■ローマ字教育の指針とその解説—2-5

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■このページは、「文部省内国語問題研究会(編). ローマ字教育の指針とその解説. 東京都, 三井教育文庫, 1947, 113p. (ja, B6よこがき)」を全文転記したものの一部です。■注意がきを無視しないでください。

—以下転記部分—


[p.101-103]

V ローマ字のよび名

ローマ字の一々の文字を何と呼ぶかについては、この指針ではふれていない。

ローマ字教育協議会の小委員会で、次のような呼び名が考えられたから、参考としてかかげる。

  a         b         c         d         e         f
アー      ベー   セー(ツー)   デー      エー      エフ
                  (チェー)

  g         h         i         j         k         l
ゲー      ハー      イー ヨー[(ジェー)] カー      エル

  m         n         o         p         q         r
エム      エヌ      オー      ペー      クー      ラー

  s         t         u         v         w         x
エス      テー      ウー    ヴィ(ブィ)  ワー    エッキス

  y         z
ヤー     ゼット

1. このような呼び名がどうしてできたのか。

ローマ字の呼び名は国によってそれぞれことなっている。英語では、エイ、ビイ、スィー...... と呼び、フランス語では ア、ベ、セ...... と呼び、ドイツ語では アー、ベー、ツェー...... と呼んでいる。それらの呼び方の相違はそれぞれの文字をそれぞれの国で用いる場合、それぞれの文字の代表的な音価がちがっているからである。例えば英語で a を [ei] というのは、made [meid], baby [beibi], race [reis] などのように a に [ei] という代表的音価があるからである。またドイツ語で a を [a:] というのは、Baum [baum], Rad [ra:t] のように a に [a], [a:] という代表的音価があるからである。このように各国の文字の呼び方は、その文字がつかわれるときの音価をもとにしてできあがっているのであり、したがって、いろいろの呼び名があるのである。

そこで、日本でローマ字の呼び名を新らしくきめる場合にも、各国が行っているのと同じ方針をとり、さらにその他の点にも配慮して次の三つの基準をたてる。

  1. 国語における使い途に対して無理のない呼び名をとる。

  2. ローマ字は国際的の文字であるから、できるだけ国際性のある呼び名をとる。ただし、なるべく他の文字の外国の呼び名とまぎれない呼び名をとる。

  3. 日本人にとって言いやすく、かつ聞きやすい呼び名をとり、混同されやすいものをさける。

この基準によって導き出されたのが上の小委員会の案である。例えば a の呼び名をアーとしたのは、a が日本語のアという音価をあらわしている点で第一の基準にあてはまり、アと短く呼ぶと聞きとりにくく、混同されやすいので長音で呼ぶという点で第三の基準にあてはまり、また第二の基準、国際性のある呼び名という点でも、主要ローマ字国では

(フランス、イタリア、スウェーデン、ポーランド、チェッコスロバキア、トルコ)
アー
(スペイン、ポルトガル、ルーマニア、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド)

と呼び、イギリス・アメリカだけが [ei] と呼んでいて (アー) と呼ぶのが国際的であると考えられるからである。

(転記者の注釈: 2004年12月13日に、あるスペイン人のかたからメールにて、{スペイン語の母音Aが、あたかも長母音「アー」と発音されるかのごとくにグループ分け去れていたのですが、スペイン人の立場で言わせてもらえば、スペイン語には基本的に長母音は存在しません。だから、Aは「ア」です。} とのご意見をいただきました。

2. この呼び名がなぜ採択されなかったのか。

理論的には小委員会の案は尊重されるべきものではあるが、英語のエイ、ビイ、スィー...... という呼び名は日本人にもすでに親しみ深いものであり、日本式になまって、エー、ビイ、シー……などとも一般に使われているのであるから、これを全く無視することもいかがかと思われる。したがって上の案に統一してエー、ビー、シーを禁ずるということは現段階としては、少し行きすぎではあるまいかという意見が協議員の中にあったため、この案は参考案となったのである。

3. 文字の呼び名としてどのようなものが考えられるか。

(転記者の注釈: 原本ではリスト番号は右丸カッコつき大文字ローマ字)

  1. 上にあげた小委員会の呼び名

  2. 英語のエイ、ビイ、スィー…… かそれを日本流になまったエー、ビー、シー…… という呼び名

  3. a はアのしるし、またはア段のしるし、K はカ行のしるし、というように呼ぶ呼び方

まず、この三つの行き方が考えられる。

4. 学校教育では文字の呼び名をいかに取り扱うのか。

もしも、文字の呼び名にふれずに教育することができるならば、ふれずにおく。また、これにふれるとしたならば、上の三つの行き方のどれによってもよいし、さらに新しい行き方があればそれを試みてもよい。

昭和二十二年度は、そのいずれに統一することなく、各々の行き方の利害得失を教育の実際にあたって詳しく比較研究調査し、その基礎の上にたってさらに検討をすすめようというのが文部当局の方針であると考えられる。


—転記はここまで—

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