■ローマ字教育の指針とその解説—1-2

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■このページは、「文部省内国語問題研究会(編). ローマ字教育の指針とその解説. 東京都, 三井教育文庫, 1947, 113p. (ja, B6よこがき)」を全文転記したものの一部です。■注意がきを無視しないでください。

—以下転記部分—

[p.11-14]

II 教材

教材の選択および配列にあたっては、次の諸点に留意する。

一 国語のローマ字による表記法を訓練する。

  1. 学習の初期にあたっては、児童生活における基本的な表現形式をローマ字書きで示し、その読み方・書き方に習熟させる。

  2. ローマ字のあらゆる場合の表記のし方を自然に、順を追って提出し、無理のないように習得させる。(よう音・促音・はねる音の表記、句読点の使用法、節のまとめ方などには特に注意する。)

ニ 標準語または標準的語表現を用いる。

表音文字であるローマ字の特質にもとづき、教材は、つとめて標準語または標準語的発音、語法により正しい国語の教育に役立たせる。

三 語学的の興味をおのずと持たせるように配意する。

  1. 動詞・形容詞の活用、その他の語法的事象を理解させる。

  2. 韻文教材では、韻律の表現について理解させる。

四 作品は、なるべく児童の生活からうまれたものを選び、教科書に親しみをおぼえさせると共に、読解力の増進をはかる。そのためには生活童話・詩・日記・観察・記録なども適当であろう。

すべて教育にあたっては、教育の材料の選び方がどうであるか、またその教材を児童に与えていく順序—教科書に編修する場合には提出・配列の仕方—が、先ず問題になる。そしてその選択・配列については、教授者の創意工夫—生徒と共に行動する生きた教授の場面において、児童の心理の動きを的確につかみながら、その時その時の状況に適して教材を考え出し・提示するという心構えや準備が必要である。教材は、常に、教授者の創作であり・運用であるときに、最も効果をあげ得るものであるから。特に、言葉の教育活動においては、教材は、教授者のみずからの創意工夫によって選択され・運表されることが、最も望ましいのである。ローマ字による話し・書こうとする国語の教育にあっても、児童の言葉の意欲が能力を常にかえりみながら、生きた教材を作り・用いることが、最も重要である。

しかしながら、教材を創作し・提示するための一応の基礎となり・標準となる点は、明確にしておく必要があるであろう。その基礎・標準としては、ローマ字の場合にかぎらず一般に国語教育にあたって考えるべきこと、すなわちすくなくも 1) 正しい書き方(表記法)、2) 正しい言葉(いわゆる標準語と認められる言葉を中心とすること)、3) 児童の生活に適応するというこの三つが根本の条件となるであろう。そして、この三つのそれぞれについてローマ字による読み・書きの特殊性を考えるという態度をとるべきである。

そして、先ず表記法について訓練するについては、易より難へ、基礎的形式から複雑な形式へと進めるように配意することが必用である。しかも、あらたまってものをいう時の形式や、特別の文体などよりは、先ず、児童が毎日話したり・聞いたりしている時の簡単な形式を、ローマ字ではどう書くかを示すことから始めるのがよい。また非常にしばしば使う。しかも言葉の意味をはっきりさせるのに必要な役わりをする言葉の書き方などは、なるべく早くから目にふれさせるように努めるのがよい。例えば、wa とか、ga とか、o とか、ni、de、e、kara、...... といったいわゆる助詞などの書き方は、なるべく早くから、なるべくしばしば目にふれさせるように工夫するのがよい。一般に、国語のなかで使われることのいちじるしく多い言葉は、なるべく早くからその書き方を示すことが望ましい。

とにかく、児童が、毎日の生活の中で非常にしばしば使う言葉、ふつうに言う言いまわしなどを、ローマ字で書き表わして示し、それの読み・書きができるようにすることが、先ずたいせつである。こうして始めて、ローマ字と児童が結びつき、言葉の教育が生きて行われ、児童が自発的に・積極的にローマ字教育を受け取り、みずからの興味によってローマ字による国語の教育に努力するということになる。そして、その上では、ただ児童の生活の場合のみに適切な表現形式ばかりでなく、あらゆる場合に国語の書き表わし方を、しぜんにのみこませるように、教材を順序よく現出していくべきであり、ローマ字による国語の表記について必用にして十分な知識が持てるように導くべきである。

さて、次にローマ字による国語教材の創作にあたって、最も注意すべきことは、選択する言葉そのものの性格である。初等教育における国語教育である以上、標準語による言語活動の訓練を中心とした教材を選択すべきは言うまでもないが、漢字交じり文の場合よりも国語の音韻がはっきりとあらわれやすいのであるから、特にローマ字文の教材については、標準語的な言葉・言いまわしを提出するように注意すべきである。もちろん、方言としてもローマ字で書けないわけではないが、標準語の訓練に力を注いでこそ、ローマ字による教育の効果や意識がいっそう現れるし、かぎられた時間内で、まだ不安定なローマ字によるなまり音の書き表わし方まで授けることは、児童の学習力を分散させることにもなるからである。

—転記はここまで—

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