■"fan"のローマ字つづり

< 質問と回答 < トップ

質問:

2002年9月16日 月曜日 午後9時2分:

はじめまして。

英語を教えているのですが、ローマ字の説明に大変てこずっています。ヘボン式で統一して教えるのが普通なのでしょうか。

また、ある教材でfanという英単語をローマ字でfuanと表記していたのですがそもそも英単語をローマ字に表記することはありえるのでしょうか。

よろしくおねがいします。

回答:

おといあわせありがとうございます。

ご質問のなかの「fanという英単語をローマ字でfuanと表記していた」という部分についてメールで確認させていただいたところ、

私は近鉄ファンです。
というかな漢字まじり文のローマ字表記として、
Watashi wa kintetsu fuan desu.

とかかれていたとのことでした。

要は外来語のローマ字表記についてのご質問と解釈させていただきます。

そのまえに、<ファン>が英単語か、外来語としての日本語かということについてですが、<私は近鉄ファンです。>という文のなかの<ファン>は、英語の"fan"からきた外来語としての日本語の単語と解釈するほうが自然におもいます。もしこれが、<アイ アム ア キンテツ ファン.>という文のなかの<ファン>なら、カタカナ表記の英語ということになるとおもいますが…。

わたくしは、「文字」と「言語」はべつの概念だとおもっています。カタカナ表記の英語もありえれば、ローマ字表記の日本語もありえるとおもいます。

さて、外来語の日本語の<ファン>のローマ字表記としては、ヘボン式系の英国規格米国規格では<fan>になります。

訓令式系の国際規格内閣告示では、この<ファ>や<ティ>や<ヴァ>といった、外来語の表記につかわれるカナ文字つづりに対応するローマ字つづりがさだめられていません。ただ、日本式系統、あるいは訓令式系統のローマ字論者のあいだでは、<hwan>というかきかたがひろくおこなわれていました。

<ファ>や<ティ>や<ヴァ>といった外来語のカナ文字表記が、国内で公式に認知されたのは、平成3年(1991年)6月28日の内閣告示第二号においてだとおもいます。つまり、それまでは、これらのカナ文字つづりは日本語のつづりとして認知されていなかったわけです。ですから、それに対応するローマ字つづりも公式にはさだめられていないのです。

外来語のローマ字表記をどうするかについては、いくつか問題があります。

まず、和語や漢語にくらべて、その発音やカナ文字つづりが一定していないことです。

「ファン」にしても、<フアン>とかくむきもありますし、<ファン>とかいてあっても/フアン/と発音したり、その逆もあるとおもいます。英語の"team"の意味の「チーム」と「ティーム」も同様。

英語の"violin"からきた外来語にしても、<バイオリン>とかくひともいれば、<ヴァイオリン>とかくひともいます。<ヴァイオリン>とかくひとでも、発音は下唇をかまずに/バイオリン/だったりします。

日本の伝統的ローマ字論者のあいだでは、発音にしたがってローマ字にかきうつすのが基本でしたが、「海津式」や、社団法人日本ローマ字会の「99式」では、発音ではなく、カナ文字つづりにしたがってかくことにしています。こうすることで、すくなくとも、現在のかな漢字まじり文を、まよわずローマ字にかきうつすことはできるようになります。おなじ語のつづりを統一することはできませんが、それは現在のカナ文字つづりでもおなじことですので…。

発音というのは、自分の意識とじっさいの発音がかならずしも一致していなかったりして、発音どおりにかけといわれても、自分がどういうふうに発音しているか、ただしい発音はどうなのかなどと、なやむものです。しかし、カナ文字つづりのほうは、個人によってばらつきはあっても、かくときのまよいはすくないはずです。

また、おなじ語のつづりが一定しないことをきらい、つづりを統一する目的で、外来語はすべて原つづりのとおりにかくという意見もあります。

つまり、「バイオリン」は、<baiorin>でも<vaiorin>でもなく、<violin>とかくわけです。そして、発音は、ひとそれぞれ、自分のすきなようによめばいいというわけです。

これは、ある意味便利な方法ではありますが、問題は、その部分が外国語のつづりであるということを、なんらかの方法でしめす必要があるということです。一般には、イタリックや斜体にするなどのように書体をかえたり、すべて大文字でかいたりということがおこなわれています。これをしないと、

Makudo de shake o tyuumon sita.

というローマ字文が、「マクドでシェイクを注文した」のか、「マクドでシャケを注文した」のかわからなくなってしまします。(「マクドでシャケなんかうっとるか!」というつっこみはご勘弁を…。ほかにいい例をおもいつかなかったんです…。)

もうひとつの問題は、書体をかえたりしてそこが外国語であるということはわかっても、どの外国語なのかがわからないということです。おなじつづりでも、どの言語風によむかで発音がちがってきます。外来語のなかには、英語以外からきたものもありますので。(もっとも、すきなようによんでよいということにすれば、あまり問題にならないのかもしれませんが…。)

また、外来語ならすべて原つづりでかくのか、日本語としてじゅうぶんなじんでいる語は日本語としてのつづりでもよいのではないかという意見もあります。

たとえば、「バケツで水をくむ」を、<BUCKET de mizu o kumu.>とかくのもおかしいような気もします。

さらに、外来語としての意識がたかい語と、じゅうぶん日本語としてなじんでいる語の境界線をどこでひくかという問題もあります。

さらにさらに、和製外国語、たとえば和製英語をそのまま原つづりでかいていいのかという問題もあります。たとえば車の「ハンドル」(英語では"steering wheel")、野球の「ナイター」(英語では"night game")。

このような問題を回避するために、「99式」や「海津式」では、発音ではなく、カタカナでかいているときのカナ文字つづりにしたがってかきうつす方法をとっています。

以上です。なにかご不明な点などございましたら、またメールをください。

≡‥≡海津知緒(KAIZU Haruo)


変更記録

第1.1版(2002年9月22日)
新規登録。
第1.2版(2002年9月23日)
一部修正。

版:
第1.2.1版
発行日:
2002年9月23日
最終更新日:
2003年12月6日
編著者:
海津知緒
発行者:
海津知緒 (大阪府)

≡‥≡