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灰夜 新宿鮫Z (ネタばれ有り!)

 2005年5月7日,光文社「カッパ・ノベルス」版を読みました。 「小説宝石」平成12年7月号から平成13年2月号まで連載されたものに, 著者が加筆した作品だそうです。おそらく「連載」というのは困難な作業なのでしょう。
 私は,このシリーズが好きだし,大沢在昌氏にも敬意を抱いているのですが, いくつかの矛盾点を見付けてしまいました。

【142ページ】 「ヘルスキッチン」で今泉との別れ際,―― 『あとであなたに連絡をとりたいと思ったときにどうすればいいか,教えてください』 今泉は頷いた。そして鮫島に携帯電話の番号を教え,裏口に案内した。――はずなのに,
【180ページ】諸富と面会するための場所として借りる承諾を得るために,鮫島は―― 「104」で「ヘルスキッチン」の番号を調べ,今泉を呼びだしてくれるよう,受付に頼んだ――のです。
別に間違ってはいませんが,携帯の番号を教わったのに店に電話するなんて,よそよそしいじゃない。
【193ページ】午前5時「ハイタイ」のマリーに,――『もし2時間以内に俺から 連絡がなかったら,福岡の麻薬取締部に電話をしてほしい(後略)』――が,しかーし!
【206ページ】この情報は,県警の須貝警部との大事な取引材料にしたのではなかったか?  鮫島がマリーに電話したのは早くても午前10時以降,ゆうに2時間以上が経過している。 マリーが鮫島の指示に従っていれば,既に「麻取」に情報が漏れていることになり, それは須貝との約束に反する。連絡のシーンが省略されたのか?
【52ページ】 「月長石」をでた鮫島は徒歩でホテルへの登り坂をあがった。 駐車場に黄色のポルシェ・カレラがあった。
【161ページ】教えられた場所に止められていたのは,マニュアルシフトの赤いGTOだった。 この街の美人は,皆スポーツタイプの車が好きらしい。
【290ページ】鮫島は諸富にいった『下に俺の車がある。黄色いGTOだ。古山さんと俺はそれに乗る』  『好きにせい』諸富はいった――これは単純なミスでしょう。ポルシェとGTOの色を取り違えてしまったのですね。

 これらはすべて2001年2月25日発行のカッパ・ノベルス初版1刷で確認しました。
 光文社文庫では,最後のGTOの色は「赤」に直っていました。

 あと,別に矛盾ではないのですが,若干気になった点をいくつか……。 (ネタばれ有り!)

 今回の舞台,あえて伏せられているが,「福岡との距離が200キロ」, 「南の海に突き出ているカニのハサミのような2つの半島」,「国道328号線」 などのキーワードや,地元の人間の「訛り」から,鹿児島と推察される。
 「福岡」は実名で登場しているのに,なぜ「鹿児島」を伏せる必要があったのだろう?  「この街を嫌いにならないでくれ」ということなのだろうか。
 今作の重要アイテムとして「携帯電話」が挙げられる。もちろん珍しくも何ともないが,電池はもつのだろうか?  人家のない山間部からも使っている。圏外じゃないのか? あれだけ多用すれば,充電の必要ありと見たが。
 上原が「悪」過ぎる。もちろん警察に悪は居るだろう。暴力団との癒着,組織的な隠蔽体質, ……だが,上原は群を抜いている。私利私欲のためにあそこまで悪に徹することのできる人間がノーマークだなんて, ちょっと設定に無理があった気がする。
 暴発を怖れて簡単に銃を奪われてしまった鮫島,ちょっと安易過ぎる。
 また,9人もの被疑者が全員死亡だなんて,後味が悪過ぎる。 「ことを公にしたがらない県警」を描きたかったのだろうけれど, 死ぬ必要のない人間まで死なせてしまった気がする。 「理不尽な死」は……好きではない。

 ということで,辛口な評価をしてしまいましたが,孤軍奮闘する主人公の活躍を3日間に凝縮した (それ故に超人振りが際立つが)傑作であることには変わりがないと思います。 舞台を東京ではなくしたり,レギュラーの登場人物がひとりも現れなかったり,かなり「冒険」したようです。 個人的には前作?「風化水脈」の方が後味が良かったですけど。
 しかし,それにしても,最近恋人の「晶」の出番が無い〜。絡ませるのが難しいのかな?  「小説宝石」の2005年1月号から「狼花(おおかみばな)新宿鮫\」の連載が始まったそうなので, 出版されるのを楽しみに待ちたい。

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