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「それでは、これより第1回エヴァ四号機起動実験を行います。」
マユミは、そんなリツコの号令を、どこか遠い自分とは縁のない言葉のように聞き流していた。
それよりもマユミの心を占めていたのは搭乗前のシンジとの会話だった。
いや、それは会話と言えないものである。
マユミの方はほとんど言いたいことを口は出来なかったのだから。
マユミがずっと考えていたこと。
何故シンジが自分に興味を持ったのか。
何の取り柄もない、自分自身が好きになれない自分に。
それが今度のことで理由が分かったような気がする。
全てNERVに関わることに理由があったのではないのか。
そうでなければ彼がこんな自分などに興味を持つはずがない、と。
しかし、それを声に出して尋ねる勇気をマユミは持ち得てはいなかった。
「山岸さん、色々大変だと思うけど、僕の代わりにがんばってね。」
別れ際のシンジのそんな台詞も、今のマユミには「キミは僕の代役として都合がいい存在だから、がんばってもらわないと困る。」と言われているようにさえ思えるのだった。
終末を導くもの
第18回 前編
その日のエヴァ四号機の起動実験は6時間に渡って続けられたが、結局は成功しなかった。
理由は単なるシンクロ率の不足。
エヴァ起動に必要な最低ラインを突破することが出来なかったのだ。
元々、シンジ以外のパイロットは起動までかなりの期間がかかっているわけで、簡単に起動に至らないのは予想の範疇ではあるのだが、それでもスタッフの間には落胆があった。
いつも余裕のない戦いをしてきている以上、戦力の増加を期待するのは当然であろう。
その日の実験の中止を宣言した後、リツコはいつの間にか横にいるシンジの顔を見つめていた。
とりあえずエヴァとシンクロできなくなったシンジを、はっきりした理由もなくチルドレンから外したことに対し、幹部の方針に疑問を抱きつつあるスタッフもかなりの数になってきている。
一方、シンジの作戦部長補佐の仕事ぶりについては、当初は所詮14才の子供だと見られて軽視されていたのだが、意外にも一般のスタッフに対してはミサトらに見せる不遜な姿はなりを潜めて非常に謙虚だったし、実務面からしても細かなところに気がつくと、なかなか好評なようである。
こうして着々とNERV内での地盤固めを行っているシンジ。
今ここで、もしシンジがチルドレンとして復帰し、かつてのような力を発揮したとすればどうなるだろうか。
これがシンジの計画の範疇ならば、エヴァが動かせなくなったということさえ、嘘だったのかもしれないという想像すら出来るのだ。
一方、本部で起動実験失敗という結果を聞いたアスカとミサト。
ミサトは四号機到着を確認したあとは待機のために本部に戻ったのだが、結果が気になって、アスカと共にずっと報告を待ちかまえていたのだ。
「はん、やっぱりね。
このあたしでさえ起動させるのに252日もかかったんだから、当然の事よね。」
内心マユミが起動失敗したことに密かに安堵しているアスカ。
シンジのように、突然自分を上回るパイロットが突如出現することを怖れていたのだ。
「そうはいっても、あなた達のおかげでエヴァに関するデータは確実に蓄積されているのよ。
それが生かせていないって事がねえ・・・」
あまりリツコらを責めたくはないのだが、それでも即戦力の登場を期待していたミサトとしては愚痴も出てきてしまう。
ミサトの言葉のそんな色を感じ取ったアスカは
「まあ、このアタシが居ればそれで十分よ。」
と、オーバーなアクションを交えてみせるなど、自信満々な様子を見せる。
ならばミサトはアスカのプライドを上手く使ってやろうと考えて、
「そうね。期待してるわ。
それと、エースパイロットとして、これから後輩に色々と教えてあげてちょうだい。」
持ち上げてみるのだが、
「そんなの、アタシじゃなくってアイツが居るでしょ。」
アスカの方は、シンジのことが引っかかっているのか話には乗って来ない。
それは逆に言えば、先程の自信が只のポーズでしかなく、実はずっとシンジの影に怯えているのだということを露呈してしまっているのだが。
ミサトはそんなアスカに「危うさ」を感じるのだが、素直に自分の言うことを聞く相手でもない。
早急に何か手を打たなければならないと考える・・・
だが、ミサトの考えがまとまらない内に本部内に警報が鳴りだした。
すぐさまミサトは発令所へ、アスカはケージに向かうのだった。
「こんなに近づかれるまでなんで気がつかなかったの!?」
発令所に滑り込むように姿を見せるミサト。
「分かりません。市街直上に突然出現しました。」
正面スクリーンには、ビル街の数十m上空に浮かぶ、シマウマを思わすような白黒ゼブラ模様の直径100m弱の球体が映し出された。
それは非常にゆっくりした速度でジオフロント直上を目指して接近してきているが、他には特に動きは見えない。
「これが12番目?」
地球の生物の進化の系列からは完全に外れているその姿は、使徒らしくはあるのだが、逆にどういった能力を持っているのかすら想像がつかない。
「いえ、パターンはオレンジ。MAGIも判断を保留しています。」
ミサトの問いにオペレーターが答える。
「まだ、情報が足りないか。
じゃあ、迎撃システムで仕掛けてみて。
エヴァ初号機、弐号機は発進準備が整っても、とりあえずはケージ内で待機。」
しばし思案した後、すぐさま指示を出すミサト。
第5使徒のような強力な飛び道具を警戒してのことである。
だが、アスカはそれに不満げだ。
「なんで待機なのよ。アタシが出れば、さっさと片づけてやるわよ。」
「まだ、あれが使徒だと決まったワケじゃあないわ。」
ミサトはそうたしなめると、
「もちろん、アレがなんであれ、人の家の庭先に不法侵入して来るような相手には、お仕置きが必要だけどね。」
そのまま、迎撃システムによる攻撃を開始させた。
既に民間のビルは地下に沈降を済ませており、歯が欠けたような状態のビル街。
残って建っている兵装ビルの外装が開き、静寂を破って機銃砲座とミサイルランチャーが一気に吼える。
が・・・
着弾が確認される寸前、標的の姿が消滅した。
弾はそのまま飛行し、郊外の山々に落ちていった。
「パターン青を確認。標的直下の地表です。」
観測担当のオペレーターから報告が入り、メインスクリーンの映像が切り替えられる。
だが、そこには何も写っていない。
・・・地表すら。
そう、そこにあったのは、闇だった。
「あれは、何?」
だが、普段ならそのミサトの呟きに答えてくれるはずのリツコは現在松代に居る。
すぐにデータは松代に送られてはいるが、発令所に居るときほどのレスポンスは期待できず、その他のオペレーター達に答えを期待することもできない。
スクリーンに表示されている光景は、地表に張り付いた真っ黒な影のようなものにずぶずぶと沈んでいく兵装ビルの姿だった。
しかし、本来ならその影を作り出しているはずのものが存在しない。
ただ、地表に漆黒の闇だけが姿を見せていた。
が、すぐに影は姿を消して、再び空中に縞の球体が出現する。
「じゃあ第2撃は、球体だけでなく、地表の影に向かっても発射して。」
ともかく、使徒の能力を量るための情報は入手しなければならない。
ぼやぼやとしていては前回の使徒のように能力を測れないうちに本部への進入を許してしまうかもしれないからだ。
「それと、エヴァ初号機、弐号機を、それぞれルート72と18から発進させて。」
ミサトが次の指示を行う間に、第3新東京市の防衛システムは標的を空中の球体だけでなく地表の影に変えて砲火を浴びせた。
「空中の標的、再び消失。」
これは先程と同じだが、使徒の本体は球体攻撃後に出現する地表の影であろうと予測し、地表への攻撃はA.T.フィールドではじき返されることを予想していたミサトだったが、
「地表に出現した影への着弾は確認できません。」
オペレーターの報告どおり、地表の黒い使徒に命中したように思われた弾丸は、爆発もせず姿を消してしまう。
「A.T.フィールドの発生を確認。位置は地表の影そのものからです。」
「やっぱり、こっちが本体って事か。」
だが、姿は見えど、実体の無いような使徒に戸惑い気味ではある。
影は今度は姿を消すこともなく、徐々にその大きさを広げ始めた。
すると、その影の範囲に入った数十mもの高さのビルが、まさに底なし沼に飲み込まれるかのように、ゆっくりとだが確実に影の中に沈み始めた。
こうなると、使徒の姿は影というよりも穴と呼んだ方がふさわしいかもしれない。
だが、穴ならば、それは一体どこに通じているのだろうか。
「じゃあ、次は地表と影の境目を狙ってみて。
それとエヴァはもう地表に出た?」
「はい。リフトオフを終えています。」
「じゃあ、両機とも槍を装備して、距離50までゆっくりと接近したら、そこで待機して。」
50mは、A.T.フィールドの中和可能エリアの外である。
さすがに、あまりに得体の知れない敵だけに、不用意に近づかせるのは躊躇われた。
エヴァの発進位置も、影の真下が見えないことを懸念して、かなり離れた地点を指示していたのだ。
一方、ミサトの指示を受けた兵装ビルからの攻撃の第3弾が行われる。
だが、影の部分については変わらず弾丸は消えていくのみ。外れて地表に当たったものだけが爆発するという結果に終わった。
使徒は、そんな攻撃をもう気にもしなくなったのか、ゆっくりと、だが確実にその面積を広げ、そしてその中に入り込んだビルなどを飲み込んでいく。
「使徒の直径は300mを越えました。」
さすがに責め手が見つけられない状態を感じて、オペレーターの声にも焦りが感じられる。
だが、そこに、
「松代と連絡、繋がりました。赤木博士が出ます。」
スクリーンの一部がリツコの顔を映す。
「苦戦しているようね。」
「敵の能力がまるででたらめなのよ。そっちで何か分かる?」
待っていたリツコとの連絡がようやく取れてやや表情に余裕が戻ったミサト。
リツコは、これまでのデータを手元の端末で確認しながら、情報を整理し始める。
「そうね。敵の本体が地表の影の方なのは間違いないわね。
こちらの攻撃を防ぐのにA.T.フィールドを用いていないのに、フィールド発生の反応があるということは、使徒の内部にフィールドが発生している可能性が高いわ。そのA.T.フィールドは使徒の体自身を維持するのに使用されているかもしれないわね。」
A.T.フィールドを内部に使うというのは、これまでの使徒には無かった性質である。
だが、A.T.フィールドが無くとも通常攻撃を無効化できているのだから、さらに質が悪いとも言える。
「そう。それで、有効な攻撃手段は何かあるの?」
それが一番の問題だった。
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どうも最近、対使徒戦のシーンの描写がやたら少なくなっています。
前回は実質無しだし。
ということで、今回はシンジ抜きながら戦闘シーンを多めに書いてみました。
・・・と思ったら、エヴァでの戦闘になる前に前編終わり、というふざけたことをやってしまいました。
すみませんです。m(_ _)m
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