■ローマ字教育の指針とその解説—2-2

< ■ローマ字教育の指針とその解説 < 資料室 < トップ

■このページは、「文部省内国語問題研究会(編). ローマ字教育の指針とその解説. 東京都, 三井教育文庫, 1947, 113p. (ja, B6よこがき)」を全文転記したものの一部です。■注意がきを無視しないでください。

—以下転記部分—

[p.31-39]

II ローマ字による国語のつづり方

1. 直音

 a     i     u     e     o
ア  イ(ヰ)  ウ  エ(ヱ) オ(ヲ)

ka    ki    ku    ke    ko
カ    キ    ク    ケ    コ

sa    si    su    se    so
サ    シ    ス    セ    ソ

ta    ti    tu    te    to
タ    チ    ツ    テ    ト

na    ni    nu    ne    no
ナ    ニ    ヌ    ネ    ノ

ha    hi    hu    he    ho
ハ    ヒ    フ    ヘ    ホ

ma    mi    mu    me    mo
マ    ミ    ム    メ    モ

ya          yu          yo
ヤ          ユ          ヨ

ra    ri    ru    re    ro
ラ    リ    ル    レ    ロ

wa
ワ

ga    gi    gu    ge    go
ガ    ギ    グ    ゲ    ゴ

za    zi    zu    ze    zo
ザ  ジ(ヂ)ズ(ヅ)  ゼ    ゾ 

da                de    do
ダ                デ    ド

ba    bi    bu    be    bo
バ    ビ    ブ    ベ    ボ

pa    pi    pu    pe    po
パ    ピ    プ    ペ    ポ

2. よう音

 kya        kyu          kyo
キャ       キュ         キョ

 sya        syu          syo
シャ       シュ         ショ

 tya        tyu          tyo
チャ       チュ         チョ

 nya        nyu          nyo
ニャ       ニュ         ニョ

 hya        hyu          hyo
ヒャ       ヒュ         ヒョ

 mya        myu          myo
ミャ       ミュ         ミョ

 rya        ryu          ryo
リャ       リュ         リョ

 gya        gyu          gyo
ギャ       ギュ         ギョ

 zya        zyu          zyo
ジャ(ヂャ) ジュ(ヂュ) ジョ(ヂョ)

 bya        byu          byo
ビャ       ビュ         ビョ

 pya        pyu          pyo
ピャ       ピュ         ピョ
〔備考 1〕 以上は、現代語で標準的と認められる音を、ローマ字で書きあらわす場合とかなで書きあらわす場合とを対応して示したものである。

1. ローマ字をかなと対比して示したものは、便宜的な手段であって、かなはいわば一々のローマ字がどのような音をあらわしているかを示すものにすぎない。したがって、ローマ字はかなが正書法としてもっているかなづかいなどのいろいろの約束にはかかわりをもたない。学習の指導にあたっても、かなをなかだちとせずに教えることが望ましい。でないと、かなづかいの制約がローマ字にも及ぶおそれがあるからである。(転記者の注釈: 強調表記は転記者、以下同様。)

2. このつづり方は、世に訓令式といわれているものを幹としている。いわゆる訓令式とは、昭和十二年内閣訓令第三号によって発表されたローマ字のつづり方であって、昭和五年から約五年半の間、臨時ローマ字調査界がローマ字各式関係者や学者などを集めて研究・討議を重ねた結果、昭和十一年八月にその結論に達したもので、訓令発表以来文部省編集の国民学校高等科英語の教科書にもこのつづり方が採られており、このたび小学校と中学校にローマ字教育が実施されるにあたっても、このつづり方が用いられることになったのである。ただし、長音に「^」を用いることと、はねる音と次の母音や y をはなす符号に「’」を用いる点はいわゆる訓令式とことなっている。

〔備考 2〕 次のようなつづり方も必要に応じて習わせる
shi (シ), chi (チ), tsu (ツ), fu (フ), ji (ジ,ヂ), sha (シャ), shu (シュ), sho (ショ), cha (チャ), chu (チュ), cho (チョ), ja (ジャ,ヂャ), ji (ジ,ヂ), jo (ジョ,ヂョ)
di (ヂ), du (ヅ), dya (ヂャ), dyu (ヂュ), dyo (ヂョ), wo(ヲ,助詞の「を」), kwa (クヮ), gwa (グヮ)

1. 備考 2 のうち、shi (シ) から jo (ジョ, ヂョ) までの十四のつづり方は標準式(ヘボン式・ひろめ会式)で用いられ、di (ヂ) から gwa (グヮ) までの八のつづり方は日本式(画一式)で用いられる。

2. 標準式(ヘボン式)はわが国における英語教育の普及につれて、いままで国民の間にかなりひろくつかわれてきたし、そのつづり方に近い修正ヘボン式 (modified Hepburn system) は連合国軍最高司令部指令第二号 (1945年9月3日) によって、連合国人のために日本の街の入口や停車場などにそれぞれの地名をかかげる際に用いるように定められ、また英文官報で英語の中にローマ字書きの日本語を交えるときにもつかうことになっているので、このつづり方も読めるように学習させることが必要である。

日本式のつづり方もこのつづり方でかかれた書物もあるから、それらを読むことのできるように学習させようとするものである。

〔備考 3〕 特殊な音の書きあらわし方については自由とする。

このつづり方は、現代標準語の音韻をもととしてでき上がった正字法であるから、方言などの特殊な音の書きあらわし方については示されていない。それをいかに書きあらわすかについても、一定のきまりがあることは望ましいことではあるが、それには各方言音の基礎的な調査が前提となるので、まだ成案を得るまでに至っていない。したがって、その書きあらわし方は各自の自由としてある。であるから、おとっつぁん、おごっつぉーなどは、

Otottwan -- Otottsan
Ogottwô  -- Ogottsô

のいずれをかいてもよいことになる。

3. いわゆる長母音はその文字の上にやまがた「^」を附けてあらわすか、または母音字を重ねてあらわす。ただし「ていねい」「命令」などの「エイ」は ei とする。
obâsan       おばあさん   nêsan   ねえさん
Tôkyô        東京         ryôri   料理
kûki         空気         tyûi    注意
ôkii, ookii  大きい       tiisai  小さい
teinei       ていねい     meirei  命令

1. 長母音をあらわす符号としては、ky‾syu‾、O‾saka のように「 ̄」を用いる方法もあるが、この方法によると筆写体の t のあとでは有無がはっきりとせず、また語形としてのまとまりもわるいという不便があるので、指針では「^」をつかうか、母音字を重ねてあらわすことになった。

2. 「i」の長音は母音を重ねてかき、「î」とはしない方が形の上から見やすいので、「^」は用いない。

3. 「e」の長音は「^」を用いて「ê」とかく。

nêsan
Ano nê.

ただし、ていねい・めいれいなどは、tênê、mêrê と長音にいわれることもあるが、一歩しりぞいてこれらはすべて、teinei、meirei とつづる。

4. 「o」の長音の書き方は、「ô」でも「oo」でもよいが教科書では「ô」の方をとっている。ただし大文字の「Ô」は印刷のさいに不便であるから「Oo」とわけて書くこともある。三音の「o」がつづく場合は

ôonna  大女
ôotoko 大男

とかき、四音の「o」がつづく場合は

mibunsôô  身分相応
Rôma Hôô  ローマ法王
Rôma Kyôô ローマ教皇

とかく。

5. 「言う」は具体音としては「yû」であるが、指針では「iu」というつづり方をとっている。

4. はねる音は、すべて n であらわす。
sannin  三人     sinbun   新聞
denpô   電報     kantoku  監督
tenki   天気
〔注意〕 はねる音をあらわす n の次にすぐに母音字または y が続く場合には、n の後に切るしるし「’」を入れる。
gen'in  原因     kin'yôbi   金曜日

1. はねる音は日本人の意識としては、一つであるから、すべてこれを n であらわす。なお、p、b、m の前では m をつかうつづり方もあることを知っておくとよい。

2. 「’」の有無によって、gen'in (原因) : genin (外人) のように意味のちがうものが多い。n の次に y がくるために意味をことにする語の例は多くはないが、一語としての形を安定させるためにも、ぜひ必要なことであるから、十分教えておく必要がある。

5. つまる音は、次に来る子音字を重ねてあらわす。
Nippon   日本        gakkô     学校
kitte    切手        zassi     雑誌
ossyaru  おっしゃる  syuppatu  出発
tyotto   ちょっと
ただし次のような場合はアポストロフ「’」を使って示す。
"A'" to sakebu.  「あっ」とさけぶ。

1. つまる音のあらわし方は、かなの場合ととくに相違しているから、注意して指導する必要がある。かなと対照して教えたり、漢字かなまじり文のかなづかいと対応して教えたりすると、がっこうを gatukô、きってを kitute などとつづり、またはそのうえ、ローマ字でのつまる音の処理を加えて、gatukkô、kitutte などとつづるものも見かけるから、この点に注意して、漢字かなまじり文の表記形式とは連絡をつけないで教えるのがよい。

6. 文の最初の単語や固有名詞やその他必要のある場合には、その語頭に大文字をもちいる。
Kyô wa kin'yôbi desu.  きょうは金曜日です。
Tôkyô  東京        Huzisan  富士山

1. いままで行われたつづり方のうちには、名詞は全部語頭を大文字にするものもある。

2. 「必要のある場合」とは、特に目立たせる必要のある場合などであるが、その場合にも、語頭に大文字を用いるだけでなく、つづりの全部を大文字でかくこともあり、イタリック・ゴチックなどで書き、あるいはそのつづりの下にアンダーラインを引き、または「引用のしるし」でかこむこともある。

〔付記 1〕 外来語は、国語音のつづり方に従って書く。
inki    インキ       naihu  ナイフ
tabako  たばこ       ranpu  ランプ

外来語とは、

他国の言語体系の資料を自国の言語体系に借り入れてその使用を社会的に承認したもの (楳垣實、外来語研究 p.16)

といってよいであろう。いわば、生まれは外国でも、すでに日本に帰化してしまった言葉なのであるから、日本語をかくときの書き方にしたがって書くのが当然である。しかし、漢字かなまじり文の一般的な形式としては、かなはひらがなを用いるのに、ある外来語はそのなかにかたかなで用いられている。また、煙草・たばこ・タバコなどのようにいくつもの書きあらわし方のあるものもあり、メンチボールなどのように必ずかたかなで書き、しかも現代かなづかいの普通のつかい方にはしたがわないものもあって、その日本語化の段階はけっして一様ではない。そこで、外来語か外国語か区別のつくものは指針のとおりかき、すこしどうかと思われるものは、国語音のつづり方にしたがって書いたのち、「かっこ」の中にその原語のつづりを加えておくとよい。その際、原語をあらわす字体はイタリックなどを用いると区別がよくわかって便利である。

〔付記 2〕 外国語(地名・人名をふくむ)のローマ字つづりは、原則として原語に従って書く。ただし、日本風に呼びならわした地名・人名は、外来語なみにあつかう。

1. 外国語をローマ字でつづる場合には原語のつづりによる。しかし、原語のつづりだけでは読めない場合がおおいから、そのときは、その外国語の音に近い日本風のよみ方を「かっこ」のなかに加えておくと便利である。また、その際原語をあらわす字体にはイタリックなどを用いると区別がよくわかって便利である。

2. 日本風に呼びならわした地名・人名とは、

イ) 五大州の名 Yôroppa, Amerika, ......
ロ) 主な国々の名 Huransu, Doitu, Igirisu, ......
ハ) 主な都会・山・川の名 Rondon, Parii, ......
ニ) よくつかわれる人名 Gête, Hurankurin, Wasinton...

などで、これらは国民の間にひろく用いられ、日本のもとからのことばと結合して、Yôroppa-zin, Amerika-zin などとも用いられるから、外来語と同じように取り扱う。

3. 中国の地名・人名をローマ字で書く場合には中国人がそれをローマ字で書く場合の習慣にしたがって書くがよい。

Chang Kai-Shek (Syôkaiseki)
Shanghai (Syanhai)

なお、この場合にも「かっこ」のなかに国語風のつづり方を示し、原語はイタリックで書くと区別がよくわかって便利である。

—転記はここまで—

[まえへもどる] [つぎへすすむ] [ウェブ目次にもどる] [注意がき]


≡‥≡