日本一多国籍の街、新宿。刈っても刈っても生えてくる犯罪の芽。密造拳銃、管理売春、麻薬、家電や自動車窃盗団……。
それを空しいと思わず、黙々と刈りつづけてゆく新宿鮫こと鮫島こそ孤高の騎士といえよう。
警察という権力組織にいながら、上層部を敵に回す運命を背負った鮫島は、私立探偵以上に孤独なハードボイルド・ヒーローなのである。
タイトル |
左:ハードカバー 中:カッパ・ノベルス 右:光文社文庫 |
内容 |
T新宿鮫 |
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連続警察官射殺事件に色めきたつ新宿。改造銃作りの名人・木津の“作品”が使われていると鮫島はにらむ。
容易に姿を見せない木津をついに捕捉したとき、鮫島自身に大きな危機が迫っていた。
さらに、すでに売られた改造銃が次に狙う標的は……?
記念すべき第1作だが,発想は単純だった。主人公がかっこよく、一読すかっとする小説。
それを荒唐無稽に思わせないのが、全国26万人の警察官のトップ500人のキャリアの一人なのに、
自己の信念のため、新宿防犯課(のちに生活安全課)の1課員として任務に励む鮫島の設定だ。
恋人の晶をはじめ、仙田以外のレギュラー陣が早くも顔を揃える。
勇者だけが美女を得るという古典的サーガが、現代新宿を部隊に新たな息吹を吹き込まれた。 |
U毒猿 |
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毒猿が来日したのは、彼を裏切った依頼人に報復するためだ。彼を追う郭刑事と鮫島は友情を結ぶ。
一方、残留孤児2世のホステス奈美は、毒猿の正体に気づきながら心ひかれはじめる。
だが恋も友情も、新宿御苑での一大抗争に散ってゆく。
当初1作きりのつもりだった『新宿鮫』だが、執筆中にこの第2作の構想が浮かんだ、まさに書きたくて書いた作品。
鮫島が出会った生涯最強の相手、殺し屋“毒猿”。その旧友の刑事が、台湾から彼を追って来ている。
鮫島を含め、国籍を超えた男たちの友情と対決、報われない愛に生きる女の純情が、国際犯罪都市と化してきた新宿の一面をあぶり出す。
アクション度はシリーズ随一だが、ラストシーンのロマンティシズムが絶妙の隠し味になっている。 |
V屍蘭 |
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コールガールの元締め殺しの捜査に助っ人する鮫島は産婦人科クリニックに行き着く。
鮫島の動きを封じるように故買屋からの収賄、さらに故買屋殺しの冤罪が降りかかる。
だが、真の恐怖はその奥の、芳香が腐臭に変わりそうな花園に隠されていた。
夕食の惣菜に少しでも安いものを選ぶような気軽さで、殺人を実行する49歳の看護婦ふみ枝。
シリーズ3番目の敵役は最も非力、それだけに不気味な心の闇をのぞかせる。
ふみ枝の献身を受ける超高級エステの女経営者の業も深く、みずからの分身が眠りつづける病室を蘭で埋め尽くす。
その蘭の海に鮫島は踏み込む。
猛獣もどきの強敵にはひるまない鮫島が、つるのように絡みつく植物的犯罪者の罠をいかに切り抜けるか。 |
W無間人形 |
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麻薬を追う鮫島の前に立ちふさがるのは売人側ではなく麻薬取締官。
今度は藤野組員の角から探りを入れるが、角は卸元の香川財閥の兄弟を手玉に取るほどの切れ者だ。
だが香川の弟自身、覚せい剤中毒の無間地獄に陥り、凄惨なフィナーレの幕が開く。
新顔の悪役の創造だけでは、やがて縮小再生産になってしまう。新しい敵役は人間よりも、若者たちを蝕む新型覚せい剤アイスキャンディ。
その利権を争う、丸ごと乗っ取りを企む新宿のやくざ、製造元である地方財閥の兄弟、その地元の不良ども。
そこへ地方巡業に出かけた晶が鮫島の恋人と知られて人質に。自身のために晶が危機に落ちた鮫島の苦闘!
本書で直木賞受賞、読者をさらに増やしたように、新宿署の一署員が東京外へも活躍の場を広げてゆく。 |
X炎蛹 |
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窃盗団、放火犯、連続殺人犯……犯罪見本市の新宿でも初耳の凶悪犯フラメウス・プーパ。
植物検疫官・甲屋公典は、日本の農業に壊滅的打撃を与えるこの害虫を捜して、鮫島と臨時コンビを組んで新宿の雑踏へ。
イラン人家電窃盗団を率いる日系ブラジル人ロベルト・村上こと仙田勝が初登場。一方、新宿に放火事件が頻発する。
しかし最も恐るべきは、被害者の南米女性が持ち込んだ縁起物のワラ細工。それにびっしりついた赤い繭が羽化すれば日本のイネを壊滅させるのだ。
正統的捜査小説の形式ながら、「新宿鮫シリーズ」にパニック小説的魅力をつけ加えた。
魅力的な脇役は味方側にもいて、虫屋を自称する甲屋も1作限りとは惜しい存在。仙田の正体も気になる。 |
Y氷舞 |
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晶を忘れて鮫島が心ひかれたのは、ひとり芝居のアーティスト杉田江見里。
かつてないほど公安部が捜査に圧力をかけてきている現在、そんな余裕はあるのか、鮫島?
内憂外患での綱渡り,薄氷を歩む鮫島の闘争と恋の行方は?
西新宿のホテルで殺されたアメリカ人がコカインを持っていたため鮫島も捜査に。
しかし、介入してきた公安警察はふだん以上に鮫島を排除しようとする。
被害者が元CIAだと教えてくれたのは『炎蛹』事件以後、姿をくらましていた仙田だった。
第1作で鮫島と激しく対立した香田も警視正となって再登場。最後に鮫島に味方する者は誰か?
江見里との仲を感づいた晶は鮫島のアパートの合鍵を返して行く。刑事とロックシンガーの恋も終わりか? |
Z灰夜 |
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気絶から目覚めた鮫島は、頑丈な檻の中に閉じ込められていた。
思い起こせば、宮本の旧友古山も、その妹のバーのマダムも、いわくありげだった。
つかのま触れ合っただけの古山への友情から,見知らぬ街で鮫島は正体不明の敵に挑む。
鮫島が警察を追い払われないのは、公安部の派閥争いに巻き込まれて自殺した同期キャリア宮本の遺書を持っているからだ。
その宮本の故郷を七回忌で訪れた鮫島は、何者かに襲われ、警察手帳も奪われて徒手空拳の闘いを強いられる。
桃井課長や藪の援軍もなく、腐敗し、敵も味方も分からない街を歩む本書の鮫島は、まるで私立探偵。シリーズの異色作。
第1作以来の宮本の遺書の謎が解けるかと期待するとNG。頭脳戦に傾いてきたシリーズ久々の痛快編。 |
[風化水脈 |
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窃盗団を追う鮫島は、盗難車を塗り替える洗い場とにらんだ有蓋駐車場を張り込む。
その番人の大江老人は鮫島の知らない新宿史を語って聞かせる。
だが、大江は何かを隠しており、本当は敵の回し者ではないのか。意外なところで仙田も顔を出す。
発表順では第7作だが、『灰夜』で中断された自動車窃盗団事件は本書で解決する。
第1作で鮫島と心を通じ合った藤野組の真壁も出所し、一つの決着を見る。
だが最大の特徴は、事件よりも新宿の街そのものと歴史がテーマになっていることだ。
派手なアクションこそないが、街の歴史に埋もれた住民の哀歓、宿命の摂理が胸に迫るおとな向け大作。
常に現代の最先端を描いてきたシリーズが、あえて過去を顧みて醸し出す重厚さ。人々の運命も泣かせる。 |
\狼花 |
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鮫島が探り当てたのは、精巧なシステムを持つ盗品マーケット。その背後に仙田、そして稜知会の影が見える。
だが香田の圧力で捜査を阻まれた鮫島は絶体絶命の窮地に。一方、仙田も進退きわまってくる。
鮫島の敵は上級警察官,味方は犯罪者…?
謎に包まれた鮫島の宿敵・仙田が新宿に帰ってきた! 虐げられたじゃぱゆきさんから出世の階段を昇るニューヒロイン明蘭。
仙田が選んだ明蘭は、しかし、巨大暴力団「稜知会」の幹部毛利にひかれてゆく。
その稜知会を利用し、外国人犯罪を一掃しようとするのは、鮫島の内なる敵・香田警視正。
敵と味方、男と女、複雑な愛憎が激突する壮絶なラスト!
ついにあばかれる仙田の正体。追いつめられた仙田の銃口は鮫島の胸に。男たち各自の価値観がぶつかり炸裂する。 |
]絆回廊 |
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警察官を、殺す。どす黒い怨念を成就するための拳銃を手に入れようと、新宿の街を徘徊する大男の情報を得た鮫島。
大男はすでに初老だが不気味な存在感を放ち、長く闇社会に生きてきた者すら恐怖を覚えたという。
大男の蛮行を阻止すべく消息を追うと、ある犯罪集団の存在が浮かび上がる。
中国残留孤児二世らで組織される「金石」は、日本人と中国人、二つの顔を使い分け、その正体を明かすことなく社会に紛れ込んでいた。
謎に覆われた「金石」に迫る鮫島に危機が! 二十年以上の服役から帰還した大男が、新宿に「因縁」を呼び寄せ、血と硝煙の波紋を引き起こす!
シリーズ初期を彷彿させるストレートさ、生々しさ、破壊力に加え、新宿でしか生きることの出来ない人びとの人生が滋味深く描かれる。 |
XI暗約領域 |
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信頼する上司・桃井が死に、恋人・晶と別れ、心の支えとなる人物二人との別れをほぼ同時に経験した鮫島は、
捜査に没頭することで虚ろな気持ちを誤魔化していた。その最中、新宿のヤミ民泊で男の射殺死体を発見。被害者の身元、実行犯とも不明。
新上司・阿坂は、単独捜査をやめ、新人刑事・矢崎と組むことを命じる。
一方、鮫島と因縁のある国際的犯罪者・陸永昌は友人の死を知り来日する。
その友人とは、ヤミ民泊で殺された男だった。彼は闇のコネクションを駆使し、真相究明に奔走する。
地を這うような鮫島の捜査と怜悧な永昌の動きが次第に交錯していく中、公安も密動を開始、怪しい人物が次々と鮫島の前に現れる。
――新宿に、何かが隠されている? 謎の獲物を巡る争奪戦≠ェ始まる! |
XU黒石 |
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リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク「金石」の幹部、高川が警視庁公安に保護を求めてきた。
正体不明の幹部“徐福”が、謎の殺人者“黒石”を使い、「金石」の支配を進めていると怯えていた。
「金石」と闘ってきた鮫島は、公安の矢崎の依頼で高川と会う。
その数日後に千葉県で“徐福”に反発した幹部と思しき男の、頭を潰された遺体が発見された。
過去十年間の“黒石”と類似した手口の未解決殺人事件を検討した鮫島らは、知られざる大量殺人の可能性に戦慄したー。
どこまでも不気味な異形の殺人者“黒石”と、反抗する者への殺人指令を出し続ける“徐福”の秘匿されてきた犯罪。
シリーズ最高の緊迫感で迫る第十二作! |
注1)「灰夜」は8作目ですが、事件発生の順から「Z」にしたそうです。