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■日本語のローマ字表記方式の各種規格、法人・個人の案の紹介と比較。
この文書は、日本語のローマ字表記の方式について、筆者がしっているいろいろな方式を紹介し、比較するものです。ただし、すべての方式を網羅しているわけではありませんのでご了承ください。
また、筆者がしっているすべての方式を紹介しているわけでもありません。選択にあたっては、公的規格を中心に、歴史的に重要なもの、社会的認知度のたかいものという観点でえらびました。
たとえば、下記の文献1には、「ポルトガル式」、「オランダ式」、「有機式ローマ字」、「服部四郎の方式」というものものっていますが、これらは現在ではほとんどおめにかかることがないとおもい、ここには紹介しませんでした。
また、この文書を記述するにあたっては、歴史的な経緯の記述に関して、下記の本をよりどころにしました。
ふつう、「日本語のローマ字表記方式の種類」というと、
の3種類があげられます。しかし、それぞれがいったいどういう方式なのかは、かなりあいまいです。しかし、はなしをとっつきやすくするために、しばらくあいまいなままにはなしをすすめます。
「日本式」・「訓令式」・「ヘボン式」のちがいは、下記の部分にあらわれます。
<n>
か、<b><m><p>のまえでは<m>になるか。それぞれを比較したのが下記の表です。日本式を基準として、ちがいがある部分は、強調表示にしてあります。
日本式 | 訓令式 | ヘボン式 | |
---|---|---|---|
五十音 |
a i u e o ka ki ku ke ko sa si su se so ta ti tu te to na ni nu ne no ha hi hu he ho ma mi mu me mo ya (yi) yu (ye) yo ra ri ru re ro wa wi (wu) we wo ga gi gu ge go za zi zu ze zo da di du de do ba bi bu be bo pa pi pu pe po kya kyu kyo sya syu syo tya tyu tyo nya nyu nyo hya hyu hyo mya myu myo rya ryu ryo gya gyu gyo zya zyu zyo dya dyu dyo bya byu byo pya pyu pyo kwa gwa |
a i u e o ka ki ku ke ko sa si su se so ta ti tu te to na ni nu ne no ha hi hu he ho ma mi mu me mo ya yu yo ra ri ru re ro wa ga gi gu ge go za zi zu ze zo da zi zu de do ba bi bu be bo pa pi pu pe po kya kyu kyo sya syu syo tya tyu tyo nya nyu nyo hya hyu hyo mya myu myo rya ryu ryo gya gyu gyo zya zyu zyo zya zyu zyo bya byu byo pya pyu pyo |
a i u e o ka ki ku ke ko sa shi su se so ta chi tsu te to na ni nu ne no ha hi fu he ho ma mi mu me mo ya yu yo ra ri ru re ro wa ga gi gu ge go za ji zu ze zo da ji zu de do ba bi bu be bo pa pi pu pe po kya kyu kyo sha shu sho cha chu cho nya nyu nyo hya hyu hyo mya myu myo rya ryu ryo gya gyu gyo ja ju jo ja ju jo bya byu byo pya pyu pyo |
撥音(ん) | すべて n | すべて n | b, m, p のまえは m それ以外は n ただしすべて n でかくこともあり |
促音(っ) | つぎの子音字 例: ラッパ rappa |
つぎの子音字 例: ラッパ rappa |
つぎの子音字 ただし c のまえは t 例: ラッパ rappa マッチ matchi |
長音 | 母音字のうえに ^ (注1 例: 東京 Tôkyô |
現在の内閣告示では母音字のうえに ^ むかしの内閣訓令では母音字のうえに ¯ |
母音字のうえに ¯ (注2 例: 東京 Tōkyō ただし ^ もあり |
注:
いろいろある日本語のローマ字表記方式のおもなちがいは以上ですが、じつは、もうすこしいろいろなバリエーションがあります。以下に、それらについてくわしくのべます。
以下の表記法式のなまえは、このウェブ・サイトでのよびかたです。だいたい、一般的にもこうよばれるとおもいますが…。
「ヘボン式」とはどういうものかを明確に記述した資料はないようですが、わたくしの経験による見解は以下のとおりです。
「チ」「ツ」を<chi><tsu>とかくなど、英語式の、ローマ字(ラテン文字)と発音の関係を意識したもの。ただ、ヘボン式でかけば英語話者はまちがいなくただしい発音をしてくれるかといえば、そういうわけでもない。また、つづりが不規則になっておぼえにくかったりまちがいやすい面もある。
ヘボン(Dr. James Curtis Hepburn; 横浜にいたアメリカ人の医療伝道宣教師、医師)の和英辞典『和英語林集成』の第1版でヘボンがもちいた表記方式を、羅馬字會が修正して、『羅馬字にて日本語の書き方(羅馬字会)』(羅馬字會, 1885(明治18)年)として発表、それが同辞典の第3版に採用されてひろまった。しかし、この時点では、助詞の「へ」「を」を<e><o>ではなく、<ye><wo>とかいたり、「円」を<yen>とかく(いまの紙幣にかかれているつづりはこのなごりらしい)など、現在一般的にしられている「ヘボン式」とはことなる。
のちに「ローマ字ひろめ会」がこれを修正し、「標準式」として発表した(1908(明治41)年か?)。これが今日一般的に「ヘボン式」といわれているもにもっともちかいようである。ヘボンの辞書の方式と区別するために、「修正ヘボン式」ともいうようである。しかし、ヘボンの辞書の第1版のつづりに対しての第3版のつづりや、羅馬字會の『羅馬字にて日本語の書き方(羅馬字会)』の方式を「修正ヘボン式」とよんでいるむきもあるようだ。長音の字上符は<^>でも<¯>でもよく、<b><m><p>のまえの「ん」は<m>でかいても<n>でかいてもよいことになっていて、<m>をつかうときでも複合語はハイフンでくぎって<n>でかくようになっている。例: 新番組 shin-bangumi
旅券法施行規則、鉄道掲示規定、道路標識設置基準・同解説、英国規格、「パスポート」などで「ヘボン式」「改修ヘボン式」「修正ヘボン式」「modified Hepburn system」などというなまえで参照されているが、このようななまえでその方式を記述した文書はないとおもわれる。ヘボンの和英辞典、羅馬字會の『羅馬字にて日本語の書き方(羅馬字会)』、「標準式」などの方式の共通項的な部分を漠然とさしているとおもわれる。具体的には前述の「1 日本式・訓令式・ヘボン式」にかいた表の、訓令式や日本式とのちがいの部分である。
英国規格では、「ん」を<b><m><p>のまえでもつねに<n>でかくが、これを「修正ヘボン式に対する例外」と表現し、Kenkyusha's New Japanese-English Dictionaryの1954年版に導入されたものと記述している。これは、たとえば「清」の<Shin>や「出版」の<shuppan>というつづりが「清末」や出版部」といった複合語の一部となったときに、<Shimmatsu>や<shuppambu>のようにつづりがかわってしまうことをさけることが目的である。以下は原文の引用:
This exception to the ‘modfied Hepburn’ system, introduced in the 1954 edition of Kenkyusha's New Japanese-English Dictionary, is adopted primarily to obviate anomalous and inconsistent treatment of syllabic ‘n’ in certain systematically formed compounds, written as single words according to the rules for word division, e.g. Shinmatsu(‘end of the Ch'ing dynasty’), Shuppanbu(‘publication division’).
つづりと発音の関係が英語に偏重したヘボン式を非難し、音韻論を駆使して日本語固有の音韻構造にもとづく合理的なつづりとして発表したもの。訓令式の基礎となる。
動詞の活用形の語幹が、たとえば「たつ」なら、
tat-anai,
tat-i masu,
tat-u,
tat-u toki,
tat-e ba,
tat-e,
tat-ou
のように<tat->にきれいにそろう。また、全体的につづりが五十音表に対して規則的でおぼえやすい。
田丸卓郎(著). "ローマ字国字論". 岩波書店, 1930.
に記述されている「日本式綴り方」の説明によると以下のとおり。
- はねる音には凡てnを使ふ 例 Anma, Kanban.
- つまる音には次に来る kstp を二つ重ねて書く 例 Sekkei, Ressya, Ittyôme, sappari.
- 引く音には aiueo に ^ を付け、又は(特に大文字の時は)母字を二つ重ねて書く 例 Kôbe, Oosaka, Tôkyô, TOOKYOO.
この綴り方の特徴は、
- 五十音圖の各行に一定の父字を使ふ。
- キャシャ等の拗音を凡て同じ規則に從つて書く
この二つである。但しャ行のイエとワ行のウとは、假名でもア行のイエウと區別なしに書くから、yi ye wu の綴りを使はない。
この綴り方が始めて明にこの形に纏まつて出たのは明治十八年田中館博士が「ローマ字意見及び發音考」として發表されたものに於てである。〔但しそのときの表は yi ye wu を認めることになつて居た點だけ上のものとちがふ〕。
日本式から「じ・ぢ」および「ず・づ」の区別をなくして<zi><zu>とし、「クヮ」「グヮ」「ヲ」の表記である<kwa><gwa><wo>などをなくしたもの。また、長音の表記は、日本式の ^ (アクサンシルコンフレックス)から、ヘボン式でつかわれていた ¯ (マクロン)になった。
「訓令式」といえば、そのなまえからして、正確にはこの方式をさすとおもわれるが、下記の「昭和29年内閣告示」や「ローマ字教育の指針 ローマ字文の書き方」の表記方式をさしてもつかわれているようである。ただ、このときに、下記の内閣告示の「第2表」をふくんだ意味でつかわれているかどうかは、あいまいである。
個人的には、この昭和12年内閣訓令の長音の字上符を ^ にしたもの、いいかえれば、昭和29年内閣告示から第2表をのぞいたものが、こんにち一般に「訓令式」とよばれているようにおもう。(ちなみに、国際規格ISO 3602:1989 の規格文書のなかに、この国際規格でつかわれている方式は「訓令式」としてしられている方式であるという意味にとれる、下記の記述がある。("empoyed" は "employed" のまちがいとおもわれる。)
The system of romanization empoyed shall be that generally known as kunreisiki, as it appears in table 1, table 2, table 3a and table 3b.
また、国内のローマ字教育関係者のあいだでは、下記の、文部省の「ローマ字教育の指針 ローマ字文の書き方」の方式を「訓令式」とよんでいるようでもある。
ヘボン式や日本式のつづりも、「必要に応じて習わせる」との記述がある。
昭和12年内閣訓令では、長音の表記は ¯ (マクロン)であるが、この文書ではなぜか ^ (アクサンシルコンフレックス)になっている。昭和12年内閣訓令のマクロンは誤植だったといううわさもきく。また、長音を、母音字をかさねてあらわしてもよいとしている。例: 大きい(おおきい) ookii 小さい(ちいさい) tiisai
また、撥音(はねる音)の「ん」の<n>のつぎに母音字または<y>がくる場合には ' (アポストロフィー)をいれるようになっているが、昭和12年内閣訓令では - (ハイフン)である。
語末の促音のかきかたとして、「あっ」を<a'>とかくとある。
ほかに、わかちがきのしかた、記号のつかいかた、ローマ字各文字のなまえなどの記述がある。
連合国軍最高司令部司令第2号:
"Transcription of names into English shall be in accord with the Modified Hepburn (Romaji) system."
(注意: "the Modified Hepburn system."は「修正ヘボン式」のこととおもわれる。)
この混乱を整理(というより追認(?))するために、昭和12年内閣訓令に、ヘボン式のつづりと日本式のつづりを「第2表」としてかかげ、「まえがき」の部分で、国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない、とした。また、長音の表記につかう字上符は、昭和12年の内閣訓令の ¯ (マクロン)から、日本式でつかわれていた ^ (アクサンシルコンフレックス)になった。
現在、一般的に「訓令式」といわれているのは、この昭和29年内閣告示をさすとおもわれるが、「第2表」もふくんだ意味でつかわれているかどうかはあいまいである。
また、現在小学校の国語の授業でおしえられている「ローマ字」は、この昭和29年内閣告示の第1表にもとづいているとおもわれる。ただし、現場の教師の判断で、第2表のつづりやヘボン式(長音・撥音・促音のかきかたについて))もおしえられることがあるようである。
ー
)を ¯ (マクロン)でかいたりする規則もくわえられている。(原典はフランス語版もある。)
旅券法(昭和二十六年法律第二百六十七号, 令和四年法律第三十三号による改正)では、パスポートの記載事項について、"旅券の名義人の氏名"がふくまれており、旅券法施行規則(令和四年外務省令第十号)で"国字の音訓及び慣用により表音されるところ"をヘ"ボン式ローマ字によって旅券面に表記する"とある。(どちらも2024年5月3日に参照)
「ヘボン式」というものが正確にどういうものであるかは、外務省もしらない。「ヘボン式から長音の記号をとりのぞいたもの」であるとされている内部資料が明治時代からあり、それがいまもよりどころとされているようである。(2000年8月24日外務省旅券課総務班に電話で確認。)
長音表記の省略は、「パスポートへの印刷に、字上符つきのローマ字がつかえない」という設備上の事情による、現場の運用上の処置とのこと。これが「ヘボン式」とはことなっているという認識は外務省にもあり、したがって「外務省式」とよんでいるようである。(2000年8月24日外務省旅券課総務班に電話で確認。)
これが法令違反になるかどうかは、著者には判断できない。「ヘボン式」というのが公的規格ではないため、その内容がどういうものかが明確にさだまっていないからである。
おそらく、旅券法施行規則で「ヘボン式」ということばをつかったのは、「し」「ち」「つ」「ふ」「じ」「ぢ」「づ」「しゃ」「しゅ」「しょ」「ちゃ」「ちゅ」「ちょ」「じゃ」「じゅ」「じょ」「ん」をどうかくかということについてのみを気にしてのこととおもわれる。
2000年4月1日から、「オ列長音」についてのみ、<H>をつかった長音の表記(「佐藤」を<SATOH>とする)がみとめられるようになったようだ。さらに、2008年11月29日15時4分(JST)時点の兵庫県旅券事務所のサイトの『パスポートのローマ字つづり(ヘボン式ローマ字表記)』には、"(例外的には「うう」を UH と表記できる場合もあります。)"という記述あり。いずれも下記の「非ヘボン式ローマ字氏名表記等申出書」の提出が必要らしい。
たとえば2008年11月2日午前1時32分(JST)時点の神奈川県のサイト内の『非ヘボン式ローマ字氏名表記等申出書の記入例』によると、「非ヘボン式ローマ字氏名表記等申出書」というものを提出すると、外務省式以外のつづりを使用することができる。ただし、「今後、如何なる理由があろうとも旅券面上のローマ字氏名表記を変更しないこと」 の誓約が必要とのこと。かつ、「その綴りが実際に使用されていることを示す書類等(外国の公的機関が発行した綴りの確認できる書類等)」の提示または提出が必要。ただし、字上符をつけるのはあいかわらず無理なようである。この「非ヘボン式ローマ字」というのは、具体的には以下のようなものである。(2008年11月2日午前1時32分(JST)時点の『非ヘボン式ローマ字氏名表記等申出書の記入例』から転記。)
戸籍上の姓又は名が外国式で記載されている場合(例示)
戸籍姓:ピーターソン→PETERSON
戸籍名:ジェームス →JAMES
外国式の表記を希望する場合(例示)
戸籍名:譲治(じょうじ) JOJI→GEORGE
その他ヘボン式によらない表記を希望する場合(例示)
戸籍名:一郎(いちろう) ICHIRO→ITIRO
戸籍名:祥子(しょうこ) SHOKO→SYOKO
つまり、訓令式の表記も可能ということである。
2022年3月14日追記: 現在は、外務省のサイトに『ヘボン式ローマ字綴方表』が公開されている。
パスポートの記載事項や体裁は、ICAO(英語:International Civil Aviation Organization; 国際民間航空機関, Wikipedia)が発行するガイドラインで共通化されている。氏名の表記については、Doc 9303 Machine Readable Travel Documents, Eighth Edition, 2021, Part 3: Specifications Common to all MRTDsに記載がある(2024年5月3日参照)。氏名はVIZ(英語:Visual Inspection Zone)とMRZ(英語:Machine Readable Zone)の二か所に記載することになっている。ラテン文字以外の氏名については、3.4 Convention for Writing the Name of the Holder で、"If the national characters are not Latin-based, a transcription or transliteration into Latin characters shall be provided."とあり、ラテン文字への転写あるいは翻字が必要。VIZでは、3.1 Languages and Characters で"Latin-alphabet characters, i.e. A to Z and a to z, and Arabic numerals, i.e. 1234567890 shall be used to represent data in the VIZ. Diacritics are permitted."となっており、Ō
やÔ
などのダイアクリティカル・マークつきの文字も使用できることになっている。しかし、MRZでは、4.3 Constraints of the MRZ で"Diacritical marks are not permitted in the MRZ."とあり、使用できない。6. TRANSLITERATIONS RECOMMENDED FOR USE BY STATES で、Ā
はA
、Ē
はE
、Ī
はI
、Ō
はO
、Ū
はU
への翻字が推奨されている。
(2) ANSI Z39.11-1972. "American National Standard System for the Romanization of Japanese". American National Standards Institute.
b
><m
><p
>のまえの「ん」の表記を<m>にすることをやめてすべて<n>にし、長音の表記についての記述をくわしくし、<フェ
><ティ
>など外来語につかわれるカナ文字表記に対応したローマ字表記を追加したもの。
<い><イ>でかくイ列長音は<ī>をつかわず<ii>とかく。例: 小さい(ちいさい) chiisai
カタカナの長音記号はすべて字上符の<¯>(マクロン)でかく。例: ビール bīru
(1)の英国規格と(2)の米国規格は、なかみはほとんどおなじ。
(2)の米国規格は、1994年10月6日に廃止。理由をANSIにといあわせたところ、"administratively withdrawn" とのこと。
梅棹忠夫会長の原案を著者(海津知緒)が整理・拡張したもの。海津式が原案となっているが、そのすべては採用されず、サブセットとなっている。
筆者(海津)がいうところの「音節」を、竜岡さんは「拍(モーラ)」とよび、日本語の音節を、竜岡さん個人の判断により、在来語で103種類、外来語だけにつかわれるもの21種類に限定したうえで、完全に発音どおりに表記する。
特徴的なのは「エ列長音」で、<い>
でかかれるつぎのような語も、その発音は長音であるとしてつぎのようにかく。
とけい(時計) tokê, せいじ(政治) sêzi, けいえい(経営) kêê, せい(背、所為) sê, めい(姪) mê, エイ(さかなのなまえ) ê
ただし、これらの語について、
実際に/ei/と発音する地域がありますが、そういう地域でも、若い世代はほとんど/ê/になっています。/ou/が/ô/になってきたのと比べると、/ei/が/ê/になってきたのは少し遅れているけれども、同じような歴史的な大きな流れだと思われます。ここしばらくは、eiと書きたい人がまだまだおられると思いますから、そのように書いてもいいこととします。
とある。また、形態素境界がある場合は長音とはしない。
語末の促音は ' でかく。
外来語の音節の表記は下記のとおり:
ティ t'i, トゥ t'u, テュ t'yu,
ディ d'i, ドゥ d'u, デュ d'yu,
イェ ye, シェ sye, チェ tye, ジェ zye
ウィ wi, ウェ we, ウォ wo,
ツァ twa, ツェ twe, ツォ two,
ファ hwa, フィ hwi, フェ hwe, フォ hwo, フュ hwyu
これらのいろいろなローマ字表記方式は、つぎのようにグループわけしてかんがえることができます。
「ヘボン式」系統 | 「日本式」系統 | |
---|---|---|
「法人・個人の案」 |
|
|
「公的規格」 |
|
|
すべてをひとつの表にまとめると表がおおきくなるので、便宜上、「法人・個人の案」のグループの表と、「公的規格」のグループの表にわけます。
標準式 | 日本式 | 99式 | 竜岡式 | 海津式 | |
---|---|---|---|---|---|
サ行 | sa shi su se so | sa si su se so | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
タ行 | ta chi tsu te to | ta ti tu te to | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
ハ行 | ha hi fu he ho | ha hi hu he ho | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
シャ行 | sha shu sho | sya syu syo | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
ジャ行 | ja ju jo | zya zyu zyo | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
チャ行 | cha chu cho | tya tyu tyo | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ |
ジ・ヂ・ズ・ヅ | ji ji zu zu | zi di zu du | zi zi zu zu (厳密翻字の場合は zi di zu du) |
zi zi zu zu | ISO海津式では99式とおなじ BS海津式では標準式とおなじだが 厳密翻字の場合は ji dzi zu dzu |
長音の字上符 | ^ または¯ | ^ | (なし) | ^ | (なし) |
長音記号(ー)の表記 | ^ または¯ | ^ | 直前の母音字 | ^ | 直前の母音字 厳密翻字の場合は h |
撥音(ん) | n < b ><m ><p >のまえは m または n |
つねに n | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ |
促音(っ) | 直後の子音字 ただし ch のまえでは t |
直後の子音字 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ ただし直後に子音字がない場合は ' |
ISO海津式では日本式とおなじ BS海津式では標準式とおなじ ただし直後に子音字がない場合は q |
ファ行 | (記述なし) | (記述なし) | f- | hw- | ISO海津式では hw- BS海津式では f- |
ティ ディ | (記述なし) | (記述なし) | tji dji | t'i d'i | ISO海津式では tji dji BS海津式では ti di |
フュ テュ | (記述なし) | (記述なし) | fyu tju | hwyu t'yu | ISO海津式では hwyu tju BS海津式では fyu tyu |
わかちがき | 記述みあたらず | (未確認) | 東大式を基本としたみやざわよしゆきさんの案 | 東大式にちかい独自のもの | 99式に、複合名詞、固有名詞、数詞などのわかちがきを補足 |
昭和12年内閣訓令 | 昭和29年内閣告示 | 国際規格 | 外務省式(パスポート式) | 英国規格 | |
---|---|---|---|---|---|
サ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
タ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
ハ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
シャ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
ジャ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
チャ行 | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ(ただし標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 日本式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
ジ・ヂ・ズ・ヅ | zi zi zu zu | 訓令式とおなじ(ただし日本式と標準式(ヘボン式)も条件つき許容) | 訓令式とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
長音の字上符 | ¯ マクロン |
^ アクサンシルコンフレックス |
^ アクサンシルコンフレックス |
(なし) | ¯ マクロン |
長音記号(ー)の表記 | ¯ マクロン |
^ | ¯ マクロン |
(なし) | ¯ マクロン |
撥音(ん) | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | <n> ただし < b ><m ><p >のまえは<m> |
日本式とおなじ |
促音(っ) | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | 日本式とおなじ | 標準域(ヘボン式)とおなじ | 標準式(ヘボン式)とおなじ |
ファ行 | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | fa fi (fu) fe fo |
ティ ディ | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | ti di |
フュ テュ | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | (記述なし) | fyu tyu |
わかちがき | (記述なし) | (記述なし) | "separation into words is necessary" | (対象が氏名の表記のみなので記述なし) | 別典(*1) (この資料は未確認) |
*1 "Manual of romanization, capitalization, punctuation, and word division for Chinese, Japanese, and Korean", sec 8-11. Cataloging Rules of the American Library Association and the Library of Congress: Additions and Changes, 1949-1958. Washington, D.C.: Library of Congress, 1959, pp.48-56. |
「長音の表記」には、そのかきあらわしかただけでなく、「なにを『長音』とするか」についてもかんがえかたのちがいがあります。
「長音の表記」の運用 | |
---|---|
標準式 | 発音にしたがう。イ列長音は<ii>でもよい。 |
日本式 |
未確認。おそらくは昭和12年内閣訓令とおなじ。 |
昭和12年内閣訓令 |
カナ文字表記に関係なく、発音が長音であったら母音字のうえに字上符をつけたローマ字でかきあらわす。(はっきりこのようにかかれているわけではないが、このように解釈できる。) すなわち、おなじカナ文字表記でも、その発音を長音と解釈するかどうかでローマ字表記がちがってくる。たとえば、「映画(えいが)」の発音は/エイガ/か/エーガ/か、など。 |
昭和29年内閣告示 | 昭和12年内閣訓令とおなじだが、「大文字の場合は母音字を並べてもよい」という記述が追加されている。 |
国際規格 |
「長音」をあらわしているとされる、2文字ひとくみのカナ文字列(< ただし、「形態素境界」(複合語の語根の境界や用言の語幹と語尾の境界)がふくまれる場合は例外。 例: ながあめ nagaame, |
外務省式(パスポート式) |
長音の解釈は訓令式とおなじだが、字上符をいっさい省略する。<い><イ>でかくイ列長音は長音とはみとめず、<II>でかく。(オ列長音に関しては<OH>の例外あり。) |
英国規格 |
発音が長音であったら母音字のうえに字上符をつけたローマ字でかきあらわすが、<い><イ>でかくイ列長音は<II>でかく。 「形態素境界」がふくまれる場合は例外。 |
99式 |
発音にかかわらず、カナでかいてあるとおりにかく。 カタカナの長音記号はひらがなのフリガナになおしてかんがえる(結果的には直前の母音字をくりかえすことになる)。 |
竜岡式 |
カナつづりに関係なく、発音されるとおりにかく。長音であれば字上符を母音字につけてかく。ただし、ある語の発音がどんな発音かの判断に関しては、かきて本人の判断ではなく、竜岡さんの判断による。 「形態素境界」がふくまれる場合は例外。 |
海津式 |
99式とおなじ。 ただし、カタカナの長音記号の厳密翻字は<h>でかく。このとき、<h>のつぎに母音字か< |
いろいろな日本語のローマ字表記方式についてご紹介し、比較してみました。
国内よりも、国外でのほうが、日本語のローマ字表記方式についてはきちんときめられています。ISOの国際規格や、BSIの英国規格です。これらは、その意味するところはかなり明確です。日本の内閣訓令や内閣告示の記述では、なにをどうかくのか、さっぱりわかりません。《音声》と《文字》の混同が、そのおもな原因です。
しかし、国際規格や英国規格で現代の日本語が不自由なくかけるかというと、そうでもありません。
それを解決するためにかんがえたのが、このサイト内でご紹介している「■海津式ローマ字」です。興味のあるかたはご覧ください。
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