイル名を入力します。(ここでは「clk」というファイル名にしました。)

  4. 各実験ナンバーのデータ数の入力、直交表のわりつけ
    ひとつの実験ナンバーのデータ数を入力します。
    この場合、信号因子が4水準、誤差因子が3水準なので、各実験ナンバーのデータ数は12になります。 OKボタンをマウスでクリックし、わりつけを終了します。

  5. データの入力【ワークシート】
    ワークシートにデータを入力します。
    データの入力順序は誤差因子の水準より信号因子の水準を、単純な反復より誤差因子の水準を優先して入力して下さい。
    信号因子が4水準、誤差因子を3水準の場合の入力順序は

    M1N1,M1N2,M1N3,M2N1,M2N2,M2N3,M3N1,M3N2,M3N3,M4N1,M4N2,M4N3
    となります。

    データの入力が終了したら、データを保存します。

  6. SN比変換【SN比(S)】→【ファイル変換(C)】
    メニューバーから【SN比(S)】→【ファイル変換(C)】を選択します。

Y社とH社の2台の周波数測定器のSN比が計算されました。

SN比の差を計算してみましょう。
39.745-29.317=10.428(db)

この結果から10.428(db)H社の周波数測定器が優れていることがわかります。
10.428(db)いわれても…という人は、真数(デシベルにする前)に直してみてください。

10.428(db)は、真数では、11.036に相当するので、Y社の周波数測定器はH社の周波数測定器より、校正後の誤差分散が、11.036倍大きいことになります。 すなわち、誤差の範囲では√11.036=3.322倍程、測定精度に差があることになります。

比例式校正の情報が必要な場合は、解析からチェックリストの出力を参照してみてください。

チェックリストでは、ゼロ点比例式の詳しい分散分析表の他、βの推定値デシベルにする前のSN比η(校正後の誤差分散の逆数)が表示されているので、測定器の校正に活用することができます。

(1次式の場合はαの推定値やmの推定値も表示されます。)

校正後の誤差分散は 1/η?

感度(β)が違う計測器の誤差を比較する場合、単純に出力(y)の誤差分散を比較することで、計測器や計測方法の優劣を比較することはできません。
出力(y)の誤差分散は、計測器の感度の影響を受けるからです。

私たちが知りたいのは、出力(y)の誤差分散ではなく、計測対象の真値(M)の誤差分散です。

出力(y)と真値(M)の関係が以下のような場合 (eは、Mとyをゼロを通る直線関係とみなしたときのyの誤差)

y=βM+e

求めたい真値Mは

M=(y/β)−(e/β)

となり、Mの推定誤差は(e/β)となることが分かると思います。

すなわち、出力(y)の誤差分散を σ2 とすると、校正後の誤差分散は

σ2/β2 となり

デシベルにする前のSN比ηの逆数(1/η)が校正後の誤差分散となります。

3σ を考える場合は、±3/√η となります。

η はチェックリストに表示されていますのでそれを利用するとよいと思います。


はじめての品質工学セミナールーム
第一回・・・パラメータ設計のための特性値

第二回・・・因子の分類と一般的な実験の組み方

第三回・・・SN比とその種類

第四回・・・効率的な設計開発を行うために

第五回・・・SN比に変換する前に

第六回・・・動特性それとも静特性?

第七回・・・最適条件を推定してみよう(1)

第八回・・・最適条件を推定してみよう(2)

第九回・・・確認実験は必ず実施しよう

第十回・・・品質評価のためのSN比

第十一回・・・欠測値の処理

第十二回・・・わりつけ(ダミー法と多水準作成法)

第十三回・・・望目特性とゼロ望目特性

第十四回・・・誤差因子の調合

第十五回・・・直交表とその役割

用語集・・・これだけは知っておきたい品質工学用語


品質技術支援サイト ≪HOME≫
RDE