■ローマ字のよくあるまちがい

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■ちまたでよくみかける、「まちがった」日本語のローマ字表記の紹介。

1. <JYA>、<JYU>、<JYO>

なんといっても、いちばんおおいのはこれではないでしょうか。

とくに、<JYO>です。プロ野球のユニフォームのせなかにかいてある選手のなまえで、

というのがその例です。

これは、ヘボン式系でかいているときの、ヘボン式系と訓令式系の混同です。ヘボン式系なら<JO>、訓令式系なら<ZYO>がただしいつづりです。

訓令式系(日本式、国際規格もふくむ)では、ちいさい<><><>をともなう、いわゆる拗音のカナ文字列は、表1 のようにすべて<-Y->でかきあらわします。

表1 訓令式
キャ kya キュ kyu キョ kyo
シャ sya シュ syu ショ syo
チャ tya チュ tyu チョ tyo
ニャ nya ニュ nyu ニョ nyo
ヒャ hya ヒュ hyu ヒョ hyo
ミャ mya ミュ myu ミョ myo
リャ rya リュ ryu リョ ryo
ギャ gya ギュ gyu ギョ gyo
ジャ zya ジュ zyu ジョ zyo
ヂャ zya ヂュ zyu ヂョ zyo
(日本式では dya dyu dyo)
ビャ bya ビュ byu ビョ byo
ピャ pya ピュ pyu ピョ pyo

しかし、ヘボン式系(英米規格、パスポート式もふくむ)では、表2 のように不規則になっています。とくに、ほとんどの部分は3文字でかくのに対して、ジャ行・ヂャ行は2文字でかきます。だから、ほかの行とおなじように3文字にしたくて、<Y>をいれたくなるわけです。

表2 ヘボン式
キャ kya キュ kyu キョ kyo
シャ sha シュ shu ショ sho
チャ cha チュ chu チョ cho
ニャ nya ニュ nyu ニョ nyo
ヒャ hya ヒュ hyu ヒョ hyo
ミャ mya ミュ myu ミョ myo
リャ rya リュ ryu リョ ryo
ギャ gya ギュ gyu ギョ gyo
ジャ ja  ジュ ju  ジョ jo
ヂャ ja  ヂュ ju  ヂョ jo
ビャ bya ビュ byu ビョ byo
ピャ pya ピュ pyu ピョ pyo

2. <CYA><CYU><CYO>

これも、1 の<JYA><JYU><JYO>と同様に、ヘボン式系でかいているときの、ヘボン式系と訓令式系の混同です。

ヘボン式系では、1 でとりあげたジャ行・ヂャ行をのぞくと、ほとんどの行は<-Y->になっていますが、シャ行とチャ行だけが<-H->になっています。

このため、ほかの行のつづりにつられて<CYA><CYU><CYO>のように<-Y->でかいてしまうわけです。

同様に、シャ行を<SYA><SYU><SYO>とかくことも、ヘボン式系においてはまちがいです。これもけっこうよくあります。

ちなみに、チャ行は、訓令式系では表1のように<TYA><TYU><TYO>です。<C>ではなくて<T>をつかいます。

ただし、言語学者の服部四郎が提案している「新日本式」では、<ちゃ><ちゅ><ちょ>を<CYA><CYU><CYO>とかきます。

3. <CCH->

これは、ヘボン式での、<チャ><チュ><チョ>のまえの<>(促音)の表記のまちがいです。ただしくは、<TCH->でかくべきところを、<CCH->とするまちがいです。

例: カルパッチョ karupaccho

訓令式系では、<>の表記はすべてあとにつづく子音字をもう1個ならべてかきあらわします。<チャ><チュ><チョ>の場合は、<TTY->になります。

例: カルパッチョ karupattyo

しかし、ヘボン式系では、<CH>のまえだけは例外で<T>になります。

例: カルパッチョ karupatcho

ただし、現行の内閣告示(昭和29年12月9日)では、ヘボン式や日本式でつかわれていたつづりが、「第2表」として、以下のようにかかげられています。

第2表
 sha   shi   shu   sho
             tsu
 cha   chi   chu   cho
             fu
 ja    ji    ju    jo
 di  du  dya  dyu  dyo
 kwa
 gwa
                   wo

そして、「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。」とされています。しかし、促音のかきかたについては、「つまる音は、最初の子音字を重ねて表わす。」としかないため、第2表の<CHA><CHI><CHU><CHO>のつづりをつかう場合、このまえに促音がくる場合は、<-CCH>とかくことになります。

したがって、<-CCH>というつづりも、いちがいに「まちがい」とはいえないことになります。

しかし、<CH->のつづりをつかってかくひとは、内閣告示にしたがいその第2表をつかってかいているつもりというよりは、ヘボン式にしたがってかいているつもりである場合がおおいとおもいます。その場合は、「まちがい」ということになります。

個人的には、内閣告示の「第2表」というのは、「訓令式以外にも、ヘボン式や日本式のつづりもみとめる」という趣旨で追加されたのではないかとおもいます。そのときに、ヘボン式での撥音や促音や長音のかきかたに関する記述をいれわすれたのではないかという気がします。


変更記録

第1.1版 (2000年1月17日発行)
第1.2版 (2000年3月21日発行)
第1.3版 (2000年5月8日発行)
第1.4版 (2001年2月12日発行)
第1.5版 (2002年1月23日発行)
第1.5.3版 (2024年4月13日発行)

版:
第1.5.3版
発行日:
2002年1月23日
最終更新日:
2024年4月13日
著者:
海津知緒
発行者:
海津知緒 (大阪府)

KAIZU≡‥≡HARUO