【タイトルページに戻る】  【第18回前編へ】




黒い影は第3新東京市のビル群を飲み込み続けたが、直径680mに達したところでその活動を停止した。
見た目には第3新東京市のど真ん中に真っ黒な穴が開いているような形である。
ただし、その穴は地面を掘り下げているわけでなく、実はそれは、どこか全く物理法則の異なる別の世界に通じているのだが。


とりあえず、新しい攻め手が見つからない限り、下手に手出しをしない方がよいということは第7使徒の時に経験しているので、使徒の方から動きださない限りは静観である。
そのため、初号機と弐号機は影の縁から200mほど離れた地点で待機している。

「もう、いつまで待たせるのよ、まったく。」
アスカが不満を漏らすが、アスカとて、その瞬間に気を抜いているわけではない。
ただ、人間の集中力の持続時間はさほど長くはない以上、どこかで息抜きが必要なことを知っているからこそ、軽口半分に声を挙げているのだ。







終末を導くもの



第18回 後編









エヴァが使徒を監視・牽制している間に、発令所横の作戦室では、今回の使徒の特性把握と対策が練られていた。

「あの黒い穴は、ディラックの海と呼ばれる虚数空間――どこか別の宇宙に繋がっていると推察されるわ。
で、空に浮かんで見えたあの縞模様の球体こそが使徒の影、使徒本体は地表の影の方ね。
厚さ3nmの薄い体とディラックの海へのゲートを内向きのA.T.フィールドを用いて支えているのでしょう。」
「なるほど、ね…」

ようやく松代から駆けつけたリツコのその指摘で、ミサトには使徒の弱点を発見していた。

ミサトの所見では、今回の使徒には多数の弱点がある。
まず第1に、機動力は皆無に等しく積極的な攻撃手段も無い。
次に、地面を喰っていけば地下の特務機関ネルフ本部へ侵攻することは造作ないはずなのに、現在は口を開いたまま活動を停止していることから見て、無限にものを飲み込めるわけでもなく、おそらくは何かをある一定量以上飲み込んだ後は、ある特定期間のインターバルを必要とするのだろうこと。
そしてなにより、A.T.フィールドがなければ自らの体を維持することすら出来ないと思われることだ。
つまり、A.T.フィールドを失えば、使徒は自らの体を支えきれなくなり、自身、ディラックの海へ飲み込まれることになるはずなのだ。
ならば、エヴァ2体のA.T.フィールドでもって使徒のA.T.フィールドを中和してやれば、勝手に自滅してくれるはずである。

「ってのが、私の推論だけど、どう?」
「特に問題ないわ。
 あの使徒のA.T.フィールドを中和させるのに必要なパワーについては既に試算済みだけど、エヴァ1機でも十分だという回答が出ているわ。」
リツコもその推測を妥当であると認めたので、あとは、いかにして使徒に飲み込まれるリスクを避けてエヴァを接近させるかが問題になるだけなのだが、それも準備は整いつつある。



今回用意された仕掛け。
それは丁度完成したばかりの垂直式使徒キャッチャーという名の巨大の釣り竿状の新装備を用いて、一方のエヴァがもう一方のエヴァを吊り下げて使徒に接近させるという単純極まりない作戦である。
ただし、使徒側の逆襲に備えるための備えは用意してある。
一つはキャッチャーをエヴァが直接支えること。
都市整備工事中だけに周囲には多数工事用クレーンがあるのに、あえてそれを使わずにエヴァに支えさせるのは、使徒が移動してきた場合に工事用クレーンでは逃げることが難しいためである。
次に、ドイツから送られてきた新装備により、緊急時には多少強引な方法ではあるが、使徒の穴から救出させる手段も用意してある。



さて、この作戦をエヴァパイロットに説明するのだが、予想していたとおりアスカはその作戦内容に不満の声を挙げた。
「イヤ〜〜!こんな格好悪い役、ファーストがやればいいのよ。」
確かに釣り竿で吊られているエヴァの姿というのは見栄えはかなり良くない。
「なら…」
「ダメよ、アスカ。この作戦では、どちらか一方のエヴァのみで、使徒のA.T.フィールドを中和させないといけないのよ。」
レイが代わりに声を挙げようとするのを遮ってミサトが決定事項が代わらないことを指示する。
「ならば当然、シンクロ率が高くより強力なA.T.フィールドを操れるアスカにしか、この役目は果たせないわ。」
もちろんその中に、アスカのプライドを刺激する文言を含ませておくことも忘れはしない。

アスカの方とて本気で命令拒否をしようとしたのではないから、
「まあ、そういうことなら仕方ないわね。」
のせられていることは分かっていても、エヴァに関することで持ち上げられればその気になってしまう。
ミサトもさすがに指揮官だけあって、パイロットの意識のコントロールには気を回しているわけである。

こうして、多少の(予想はされていた)トラブルはあったものの、作戦が実施された。



そして作戦自体は、使徒が積極的に弐号機を飲み込もうとして浮き上がって襲いかかって来たり、サイズを縮小して体を支えるのに必要なA.T.フィールドのパワーを押さえるなどの波乱はあったものの、アスカ、レイの臨機応変な対応によって、使徒の殲滅に成功するのだった。

「アスカ、レイ。よくやったわ。」
「当然よ。」
「作戦終了。これより帰投します。」

先ほどまで使徒が巣くっていた場所には、最後の瞬間にディラックの生みに飲み込まれて出来た大穴が空いていたが、それを直すのはエヴァの仕事ではない。





だが、使徒殲滅に安堵したばかりの発令所の各スクリーンが一転して警告情報を表示しだす。
一度気の抜けてしまったオペレーター達はとっさにそれに反応できない。

「騒ぐな。すぐに状況を整理しろ!」
発令所にゲンドウの叱咤の声が飛ぶ。
それでやや落ち着きを取り戻したオペレーターらが状況を整理すると、どうやら松代の実験場において、謎の爆発が発生したということが判明した。

オペレーター達は本部のMAGIと松代のMAGI2号機を繋ぐ回線全てを使って連絡を取ろうとするが、
「40から84番までの回線、全て応答ありません!」
「非常用D回線も繋がりません。」
と、どれも芳しい結果ではない。

「衛星からの映像、出します。」
オペレーターの操作により、メインスクリーンに静止衛星からの映像が映し出されるが、その映像では松代の施設は爆発の煙により覆い隠されていて詳しい状況が把握できない。
ただし、一面を覆う煙の量からして、少なくとも並大抵な状態でないことだけは分かる。
「こんなのって…」
思わずオペレーターの口から漏れた呟きが、その事実を再認識させた。

そこで最初に動き出したのはミサトだった。
「ヘリの用意をして!
 それから、エヴァ各機は一旦ケイジに格納して第一種戦闘待機。」
ミサトはそう指示するやいなや、発令所を飛び出していく。
そして、オペレーターが復唱しようとしたときには、既にミサトの姿は通路の向こうに消えていた。

人によってはそんなミサトの行動を軽率だと感じるかもしれない。
まず、衛星映像でも爆発の瞬間の録画を見るということは出来るし、他にも地震観測所などからの情報で、どういう類の爆発が発生したのかの推測もできるだろう。
そしてそういった総合的な情報は、本部にいた方が入手しやすいのは明かであるのだから。

しかし、ミサトにはそれ以上に気になることがあったのだ。
そう、エヴァ四号機のことである。

使徒殲滅のために、リツコをはじめとするスタッフの大半は本部に急遽呼び戻されており、松代実験場には、本部からのスタッフはシンジとエヴァの保守要員ら、ほんのわずかしか残っていない。
当然、四号機管理・警備態勢は、当初よりもずさんにならざるを得ないところである。

そこに、この爆発である。
爆発の原因は不明だが、NERVを快く思わないもの、あるいは利用しようと考えているものにとっては、少なくともこの混乱に乗じるのは、機密の固まりであるNERVの内情を知り、また技術をかすめ取る願ってもないチャンス――もちろん、爆発自体がそういった連中の仕業である可能性も十分高い――であるのだ。



ヘリポートに到着したミサトは、そこに、ゲンドウと特殊装備姿の保安部の精鋭メンバー達を発見した。
司令もミサトと同じ事を危惧していたようであるが、こちらはヘリではなく、それよりもさらに足の速いVTOL機を用いるようである。

そこでミサトは、保安部のVTOLに便乗できないかゲンドウと交渉するのだが、残念ながらこれは受け入れられなかった。
保安部もVTOLに乗り込める限りのスタッフを送り込もうとしていたし、元々がミサトは作戦部の人間であり、爆発の原因が使徒ということでもなければ現地に行く理由が立たないのだ。

結局、用意させて置いたヘリで現地に向かうこととなったミサトだが、出発直前に意外な人物に同乗を頼まれる。
「すまん、葛城。座席、空いてるんだろ?
 俺も乗せていってくれ。」
そう言いつつ、既に機体に体を割り込ませている男は加持リョウジ。
NERV特殊監査部に身を置く、なにかと謎の多い男であるが、ミサトとはどうやら旧知の仲らしい。
以前のリツコとの会話からすれば、それもそれなりの仲であったことが推察されるワケだが。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!
 イヤよ。何でアンタなんかを!」
ミサトは加持を機体の外に突き出そうとするのだが、加持は巧みにそれをかわしていく。
「おい、急いでるんじゃなかったのか?」
にやけた顔でミサトに声をかけつつ、
「よし。じゃあ、出してくれ。」
ヘリの操縦士に対してもそう告げる。

「何、勝手に指示してんのよ!」
そんなミサトの抗議の声に対して加持はこう応える。
「向こうで事が起こっていたとすれば、人手は多いに越したことは無いと思うがな。」
「何か知ってるの?」
「さあな。けど、どうせ尋常な事態じゃないんだろ?」

結局、ミサトはしぶしぶながらも、加持の同乗を許すことにした。
何か情報を引き出せないかと考えたからである。





【第19回へ】  【タイトルページに戻る】



対使徒戦については、こんなのでホントにいいのでしょうか?と、思わず問いかけてしまいたくなるほど、今回の使徒も弱かったですね。
別に初号機が飲み込まれたわけでもないので、それこそ自由に攻撃ができるわけで、使徒の性質を把握していれば、倒すのはそんなに難しくないというワケなのです。
まあ、それ以上に拘っているのは、原作のようにエヴァの暴走で倒すのだけは絶対したくなかったからなんですが。

それと後半の松代実験場の爆発ですが、これは原作のアメリカ第二支部とは全く違う状況です。
具体については次回以降と言うところですが。


……あっ、そうか。
何か足りないかと思ったら、シンジが名前だけしか出てきてないんだ。



感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで