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<行為系の叙法性組織 ─「したいこと」と「すべきこと」─ の研究に向けて>

日本語研究史における 希望 メモ

最終更新 2011年06月21日



  富士谷 成章『あゆひ抄』
    願(ねがひ)の属(たぐひ):「何ばや」「何もが」「何てしか」
       「まほし」「まくほし」は <く隊(つら)
       「何ましかば」は、<将倫(むとも)>に詳し
       「願ふ 伏や」(疑の属の や) 「願ひの ね」[上つ世の脚結(あゆひ)]
    誂(あつらへ)の属:「何よ」「何や」「何ね」「何なむ」


  山田 孝雄1908『日本文法論』
  山田 孝雄1936『日本文法学概論』
   喚体のうち「希望喚体」:(も)が(な) (てし)が(な)
   述体の複語尾「たし」は、に言及なく、
               概論では、「統覚の運用」ではあるが「陳述の状態」には入れない。
         「ばや」は、「熟語の助詞」 「終助詞の性を具するに至れる」
         「なむ」は、終止としての係助詞、「他に対して希望の意をあらはす」命令体の希望
         「まほし」は、論・概論になく、平安朝文法史に、「熟語」として説く。


  春日 政治1918『尋常小学国語読本の語法研究』
   平叙体の形式でありながら、その実 命令体の意味のものがある、として
     ひる かぞへる が よい。
     みなさん 一しょに 舟 を 出す の です よ。
     イテ ハ イケマセン。
   などをあげる。

  春日 政治1924『新体中等国文法教授資料』
   「九四 命令体」に、「希望の助動詞を持つものをここに入れた。
     御尽力ありたし。 尽力せられたし。 御尽力相成りたし。
   などの「たし」は他に希望するものだから、勿論命令体と見られるが、
     はやく父母の許にて孝養つくしたし。
   の「たし」は自ら希望することだから、平叙体へ入れてもよいが、
   これは自ら自己に要求するものと見て、亦命令体とする。」とある。


  松尾 捨治郎1936『国語法論攷』
    表現機能による分類として、説明文 疑問文 命令文の3種
     感嘆文は、それらと十字的分類のものとする
     願望文は、「願い」は説明文、「誂え」は命令文とする

  松平 円次郎?『新式日本文法教科書』
    平叙文 疑問文 命令文 感嘆文に 願望文を加える
     あがる雲雀となりてしが。
     君に見せばや。
     いま一度のみゆき待たなむ。   
      「蓋し此の五分説はネスフィールドに基いた者であらう」
   #この項、松尾捨治郎1936『国語法論攷』による
   #福井久蔵『増訂 日本文法史』によれば、
     1901年に、新式日本中文典および小文典初歩、
     1902年に、新定日本文法教科書(五冊)が出た、とある。




  朝山 信彌1937「希求の助詞「こそ」の攷」(国語国文7-6)[1992『朝山信彌国語学論集』所収]
   ・係助詞同語説に対する四個の疑念
     1)希求である理由 なし
     2)動詞に後続すること 不審
     3)連用形を承けること 疑わしい
     4)「こす」「こせ」の関係 存否
   ・「こす」「こせ」の用語例:「こそ」との関連づけ
     「こすなゆめ」
     「こせぬかも」「こせね」
     「こそ」=形式用言「こす」の命令形
   ・「な―そ」について < 集中的・系統的な遺存語の一系列を中心として求心的に祖語(法)の性質を復元する方法
     「な」:形容詞「なし」の語幹に直接関係する語の副詞的な用法
     「そ」:形式動詞「為」を後続した複合動詞の古い命令形(未然形)
   ・「こす」の「こ」=「来(こ)」:形式用言「来」の発生


  浜田 敦1948「上代における希求表現について」(国語国文17-1)
        (も)………ぬか(も)  もが(も もな もや)
        なむ(なも にも ねも) ね(に な)
  浜田 敦1948「上代における願望表現について」(国語と国文学25-2)
        ほし ほり、 まし、 しか てしか ばや、 な、 

    話者の<希望>を次の二種に分ける。
      <希求>命令形以外の方法による、他者の動作状態に対する話者の希望
          婉曲法によって、命令の意を和らげ、丁重にする
          希望の内容が多く実現不可能なことに属す

      <願望>話者自身の動作状態の成就せんことを願う場合。


  千田 幸夫1959-61「もが・てしか考1〜3」(鹿児島大学文科報告8−10)
    「もが」は、対象的希求
   *浜田批判


  川端 善明1963「喚体と述体」(女子大文学15)
  ・感動喚体
   A 「美しき花かも」          主=述的な実現の拒否
     体言止めも同構造          コトとしてのモノ

    現代語の一語文「犬だ!」「火事!」が逆述語を必要としないのは、
    その喚体性の故ではなく、一面としての外面的な述語性の故である。

   B 「花(の)美しきかも」       「花美しき」=句的体言
     連体止めも             モノに並ぶ資格のコト
     「〜の(が)〜さ」のタイプは、AとBとをつなぐ位置にある。

   C 「花(の)美しも」         モノの資格に並ばぬコト

    現象文とか描写文とかの名で呼ばれているものの、文末にも文中にも係助詞をも
    たぬ平叙文を、やはり喚体の文としてこの類に一括することも妥当であろう。

  ・係助詞の分身と呼応
     [A]終止系:も・な・や(よ) / し・は
     [B]連体系:か・かも・ぞ・を / なむ
       「か」   =喚体として、不定的対象化 ⇒ 詠嘆
       「〜は〜か」=述体として、         疑問
       「〜は〜ぞ」=確定的な対象化 と それに伴う詠嘆

  ・助動詞の成立に根拠を与える
       「〜むか」
       「むぞ・ましを」意志・希望の意味の時 文の意味自体としての喚体へ
       「も」→動詞語尾から 助動詞「む」
       「し」→形容詞語尾
       「な」→未然形=語幹形=体言資格について 希望
       「や・よ」:命令形語尾  呼格


  川端 善明1965「喚体と述体の交渉」(国語学63)
  ・希望喚体
   A 「花もが」(千田幸夫の対象的希求)  願望−希求の対立以前
   B 「(〜は/も)花にもが」       喚体述体の間一髪的な様相
     ←「黒馬の来夜は年にもあらぬか」
      「久方の雨も降らぬか」
   C1 願望の「(て)しか」
      希求の「なむ」           事態的希望に近い
    2 願望系「な」
      希求系「ね(も)」「に(も)」   行為的希望

     → 係=終助詞「も」 →(未然形に)助動詞「む」
       係助詞「や・よ」 →(体言に)呼格  (動詞に)命令形語尾

  山口 佳紀1985『古代日本語文法の成立の研究』
    ナ行系希望辞
    てしか・もが成立考



【パラダイム化】
  亀井 孝1955『概説文語文法』:「希求文」を特立
    文─┬─主題の展開されない文──────────────感動文
      └─主題の展開される文─┬─主題の表現されない文──命令文
                  └─主題の表現される文───叙述文─┬─希求文
                                    ├─疑問文
                                    └─平叙文─┬─断定文
                                          └─推定文

  宮地 裕1960, 1963『話しことばの文型(1)(2)』「表現意図」
    判叙の希望表現:したい
    消極的要求表現:してもらいたい  してほしい

  奥田 靖雄1985「文のこと 文のさまざま(1)」(『教育国語』80)
  奥田 靖雄1986「まちのぞみ文(上) 文のさまざま(2)」(『教育国語』85)
    ものがたり文(平叙文)と、さそいかけ文(命令文)との中間的な位置に、
    まちのぞみ文(希求文)を 独立したものとして位置づける。

    文─┬─のべたてる文─┬─ものがたり文
      │        ├─まちのぞみ文
      │        └─さそいかけ文
      └─たずねる文

     #ソ 連・アカデミー版1980『ロシア語文法』【論理主義】を しりぞけ
      チェコ・アカデミー版1979『ロシア語文法』【機能主義】に もとづく

    【cf. 工藤1986 「"まちのぞみ文"についての走り書き的覚え書き」(空中分会)】



【付】
  宮地 幸一1971「移りゆく希望表現」(金田一米寿記念)
   1 源氏における希望表現
   2 源流としての「まくほし」など
   3 否定希望の「まうし」
   4 「たし」の発生と展開、 軍記物における考察、 ロドリゲス 日本大文典抄

  川本 茂雄1971「「………したい」の構文」(金田一米寿記念)
   「おしっこが出たい」


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工藤 浩 / くどう ひろし / KUDOO Hirosi / Hiroshi Kudow


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