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NERVドイツ支部は日本の総本部のようにジオフロントのような地下空間を有しないため、大深度地下施設は有していない。
その分面積は日本の4倍近くあり、さらにそれとは別に専用の空港も有している。そしてシンジを乗せた機は直接ドイツ支部に着陸した
NERVの敷地内は治外法権であり、支部の敷地内にいる限りはパスポートも必要ないため、シンジは税関も通過していないのである。

到着したシンジは、早速建造中の六号機建造スタッフと技術意見を交換し始めた。
今回はそれほど時間に余裕があるわけでもなく、個々の運用試験まで立ち会うことは出来ないが、それでも事前に送ってあるレポートに関する補足事項を中心に積極的な意見交換が為される。
その内容とは、内蔵兵装、専用武器の開発、運用上の問題点といったものについてであったが、さすがにプロダクションモデルのエヴァを最初に建造した支部だけあり、オプション装備などについてはNERV本部以上に技術的に進んでいる点もかなりあった。
しかし、これまでドイツ支部が本部よりも進んでいたのは、その武器を使うエヴァが本部よりも早い時期から運用可能な状態にあったからであり、既に弐号機が本部に移ってしまってしまっている現在の状態では、満足な運用テストができない状態に陥っていたワケである。
それを補うためにも、シンジの口からの実戦での運用情報を必要としていて、相手がまだ子供であるシンジであっても侮ることなく、かなり積極的に意見を求めてきたのである。

そして最後には、試作中の兵器の中で有効そうな物を、テストという名目で本部に送ることが承諾されるのだった。
これは出張の成果としては及第点といえるだろう。

もっとも、ドイツ支部内にはシンジに入る許可の下りなかった研究・実験ブロックも多数あり、独自の研究も行われていたのではあるが。






終末を導くもの



第17回








ドイツに続きイングランドでも同様の事を行っていたシンジの元に、第11使徒襲来の情報が届いたのは、帰国予定日の2日前のことだった。
NERV本部はそのことを否定していたが、人の口には戸は立てられぬもので、同じNERV内部では、何処からともなく情報が漏れてしまうものである。
事件の翌日にはシンジの耳にその情報が入っていた。

その内容は、NERV本部施設内に使徒の進入を許し一時はMAGI-SYSTEMさえそのコントロールを奪われたというもので、他のMAGIクローンを配置しているNERV支部がMAGIへの不安を感じているという意味合いを含んでいた。
その後、そのMAGI自身の力で使徒を撃退できたことが判明し、不安も解消されたのではあるが。



さて、NERV本部では総司令六分儀ゲンドウの指示により、第11使徒のNERV本部施設内進入の事実は完全に隠蔽され、当然、人類補完委員会にも報告されてはいなかった。
しかし、海外で、客扱いだったシンジにさえ情報が届くような状態で、ましてNERV本部にはゲンドウの動向を監視するための密偵が潜入している状態では、事実を隠蔽することなどできるはずもない。
当然、ゲンドウは委員会に呼び出され、かなり厳しく糾弾されることになる。



例によって真っ暗な仮想空間内にキール議長以下5人の委員とゲンドウの姿が浮かび上がる。
ただし、シンジは出張先に仮想空間接続用の専用設備が無かったため、今回は欠席している。
「六分儀君、セントラルドグマへの第11使徒の進入とはどういう事かね。」
「しかも、今もってその報告が為されていないようだが?」

しかし、ゲンドウはあくまで強気な姿勢を崩さず、
「そのような事実はありません。MAGIのレコーダをご確認いただいても結構です。」
と平然と答えたばかりか、
「そのようなデマに惑わされるとは、委員会の方々はNERV本部の戦力に不安を感じているのではありませんか?」
と、切り返してくる。

実際、委員会としても使徒にNERV本部最深部到達を許すような事態は望んでいない。
また、ゲンドウの代わりを努められるものがおいそれと居るわけでもないため、更迭などの厳しい処置を執ることができないのも事実。
結局、強気に出れない委員会は、ゲンドウの暗に使徒進入を許したのはNERV本部の戦力不足であるという論に屈する形で、新たに完成したエヴァの本部への追加配備の許可を出すのだった。

しかしゲンドウの駆け引きにはもう一つウラがある。
表だっては第11使徒の襲撃があったことは言わないが、実際にはそれはあり、撃退に成功したとほのめかして話を進行させたわけだが、実際には使徒は殲滅したわけではなく、無力化はしたもののMAGIと共生しているという事実は明かしていないことである。





アメリカ第2支部でほぼ完成状態であったエヴァ四号機を日本に輸送するのは、丁度出張中であったシンジの役目となった。
すぐにイングランドから大西洋を超えてアメリカ第2支部へ向かうシンジ。
弐号機のドイツからの搬送とは違い、今回は空路を用いることとなっている。



一方、受け入れ先のNERV本部では、エヴァ四号機が到着次第、すぐに起動実験がとり行われるスケジュールが組まれた。
まだ未完成といっても、不完全なのは装備部分であり、本体部分は既に完成していたからである。

ただし、今回は松代にある実験場を使用することになっている。
その表向きの理由は、丁度MAGI2号機の運用試験があったためスタッフの多くが松代に居たこととなっていたが、本当のところは別にある。
実は先日の第11使徒の進入が設備資材に始まったことから、本部施設内への資材等の持ち込みがかなり厳しくなっていたのだ。
そして、アメリカ第2支部から届いたエヴァ四号機といえども、NERV本部の外で製造されたものという点では同じということで、テストも無しに本部施設内に持ち込むことに懸念があったためある。
元々、技術部の実質トップである赤木リツコは、プライドが高いためかNERV本部以外の技術をあまり信用していないところがあることも影響していた。



さて、その起動実験だが、パイロットには別に専用機を持つレイ、アスカ以外の新たなチルドレンが選出されることとなった。
そして四号機の到着を三日後に控えたその日、以前より極秘ながら候補として挙げられていたのだが、急遽本人にその事実が知らされることとなった。





「で、この子が新しいチルドレンなの?」
新しいチルドレン選出の報を受け取ったばかりのミサトが、リツコの個室に来ていた。
「確か、シンジ君のクラスメイトよね。」
リツコの使っている端末の一つにその個人情報が表示されている。

「そう、この子がサードチルドレンよ。詳しい資料はあなたの端末にも送ってあるはずだけど。」
リツコがデスクワークに疎いミサトに棘のある言葉をかけるが、
「サード?どういうこと?フォースじゃないの?」
ミサトの興味はその前の言葉にあり、聞き流された。
「さあ?ただ、既にシンジ君のチルドレンとしての経歴は抹消されているから、それに沿った処置でしょうね。」
「抹消?なんでそんな必要が…」
「マルドゥック機関の判断よ。理由は私には知らされていないわ。」
リツコはそう答えるが、何らかの理由で言えないだけで、E計画責任者である彼女が知らないはずはないだろう。
しかし、リツコという人間と長いつきあいのミサトには、彼女からこれ以上の情報を引き出すのは難しいことも分かっていた。
「…まあいいわ。」
シンジが帰ってくれば何か分かるかもしれない。
それを頼みの綱にするミサトだった。



松代実験場。
MAGI2号機を有し、NERV本部のバックアップ用として設置されている場所である。
その多くは研究用の施設によって占められており、迎撃戦用の本部とは結構雰囲気を異にしている。



大型輸送機から降りたシンジをミサトが出迎える。

「ただいま、ミサトさん。」
「お帰りなさい。ちょっと、逞しくなったんじゃない?」
「まさか。一月も経ってないのに、そんなに変わらないと思いますけど。」
「何言ってるの。男子、三日顔を合わさざれば、って言うじゃない。」
ミサトはシンジの様子に何らかの自信のようなものを感じ取っていた。


「それにしても大層な土産ね。」
ミサトが到着したばかりのエヴァ四号機を見上げる。
四号機は濃い緑色で、フォルムは弐号機に似てやや重厚なデザインであることで、何処かしら軍用のイメージがある。
もちろんNERVの内部にはその所在する国も干渉できないので、その建造に軍が直接関与できるはずはないのだが、アメリカ支部は比較的軍出身のスタッフが多いことが影響したのかもしれない。
少なくとも、エヴァ初号機が第一次直上決戦で使徒を迎撃して以来、米国が態度を180度転換し、他国で建造が決まりかけていたエヴァ参、四号機の建造が米国で行われるよう、米国政府がかなり強引なやり口で働きかけたのである。
もちろん、結局はゲンドウの駆け引きにより、委員会の圧力で米国に手放すことを承諾させたわけではあるが。
それでもシンジがアメリカ第2支部を出発する際には、かなり露骨な嫌がらせを受けたのである。

「でも、着いて早速シンクロテストなんですね。」
「戦力は多いに越したことはないわ。まして、相手が使徒みたいなワケの分からないものじゃ、焦りもするわよ。」
ミサトはそこで一旦言葉を切り、続いて言いにくそうに言葉を続ける。
「それよりも、新しいチルドレンのことなんだけど…」
だが、
「ああ、それなら聞いてます。」
と、シンジの方はあっさりしたものである。



実験場の準備は既に整っているため、四号機はすぐさまケージに搬送される。
搬送される機体に付き添ってケージに入るシンジ。
そしてそこには、不安げな顔の新しいサードチルドレンが待っていた。


山岸マユミである。


マユミは白地にライトブルーを基調としたプラグスーツ姿であった。
もともとマユミの性格からすれば、同級生のシンジの前に体のラインの出る今の姿を見せることは相当に恥ずかしいはずなのだが、そんなことは忘れたようにシンジの顔を見つめている。
「碇君……」

そんなマユミの姿を見かけたシンジが快活に声をかける。
「やあ、久しぶり。」
不安そうなマユミとは対照的であった。





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皆さん、覚えておいででしょうか。

それはともかく、今回はとうとう使徒を原作のとおり倒してしまいました。
(本編準拠なので、そのあたりの描写はしていませんが。)
まあ、シンジが居ないため原作と異なる展開にする要素が無かったので、こういうことになってしまったわけです。

しかし、ようやくマユミもチルドレン登録され、物語も動かしやすくなって…くれるのでしょうか?
最近とみに本編の筋を追いかけるだけに終始して、細かなディティールを描く余裕がない状態なので。
本当は、もうちょっと日常のシーンをいれないといけないんでしょうね。




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