■「沙彩(さあや)」のローマ字表記

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質問:

2003年1月14日 火曜日 午後10時54分:

こんばんは。娘の名前のつづりをアドバイスください。
沙彩(さあや)といいます。

将来、国際的に通用し、なるべく正確に発音してもらえる綴りを知りたくてご相談しました。Saayaのように、aが二つ重なるのはOKでしょうか。また Sarya、Sahya だと違うニュアンスになってしまいますか?モアベストを教えてください。宜しくお願いします。 

回答:

おといあわせ、ありがとうございます。回答がおそくなりまして、もうしわけございません。

まず、個人がおこなう、日本語のローマ字つづり一般についてですが、どういうつづりでなければならないというきまりはありません。しかし、パスポートの氏名のローマ字つづりに関しては、長音省略のヘボン式(オ列長音のみ<H>をつかったつづりも可能)というふうにきめられています。具体的には、東京都生活文化局のサイト内の『PASSPORT_ヘボン式ローマ字綴方表』などをご参照ください。

人名の場合、パスポートのつづりとおなじにしておかないと、国外で同一人物にみなされないなどの問題にまきこまれるかもしれません。

また、長音の表記に<H>がつかえるのはオ列長音だけで、「ゆうこ」の「う」などのウ列長音ではみとめられていません。さらに、2001年11月に、京都・大阪・神戸の旅券事務所に電話でといあわせたところでは、長音といえば「ウ列」か「オ列」しか想定していないようです。つまり、ア列、イ列、エ列の長音は、長音とみなされないことがおおいようです。くわしくは、この相談室の『■新見(にいみ)のヘボン式つづり』をご参照ください。

したがって、「沙彩(さあや)」のローマ字つづりですが、パスポートでは、<SAAYA>となる可能性が大です。しかし、「あ」の発音がア列長音であると主張し、<Saya>、あるいは<Sâya>とか<Sāya>のつづりの使用実績をしめすもの(クレジット・カードなど)があれば、<SAYA>にできる可能性もあります。おすまいの都道府県の旅券事務所にといあわせてみるのが、いちばん確実でしょう。(一般に固有名詞は、先頭の1文字が大文字、あとは小文字でかかれますが、パスポートのローマ字氏名は、すべて大文字でかかれます。)

ご質問のなかにある<Sarya>と<Sahya>ですが、それぞれ、/サリャ/、/サヒャ/とよまれないように確実を期すためには、<Sar'ya>、<Sah'ya>のように、<r>や<h>と<y>のあいだをくぎる必要があるとおもわれます。アポストロフィーのかわりにハイフンをつかって<Sar-ya>、<Sah-ya>とすることもかんがえられます。このふたつ以外の記号がつかわれるのは、みたことがありません。

また、これらのつづりをどうしてもパスポートでつかいたければ、国際的に使用実績をつんで、その証拠となるものをそえて、「非ヘボン式ローマ字氏名表記等申出書」というものを提出すれば、本来のつづりのそばにカッコつきで併記してもらえるかもしれません。ただし、アポストロフィーやハイフンはつかえず、<SARYA>、<SAHYA>となるとおもわれます。

<Saaya>のように、母音字をかさねて長音、あるいは長母音で発音する例としては、国際的には、スウェーデンの自動車メーカー、「SAAB」(日本語での発音は/サーブ/)の例があります。

国内でも、内閣告示では、ふつうは<Sâya>ですが、すべて大文字でかくときには<Sâya>のかわりに<SAAYA>とかいてもよいことになっています。これは、大文字の場合はタイプライターで<^>をかさねうちすると<A>とかさなってしまうなどの理由からだとおもわれます。大文字で<SAAYA>とかいてよいのなら、小文字で<Saaya>でもよいともかんがえられます。

「国際的に通用し、なるべく正確に発音してもらえる綴り」とのことですが、おなじローマ字つづりでも、言語によって発音はことなりますので、あらゆる言語でおなじように発音されるつづりにするというのは、たぶんむつかしいとおもいます。

もっとも、<Saaya>、<Saya>、<Sar'ya>、<Sah'ya>に関していえば、言語による発音のちがいはすくないほうだとおもわれます。

とはいえ、わたくしもそれほどたくさんの言語に通じているわけではありませんので、あまり具体的にはいえないのですが、たとえばドイツ語では、先頭の<S>がにごって発音され、/ザーヤ/のようになるかもしれません。<r>や<h>も、言語によってはかなりアクのつよい子音で発音され、/サーヤ/よりもむしろ/サッヤ/のようにきこえる場合もあるかもしれません。どちらかというと、<Saaya>か<Saya>のほうが無難なような気がします。

また、「長音」というのは、かなり日本語独特の概念だとおもいます。

たとえば英語の場合、hit の<i>の発音と、heat の<ea>の発音をくらべたとき、前者をそのままのばせば後者になるようにおもわれるかもしれませんが、そうではありません。このふたつの母音は、ながさというより、むしろねいろがことなるべつの母音です。

さらに、日本語の場合は、長音・發音・促音をふくめて、すべての音節がおなじながさで発音されるのが基本ですが、英語の場合、アクセントのある音節がながく発音される傾向があります。逆にいうと、英語話者が日本語をはなす場合、どこかの音節をながくしないと発音しにくいということがあるとおもいます。たとえば、/キモノ/が/キモーノ/になるようにです。ということは、たとえば<Saya>が/サヤ/さんであっても/サーヤ/と発音されるかもしれないということです。

しかし、/サヤ/さんと明確に区別してほしければ、やはり<Saaya>のほうが確実なような気がします。

ちなみに、インドネシア語で saya といえば、《私(丁寧語)》の意味だそうです。発音は/サヤ/ですが、インドネシア語では母音の長短で意味がかわることはなく、最後から2音節めにアクセントがおかれることがおおく、アクセントがおかれた音節は、つよく、ながく発音されるらしいので、/サーヤ/ときこえることもあるかもしれません。

パスポート以外の公的な規格では、以下のとおりです。

国際規格

<><><><><>の発音が長音かどうかは、じっさいの発音にもとづくのではなく、<><><><><>を末尾にふくむ2文字あるいは3文字のかな文字列が、長音(国際規格の英語版原典では logn vowel )をあらわす、ダイグラフ(2文字でひとくみのかな文字列)とトリグラフ(3文字でひとくみのかな文字列)の表、のなかにあれば、その<><><><><>の部分の発音は長音とみなされ、母音字のうえにつけた<^>(サーカムフレックスアクセント、あるいはアクサンシルコンフレックス)で表記されます。ただし、<><><><><>のまえに、形態素境界がある場合には長音とみなさず、<a><i><u><e><o>でかきます。

例: おかあさん okâsan ながあめ nagaame

固有名詞の場合は、もともと意味というものがないので形態素境界というものもないのですが、漢字のきれめを形態素境界と同様にあつかうというかんがえかたもあるとおもいます。

ご質問のなかの「沙彩(さあや)」は、<沙彩>のふりがなが<さあや>であるという意味に解釈させていただきますが、おそらく、<>のふりがなが<>、<>のふりがなが<あや>ということだとおもいます。だとすると、上記のかんがえかたでいくと、たとえ<>の発音が長音であったとしても、<Saaya>となることになります。

英国規格

長音の表記に、<^>(サーカムフレックスアクセント、あるいはアクサンシルコンフレックス)ではなく<¯>(マクロン)をつかうことをのぞいて、国際規格と同様です。

内閣告示

記述があいまいですが、かな文字列ではなく、発音にもとづいてローマ字に変換するとおもわれます。したがって、<さあや>の<>を長音で発音するなら<Sâya>、母音の/ア/で発音するなら<Saaya>となるはずです。

前述のとおり、すべて大文字でかく場合には、長音を母音字をかさねてかきあらわしてもよいことになっており、この場合は<SAAYA>になります。

以上です。なにかご不明な点などございましたら、またメールをください。

≡‥≡海津知緒(KAIZU Haruo)


変更記録

第1.1版(2003年1月17日)
新規登録。

版:
第1.1.2版
発行日:
2003年1月17日
最終更新日:
2003年12月6日
編著者:
海津知緒
発行者:
海津知緒 (大阪府)

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