■ローマ字教育の指針とその解説—3

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■このページは、「文部省内国語問題研究会(編). ローマ字教育の指針とその解説. 東京都, 三井教育文庫, 1947, 113p. (ja, B6よこがき)」を全文転記したものの一部です。■ 注意がきを無視しないでください。

—以下転記部分—


[p.104-106]

☆☆☆小学校・中学校でローマ字教育が行われるようになるまで

ローマ字は室町時代の末ごろ、西洋人の渡来とともにわが国に入ってきたものである。当時はキリスト教の宣教師が布教のために熱心に日本語を学び、ローマ字で書かれた日本語の教義書・語学教科書・辞書・文典などを刊行した。

だんだん日本人の中にもローマ字の知識のあるものがでてきた。

明治以後、広く西洋と交通するようになってから、西洋人に対する場合には、日本語をローマ字で書くのが例となった。

また、当時における国語・国字改良の問題として、漢字や「かな」を廃して、ローマ字を採用する、いわゆるローマ字国字論がおこり、この目的のための団体が結成されて、さかんにローマ字を国字とするための運動が続けられてきたのである。

現在では、外国人のために、地名・人名や商標などをローマ字で書き表すことは広く行われているが、日本語をローマ字で完全に書き表わすことは、いわゆるローマ字論者をのぞいては、国民の間に普及してはいない。

ローマ字論者の間にも、いわゆる標準式(ヘボン式)論者と日本式論者では、ローマ字のつづり方について意見を異にし、明治以後、それぞれの歴史をもち、論争を続けてきた。

ローマ字のつづり方を統一しようとして、昭和五年から昭和十二年まで七年間にわたって「臨時ローマ字調査会」が設けられて、つづり方について審議を重ね、その結果、昭和十二年九月二十一日の「内閣訓令第三号」によって公布されたつづり方が決定された。これがいわゆる訓令式といわれているものであり、官庁においては、すべてこのつづり方によることになったのである。

終戦以後、新聞や雑誌などの読み物の中にも、ローマ字で書かれたものが多く見受けられるようになり、また、連合国軍に提出される公用文や駅・街路の標識などにもローマ字によって地名や人名などを書き表すことが多くなった。

また先般、わが国を訪れたアメリカの教育使節団は、その報告書のうち言語改革の章において、次のことを提議したが、これが国民の注意を強くひき、ローマ字についての論議がさかんに行われるようになった。

  1. ある制式のローマ字を是非とも採用すること。
  2. どういう制式のローマ字つづりを選ぶべきかは日本の学者・教育家・政治家による委員会で決定すること。
  3. 委員会は、過渡期のあいだ国語改革案を調整する責任を負うこと。
  4. 委員会は、新聞・定期刊行物・書籍その他の文書によって学校・社会生活・国民生活にローマ字を導き入れる計画案を立てること。
  5. 委員会は、また、いっそう民主的な口語を完成する方途を研究すること。
  6. 国字が児童の勉強時間にとって大きな負担であることにかんがみ、委員会は速やかに設けられなければならないこと。完全な報告と広はんな方針が適当の時期に発表されることを希望する。

国民学校においては、従来は、高等科の実業科のうち随意科目である外国語のなかでローマ字の読み書きが授けられてきたが、今日の社会生活において、ローマ字の読み書きに慣れることが必要であり、そのためには、まず、なるべく速やかに小学校および中学校の生徒がローマ字によって国語の読み書きができるようになることがきわめて必要なことである。また、これを実施することは、国語をやさしくし、合理化し、ひいては、国民一般の国語生活を能率化するのにも役立つものである。

以上の理由から、ローマ字教育を行うこととなり、その対策を協議するために、昭和二十一年六月、文部省にローマ字教育協議会が設けられ、学者・教育家・ローマ字研究家・報道関係者などが集まり、ローマ字教育の方針・目的およびその方法について協議した。

この協議会は、同年十月まで種々審議を重ねた結果、後にかかげられている「ローマ字教育を行うについての意見」をとりまとめ、文部大臣に提出した。当局では、実施上についてこれに検討を加えて、「国民学校におけるローマ字教育実施要項」を決定し、発表した。

こうして昭和二十二年度から、新しい学制が実施されるに伴って、小学校および中学校においてローマ字教育がおこなわれるようになったのである。

おことわり

当用漢字表に示されている簡易字体は、印刷のつごうで、使用できなかったことをおことわりする。


[p.107]

発教七号

   昭和二十二年二月二十八日

文部次官 有光次郎

    師範学校長
 各高等師範学校長 殿
女子高等師範学校長

国民学校においてローマ字教育を行うについて

昭和二十二年度から別紙要項に基づいて、国民学校においてローマ字教育を行うことになったから、遺憾なく実施されるように取り計らわれたい。命によって、これを通達する。

発教七号

  昭和二十二年二月二十八日

文部次官 有光次郎

各地方長官殿

国民学校においてローマ字教育を行うについて

昭和二十二年度から別紙要項に基づいて、国民学校においてローマ字教育を行うことになったから、貴管下の関係各学校に示達し、遺憾なく実施されるように取り計らわれたい。命によって、これを通達する。


[p.108-109]

文部当局談

このたび、文部省では、国民学校においてローマ字教育を実施するために、その要項を決定しました。

今日の社会生活において、ローマ字の読み書きに慣れることは国民一般にとって必要なことと考えます。そうして、このためには、まず、なるべく速やかに国民学校の児童がローマ字によって国語の読み書きができるように取り計らうことが肝要であります。

こういう趣旨から、来年度から国民学校においてローマ字教育を実施することとし、この要項を決定した次第であります。

国民学校においてローマ字を授けるについては、教育上からも学術上からも考慮を要する問題が多々あることと思います。しかし、なによりも大切なことは、国民の大部分がローマ字の読み書きに慣れることであり、ローマ字教育を実際に行いつつ、その結果を研究し、改善を計って行くことであります。

従って、この要項は、さしあたり昭和二十二年度に実施すべき点について定めたものであり、その実施の成果を基礎として、さらに昭和二十三年度からの計画を考えて行きたいと思います。

ローマ字教育を実施することは、国語をやさしくし、合理化し、ひいては国民の国語生活を能率化する上の一助となると思います。

さきに、「当用漢字表」・「現代かなづかい」が制定され、国民各方面の指示のもとに実行にうつされていることは誠に喜ばしいことでありますが、ローマ字教育の実施にあたっても、また各方面のご協力を得たいと存じます。

なお、本省においては、昨年六月以来、学者、教育者、ローマ字研究家および報道関係者等の参集を願い、ローマ字教育協議会を設けて、この問題について審議を重ねていただいたのでありますが、その結果、「ローマ字教育を行うについての意見」がとりまとめられました。

この要項は、右の協議会の意見を参考とし、その実施の方法について慎重に検討を加えた上、決定したものであります。


[p.110-111]

国民学校におけるローマ字教育実施要項

昭和二十二年度から、国民学校において、事情の許すかぎり、児童にローマ字による国語の読み方、書き方、を授けることとする。

昭和二十二年度に各国民学校において、ローマ字教育を行うには、次の各項による。(転記者注: 原本ではリストの番号が漢数字)

  1. 各国民学校において、ローマ字教育を行うかどうかは、その学校の教育上の責任者が、その学校の事情を考慮してこれを決定する。
    ローマ字教育を行う場合には原則として第四学年以上の各学年に行う。ただし、さらに下学年からローマ字教育を行い得るような学校では第三学年から行うことができる。

  2. 授業時数は、一年を通じて四十時間以上とし、国語あるいは自由研究の時間のうちで行う。

  3. 教授の方針、方法、その他については文部省で「ローマ字教育の指針」を編修し、配布することとする。

  4. 教科書は文部省編修のものを使用することを原則とする。

  5. 国民学校において授けるローマ字文の書き方は別冊「ローマ字文の書き方」による。

  6. ローマ字教育に関する教師の訓練については、本年度から適当の処置を講ずることとする。

「備考」(転記者注: 原本のリスト番号は丸カッコつきアラビア数字)

  1. この要項における国民学校とは、来年度から新学制が実施される場合には、小学校および新制中学校をさすものである。

  2. 昭和二十三年度からの実施案については、昭和二十二年度における実施の成果を基礎とし、さらに研究の上、決定する。


[p.112-113]

ローマ字教育を行うについての意見

ローマ字教育協議会
昭和二十一年十月二十二日

国語教育の徹底をはかり、社会生活の能率を高め、国民の文化水準を向上させるために、ローマ字によって読み書きを行う習慣を国民一般に普及する必要がある。ローマ字教育協議会においてその方策を協議した結果、次のような処置をとることを適切と認めた。

一、国民学校においてローマ字教育を実施すること。国民学校においてローマ字教育を実施するについては、次の方法によることとする。

  1. ローマ字教育に関する基準としては、別冊「ローマ字教育の指針」によること。
  2. 昭和二十二年度は、第四学年(または第三学年)以上の各学年同時に開始すること。
  3. 授業時数は、一年四十時間以上とすること。
  4. 昭和二十年度の教科書は、児童用書および教師用書を文部省において編修すること。
  5. 教師の訓練については、(イ)昭和二十一年度に卒業すべき師範学校の生徒に対し、ローマ字教授法の訓練を行うこと。(ロ)教師の再教育の家庭にローマ字教授法を入れ、又教師一般に対するローマ字教育講習会を開催すること。(ハ)師範教育においてローマ字教育をその家庭に入れること。

ニ、青年学校・中等学校・高等専門学校の教育についても、その内容を豊富にするために国民学校との関連において、ローマ字教育課程の実現、ローマ字による国語その他の教科書の使用等を考慮せらるべきこと。

三、ローマ字教育を促進するために、学術的および社会的処置を講ぜられたきこと。

  1. ローマ字教育に関する諸般の調査・研究を行うこと。
  2. 関係諸団体間の連絡協調をはかること。
  3. 優良図書の刊行を促進し、普及をはかること。右の目的のために、ローマ字教育委員会(仮称)を設けること。

四、ローマ字の表記法(特につづり方)については、別冊「ローマ字教育の指針」に示す方式をとるが、さらに適当の機関を設け、学術上、教育上および実生活上から研究を進め改善をはかられたきこと。

以上の各項がすみやかに実現されるように希望する。


—転記はここまで—

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