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■ローマ字で氏名をかくときの、姓・名の順番などのバリエーション■パスポートや、国語や英語の教科書ではどうなっているかの紹介
ローマ字で日本人の氏名をかくときには、まずそのつづりにいろいろな方式があります。<ふ>
を<HU>とかくか<FU>とかくか、長音をどうかくか、などです。これについては、このホームページの「■ローマ字のいろいろ」をご覧ください。
ここでかきたいことは、つづりそのもの以外のバリエーションです。たとえば「姓・名の順番」や、「姓と名のあいだのくぎり文字」です。
ローマ字で日本人の氏名をかく場合のバリエーションとしては、
といったことことがありますが、これらについては、どのような公的規格にも記述がありません。
以下に、わたくしのなまえ、「海津知緒」(かいづ・はるお)を例にとって、どのようなバリエーションがあるかをご紹介します。(いままでにわたくしがみたことがあるものという意味です。)
1 は、かな漢字でかくときとおなじ順番で、文字だけをローマ字でかくという発想です。
2 は、国語の教科書でもちいられている方式です。あとでくわしくかきます。
3、4、5 は、いずれも1とおなじ発想で、姓 名の順でかいたものですが、最初にかいてあるものが姓であることをあきらかにするために何らかのくふうをしたものです。
3, 4 は、フランスで、フランス人がフランス語の文脈で自分のなまえをかくのに、よくおこなわれているということをきいたことがありますが、わたくし自身がちゃんと事実を確認したわけではありません。
5 は、学術論文の文献目録の部分や、欧米の電話帳などにみられるやりかたです。氏名のリストを姓のアルファベット順にならべるときには、姓がさきにかかれていたほうがかんたんであるために、このようなかきかたをするようです。
6 は、英米人が自分のなまえを英語の文脈でしゃべったりかいたりするのとおなじように、名・姓の順にしたものです。
いずれの場合も、「固有名詞の1文字めは大文字にする」ということについてはおなじです。「固有名詞の1文字めは大文字にする」ということについては、国際規格、内閣告示には明記されています。
わたくし自身は、3 か 4 をつかっています。すなわち、「KAIZU Haruo」か「Kaizu Haruo」です。ほんとうは 1 の「Kaizu Haruo」ですませたいのですが、外国人のかたにとってはどちらが姓か名かわからないとおもいますので、姓のほうを大文字かスモール・キャピタルにしています。
氏名というものは、ふつうのことばとちがって、翻訳できるようなものではありません。おなじひとの氏名が、どのような言語の文脈のなかにでてくるかによって、その姓・名の順番がかわってしまうのは、どうかんがえてもおかしいとおもいます。
英米人のなまえ、たとえば "John Smith" を日本語の文脈でいうときに、「こちらは、スミス・ジョンさんです。」とはいわないでしょう。
また、わたしがみききしたかぎりでは、漢字をつかっているほかの民族である、中国や韓国・北朝鮮などのひとたちのなまえは、英語の文脈のなかにおいても、姓・名の順がひっくりかえされることはないようです。
パスポートでは、姓と名の欄がべつべつになっていて、上下にならんでいます。姓がうえ、名がしたです。
つづりはもちろん、「パスポート式」です。くわしくは「■ローマ字のいろいろ」をご覧ください。
1999年度の小学校4年生の小学校の国語の教科書では、
Kaizu-Haruo
のように、「姓 名」の順番で、あいだにハイフンをいれてかかれています。(すべての教科書を確認したわけではありませんが、すくなくとも光村図書出版の『国語四 下 はばたき』ではそうですし、学習参考書をみるかぎりは、これ以外のかきかたはみつけられませんでした。)
小学校の国語の教科書は、基本的には内閣告示にもとづいているはずです。しかし、内閣告示には、「固有名詞の1文字めはかならず大文字にする」ということはかかれていますが、氏名のかきかたまではのっていません。
このかきかたの由来はまだ未確認ですが、小学校のローマ字教育では初期のころ(昭和22年)から伝統的につかわれてきたようですし、社団法人日本ローマ字会や財団法人日本のローマ字社といった、日本式のながれをくむ伝統的なローマ字団体のふるくからの会員のあいだでもつかわれています。
この、ハイフンをいれることの意味は、わたくしが社団法人日本ローマ字会の会員のかたからきいたはなしでは、「おなじローマ字でも、西洋人ではなく日本人のなまえであることを明示し、姓名の順が姓がさき、名があとである」ということをしめすための手段のひとつ、ということのようです。
1960年(昭和35年)に、文部省から『初等教育研究資料 第24集 小学校ローマ字指導資料』という本がだされています(著作が文部省で、発行は教育出版株式会社です)。この本に、1947年(昭和22年)に文部省から、小学校でのローマ字文の学習指導のよりどころとして発行された『ローマ字文の書き方』という文書の解説が、その引用とともにのっています。以下の枠内にその一部を引用します。
〔注意3〕 接頭語・接尾語は続けて書く。
otera お寺 massakini まっ先に anatagata あなたがた ronriteki 論理的 dorodarake どろだらけただし,接尾語で上の語に続けて書くと,意味のまぎれやすい場合には,離して書く。Hanako San 花子さん Tarô Kun 太郎君 Itô-Zirô Sama 伊藤次郎様ここでは,姓・名のあとに添える敬語(接尾語)の書き方を取り扱っているが,姓・名の書き方も実例をもって示してある。
姓・名の書き方は,引用例でも明らかなように,名だけの場合は,語頭を大文字で書き始め,姓・名の場合は,姓をさきに,名をあとにして,両方とも語頭を大文字で書き始め,姓と名との間につなぎ [ - ] を入れるのが最も普通の書き方である。姓だけの場合も,もちろん語頭を大文字で書く。
以上のほか,
(1) Itô Zirô (つなぎ [ - ] を入れない。)
(2) ITÔ-Zirô (姓をすべて大文字で書く。姓と名の間にくぎり [ , ] をいれる場合もある。
(3) Itô, Zirô(間へくぎり [ , ] をいれる。)
などの書き方もみられるが、ローマ字教育においては,(1)以外は用いられていないようである。なお,西洋式に,「Zirô Itô」 「Zirô, ITÔ」(この場合には,つなぎ [ - ] を入れない。)と書くことは,英語,その他の外国語の文中に日本人の姓名を書く場合には広く行われているが,国語教育の一環として行われるローマ字文では用いるべきでないとされている。
注意: 改行位置と語間・行間・字間はかならずしも原本どおりではない。
英語の教科書では、1999年度の中学1年生の教科書では、三省堂の『NEW CROWN ENGLISH SERIES New Edition 1』だけが、
Kato Ken
のように、「姓 名」の順になっていますが、
では、「名 姓」の順になっています。
は未確認です。
また、いずれの教科書も、「逆の順番のかきかたもある」という意味の文言がかかれています。
ちなみに、英語の教科書では、つづりそのものは、みんな「パスポート式」です。つまり、ヘボン式を基本として、長音はすべて無視して、字上符はつかわない方式です。
文部科学省内の旧文化庁の国語審議会の2000年12月8日づけ答申、「国際社会に対応する日本語の在り方」の、「三.国際化に伴うその他の日本語の問題」のなかに、
2 姓名のローマ字表記の問題
(1)姓名のローマ字表記の現状
(2)姓名のローマ字表記についての考え方
という部分があります。このなかでは、日本人の姓名をローマ字で表記するときに、「姓−名」の順番でかくことをすすめています。以下、日本標準時で2001年4月1日15時30分時点の上記ウェブ・サイトから引用します。(改行位置は変更しています。)
2 姓名のローマ字表記の問題
(1)姓名のローマ字表記の現状
日本人の姓名をローマ字で表記するときに,本来の形式を逆転して「名−姓」の順とする慣習は,明治の欧化主義の時代に定着したものであり,欧米の人名の形式に合わせたものである。現在でもこの慣習は広く行われており,国内の英字新聞や英語の教科書も,日本人名を「名−姓」順に表記しているものが多い。ただし,「姓−名」順を採用しているものも見られ,また,一般的には「名−姓」順とし,歴史上の人物や文学者などに限って「姓−名」順で表記している場合もある。欧米の報道機関等では,日本人自身の慣習を反映して「名−姓」順で表記することが一般的である。
しかし,近年では,本来の形で表記すべきだとする意見も多く聞かれ,名刺等の表記を「姓−名」順にしている人なども見られる。文化庁の「国語に関する世論調査」(平成11年)では,中国人や韓国人の名前は英文の新聞や雑誌の中でも自国での呼び名と同じ「姓−名」の順に書かれることが多いことを述べた上で,英文における日本人の姓名表記について尋ねたところ,「「姓−名」の順で通すべきだ」(34.9%)とした人がやや多く,「「名−姓」の順に直すのがよい」(30.6%),「どちらとも言えない」(29.6%)もこれに拮抗する結果となった。
(2)姓名のローマ字表記についての考え方
世界の人々の名前の形式は,「名−姓」のもの,「姓−名」のもの,「名」のみのもの,自分の「名」と親の「名」を並べて個人の名称とするものなど多様であり,それぞれが使われる社会の文化や歴史を背景として成立したものである。世界の中で,日本のほか,中国,韓国,ベトナムなどアジアの数か国と,欧米ではハンガリーで「姓−名」の形式が用いられている。
国際交流の機会の拡大に伴い,異なる国の人同士が姓名を紹介し合う機会は増大しつつあると考えられる。また,先に記したように,現在では英語が世界の共通語として情報交流を担う機能を果たしつつあり,それに伴って各国の人名を英文の中にローマ字で書き表すことが増えていくと考えられる。国語審議会としては,人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくべきであるという立場から,そのような際に,一定の書式に従って書かれる名簿や書類などは別として,一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましいと考える。
したがって,日本人の姓名については,ローマ字表記においても「姓−名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましい。なお,従来の慣習に基づく誤解を防ぐために,姓をすべて大文字とする(YAMADA Haruo),姓と名の間にコンマを打つ(Yamada,Haruo)などの方法で,「姓−名」の構造を示すことも考えられよう。 今後,官公庁や報道機関等において,日本人の姓名をローマ字で表記する場合,並びに学校教育における英語等の指導においても,以上の趣旨が生かされることを希望する。
注意: 改行位置と語間・行間・字間はかならずしも原本どおりではない。
引用部分は以上です。もっとも、姓と名のあいだにコンマをうつのは、「ほんとうは(ふだんは)名−姓の順でかくんだよ」といってるようなもんだ、という批判もあります。
最終的には、2019年10月25日に開催された、第2回「公用文等における日本人の姓名のローマ字表記に関する関係府省庁連絡会議」での決定事項、「公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について(令和元年10月25日関係府省庁申合せ)」により、以下のようにきまっています。
- 各府省庁が作成する公用文等における日本人の姓名のローマ字表記については,差し支えのない限り「姓―名」の順を用いることとする。
- 各府省庁が作成する公用文等のうち,次のものを対象とする。なお,国際機関等に より指定された様式があるなど,特段の慣行がある場合は,これによらなくてもよい。
- (1) 各行政機関が保有する外国語(英語等)のウェブサイト,ソーシャルメディア
- (2) 外国語(英語等)で発信する文書(二国間・多数国間の共同声明等,白書,基本計画,戦略,答申)
- (3) 我が国及び各行政機関が主催する会議(公開)における名簿,ネームプレート等
- (4) 外国語(英語等)の文書(書簡,国際機関・相手国などに対し我が方立場を説明する資料,その他の原議書による決裁を要する文書)
- (5) 外国語(英語等)による行政資料等
- (6) 我が方大使の信任状・解任状の英仏語訳
- (7) 交換公文等の署名欄,国際約束の署名権限委任状の英仏語訳
- 各府省庁が作成する公用文等において日本人の姓名をローマ字表記する際に,姓と 名を明確に区別させる必要がある場合には,姓を全て大文字とし(YAMADA Haruo),「姓―名」の構造を示すこととする。
- 地方公共団体,関係機関等,民間に対しては,日本人の姓名のローマ字表記につい ては,差し支えのない限り「姓―名」の順を用いるよう,配慮を要請するものとする。
- 上記の内容は,令和2年1月1日から実施するものとする。ただし,各府省庁にお いて対応可能なものについては,実施日前から実施することができる。
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