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解説

 特定の財産について「誰々に相続させる」という処分がなされている
場合、どのような法律関係を生ずるであろうか。

 @この点は、遺言者の真意を探求して、その趣旨を決定せざるをえない。
このことと関連して、特定の財産を「誰々に相続させる」という遺言処分と、特定の財産を「誰々に与える」「誰々に贈与する」という遺言処分とは、同じ趣旨のものと解されるかが問題になる。

遺言書に表示された文字は、常に必ずしも一義的に意味を確定できるとは限らないし、逆に、文字面はちがっていても、同じ趣旨に解すべき場合もあるからである。
現に、「誰々に相続させる」という遺言処分を「遺贈」と解している例もみられ(東京地判昭62・11・24判夕六七二号二〇一貫)、原則として、これらを区別して取り扱うベでものではあるまい。



 A このように、遺言書の表示にこだわらず、遺言者の真意を探求して判断すべきであるが、相続分との関係では三つの場合が考えられる
@対象に指定した財産だけを「相続」ないし「与える」趣旨の処分
  (相続分もそれに限定される。いわゆる限定的)。
Aその財産を他の相続人より余分に「相続」ないし「与える」趣旨の処分
  (相続分にそれだけ追加される。いわゆる先取的)。
Bその財産を含めて法定相続分だけの「相続」ないし「与える」趣旨の処分
  (相続人が取得するのは相続分と一致する。いわゆる中立的)。

「誰々に相続させる」旨の遺言が、これらのいずれにあたり、遺贈、遺産分割方法の指定、相続分の指定のいずれにあたるかは、遺言者の通常の意思解釈に基づいて判断せざるをえない。 

第一に、特定財産の価額が法定相続分額に達しないときは、原則として中立的なものとみられ、遺言者の意思は遺産分割に際しその特定財産を取得しろという分割方法の指定をしたものと解される。

第二に、特定財産の価額が法定相続分額に達しないしかも限定的なものと解される事情がある場合には、遺言者の意思は遺産分割方法の指定の趣旨であるとともに、相続分をその価格に限定するという、相続分指定の趣旨をも併せ持つものと解される。

第三に、特定財産の価額が法定相続分額を超えるときは、原則として、その価額に値いする相続分を指定するとともに、遺産分割ではその特定財産を取得しろという趣旨、相続分指定と遺産分割方法の指定の性質をあわせもつ、と解される。

特定の財産を特定の相続人に指定し、それ以外の一切の財産を特定の相続人に譲渡するという処分も、これに属すると解されている。それ以外の一切の財産という表示でも、抽象的に特定が可能と考えられるからである(札幌高決昭61・3・17家月38巻8号六七頁)。
また、特定財産に対する割合で示されている場合、たとえばABそれぞれ「甲不動産の二分の一を相続させる」あるいは「甲不動産の二分の一を与える」というような遺言条項のときも、原則として限定的なもので、相続分指定を伴う遺産分割方法の指定と解すべきである。



 B 相続人に対する特定財産の遺言処分は、このように、遺言書の表示にかかわらず、原則として、遺産分割方法の指定と解される。
もっとも、形式的審査にもとづいてなされる不動産登記でほ、遺言書の表示のみに依拠せざるをえないであろう。この意味で、公証実務において、相続させる旨の表示をすることは、十分に意味があることといえる。しかし、このような便宜的取扱をそのまま是認すべきかは疑問で(京地判昭62・11・24判夕六七二号二〇一貫は、遺贈とみる)、遺言者の通常の意思解釈として、遺産分働方法の指定とみるのが、妥当である。