■ローマ字のよくある質問(FAQ)

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■日本語のローマ字表記についてのよくある質問(FAQ)に対する回答集。

Q1. 自分のなまえのローマ字表記は、どうかくのが「ただしい」のでしょうか?

日本語のローマ字表記の方式はいろいろあって、統一されているわけではありません。どの方式にしたがうかで、「ただしい」つづりもかわってきます。

日本語のローマ字表記方式のいろいろについては、このホームページの「■ローマ字のいろいろ」をご参照いただくことにして、ここでは、例として「藤松新八郎」(ふじまつ・しんぱちろう)というなまえのローマ字表記が各方式でどうなるかをみてみましょう。発音は、/フジマツシンパチロー/、つまり最後の音節は母音の/ウ/ではなくオ列長音であるとします。

注: じつは、ローマ字でのなまえのかきかたには、つづりそのもの以外にも、姓・名の順番や、姓と名のあいだにハイフン(-)をいれるかどうかとか、大文字・小文字とか、いろいろバリエーションがあります。これについては、このホームページの「■氏名のかきかたのいろいろ」をご覧いただきたいのですが、ここでは便宜上すべて大文字で、姓、名の順で、ハイフンはいれずにかきます。

国際規格
(ISO 3602:1989)
HUZIMATU SINPATIRÔ
(最後の<O>の字上符は ^ (アクサンシルコンフレックス))
英国規格
(BS 4812:1972)
FUJIMATSU SHINPACHIRŌ
(最後の<O>の字上符は ¯ (マクロン)、<>は<N>)
内閣告示 HUZIMATU SINPATIRÔ
(最後の<O>の字上符は ^ (アクサンシルコンフレックス))、
または、
HUZIMATU SINPATIROO
(最後の長音は母音字の連続)
パスポート式 FUJIMATSU SHIMPACHIRO
(<>は<M>、長音の表記は省略)
99式ISO海津式 HUZIMATU SINPATIROU
(長音の表記はカナのとおり)
BS海津式 FUJIMATSU SHINPACHIROU
(長音の表記はカナのとおり)

<ふ><じ><つ><し><ん><ち><ろう>のつづりに注目してください。

「パスポート式」では、<B><M><P>のまえの<>は<N>ではなく<>になります。そのほかの方式では、英米規格もふくめてすべて<N>です。

なお、長音をあらわす字上符( ^ )や<¯>がついた母音字がつかえない場合の代書法については、「Q2. 字上符つきの母音字がつかえないときの長音のかきかたは?」をご参照ください。

Q2. 字上符つきの母音字がつかえないときの長音のかきかたは?

ISO、BS、内閣告示といった、日本語のローマ字表記の公的な規格tとしては、長音の表記としてすべて字上符をつかうことになっています。ISOと内閣告示は(アクサンシルコンフレックスとか、サーカムフレックスとか、ヤマガタなどとよばれる)、BSでは¯(マクロン)です。

しかし、てがきのとき以外では、これらの字上符がついた文字がつかえないことがあります。そのようなときは、何らかの代書法をつかうことになります。

わたくしがしっている方法としては、つぎのようなものがあります:
(例は「おとうさん」の表記です。)

1. 省略 (例: otosan)
パスポートでおこなわれているやりかたです。
2. <h>をつかう (例: otohsan)
日本のプロ野球のユニフォームにかかれている選手のなまえや、一部の非日本語話者むけの日本語テキストでもちいられている方法です。パスポートでも、必要な書類を提出すればみとめられることがあります。
3. 母音字を連続させる (例: otoosan)
内閣告示で、「そえがき」の4に、「長音は母音字の上に ^ をつけて表わす。なお、大文字の場合は母音字を並べてもよい。 」とあるのを、小文字の場合にも適用したものです。
4. カナのとおりにかく (例: otousan)
日本ローマ字会の「99式」や、わたくしの案(「■海津式ローマ字」)でのかきかたです。
5. <->(ハイフン)をつかう (例: oto-san
日本人どうしの、ローマ字をつかった日本語でのチャットなどでよくみかける方法です。カタカナの長音記号である「ー」を、かたちがにているハイフンにおきかえたものでしょう。
6. <x>をつかう (例: otoxsan)
エスペラント(人工の国際共通語)でも<^>が字上符としてついた文字をつかいます。エスペラントでは、字上符つきの文字がつかえないときは、このように<x>をつかってかくことがあります(例: dimanĉe《日曜日》→ dimancxe)。その応用です。

Q3. ^ や ¯ がついた母音字(ôやō)の入力方法は?

これはネットで検索していただくといろいろでてきます。たとえば「eの上に点(´)がつくアクセント文字「é」の出し方【 Mac / Windows / iPhone / Android 】」(2024年4月14日参照)です。Macの場合は、[option]+[I]をおして、はなしたあとでつづけて母音字を入力すれば、アクサンシルコンフレックスつきの文字が入力できます。マクロンの場合は、たとえばMacで長く音を伸ばすマクロン付きの文字を出しましょう!(2024年4月14日参照)を参考にしてください。

スマートフォンの場合はかんたんですが、パソコンの場合はすこしめんどうです。そこで、おすすめはユーザー辞書登録しておくことです。

以下の表からコピペして、字上符つきの文字1文字をユーザー辞書にひとつの単語として登録しておくと便利です。「よみ」はおこのみでかえてください。

アクサンシルコンフ
レックスつきの文字
マクロンつきの文字
よみ単語よみ単語
んああ Â んまあ Ā
â ā
んあい Î んまい Ī
î ī
んあう Û んまう Ū
û ū
んあえ Ê んまえ Ē
ê ē
んあお Ô んまお Ō
ô ō

Q4. 語末の促音のかきかたは?

促音のかきかたは、内閣告示ではそえがきの3に「つまる音は、最初の子音字を重ねて表わす。 」とあります。 国際規格(ISO)英国規格(BS)では「促音」を「二重子音(doubled consonants)」としてあつかっていますが、けっきょく、かきかたは内閣告示とおなじです。

しかし、語末の「っ」、つまりつぎに「子音字」がこない場合の促音のかきかたについては、内閣告示、その前身の内閣訓令国際規格英国規格、いずれにも記述はありません。つまり、公的な規格ではきめられていません。

ただ、内閣訓令をもとに教育現場の運用のための解説としてつくられたとおもわれる「ローマ字教育の指針 ローマ字文の書き方」という文書が昭和22年に文部省からでていて、それには、

ただし次のような場合はアポストロフ [']を使って示す。
"A'" to sakebu. 「あっ」と叫ぶ。

という例があり、日本の伝統的な(とくに日本式系統の)ローマ字論者のあいだではこれがつかわれてきました。

わたくしの案(海津式ローマ字)では、「っ」の単独表記のときもふくめて、<q>でかくことを提案してます。つまり、

"Aq" to sakebu.

のようになります。

<q>をつかう理由は、日本語の促音の音素記号として、/Q/がつかわれているからです。ふつうの大文字のQよりちいさい、スモール・キャピタルのようなQです。

また、海津式ローマ字では、「ぁぃぅぇぉゃゅょっヮ」といった、いわゆる「こがき(小書き)」のカナを、単独では<x->でかくことにしているので、これをつかって、

"Axtu" to sakebu.

のようにもかけます。

Q5. ラ行は<R->より<L->でかくほうが適切ではないですか?

注: 小文字で<r><l>とかくと、とくに<l>(/エル/)のほうが<1>(/イチ/)や<I>(/アイ/)とまぎらわしくてみにくいので、大文字でかきます。

結論からいうと、<R->のほうが<L->よりも適切であると、わたくしはかんがえています。

理由は、世界的にみて、<R>という文字の発音のほうが、<L>という文字の発音よりも、日本語のラ行子音の発音にちかいとおもうからです。

<L>のほうが適切であるという意見の根拠は、

というものです。この意見は、「舌がつくかつかないか」、「舌がどこにつくか」、に注目していますが、<R>と<L>の発音のちがいの本質はそういうところにはないとおもいます。

<R>の発音は、言語によっていろいろありますが、共通していることは、「舌を(歯茎や口蓋や口蓋垂から)はなす」ことだとおもいます。

発音によって、まったくつけずにはなしたままだったり(接近音 /ɹ/)、いちどつけたあとにはじいたり(弾音 /ɾ/)、ふるわせたり(顫動音(せんどうおん) /r/, /ʀ/注3 )、といったバリエーションがあるようですが、「舌をはなす」ということは共通しているとおもいます。

<L>の発音の本質は、「舌をつけたまま、はなさないこと」にあるとおもいます。舌を歯茎や口蓋におしつけ、その舌の両わきから音をだします(側音 /l/, /ʎ/注4)。これは、英語をはじめ、どのような言語でもおなじではないでしょうか。すくなくとも、英語・スペイン語・フランス語・イタリア語・ドイツ語・インドネシア語ではそのようです。

英語の looklike の発音では、<L>のところで舌をはじいているようにおもわれるかもしれませんが、それは<L>のあとの母音を発音するときに自然と舌がはなれてそうなっているのであり、<L>だけの発音としては、「舌をうえのまえばのうらにしっかりとつけたまま、舌の両わきからこえをだす」だけです。

日本語のラ行子音は、舌のさきをうえの前歯(まえば)のうらの歯茎につけてから、1回だけはじく音(弾音 /ɾ/)です。この「はじく音」というのは、世界的にみて<R>の発音にはあるようですが、<L>の発音にはないようです。

したがって、日本語のラ行子音は<L>でかくよりも<R>でかくほうが適切であるとおもいます。

注:
  1. 上記の記述で、/ / でかこまれたものは、国際音声学協会のさだめた国際音声記号(英語で International Phonetic Alphabet, 略してIPA)による音声表記です。
  2. これらの記号や音声のなまえ(「側音」、「弾音」など)の記述は、平凡社発行の『世界大百科事典』1988年版(初版)の第4巻、456ページから461ページまでの、「音声学」および「音声記号」の項(どちらも著者は小泉保)の記述をよりどころとしています。
  3. 顫動音(せんどうおん)の /r/ と /ʀ/ のちがいは、 /r/ が舌のさきを歯茎につける「歯茎顫動音」、/ʀ/ が舌のうしろのほうをもりあげて口蓋垂に接近させ、口蓋垂を振動させる「口蓋垂顫動音」とのことです。
  4. 側音の /l/ と /ʎ/ のちがいは、/l/ が舌のさきを歯茎にあてる「歯茎接近音」、/ʎ/ が舌のまえのほうを硬口蓋にあてる「硬口蓋側音」とのことです。

変更記録

第1.1版 (2000年1月17日発行)
第1.2版 (2000年4月5発行)
第1.3版 (2000年5月8日発行)
第1.3.4版 (2023年3月7日発行)
第1.3.5版 (2024年3月21日発行)
第1.4版 (2024年4月15日発行)

版:
第1.4版
発行日:
2024年4月15日
最終更新日:
2024年4月15日
著者:
海津知緒
発行者:
海津知緒 (大阪府)

KAIZU≡‥≡HARUO