邦題 『ゴッホは欺く』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 False Impression(2005)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 2007/2/1
面白度 ★★
主人公 フェンストン・ファイナンスの美術コンサルタントであるアンナ・ペトレスク。17歳でルーマニアからアメリカに移住。博士修得後はサザビーズの印象派部門に勤めた。
事件 9.11テロの前夜、英貴族ウェントワース家の女主人ヴィクトリアが首を切られ、切断された左耳が、美術蒐集家でもある会長のフェンストンに送られてきた。一方アンナはヴィクトリアの双子の妹と協力し、所有していたゴッホの自画像を売って財政を再建しようとするが……。
背景 アーチャーは、短編集・サーガ物・冒険サスペンス小説という3ジャンルを書き分けているが、本書は冒険サスペンス物。9.11テロとゴッホの自画像を結びつけて一編を仕上げてしまう筆力には恐れ入るが、落ち着いて考えるとプロットは安易としか言いようがない。

邦題 『クロエへの挽歌』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Dancers in Mourning(1937)
訳者 井伊順彦
出版社 新樹社
出版年 2007/8/31
面白度 ★★
主人公 お馴染みの私立探偵アルバート・キャンピオン。事件当時は36歳(1900年生まれ)の独身である。従僕ラグがいる。
事件 花形ミュージカル俳優ステインは、最近劇場やロンドン近郊の自宅”白亜館”で嫌がらせが横行していることを危惧していた。そこでキャンピオンに調査を依頼したのだ。ところが彼が白亜館に赴くと、共演の女優クロエが橋から落ち、ステインが車で轢いてしまう事故が!
背景 キャンピオン・シリーズの8作目。『判事への花束』や『屍衣の流行』といった作品と同時期に書かれ、それらと同じ風俗ミステリー。演劇界の内幕が描かれている。手榴弾の暴発に始まる終盤の展開はサスガと感心するも、人物紹介を主とする前半がサスペンス不足なのが残念。

邦題 『甘美なる危険』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Sweet Danger(1933)
訳者 小林晋
出版社 新樹社
出版年 2007/12/14
面白度 ★★★
主人公 私立探偵アルバート・キャンピオン。1900年5月生まれ。ケンブリッジ大学で学ぶ。後の作品で結婚を申し込むことになるアマンダ・フィットンと知り合う。
事件 キャンピオンと彼の仲間は、サフォーク州ポンティスブライトに向った。そこにはフィットン家が所有する水車場があるが、近くのかしの木には謎の銘文が彫られていた……。
背景 「別冊宝石」(1957)に掲載された『水車場の秘密』の新訳。単行本としての出版は初めてなので、本リストに掲載した。アリンガムというと『幽霊の死』や『判事への花束』などから風俗ミステリー作家というイメージが強いが、本作は宝捜し物のスリラー。キャンピオンやアマンダは好感がもてるし、後半のサスペンスはなかなかのもの。なお短編「クリスマスの言葉」も収録。

邦題 『アリントン邸の怪事件』
原作者 マイケル・イネス
原題 Appleby at Allington(1968)
訳者 井伊順彦
出版社 長崎出版
出版年 2007/4/10
面白度 ★★★
主人公 元ロンドン警視庁警視総監サー・ジョン・アプルビイ。シリーズ探偵で、現在は引退して田舎で生活している。本編では妻のジュディスも活躍する。
事件 悠々自適な生活をしているアプルビイは近くのアリントン邸に招かれ、帰りがけに感電死していた身元不明の男を見つけた。そして翌日、同じ邸で開かれた催しの最中に、当主の跡取りと思われた甥が敷地内の池で死体となって見つかったのだ。二事件の関係はあるのか?
背景 著者の後期の作品。中期以降のイネスは冒険小説なども書いているが、本書は正統的な謎解きミステリー。ファース味も少ない(変人・奇人の類もわずかしか登場しない)。鬼面人を驚かせるプロットではないが、愛犬の扱い方には職人芸と思わせるものがある。

邦題 『議会に死体』
原作者 ヘンリー・ウェイド
原題 The Dying Alderman(1930)
訳者 武藤崇恵
出版社 原書房
出版年 2007/2/28
面白度 ★★★
主人公 自治都市クウェンバラの新任警察本部長チャールズ・レース大尉と、そのレースが捜査を依頼したスコットランド・ヤード犯罪捜査部のハーバート・ロット警部。
事件 議会ではトラント参事会員が土地取引の不正を厳しい口調で追及していた。市長は苦境に陥っていたが、助役の説明で議場は落ち着き休会となった。ほとんどの人は隣接するホールに移ったが、トラントは何か書き物をしていた。やがて十数分後、刺殺されたトラントが見つかったのだ!
背景 著者の6冊目の邦訳。今回は初期作品ということもあり、本格ミステリー味の濃い作品(つまりフーダニット形式で、アリバイ崩しやダイイング・メッセージなどを含む)だが、トリックは平凡なもの。むしろ当時の地方警察のリアリティある描写の方が興味を惹く。

邦題 『死はあまりにも早く』
原作者 ヘンリー・ウェイド
原題 Too Soon to Die(1953)
訳者 小林晋
出版社 ROM
出版年 2007/11/30
面白度 ★★★
主人公 事件の担当者はスコットランド・ヤード刑事部所属のジョン・プール主任警部(シリーズ探偵)だが、事件(物語)の主役はブラックトンの当主ジョン・ジェロッドの息子グラント。
事件 古い家系を持つジョンは肝臓癌で、余命6ヶ月と宣告された。税金を節約するため財産はすでに息子に譲っていたものの、法律が変わって5年間生存しないと、莫大な財産税がかかることになったのだ。余命6ヶ月では短すぎる。そこで父・息子が考えた手は……。
背景 著者晩年の一冊。倒叙物だが、ヴィーカス作品のような設定(犯人のミスから完全犯罪が崩壊する面白さ)とは少し異なり、犯罪の主人公が当初のシナリオとは違う展開に戸惑い、いかに事件を収束させるかに焦点を当てている。安心して楽しめるが、イマイチ驚きもない。

邦題 『夜愁』上下
原作者 サラ・ウォーターズ
原題 The Night Watch(2006)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2007/5/31
面白度 ★★
主人公 第二次世界大戦前・中・後を背景とする群像劇なので主人公はいない。強いて挙げるなら、妻のある軍人と不倫する食糧庁勤務のヴィヴィアン・ピアスと、作家のジュリアとレスビアン関係にあるヘレン、そしてヴィヴィアンの弟ダンカンなどである。
事件 戦争を通じてめぐり合ったさまざまな人間たちの人生の一部をじっくりと描いている。
背景 ヴィクトリア朝を舞台にしたコリンズ風の小説を3冊書いていた著者の初の現代物。とはいえ1940年代を背景にしている。巻末解説の若島氏が指摘するとおり「じっくりと描き込んだ主流リアリズム小説」で、描写力には驚かされる。ミステリーではないが、既訳作品がミステリーと評価されていることと、叙述の順序が逆時代順というプロットがミステリーっぽいのでリストに加えた。

邦題 『病める狐』上下
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 Fox Evil(2002)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2007/7/27
面白度 ★★★★
主人公 三人称多視点の小説なので、明確な主人公はいない。一番主人公に近いのは弁護士のマーク・アンカートン。ヒロインに近いのは20代後半の陸軍工兵隊大尉ナンシー・スミス。
事件 ドーセットの小村の雑木林に、フォックスと名乗る謎の男が率いる移動生活者が住み着き始めた。その村では富豪の老婦人が数ヶ月前に不審死する事件が起きていたこともあり、村民の緊張は高まっていた。そしてクリスマスの翌日、ナンシーが村を訪れると――。
背景 著者の邦訳7作目。二度目のCWA受賞作でもある。田舎に住む富豪の遺産相続を巡るという謎解き小説らしい設定にサイコホラー的人物を絡ませて、迫力あるミステリーに仕立てている。著者の作品にしては、久しぶりに主人公らに素直に感情移入できるのも嬉しい。

邦題 『ブランディングズ城の夏の稲妻』
原作者 P・G・ウッドハウス
原題 Summer Lightning(1929)
訳者 森村たまき
出版社 国書刊行会
出版年 2007/9/15
面白度 ★★★
主人公 ブランディングズ城に関係する人々が事件に巻き込まれるユーモア小説で、明かな主人公はいない。強いて挙げれば、城の城主第九代エムズワース伯爵クラレンス(エムズワース卿)と彼の妹レディ・コンスタンス・キーブル、弟キャラハッド(ギャリー)・スリープウッドの三人か。
事件 エムズワース卿御自慢の飼い豚(シュロップシャー農業ショウーで優勝)が誘拐された。彼の甥や姪が関係しているのか? それとも忠実な執事や私設秘書、はたまたライバルの隣村の准男爵が犯人なのか? 私立探偵まで雇って犯人を捕まえようとするものの……。
背景 ブランディング城物の第三作だが、実質的にはシリーズ第一作と言える作品。探偵小説的趣向は単純だが、ユーモア小説らしい人物造形や言動はさすがと脱帽だ。

邦題 『闇に濁る淵から』
原作者 レニー・エアース
原題 The Blood-Dimmed Tide(2004)
訳者 田中靖
出版社 講談社
出版年 2007/2/15
面白度 ★★★
主人公 元ロンドン警視庁警部補で、現在は農場主になっているジョン・マッデン。妻ヘレンは女医で、ロブとルーシーという二人の子どもがいる。
事件 時代は1932年の夏、舞台は田園地帯が広がる英国南東部。マッデンは森の中で少女の惨殺死体を見つけた。当初はジプシーらの犯行と思われたが、やがて顔を石槌で破壊された少女の死体が発見され、連続殺人であることがわかる。どうやら犯人は海外生活の経験があるらしい。
背景 前作『夜の闇を待ちながら』の続編という設定だが、前作を読んでいなくても問題はない。内容はシリアル・キラー物だが、ホラー度は低い。警察捜査小説としてはプロットは単純すぎるものの、ナチス勃興期という時代背景を生かした風俗ミステリーとして楽しめる。

邦題 『シャーロック・ホームズの栄冠』
原作者 北原尚彦編
原題 日本独自の編集(2007)
訳者 北原尚彦
出版社 論創社
出版年 2007/1/20
面白度 ★★★
主人公 シャーロック・ホームズのパロディ・贋作を集めた独自編集のアンソロジー。24編を収録(英国作家はほぼ半数)。単行本未収録の作品ばかりを集めたのは立派。
事件 24編の題名と作者名をすべて載せることはスペース的に不可能である。第一部王道篇(SHのまっとうなパロディ)、第二部もどき篇(SHに似た探偵の登場する作品)、第三部語られざる事件篇(その名の通り)、第四部対決篇(SHと有名人の対決)、第五部異色篇(パロディの切り口を変えたもの)で、ブロックの「小惑星の力学」はやはりアイディアが良い。
背景 有名作家の珍しい作品より、シャーロッキアンとして高名な(だが一般には無名な)人の作品の方が私には楽しめた。アンソロジーとしてのレベルは高い。

邦題 『大聖堂の殺人』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 Close Quarters(1947)
訳者 今井直子
出版社 長崎出版
出版年 2007/11/12
面白度 ★★★
主人公 スコットランドヤードの主席警部ヘイズルリッグだが、同じ部署のポロック巡査部長も助手として活躍する。
事件 ミルチェスター大聖堂の首席司祭は、境内に住む人々に送られてくる手紙の扱いに悩んでいた。内容が首席聖堂番を中傷するものであったからだ。そこで彼の甥であるポロックに個人的に調査を依頼したが、ポロックが調査を始めると、なんと首席聖堂番が撲殺されたのだ!
背景 著者の第一作。境内というクローズド・サークルで殺人が起きるという本格物。容疑者が多いうえに、地味なアリバイ捜査がメインの話なので、中盤にサスペンスが不足しているが、いくつもある謎が巧みに結びついていて、結末はそれなりの意外性がある。

邦題 『蛇は嗤う』
原作者 スーザン・ギルラス
原題 The Snake Is Living Yet(1963)
訳者 文月なな
出版社 長崎出版
出版年 2007/5/10
面白度 ★★★★
主人公 語り手はイギリスにいる夫から逃れてタンジールに来た女性ライアン・クロフォードだが、事件解決者はスコットランド・ヤード犯罪捜査主任警部ヒュー・ゴードン。
事件 タンジールに着いたライアンに、早速アメリカ人のビジネスマンが近づいてきた。なにやら不安な雰囲気が漂い始めたが、やがて波止場のごろつきが鈍器で重傷を負い、さらにそのビジネスマンが射殺されたのだ。インターポールに出向中のヒューが捜査のために訪れる。
背景 原シリーズの7作目で最終作ながら、本邦初訳となる作品。クリスティ的なプロットを持っていて、伏線の張り方や意外性の設定が巧みだ。事件発生までの(約1/3までの)人間関係の描写がいささかサスペンス不足だが、後半は大いに楽しめるはずだ。

邦題 『大鴉の啼く冬』
原作者 アン・クリーヴス
原題 Raven Black(2006)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2007/7/27
面白度 ★★★★
主人公 三人称多視点の小説なので絞りにくいが、強いて挙げれば、事件担当者で地元署の警部ジミー・ペレス。離婚歴のある40代の独身で、シェトランド諸島の小島フェア島出身。
事件 舞台は英国の最北端に位置する人口2万人ちょっとのシェトランド島。新年を迎えた夜、地元の二人の女子高校生が孤独な老人を訪れた。だが4日後、その中の黒髪の女生徒が赤いマフラーで絞殺されているのが見つかった。8年前の少女失踪事件と関係があるのか?
背景 本邦初紹介の英国中堅作家のミステリー。2006年のCWA最優秀長編賞受賞作。シェトランド島という舞台が興味深い。警察小説としては科学的捜査があまりない点が不満だが、島に住む人々の生活が丁寧に描写されている。謎も小味ながら巧みに隠されている。

邦題 『ブラック・ドッグ』
原作者 ジョン・クリード
原題 Black Cat Black Dog(2006)
訳者 鎌田三平
出版社 新潮社
出版年 2007/5/1
面白度 ★★★
主人公 元英国秘密情報部員のジャック・ヴァレンタイン。中年の独身男。今回も元IRAの闘士リーアム・メロウズやその妹でジャックの元恋人ディアドラなどが協力する。
事件 女性記者が狙撃され、ジャックは彼女の最後の不可思議な言葉”ブラック・キャット”を聞く。一方アイルランド沖に不時着したパイロットの最期の言葉は”ブラック・ドッグ”。ジャックが調べていた、50年以上前に死んだ水兵の認識票(ドッグ・タグ)と関係があるのか?
背景 『シリウス・ファイル』でデビューした著者のシリーズ三作目。主人公の一匹狼的な活躍の面白さは陰を潜め、代わりに集団で行動するアクション小説になっている。つまりはスペンサー・シリーズの二の舞化で、語り口はうまいが、安易なプロットには問題がありそうだ。

邦題 『エンジェル・メイカー』
原作者 ジェシカ・グレグソン
原題 The Angel Makers(2006)
訳者 子安亜弥
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2007/11/1
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『少年探偵ロビンの冒険』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Young Robin Brand Detective(1947)
訳者 井伊順彦
出版社 論創社
出版年 2007/2/25
面白度 ★★★
主人公 探偵に憧れているロビン・ブランド少年。両親がインドに滞在しているため、イングランド南西部にある、親友のカー宅で夏季休暇を過ごすことにした。
事件 親友ジャックと楽しい日々が始まったロビンだが、洞窟を探検していて一件の悪事を目撃した。どうやら鉄道工事中に部品を盗んでいるようなのだ。二人はジャックの父親を介して警察に知らせる一方、さらなる探偵稼業を始めたが、なんとジャックの妹が誘拐されてしまう!
背景 クロフツの書いた唯一のジュヴナイル作品。原則として児童文学作品は含めないことにしているが、フレンチ主任警部が登場することもあり(そして論創海外ミステリの一冊でもあるため)入れることにした。第二次大戦後間もない時期の鉄道建設が興味深く描かれている。

邦題 『眩惑されて』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Sight Unseen(2005)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2007/3/15
面白度 ★★★★
主人公 歴史学者のデーヴィット・アンバー。別れた妻が自殺したこともあり、プラハに隠れ住んでいる40代の独身男。幼女が拉致され、少女が殺された事件の目撃者でもある。
事件 アンバーの元に、18世紀の謎の投書家ジュニアスの名を騙る手紙を携えた男が現れた。23年前の事件を思い出したアンバーは、英国に戻って調査を始める。だがジュニアス関係の書類が盗まれ、アンバーの相棒である元警官は密輸容疑でジャージー島の警察に捕まってしまう。
背景 ゴダードの17冊目。相変わらず語り口は巧妙で、一気に読ませる魅力を持っている。また主人公が単なるダメ男から少し変化しているのも好ましい。現在の事件と歴史的事件との絡ませ方も無理がない。大風呂敷を広げ過ぎた結果、収束に苦労しているのは変わらないが。

邦題 『ナツメグの味』
原作者 ジョン・コリア
原題 The Touch of Nutmeg Makes It and Other Stories(日本独自の編集:2007)
訳者 垂野創一郎他
出版社 河出書房新社
出版年 2007/11/30
面白度 ★★★
主人公 17本の短編を集めた独自の傑作集。ただしほとんどの作品に既訳がある。
事件 収録作は「ナツメグの味」(表題作のことはある)「特別配達」「異説アメリカの悲劇」「魔女の金」「猛禽」「だから、ビールジーなんでいないんだ」「宵待草」「夜だ!青春だ!パリだ!見ろ、月も出ている」「遅すぎた来訪」「葦毛の馬の美女」「壜詰めパーティ」「頼みの綱」(素直に楽しめる)「悪魔に憑かれたアンジェラ」「地獄行き途中下車」「魔主とジョージとロージー」「ひめやかに甲虫は歩む」「船から落ちた男」。
背景 調べた限りでは未訳は一編だけだった。玉石混交という印象だが、ファンタジー的というか、悪魔の登場する作品は私の感性にあわず、あまり楽しめなかった。

邦題 『ついてないことだらけ』
原作者 キャサリン・サンプソン
原題 Falling off Air(2004)
訳者 後藤由季子
出版社 新潮社
出版年 2007/8/1
面白度 ★★★
主人公 放送協会を休職中の女性テレビ・プロデューサー、ロビン・バランタイン。双子のいる35歳のシングル・マザー。元夫アダムも放送協会に勤めるジャーナリスト。
事件 双子の世話をしていたロビンは、向かい側の家から女性が転落死するのを目撃した。死者は著名な社会活動家である。自殺なのか他殺、事故死なのか? ところがその女性と仕事をしていたアダムが、何者かが運転していたロビンの車で轢き殺されてしまったのだ!
背景 本邦初紹介の作家による、行動的な女性が主人公の女性向スリラー。最大の魅力はTVプロデューサーという主人公の造形にあるが、放送業界の内幕描写も興味深い。また双子の描き方も微笑ましい。ただしミステリーとしてのプロットは、新鮮味が乏しいのが残念。

邦題 『灯台』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 The Lighthouse(2005)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 2007/6/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の警視長アダム・ダルグリッシュ。お馴染みのシリーズ探偵だが、二人の部下、警部のケイト・ミスキンと部長刑事フランシス・ベントン=スミスも活躍する。
事件 コーンウォール沖に浮かぶカム島が舞台。現在は高級保養所としてVIPの滞在客のみを迎えていたが、滞在中の世界的作家が、灯台から無残な首吊り死体で発見されたのだ。悪い噂が出ることを怖れた警視庁はダルグリッシュら三人のチームを島に派遣するが……。
背景 著者が85歳で出版した17冊目の長編。クリスティーでさえ、新作は83歳で書いた『運命の裏木戸』が最後だから、ジェイムズの著作活動には驚かされる。ミステリーのプロットは単純で、後半は駆け足気味だが、登場人物を丁寧に描写する技術は衰えていない。

邦題 『この男危険につき』
原作者 ピーター・チェイニー
原題 This Man is Dangerous(1936)
訳者 美藤健哉
出版社 論創社
出版年 2007/7/25
面白度 ★★
主人公 レミー・コーション。司法省特別捜査官(通称Gメン)をクビになったという風評がある一匹狼だが、女性にもてて、腕力も抜群にある男。
事件 コーションは、資産家の遺産相続者で、美貌のミランダを追ってロンドンに来た。一方アメリカのギャングはミランダを誘拐して身代金を得ようとしていた。ギャングは、25万ドルの分け前を条件にコーションを誘拐の手先として雇い、誘拐は成功したかにみえたが……。
背景 著者の長編第一作。コーション・シリーズは本邦では二冊訳されているが(『女は魔物』と『おんな対F.B.I.』)、本書はシリーズの第一作である。見かけはアメリカ風犯罪小説だが、プロットが複雑なことと安易にベッドインしない主人公の姿勢に英国流を感じる。

邦題 『「北」の迷宮』
原作者 ジェイムズ・チャーチ
原題 A Corpse in the Koryo(2006)
訳者 小林浩子
出版社 早川書房
出版年 2007/4/25
面白度 ★★
主人公 北朝鮮の人民保安省捜査官の呉。独身の中年男。体制側の兄がいる。
事件 上司の朴から命令された仕事は、早朝の高速道路で通り過ぎる車の写真を撮ること。だが写真機の電池が切れていて、黒いメルセデスの撮影に失敗してしまったのだ。暗い気持ちで署に戻ると、なお悪いことに、情報部と軍部の人間が呉を待ち構えていた。やがて朴は慌てて呉を国境の町へと追いやったが、裏にはなにがあるのか?
背景 著者は西側の情報員としてアジアで長らく活動したと紹介されている謎の人物だが、英国人のようだ。北朝鮮が舞台の珍しい警察小説。一匹狼的な人物造形はそれなりに楽しめるが、日本人から見ると風景・風俗描写にリアリティを感じないし、体制批判も多少ほしいところだ。

邦題 『悪魔はすぐそこに』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Devil at Your Elbow(1966)
訳者 山田蘭
出版社 東京創元社
出版年 2007/9/28
面白度 ★★★
主人公 三人称多視点の物語で、警察官はほとんど活躍しないため、いないのが正解か。
事件 ハードゲート大学の数学科講師ピーターは、亡父の友人ハクストンから、横領の嫌疑で解雇されそうだと告白された。ところがそのハクストンが、審問の場で脅迫めいた言葉を口にした後、ガス中毒で亡くなった。当初は事故と思われたが、図書館で学生が殺され……。
背景 ミステリ・ボックス(社会思想社)から4冊の翻訳が出た著者のほぼ十年ぶりの訳書。相変わらずサスペンス溢れるフーダニットで、一気に読める謎解き小説だ。ただし著者の欠点は、どの作品でもそうだが、すべての登場人物が信用できない(長所もあれば短所もある)人間に設定されていること。これでは登場人物に感情移入ができず、読書の楽しみを減じている。

邦題 『娘に語る神話』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 The Jupiter Myth(2002)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2007/6/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの密偵マルクス・ディディウス・ファルコとその一族・親友たち。
事件 ブリタニアの王宮建設に絡む殺人罪でガリアへ追放されたはずの王の元側近が、ロンディニウム(現ロンドン)の場末で殺された。いきがかり上ファルコ一行はローマへの帰還を延期して、調査せざるをえない。やがて闇の組織が浮かび上がってくるが……。
背景 ファルコ・シリーズの第14作。時代はAD75年8月。場所は古代のロンドンということで、前作の続編とも言える設定。結末から判断すれば、本作の続編も作られるか? プロットはフーダニットというより冒険小説に近く、ラスト百頁の迫力はサスガだが、そこに至るまでは、マルコの妹とマルコの親友の関係はどうなるのか、といったサブストーリーの面白さで持っている。

邦題 『一人きりの法廷』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 The Accusers(2003)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2007/11/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。より正確にいえば主人公はファルコ一家で、妻のヘレナとヘレナの二人の弟アエリアヌスとユスティアヌスも活躍する。
事件 収賄事件で有罪宣告を受けた元老院議員メテルスが死んだ。被告が覚悟の自殺を遂げると、相続人たちは財産の没収を免れる法律があるためか、妻や関係者は自殺と認めた。だが本当に自殺だったのか? 著名な法律家から調査の依頼を受けたファルコが調べ始めると……。
背景 シリーズ15作め。第13、14作はブリタニアの事件を扱っていたが、本書は久しぶりのローマが舞台。時代はAD75年秋から翌年の春にかけて。自殺かどうかという謎より、ファルコと元老院議員たちとの裁判での対決が最高の山場で、話の落としどころも上手い。

邦題 『クルンバーの謎』
原作者 コナン・ドイル
原題 日本独自の編集(2007)
訳者 北原尚彦・西崎憲編
出版社 東京創元社
出版年 2007/5/11
面白度 ★★★
主人公 シャーロック・ホームズでお馴染みのドイルの東洋趣味を扱ったな短編4本と中編1本を集めた日本独自の短編集。題名の後に*印のあるものは『ドイル傑作選T・U』(翔泳社)からの再録である。
事件 収録作は「競売ナンバー二四九」*「トトの指輪」*「血の石の秘儀」*「茶色の手」「クルンバーの謎」(唯一の中編)5本である。
背景 無印の一本は『怪奇小説の世紀 第2巻』(国書刊行会)に収録されてる。「クルンバーの謎」もすでに翻訳されているが(ここを参照のこと)、今回の翻訳は「補遺」まで含めた完全版のようだ。もっとも補遺の内容はあってもなくてもいいものだが。

邦題 『ラウンド・ザ・レッドランプ』
原作者 コナン・ドイル
原題 Round the Redlamp(1894)
訳者 白阪玲麻
出版社 文芸社
出版年 2007/9/15
面白度 ★★
主人公 医学をテーマにしたドイルの短編集。ホラー味の濃い短編3本(「競売ナンバー249」「ロスアミゴスの大失策」「サノックス卿夫人秘話」)は既訳があるために除かれている。
事件 収録作は「時代遅れ」「はじめての手術」「一八一五年からの落伍者」「三代目に生れて」(集中では一番ミステリーらしい作品)「つまずいた第一歩」「呪われた前夜」「恋人たち」「ある生理学者の妻」「外交の問題」「医者たちのドキュメント」「ホイランドの医者」(当時の女医の状況がよくわかるし、後味も良い)「外科医の話」の12本。
背景 内容自体はたいしたことはないが、口当たりは良好で、ついつい読まされてしまう。ドイルはやはり物語作家であることがよくわかる。

邦題 『赤き死の訪れ』
原作者 ポール・ドハティー
原題 The House of the Red Slayer(1992)
訳者 古賀 弥生
出版社 東京創元社
出版年 2007/9/14
面白度 ★★★
主人公 シティの検死官ジョン・クランストン卿と彼の書記アセルスタン修道士のコンビ。
事件 時は1377年の12月、所はロンドンのロンドン塔。城守ホイットン卿が塔内の居室で喉を切られて殺された。卿は、数日前に届けられた謎の手紙に怯えて、見張りの厳重な居室に変更したばかりであったのだ。窓は開いていたが、侵入の形跡はなかった。内部の犯行か? だがその後、同じような手紙を受け取った卿の友人が塔から転落死した。過去の事件の恨みからの犯行か?
背景 シリーズ第二弾。謎を解くのは、どちらかというとアセルスタン修道士の方だが、このコンビはホームズ、ワトソン的な役割分担はない。二人の人間性と当時の世態風俗の描写は魅力的だが、大風呂敷ぎみの謎はどうしてもチャチに見えてしまう。

邦題 『Y氏の終わり』
原作者 スカーレット・トマス
原題 The End of Mr. Y(2006)
訳者 田中一江
出版社 早川書房
出版年 2007/12/15
面白度 ★★★
主人公 大学院の博士課程で学究生活をしている若い女性アリエル・マント。主な研究テーマは19世紀の作家トマス・E・ルーマス。指導教授はそのトーマス研究の権威バーレム教授。
事件 偶然入った古書店で、アリエルは研究対象のルーマスの『Y氏の終わり』を見つけた。この本は呪われた本といわれ、出版に係わった人たちは出版後すぐに全員なくなり、現存する本は一冊切りと言われていた。50ポンドで買ったまでは良かったが、読み始めると……。
背景 本邦初紹介の作家。当初はミステリーを書いていたらしいが、本書は完全なジャンル・ミックス小説で、若い作者(1972年生れ)の才媛ぶりには圧倒される。ミステリー的な面白さは謎の男たちに襲われる中盤までで、後半がSF小説的になってしまうのが、ミステリー・ファンとして残念。

邦題 『聖母の贈り物』
原作者 ウィリアム・トレヴァー
原題 The Virgin's Gift(1979他)
訳者 栩木伸明
出版社 国書刊行会
出版年 2007/2/15
面白度 ★★★
主人公 ミステリー作家ではないが、HMMに短編が二編(「中年の出会い」「電話ゲーム」)も訳載されている作家の短編集。日本独自の編集で、ミステリーとして楽しめる作品もある。
事件 12本の短編「トリッジ」(一種の復讐物)「こわれた家庭」(無邪気な残酷さを描いている)「イエスタデイの恋人たち」「ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年十八歳」(ホラー小説としても読める)「マティルダのイングランド」(三部作「テニスコート」「サマーハウス」「客間」)「丘を耕す独り身の男たち」「聖母の贈り物」「雨上がり」が集められている。
背景  著者の短編集は初紹介だが、短編の名手と言われている。”奇妙な味”的な作品ではないが、登場人物の人生を淡々と、しかし精密に描いている手腕はサスガと言うしかない。

邦題 『幼き子らよ、我がもとへ』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Suffer Little Children(1995)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2007/9/28
面白度 ★★★★
主人公 七世紀のアイルランドに尼僧フィデルマ。シリーズ・キャラクターである。モアン国王の妹で、上位弁護士・裁判官という高位の資格を持った法廷弁護士でもある。
事件 モアン王国内の修道院で、調査をしていた隣国の尊者ダカーンが殺された。さっそく隣国は責任を追及し始めた。兄の要請でフィデルマは現地に向ったが、途中、村が襲撃される事件に出会い、修道女と子供たちを助けた。尊者殺しの事件とは無関係のように見えたが……。
背景 シリーズ第二弾(原書では三作め)で、フィデルマが生れ育ったモアン王国を舞台にした最初の作品。冒頭の、嵐の中を進むフィデルマらの描写が素晴らしく、すぐに物語に引き込まれてしまう。ミステリーの常套手段とはいえ、最後の法廷での犯人指摘も興味が尽きない。

邦題 『サファリ殺人事件』
原作者 エルスペス・ハクスリー
原題 Murder on Safari(1938)
訳者 小笠原はるの
出版社 長崎出版
出版年 2007/12/6
面白度 ★★★★
主人公 アフリカの架空の国チャニア(ケニアがモデルといわれる)の警視庁刑事部警視ヴェイチェル。カナダ出身で、アフリカに赴任したばかりの若き独身男性。
事件 チャニアで狩猟を楽しむサファリ探検隊で次々と事件が起きた。まず大富豪の夫人の宝石類が盗まれたのだ。そのためにヴェイチェルが呼ばれたのだが、秘かに捜査を始めると、なんとその夫人が何者かに銃殺されてしまったのだ。
背景 初紹介の作家だが、有名なオルダス・ハクスリーのいとこ。ヴェイチェル・シリーズ三部作の第二弾で、アフリカを舞台にした本格的な謎解き小説。珍しい風俗描写や簡潔な語り口のおかげで物語にすぐ引き込まれるし、ミスディレクションの技巧も冴えている。

邦題 『1/4のオレンジ5切れ』
原作者 ジョアン・ハリス
原題 Five Quarters of the Orange(2001)
訳者 那波かおり
出版社 角川書店
出版年 2007/6/30
面白度 ★★★★
主人公 本編の語り手であるフランボワーズ・ダルティジャン。兄姉のいる末っ子で、母は一人で農園を切り盛りしていた。フランス占領下の9歳の夏に起きた事件を主に扱っている。
事件 ロワール川流域のレ・ラヴース村が舞台。フランボワーズは何十年振りに、名前を変えて故郷に戻ってきて、農園を営み、小さなクレープ屋を開いた。だが店が評判を呼んだことから、隠してきた過去が暴かれる危機に見舞われる。あの夏に起きたこととは?
背景 『ショコラ』で有名な著者(ミステリー作家ではない)の「食の三部作」をなす最後の一冊。食の話もまあ面白いが、謎の帰郷から戦時下の夏に何が起きたかという設定で読者を引っ張っていく。ミステリー・ファンとしてはナチ物のサスペンスを読んでいるような感じか。

邦題 『TOKYO YEAR ZEROトーキョーイヤーゼロ』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Tokyo Year Zero(2007)
訳者 酒井武志
出版社 文藝春秋
出版年 2007/10/10
面白度 ★★★★
主人公 警視庁捜査一課警部補の三波。妻子のいる中年男だが、愛人がいたり、テキ屋とアヤシゲな関係にあったりと、読者には信頼の置けない人間として登場する。
事件 1945年8月15日の東京。玉音放送の鳴り響く日の午前中、海軍施設内の防空壕で若い女性の腐乱死体が見つかり、憲兵隊が調べたが未解決となった。そして一年後、芝の増上寺で若い女性の他殺死体が二体発見された。一年前の手口と酷似している。連続殺人なのか?
背景 ヨークシャー四部作でデビューした著者が、新たに構想したトーキョー三部作の第一弾。実際の有名な事件、小平義雄の連続殺人事件をモチーフとしている。敗戦直後の東京の描写にも違和感は少ない。ミステリー的な語りのテクニックが、ノワールの中に上手く溶け込んでいる。

邦題 『報復の鉄路』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Midnight Runner(2002)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2007/3/25
面白度 ★★
主人公 。チャールズ・ファーガスン少将が責任者の対テロ専門組織。なかではロンドン警視庁警視ハンナ・バーンスタインが補佐官となるチームが活躍するが、強いて一人挙げるとすれば、やはり元IRAテロリストのショーン・ディロンか。
事件 ディロンによって三人の兄を失ったケイト・ラシッドは復讐に燃えていた。彼女はアラブと英国の血を引く名門の出で、巨万の富を持っていた。彼女の破壊工作を阻止できるか?
背景 同じ主人公らが活躍する前作『復讐の血族』の続編。続編なので悪役ケイトは初めから明らかで、ケイトが何を狙っているかという謎とケイトの部下たちとディロン達のドンパチで読ませる冒険小説。ラストの活劇は、ケイトを復活させるための安易な演出か?

邦題 『ヤング・ボンド』
原作者 チャーリー・ヒグソン
原題 Young Bond Silver Fin(2005)
訳者 伏見威蕃
出版社 学習研究社
出版年 2007/3/6
面白度 ★★★
主人公 若き日のジェイムズ・ボンド。父アンドリューはスコットランド人、母モニクはスイス人。だが二人はスイスで登山中に事故死。伯母に養育されるという設定である。
事件 ボンドは少し遅れてイートン校に入学した。だが校内競技会でヘリボア卿の息子ジョージとよりいがみ合うことになったのだ。やがて休暇となりスコットランドを訪れたが、そこにはヘリボア卿の住む城があり、不審なことが行われているらしい。ボンドは調査を始めるが……。
背景 十代のボンドの活躍を描いた新たなシリーズ物の第一作。原書はPuffin Booksから出ているが、訳書は一般向けになっているし、大人でも十分楽しめる。プロットは冒険小説の王道を行くような正統的なもので、その中にかつてのボンド物のパロディ的な味付けをしている。

邦題 『生贄たちの狂宴』上下
原作者 デヴィッド・ヒューソン
原題 The Villa of Mysteries(2003)
訳者 山本やよい
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2007/4/1
面白度 ★★
主人公 シリーズ物と考えられるので、名目上はローマ市警の刑事ニック・コスタ。20代後半。本書では一匹狼的な活躍をするのではなく、警察組織の一員として働いている。
事件 テヴェレ川沿いの泥炭層から少女の死体が偶然見つかった。服装などから何世紀も前の死体と思われたが、解剖の結果、16年前に行方不明となったマフィアの継娘であったのだ。なぜ古代カルト儀式の服装をしていたのか? その上死体とそっくりな少女の誘拐事件が起き――。
背景 コスタ・シリーズの第二作。第一作の前半は『ダ・ヴィンチ・コード』的な展開であったが、今回はサイコ・スリラー的設定で、やがて警察小説というメインの物語展開となり、最後は謎解きもあるというジャンル・ミックス的な小説。軸足が定まらないのが逆に弱点になっている。

邦題 『ヴェネツィアの悪魔』上下
原作者 デヴィッド・ヒューソン
原題 Lucifer's Shadow(2001)
訳者 山本 やよい
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2007/10/1
面白度 ★★★★
主人公 18世紀と現代を舞台にした物語が交互に語られる。現代の主人公は二十歳の英国青年ダニエル・フォースター。18世紀の主人公は<スカッキ>出版の見習いロレンツォ・スカッキ。
事件 舞台は水の都ヴェネツィア。十年前に殺害された美貌のバイオリニストの墓から、埋葬されていたバイオリンが盗まれた。それから3ヵ月後、資料整理のアルバイトとして英国から来たダニエルは、作曲者不詳の古い楽譜を発見する。バイオリンと楽譜と18世紀の物語の関係は?
背景 著者初の非シリーズ物(ニック・コスタ・シリーズが二冊訳出されている)。サイコ・サスペンス的な味付けをした青春小説と言ってよいが、主人公二人の瑞々しさが魅力的だ。ミステリーとしては二つの物語がいかに結びつくかという設定で読ませるし、意外性も楽しめる。

邦題 『グッナイ、スリーピーヘッド』
原作者 マーク・ビリンガム
原題 Sleepyhead(2001)
訳者 三木基子
出版社 柏艪舎
出版年 2007/3/1
面白度
主人公 トム・ソーン警部。被害者がみな頭蓋骨底部の動脈を圧迫されて死亡した女性連続殺人事件を担当する。3年前に離婚した独身中年男性。
事件 ロンドンで三人の女性が動脈を圧迫されて殺された。だが四人目の被害者は脳卒中患者として全身麻痺のまま生き残る。犯人は医学知識の持ち主と考えられたが、容疑者を絞れない。ソーンは過去のトラウマからこの事件の捜査に執着するものの……。
背景 新人の第一作。警察小説というより、厳密にいえば警察官小説のような内容。ミステリーらしい仕掛けは結末部分にあるものの、ソーンは目立った捜査はせず、ミステリーとしての面白味に欠ける。人間的魅力もイマイチ。ただし個人的には全身麻痺者の描写が興味深い。

邦題 『異人館』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 The Stranger House(2005)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2007/1/15
面白度 ★★★★
主人公 ケンブリッジ大学の大学院で数学専攻として留学することになったオーストラリア人女性サム(サマンサ)・フラッドと司祭になることを諦めて歴史学者を目指しているスペイン人のミグ(ミゲル)・マデロ。サムは20代前半、ミグは20代後半の若者である。
事件 二人は偶然、英国北西部の小村イルスウェイトで出会った。サムはこの村出身の祖母の生い立ちを調べるため、ミグは400年前に迫害されたカソリック教徒の調査のために。だが二人が宿泊していた<異人館>の地下室から、古い頭蓋骨が見つかり……。
背景 ダルジール警視シリーズではない単発物。ヒロインは数学的に、ヒーローは宗教的に物事を捉えるという人物造形が新鮮。プロットや語り口も相変わらず巧みで、ヒルは高値安定だ。

邦題 『嘘は刻む』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 The Lying Voices(1954)
訳者 川口康子
出版社 長崎出版
出版年 2007/3/10
面白度 ★★★★
主人公 中年男性のジャスティン・エマリー。大学では哲学を専攻したが、オーストラリアに渡り、ホテル経営で成功。だが何故か、ホテルを売り払って帰国した。
事件 6年ぶりに英国に帰ってきたエマリーが田舎町アーチャーズフィールドに住む旧友の未亡人グレースを訪れたその日、彼女の近所に住む家具デザイナーが殺された。現場には狂った時計ばかりがあった。グレースも容疑者の一人となったため、エマリーが捜査をするが……。
背景 フェラーズの代表作と呼ばれている作品。確かに面白い。殺人発生後にも衰えないサスペンス溢れる語り口、さりげない伏線の張り方、登場人物の巧みな描き分け、意外な犯人像の設定などが優れている。ただ拳銃の発射音が調べられていないのは不思議だが。

邦題 『文学刑事サーズデイ・ネクスト3 だれがゴドーを殺したの?』上下
原作者 ジャスパー・フォード
原題 The Well of Lost Plots(2003)
訳者 田村源二
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2007/1/30
面白度 ★★
主人公 文学刑事局(リテラテックス)の女性刑事サーズデイ・ネクスト。本編ではブックワールドに身を潜めることになる。”根絶”された夫ランデンの子供を身篭っている。
事件 怪女エイオーニアスから狙われていることもあり、サーズデイは、普通は現実世界の人間が入れない<ブックワールド>に隠れることにした。そこでは誤植ウィルスを撃退したりしていたが、あるとき小説OSを巡る陰謀が進行していることに気づいたのだ。
背景 シリーズ三作目。このシリーズは奇抜な舞台設定で読書好きな人間を喜ばせているが、従来路線のままでは、マンネリになると危惧したのであろう。あの手この手で、新たな枝葉の面白さを語っているが、その面白さが、ミステリー的なものと結びついていないのが残念。

邦題 『祝宴』
原作者 ディック・フランシス&フェリックス・フランシス
原題 Dead Heat(2007)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2007/12/15
面白度 ★★★★
主人公 史上最年少でミシュランの一つ星を獲得したシェフ・オーナーのマックス・モアトン。31歳。ヴィオラ奏者キャメロン・アストンとは恋人関係に発展する。
事件 マックスは、ニューマーケット競馬場の近くに人気レストランを構えていたが、伝統ある競馬レースの前夜祭で、彼の担当料理で食中毒が発生した。彼自身も腹痛と嘔吐に襲われるという不可解な中毒だったが、次の日には貴賓席で爆弾テロが起きたのだ。二つの事件の関係は?
背景 再開した”競馬シリーズ”の第二弾。相変わらず高レベルを維持している。息子との共著というためか、主人公らの恋愛描写が多くなっているが、犯人の設定や密輸方法などはいかにもフランシスらしい。ただ大規模なテロなのに警察活動がほとんど描かれていないのは疑問だ。

邦題 『ぶち猫 コックリル警部の事件簿』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 The Spotted Cat and Other Stories(2002)
訳者 深町眞理子・吉野美恵子・白須清美
出版社 論創社
出版年 2007/10/20
面白度 ★★★
主人公 ケント州の<鬼>といわれるコックリル警部。身長は低いが、鋭敏で聡明。
事件 「コックリル警部」(エッセイ)「最後の短編」(倒叙物)「遠い親戚」「ロッキング・チェア」(安楽椅子探偵物)「屋根の上の男」(密室物)「アレバイ」(SS)「ぶち猫」(戯曲。再婚した夫に対して、妻は医師にある協力を頼んだが……)という内容で、エッセイ1本、短編4本、ショートショート1本、戯曲1本からなる日本独自の作品集である。
背景 "The Spotted Cat and Other Mysteries from Inspecter Cockrill's Casebook"(2002)から、既刊の『招かれざる客たちのビュッフェ』に未収録の作品を集めたコックリル登場の短編集。残り物的な作品集だが、バラエティに富んでいるし、著者の特徴はよく出ている。

邦題 『ペンローズ失踪事件』
原作者 R・オースティン・フリーマン
原題 The Penrose Mystery(1936)
訳者 美藤健哉
出版社 長崎出版
出版年 2007/10/6
面白度 ★★
主人公 お馴染みのソーンダイク博士。法医学の権威で、法廷弁護士でもある。本書の大部分の語り手である友人ジャービス医師も捜査に協力する。
事件 骨董品の収集家ペンローズが失踪した。自動車で出かけたまま行方不明となったのだ。そして数ヵ月後ペンローズの父親が亡くなった。ペンローズがまだ生きているなら膨大な遺産を継ぐことになるが、すでに死亡しているなら、まったく別の人間が受け取ることになる。弁護士の依頼でソーンダイクが調査をすると、ペンローズの自動車が老嬢を轢殺していたのがわかった。
背景 著者の後期の作品。冒頭の謎は面白いのだが、その後は緊迫感のない描写が長々と続いている。これこそ著者の特徴なのだから、しかたないか。

邦題 『トリプル・クロス』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Triple Cross(2004)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2007/6/1
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターの二人。モスクワ民警組織犯罪局の局長ディミトリー・ダニーロフとFBI本部ロシア課の課長ウィリアム・カウリーである。
事件 X字形の木材に縛られた死体がモスクワ市内の川に浮かんだ。ダニーロフはマフィアの犯行と考えるが、そのマフィアは米伊のマフィアとともに巨大なマフィア連合を目論んでいた。ダニーロフはFBIなどと協力し、マフィアの会談が行われるベルリンに飛ぶが……。
背景 ダニーロフ&カルリー・シリーズの4作め。第1作は二人の個人プレイが冴えた警官小説だったが、今回は組織捜査がメインの国際警察小説になっている。語り口は手慣れたもので、スタイルが変わってもそこそこ楽しめるが、ミステリーとしての骨格はかなり細く、ガッカリ。

邦題 『殺人にうってつけの日』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Time to Kill(2006)
訳者 二宮磬
出版社 新潮社
出版年 2007/11/1
面白度 ★★★
主人公 アメリカ亡命後に名前をダニエル・スレイターに変えた元KGB部員とその妻アン、およびアンの元夫でCIA部員だったジャック・メイソン。
事件 メイソンは15年ぶりに刑務所を出られることになったが、常に考えていたことは妻とその夫への復讐であった。メイソンはハッキングによって夫の新しい名前と住所も調べていた。一方CIAからメイソンが出所したことを知らされたスレイターは妻に相談するが……。
背景 著者の非シリーズ物の一冊。これまでも非シリーズ物の方が面白かったが、今回も物語の設定がユニーク。元CIA部員と元KGB部員の闘いの後日談のような話だが、やがて身勝手な男の単純な復讐物語になっているのが残念。筆力は依然として衰えていないが。

邦題 『ノヴェンバー・ジョーの事件簿』
原作者 ヘスキス・プリチャード
原題 November Joe:The Detective of the Woods(1913)
訳者 安岡恵子
出版社 論創社
出版年 2007/11/25
面白度 ★★
主人公 「カナダの森のシャーロック・ホームズ」と言われるノヴェンバー・ジョン。第一作登場時は24歳。鹿皮のシャツとシーンズを愛用。ワトソン役は大金持ちのジェームズ・クォリッチ。
事件 全体は16章からなる連作短編集だが、実際は8本の短編と6章から構成された中編1本からなる。短編の題名は「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」「七人のきこり」「黒狐の毛皮」「ダック・クラブ殺人事件」「ミス・ヴァージニア・プランクス事件」「十万ドル強盗事件」「略奪に遭った島」「フレッチャー・バックマンの謎」
背景 ホームズのライバルの一人で、「クイーンの定員」にも選ばれている。活躍舞台や探偵自身は興味深いものの、探偵物語としては平凡。

邦題 『角のあるライオン』(『ミステリー・リーグ傑作選』下に収録)
原作者 ブライアン・フリン
原題 The Spiked Lion(1933)
訳者 熊井ひろ美
出版社 論創社
出版年 2007/6/20
面白度 ★★★
主人公 私立探偵アントニー・ロザリントン・バサースト。
事件 暗号の専門家が、公園の芝生の上でシアン化カリウムを鼻孔に吹き付けられて死んでいた。そのうえ頭蓋骨や肋骨、脚も骨折していた。やがて同じような状況の土地で、似た方法による第二の死体が見つかった。さらに第一の被害者の甥が密室状態の部屋で毒殺されていた。三つの事件を結ぶものは? スコットランド・ヤード警視総監の要請でバサーストが事件の謎を解く。
背景 一部ではイギリスのファイロ・ヴァンスと呼ばれるが、森氏の『世界ミステリ作家事典(本格派編)』にも掲載されていない幻の作家の本邦初紹介作品。密室殺人とミッシング・リンク、相続人の真贋という三つの謎を盛り込んでいて、それなりに楽しめる。

邦題 『屍体修理人』
原作者 ニック・ブルックス
原題 The Good Death(2006)
訳者 古賀 弥生
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2007/9/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺し屋の厄日』
原作者 クリストファー・ブルックマイア
原題 Quite Ugly One Morning(1996)
訳者 玉木亨
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2007/4/20
面白度 ★★★
主人公 中年ジャーナリストのジャック・パーラベイン。一時LAで仕事をしていたが、さる事件がきっかけでエディンバラに戻ってきた。被害者の元妻セーラも脇役として活躍する。
事件 異臭の元をただそうとして階下の部屋に入ったジャックは驚いた。その室内はゲロと血液でグチャグチャで、死体が転がっていたのだ。あやうく犯人にされそうになったジャックだが、持ち前の正義心から調査を始める。被害者は医者で、殺し屋に殺されたらしい。裏に何があるのか?
背景 『楽園占拠』で本邦デビューした著者の第一作。冒頭は下品な展開であるが、主人公は意外に正義感はあるし、スパイダーマンばりの身体能力も持っていて、面白い犯罪小説に仕上がっている。社会派的な動機も好ましいが、犯人側の低脳ぶりが作品の質を下げている。

邦題 『口は災い』
原作者 リース・ボウエン
原題 A Murphy's Law(2001)
訳者 羽田詩津子
出版社 講談社
出版年 2007/6/15
面白度 ★★★
主人公 モリー・マーフィー。アイルランド生まれでアイルランド育ちの23歳。燃えるような赤毛の活発な未婚女性。
事件 モリーはアイルランドの実家で、正当防衛となる殺人を犯してしまった。だが公正な裁判などは期待できない20世紀初めのこと。飛び出した彼女は、匿ってくれた女性の子供をニューヨークに連れて行くことで彼女に代わって英国を脱出したが、米国入国直後に殺人が起こり……。
背景 1901年のニューヨーク市が舞台のスリラー。本邦初紹介のシリーズ第一作(アガサ賞の最優秀長編賞を受賞)。ご都合主義的プロットが多いのが残念だが、モリーは勇気もバイタリティも旺盛な女性に設定されているので、主人公の魅力で読まされてしまう。

邦題 『五つの星が列なる時』
原作者 マイケル・ホワイト
原題 Equinox(2006)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2007/5/25
面白度 ★★★
主人公 元犯罪担当記者で現在は作家のローラ・ニーヴン。アメリカ女性で、オックスフォード大学生の一人娘がいる。ローラの元恋人で写真家のフィリップ・ブリッジも活躍する。
事件 オックスフォードで若い女性の惨殺死体が見つかった。遺体は切り裂かれ、遺体の上には一枚のコインがのっていた。やがて同じような、若い女性の惨殺死体の上にコインが置かれている事件が発生した。取材でその地を訪れたローラはフィリップとともに事件に巻き込まれていく。
背景 著者はノンフィクション作家で、本書は初のフィクション。ダン・ブラウンの『天使と悪魔』や『ダヴィンチコード』のような歴史を巻き込んだ冒険伝奇小説。英国作家らしく、ブラウンほどハッタリや迫力はないものの、逆に読みやすいとも言える。犯人の設定は安易。

邦題 『パンプルムース氏とホテルの秘密』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse Stand Firm(1992)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2007/5/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのグルメ・ガイドブック<ル・ギード>の覆面調査員アリスティード・パンプルムースと愛犬ポムフリット。元パリ警視庁刑事と元警察犬のコンビである。
事件 今回編集長から与えられた任務は、編集長宅の元料理人エルシーが<ル・ギード>の調査員を志望しているが、パンプルムース氏が研修を担当し、最終的に彼女を落第させよというもの。美人のエルシーが再登場すると編集長夫人からのお仕置きが厳しいためだが、エルシーは研究先に名もないホテルを選んだのだ。そこでオーナー・シェフが行方不明になり……。
背景 シリーズ8冊めだが、これまでの中では面白い方に入る。何故名もないホテルを選んだかという謎が興味深いし、パ氏が絶体絶命となる設定が笑わせる。

邦題 『道化の死』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Off With His Head(1956)
訳者 清野泉
出版社 国書刊行会
出版年 2007/11/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのシリーズ探偵であるスコットランド・ヤード犯罪捜査部のロデリック・アレン警視。協力者は同じヤードのフォックス警部や地元ヨウフォード警察のケアリー警視など。
事件 冬至の次の水曜日にマーディアン・キャッスルで催される民族舞踊<5人息子衆のモリス・ダンス>の最中に、道化役の男が首を切り落とされた死体となって見つかった。事件は衆人監視の中で行なわれた不可能犯罪だ。アレンは舞踊を再現して謎を解こうとする。
背景 シリーズ19冊め(翻訳は9冊め)の作品、著者が最も脂の乗り切った60代始めに書かれており、CWA長編賞の次席をとっている。民族色豊かな背景が興味をそそる。不可能犯罪の状況が把握しにくいのが難点だが、一同を集めて事件を再現するシーンはさすがに迫力がある。

邦題 『解放の日』
原作者 アンディ・マクナブ
原題 Liberation Day(2002)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 2007/5/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのシリーズ・キャラクターである元英国秘密情報部工作員ニック・ストーン。彼の恋人キャリーの父が米国国防情報局幹部のジョージという関係である。
事件 2001年11月、ニックら三人はアルジェリアに海上から秘かに潜入し、アルカイダ系のマネーロンダリングに係わっている男を殺害した。一度きりの依頼であるはずなのに、続きがあった。それは南仏でアルカイダの送金システムを潰すことだったのだ。
背景 シリーズ5冊め。これまでの邦訳題名はすべてカタカナ題名だったが、今回は漢字入り。内容に変化があるのかと思ったが、リアリティのある細部の描写で読ませるという基本姿勢はこれまでと同じ。安心して楽しめるものの、単純すぎるプロットはミステリーとしては少し減点。

邦題 『失われた探険家』
原作者 パトリック・マグラア
原題 日本独自の編集(1988 1991-93)
訳者 宮脇孝雄
出版社 河出書房新社
出版年 2007/5/30
面白度 ★★★
主人公 著者の最初の作品集『血のささやき、水のつぶやき』に収録されている短編13編と単行本に未収録の6編を加えた日本独自の短編集。
事件 『血のささやき、水のつぶやき』についてはここを参照してほしい。追加された短編は「監視」(刑務所に就職したいという変わった男の話)「吸血鬼クリーヴ あるいはゴシック風味の田園曲」「悪臭」(ホラー風味の作品)「もう一人の精神科医」「オマリーとシュウォーツ」(ギリシャ神話を下敷きにしている)「ミセス・ヴォーン」(『愛という名の病』の一部)。
背景 現時点でのすべての短編を収録しているそうだ。ミステリー・ファンには、やはり「アーノルド・クロンベックの話」が抜群に面白い。

邦題 『地獄の使徒』上下
原作者 グレン・ミード
原題 The Devil's Disciple(2006)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 2007/7/25
面白度 ★★★
主人公 FBI特別捜査官のキャサリン(ケイト)・モラン。娘が一人いる画家と婚約したものの、その二人を事件で亡くし、残された屋敷に一人で住んでいる三十代の女性。
事件 29人の人間を残虐に殺した連続殺人犯ガマルをケイトはついに逮捕し、死刑の判決が下った。ケイトはその執行に立ち会ったが、しばらく経ってからガマルの手口とそっくりの殺人事件(男女二人を殺害し、内臓を抉り出して焼く)がアメリカ、パリ、イスタンブールで起きたのだ!
背景 冒険・国際陰謀小説を得意としていた著者の6冊め。前作で作風を大きく変えたが、本作は、一言でいえばミステリー作家の書いたロマンス小説。さすがに複雑なプロットを作り上げ、迫力ある語り口で一気に読ませる術は健在だが、ロマンス小説としては、いたって平凡。

邦題 『ウォンドルズ・パーヴァの謎』
原作者 グラディス・ミッチェル
原題 The Mystery of a Butcher's Shop(1929)
訳者 清野泉
出版社 河出書房新社
出版年 2007/4/30
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは精神分析学者のベアトリス・レストレンジ・ブラッドリー。小柄でしわくちゃ、鳥に似た容貌で、35歳から90歳のいずれにも見える女性。
事件 舞台は、英国ののどかな田舎の村ウォンドルズ・パーヴァ。ところがこの村の地主が行方不明になり、隣町の肉屋では首なし死体がフックに吊り下げられ、海岸の崖では頭蓋骨が見つかるという事件が起きたのだ。行方不明の地主の死体なのか? 犯人の動機は?
背景 著者の第二作。第一作にもブラッドリー夫人は登場するが、それは脇役なので(訳者あとがき)、本書がブラッドリー夫人登場の実質的な第一作である。エキセントリックな性格の探偵役は珍しいし、独特の語り口もユニークだが、複雑なプロットのためか読後の爽快感が薄い。

邦題 『アマガンセット 弔いの海』
原作者 マーク・ミルズ
原題 Amagansett(2004)
訳者 北澤和彦
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2007/6/20
面白度 ★★★
主人公 事件担当者はイースト・ハンプトン・タウン署副署長のトム・ホリス。離婚歴のある30代の独身。物語の主人公は漁師コンラッド・ラバルドか。第二次大戦に参加し、精神を病む。
事件 舞台はアメリカ東海岸ロングアイランドの先端に位置する風光明媚なアマガンセット。時は1947年。コンラッドの魚網に一人の若い女性の溺死体がかかった。ホリスは自殺か他殺かわからないまま捜査を始めるが、すぐにその女性が名門家の末娘とわかったのだ。
背景 2004年のCWA賞最優秀処女長編賞を受賞している。ミステリーとはいえ、自殺か他殺かの捜査はあまり行なわれず、事件捜査の面白さで読ませる小説ではなく、主人公らの人間的魅力や女性関係の興味、そして舞台と時代描写の巧みさで読ませる普通小説に近いミステリー。

邦題 『パーフェクト・アリバイ』
原作者 A・A・ミルン
原題 The Perfect Alibi(1929)
訳者 青柳伸子
出版社 論創社
出版年 2007/11/20
面白度 ★★
主人公 戯曲1本と短編2本からなる日本独自の作品集。
事件 収録作は戯曲「パーフェクト・アリバイ」(邸宅へロン・プレイスの主人アーサー・ラッドグローブが自殺のような状況で死んでいた。手紙が届いて心境が変化したための自殺と思われたが、実際は宿泊客二人が殺したのだ。探偵小説好きの女性スーザンがアリバイ破りに挑戦するという倒叙物)、短編「十一時の殺人」(アリバイ物)、短編「ほぼ完璧」(遺産相続を巡る話)の3本。
背景 戯曲は本リストに含めないとしていたが、短編2本が入っていることもあり、その原則を破ってしまった(例外のない規則はない?)。メインはその三幕物の戯曲だが、アリバイ作りは平板。ただし血の臭いをまったく感じさせない爽快な語り口は楽しめる。

邦題 『究極兵器コールド・フュージョン』
原作者 クリス・ライアン
原題 Ultimate Weapon(2006)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2007/10/25
面白度 ★★★
主人公 元SAS隊員のニック・スコット。妻を亡くし、一人娘セアラは物理学研究者になっている。セアラの恋人で現役SAS隊員のジェド・ブラッドリーも、主人公と同じように活躍する。
事件 セアラが急に姿を消した。ニックはセアラが所属していた大学の研究室に忍び込み、彼女が常温核融合を研究していることを知った。一方ジェドは大量破壊兵器の存在を探るため、戦争勃発直前のイラクに送られた。実はセアラは拉致されてバグダッドにいたのだが……。
背景 SAS隊員を主人公にした作品ばかり描いている著者の11冊め。主人公の名前は毎回変われど、その特徴はほぼ同じで、時代・舞台のみが変わっている。今回はイラク戦争が主題で、現実にはあり得ない設定だが、ファンタスティックなアクション小説として楽しめる。

邦題 『殺人作家同盟』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Circle(2005)
訳者 山本 やよい
出版社 早川書房
出版年 2007/2/15
面白度 ★★★★
主人公 捜査を担当するのは、前作『漂う殺人鬼』でも活躍したボグナー・リージス署の主任警部ヘン・マリン。メンドリ(ヘン)みたいに威勢がよくて、細い葉巻が大好きな女性。
事件 舞台はチチェスター。そこにはアマチュア作家の集まり<チチェスター作家サークル>があるが、そのサークルで講演した出版社社長が放火により殺された。動機から考えて、容疑者はサークル会員と思われた。サークル仲間がそれぞれ調査を始めるが、第二、第三の放火殺人が!
背景 ダイアモンド警視シリーズではないが(ダイアモンドはほんの一シーンだけ登場)、雰囲気はまったく同じ。作中にクリスティの名前がよく出てくるが、トリックもクリスティ流の優れたもので、わかっていてもつい騙されてしまう。確実に楽しめる一冊。

邦題 『リスクファクター』
原作者 ステラ・リミントン
原題 At Risk(2004)
訳者 田辺千幸
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2007/6/1
面白度 ★★★
主人公 英国内務省MI5の情報員管理者リズ・カーライル。内務省に勤務して10年になる。恋人はいるが独身。ケンティッシュ・タウンのアパートに住む。
事件 英国南東部ノーフォーク沿岸部の村で、軍用級の破壊力を持つ銃弾による殺人事件が起きた。内通者の情報もあり、リズは事件の背後に、中央アジアから密入国したテロリストの存在を嗅ぎ付ける。だが、共犯者は誰で、何を破壊しようとしているのか?
背景 著者は初の女性MI5長官となった人物で、本書は初のフィクション。主人公リズには著者の多くが投影されていることは間違いない。リアリティが本書の最大のウリだが、テロリストの視点からも書かれているのが面白い。ミステリーとしては伏線の張り方が少しヨワイか。

邦題 『ハーレー街の死』
原作者 ジョン・ロード
原題 Death in Harley Street(1946)
訳者 加藤由紀
出版社 論創社
出版年 2007/3/25
面白度 ★★★
主人公 数学者で素人探偵のプリーストリー博士。秘書ハロルド・メリフィールドが捜査に協力し、スコットランド・ヤードの警視ジミー・ワグホーンが準主役として活躍する。
事件 ハーレー街にある診療所で医師モーズリーの変死体が見つかった。死因はストリキニーネを大量に注射したための毒死。検死審問では、他殺でも自殺でもなく事故死の評決が下った。だが、事件の概要を聞いたプリーストリーは「第4の可能性」を示唆するのだった。
背景 ロードの最高傑作と評価する人の多い作品。確かに平易な語り口に加えて、意表外な展開が仕込まれていて、ロードの既訳作品の中では面白い部類に入る。ただし読者と著者のフェアな知恵比べをする謎解き小説を期待すると失望するだろう。

邦題 『死のチェックメイト』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 Checkmate to Murder(1944)
訳者 中島なすか
出版社 長崎出版
出版年 2007/1/10
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵であるスコットランドヤードの警部マクドナルド。二人の警部補ジェンキンズとリーヴスも、脇役として活躍する。
事件 第二次世界大戦中のある霧深い夜。貧乏画家のアトリエには5人の人間が集まっていた。チェスをしている堅い職業の二人、画家とモデルになっている俳優、そして台所仕事をしていた画家の姉である。そこへ特別警察官が隣家の家主を射殺したという若者を連れてきたのである。
背景 著者の3冊目の翻訳。同時代に活躍していたクリスティと比べると圧倒的に紹介量が少ないが、三冊を読んだ限りでは、地味な本格派作家といえようか。人物造形が巧みで、本作では画家の姉が特に印象に残る。ただしトリックは、一日で解決できてしまうほど簡単なものだ。

邦題 『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』
原作者 若島正編
原題 日本独自の編集(2007)
訳者 若島正他
出版社 早川書房
出版年 2007/3/31
面白度 ★★★
主人公 新版「異色短篇作家集」19巻。イギリス作家の短編で構成されている。
事件 「時間の縫い目」(J・ウィンダム)「水よりも濃し」(G・カーシュ)「煙をあげる脚」(J・メトカーフ)「ペトロネラ・パン――幻想物語」(J・K・クロス)「白猫」(H・ウォルポール)「顔」(L・P・ハートリー)「何と冷たい小さな君の手よ」(R・エイクマン)「虎」(A・E・コッパード)「壁」(W・サンソム)「棄ててきた女」(M・スパーク)「テーブル」(W・トレヴァー)「詩神」(A・バージェス)「パラダイス・モーテル」(R・カウバー)の13本。
背景 SF的、怪奇的なヘンな話が多い。表題作がやはり一番面白かった。二位は「テーブル」か。ダール流の奇妙な味的な話がほとんどないのが寂しいところだ。

邦題 『灼熱の罠、紅海遥かなり』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Treason's Harbour(1983)
訳者 高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2007/5/
面白度
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