コンパニオンブック
――英書を原語で楽しむための同伴書――

野上 浩三(クリスティ・ファンクラブ員)

編纂の目的
 日本の英語教育が実用的でないことに疑問が持たれます。一般教養の位置付けに止まり、コミュニケーションの手段としての扱いを受けていません。国際化がこれだけ進み、英語が世界的にかつ日常的に用いられるようになっているのに、英会話ができず、ミステリーも読めないのでは情けないことです。
 実用的な英語を身につけるためには、若い時にできる限り多くの単語とイディオムを覚え込むことが重要です。語彙を蓄積する方法としては、多くの文章を読むことが自然ですが、現代の忙しい時代には大変な時間と努力が必要です。辞書を丸暗記するのもどうかと思います。言葉は生き物ですから一定の文脈の中で覚えていくことが大事だと思います。
 そのためには、楽しく効率的に英語の本を読むことが必要です。そこで「読み始めたら止められない」作品を選んでその作品についてだけの単語集を作りました。コンパニオンブックという名前はアメリカの友人に付けて貰いました。
 クリスティの英語は、イギリス人の友人に聞いたところでは、文学作品としても良い英語だということです。但し、日常英語としてはちょっと古いということでした。これは彼女の作品の多くが1900年代の前半に書かれたこと、彼女が古い表現を好んで用いたからのようです。私自身が読んで感じたのは使われている単語がバライエティーに富んでいること、イディオムがたくさん用いられていることでした。
 この点は、彼女も自分の作品の中で「教養のある人は副詞をあまり使わない」と言っていることにも示めされています。例えば、「歩く」の英語はwalkですが、ゆっくり歩く、とぼとぼ歩く、せかせかと歩く、千鳥足で歩く、などには独自の単語が有ります。例えば、「ゆっくり歩く」はambleです。いずれもwalkに適当な副詞をつければ表現できるが、それは教養の無い人のすることだと彼女は言っています。
 したがって彼女の文章には非常に多様な言葉が出てきますので、語彙を増やすのに適していると思われます。単行本で一カ月に一冊、一年に12冊を読み終えればかなりの量の語彙の蓄積ができると考え、12冊編纂することにしました。
 アガサ・クリスティが亡くなったのが1976年、私は新聞でその偉大さを知り早速作品を読み始めました。私はその直前に一年間イギリスに滞在していたのですが、アガサ・クリスティの存在を知りませんでした。したがって、当時既に30年近いロング・ランを続けていた彼女の有名な舞台劇である「マウストラップ」も観ていませんでした。それを見逃した残念さも手伝って、100冊近い彼女の作品を、手当たり次第、数年かけて英語で読み終えました。ストーリーの面白さ、プロットの確かさ、文章の素晴らしさなどからアツと言う間に読み終えました。
 このように面白い本をぜひ自分の子供たちに読ませようとしましたが、「読みたいが、いちいち辞書を引かなければならないのが苦痛だ」というのが主な原因で成功しませんでした。英語の単語やイディオムの不足は私自身の悩みでもありましたから子供を責める気にはなりません。そこで、この単語集を作り始めたのでした。

利用方法
 利用の仕方としては、最初に本文を読み、解らない単語やイディオムが出てきたらこの単語集を利用するか、本を読む前にこの単語集の一章ずつを一通り目を通して覚えてから対応する章を読むか、どちらでも良いと思います。そうすることによって二度同じ単語やイディオムに出会いますので印象が強まり記憶率が高まります。大切なことは素直に単語やイディオムが頭に記憶されることです。
 誤訳や不適切な訳と思われる場合にはご自分で調べて下さい。誤訳などを見つけられた際には、ここにご連絡頂き、完成度の向上にご協力下さい。
なお、次のような考え方に基づいて簡潔に編纂されていますので、適宜ご自分で辞書を引いて補って下さい。

  1. この単語集は語彙やイディオムを増やすことを目としてきますので、発音記号やイントネーションは載せていません。
  2. 採録されている単語やイディオムは客観的な基準によって選択されたものではありませんので、易し過ぎるものが載っていたり難しいものが落ちていたりします。
  3. 単語やイディオアムは、利用時の照合し易さを考え、使われているままの形で載せました。つまり、動詞の過去形や名詞の複数形をそのまま文章の中に出て来る姿で載せています。
  4. 単語やイディオムの存在そのものを覚えることが大事で、意味や訳の幅は自然に容易に広がっていくという考えから、意味・訳は原則として最適と思われるものを一つだけ選んであります。
  5. 地名や人名などの固有名詞も、できる限り載せるように努力しましたが、本書の目的からして不要と思われる場合には省略してあります。

現在単語集が作られている作品
 原書の出版社が英米で異なる場合、部分的な文章の省略、単語のスペル、合成語の作り方、大文字と小文字の使い方などに差異が有りますので、原書の出版社をカッコ書きしておきます。
"The Mysterious Affair at Styles"(Granada,UK)
"Murder on the Links"(Triad Panther,UK)
"The Secret of Chimneys" (Pan Books,UK)
"Murder at the Vicarage" ( Dell Book,USA)
"Why Didn't They Ask Evans?" (Berkley Books,USA)
"Murder on the Orient Express"(Fontana/Collins,UK)
"The ABC Murders"(Pan Books,UK)
"N or M"(Fontana/Collins,UK)
"A Pocket Full of Rye"(Fontana/Collins,UK)
"4.50 from Paddington"(Pan Books,UK)
"Curtain"( Fontana/Collins,UK)
"Seeping Murder"(Bantam Books,USA)

コンパニオンブックは、野上さんが企画・作成した原稿を会員の安藤靖子さんの協力で修正し、その修正版を管理人がHTML化したものです。お二人に謝意を表します(管理人S)。

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