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第10使徒の出現は、まさに突然としか言い様がなかった。
どうやって最大長1.7kmもの巨体を誇る使徒が監視網をかいくぐり、インド洋上空の衛星軌道上に突然出現したのかは全くの謎だ。
使徒はそのまま徐々に衛星軌道上を第3新東京市へと近づいて来ていた。
しかし、このまま使徒が第3新東京市上空に達すれば、A.T.フィールドと質量を生かした落下攻撃を仕掛けてくるのは明白であり、それをどうにかして撃退しなければならないのである。
使徒が第3新東京市の直上に達するまでの予想時間は約14時間。
それがNERVに与えられたすべての時間だった。
終末を導くもの
第16回
まずは使徒の能力を測るため、アメリカの対衛星用軍事衛星の使用許可を司令を通じて依頼する。
しかし衛星は使徒に接近中に、A.T.フィールドを直接ぶつけるという攻撃を受けて破壊されてしまう。
その後、航空機によって観測が続けられるが、有人機をそれほどの近距離まで近づけるわけにもいかない。
結局、満足に能力を測ることは出来なかったため、それまでで得られた情報から作戦を立てるしかなかった。
そうして限られた情報を元に成層圏から飛来する使徒を迎撃すべく立てられた作戦はというと、シンジ提案の衛星軌道上の使徒の直接射撃だった。
使徒の最終目的地が第3新東京市であること、重力を利用して攻撃をしてくるということははっきりしていたので、さほど大きな目標修正をせずともねらいを合わすことが可能であるからだ。
当初は、エヴァ2体で落下してくる使徒を直接受け止めて邀撃する事をを考えていたミサトだったが、シンジの提案した作戦の方がリスクが小さいと、こちらを採用することとした。
万一射撃に失敗しても、その時点でミサトの作戦に移行することの出来る二段構えだからだ。
そして、つくばの戦略自衛隊研究所から試作実験中だった高出力陽電子砲をかなり強引に徴発。
それを改装したものを第3新東京市のはずれに設置し、MAGIによってコントロールされるよう調整する。
陽電子砲でA.T.フィールドを中和せず力技で使徒を直接攻撃できるだけの、とんでもないエネルギーは日本中からかき集めなければならず、作戦中は日本全国でかなりの電力使用制限が行われることになるが、このための交渉には副指令が当たっていた。
それ併行して使徒の落下予測とその対応のシミュレーションが何度と無く行われていたが、
このシミュレーションにはNERV本部ではなく、松代のMAGI2号機が使用された。
そうして準備がなされている間に使徒は徐々に近づいてくる。
使徒もその間、予行演習として自らの肉体の一部を切り離して、それを先行して落下させて結果を学習し、本番に備えているようだった。
しかし使徒の予行演習は、NERV側にもシミュレーションのために役立つ情報にもなっていた。
そうしてぎりぎりまで作戦の精度を上げるべく情報が集められ分析されて、準備が整えられていく。
そして他のすべての準備が終わった時点でエヴァ2機は第3新東京市郊外に配置され、万一の場合に備えるのだった。
準備が整うと、最低限のスタッフを残して(といっても、今回の作戦に要するスタッフは結構なものだが)作戦開始の時を待つ。
第3新東京市には特別宣言D-17が発令され、市内及び周辺地域住民はすべて市外に緊急避難済みである。
これは使徒の邀撃に成功してもその巨体が消滅するわけではなく、作戦自体はそれをエヴァが受け止める前提ではあるが、場合によっては肉体が爆散する可能性がある。
そうなっては志の残骸をすべて受け止めることが不可能である以上、当然の処置であった。
そして本部発令所内も司令以下数名のスタッフしか残っていなかった。
「シンジ君、貴方は避難しなさい。」
作戦指揮はここからでなくとも出来るとミサトは説得するが、
「いえ。僕が立てた作戦です。最期まで見届けますよ。」
と、シンジは引かなかった。
「それに・・・どうせ使徒をすべて倒さなければ、何も始まらないんです。
すべてはそれから先にあるんだから。」
「それって・・・」
ミサトはその後の言葉を飲み込んだ。
NERVの設立理由である人類補完計画に関しては、ミサトも関知していないことが多い。
ミサト自身は人類補完計画そのものよりも、その一環の使徒の殲滅という目的の為にこのNERVに籍を置いていた。
そして、純粋にそれだけを考えて他のことに目もくれずに今までやって来たからこそ、若干29歳にして作戦部長の地位につけたという経緯がある。
それだけに、作戦部以外のことについては今まで興味も持たなかったし、実際知らないことが多かったのだ。
しかし、このシンジと関わっている限りそうもいかないらしい。
NERVの最終目的――人類の未来を切り開くという人類補完計画の実体が何なのか。
そしてそれにシンジがどう関わっており、関わろうとしているのか。
ミサトは、今までだましだまし続けていた同居生活も、そろそろはっきりさせなければいけない時期に来つつあると感じ始めていた。
「葛城一尉、後20分で、作戦開始予定時刻です。」
その連絡を受けて、ミサトはすぐさま頭を切り換える。
たとえ使徒を倒すことだけがNERVの全てでなくとも、迷いを抱えたままでは使徒を倒すこともおぼつかないのだからと。
結局作戦は、使徒の狙撃には成功したものの殲滅まで至らなかった。
そのため、使徒が力を弱めて落下してきたところを二機のエヴァで直接迎撃しとどめを刺すという結果となった。
なお、落下地点がやや郊外よりだったことも幸いし、都市部への被害は非常に少なかった。
そして・・・
「レイ、アスカ、ご苦労様。よくやってくれたわ。今日はさすがに無理だけど、近いうちにご褒美に何か美味しいもの食べさせてあげるわ。」
思ったより都市への被害が少なくて済んだことに気をよくしたミサトがチルドレンにそうねぎらいの言葉をかける。
なお、明日以降に日を決めたのは、今日は避難していた市民が戻ってくるのに大わらわで店など明いているはずもなかったし、ミサト自身今日は作戦の後始末で身動きがとれないからである。
「じゃあ、アタシ一度行ってみたいとおもってた店があるのよ。
ほら、あの店よ。レイも知ってるでしょ。」
「・・・ええ。」
と、チルドレン二人は、いつもどおり好調であったようである。
さて、第10使徒殲滅から2日後のことである。
作戦後の事後処理に追われているNERV本部に、人類補完委員会からひとつの命令が届いた。
「彼をヨーロッパへ、ですか?」
「そうだ。委員会からの直々の命令でな。しばらく補佐役が居なくなってしまうことになるが、よろしく頼む。」
そういって冬月がミサトに命令書を見せる。
それは元サードチルドレンであるシンジに対して、EU内のNERV支部2カ所へ出張せよというものであった。
命令書に書かれている用務は戦闘経験者の意見を聞いて、現在建造中のエヴァの装備等の細部の仕様を見直すためとのことだが、それならばシンジだけでなく、技術部の職員も同行させるべきところであるが、命令はシンジ1名のみという指示であった。
当然、裏には別の意味が隠されているということになる。
しかし、不自然な命令だとはいっても、反対するだけの理由は見つからない。
結局そのままシンジの出張は許可されることとなったのだ。
なお、その予定期間は2週間である。
「分かりました。彼には私の方から伝えます。
それでは失礼します。」
そうして副司令の執務室から退出するミサト。
「でも、3日後とは急な話ね・・・」
しかし、今までの使徒の出現間隔は最短で2週間である。
出発が早ければ帰ってくるのもその分早くなる。
上手くすれば次の使徒襲来までに帰ってこれるかもしれない。
いつの間にか、シンジの作戦立案能力を当てにしているミサトだった。
家で、極寒の冬のヨーロッパに向かうため防寒着などの準備を行っているシンジ。
そこにめずらしく早くミサトが帰ってきた。
シンジの出張前に物事をはっきりさせておきたいという気もあったのだろう。
「あっちは寒いから大変よね。セカンドインパクトのおかげでそこいら中の気候が変わっちゃったし。」
ミサトの言葉にあるとおり、ヨーロッパのほとんどはセカンドインパクト以降急速に寒冷化――それも平均気温で20度以上低下し、北欧では樹木も育たなくなっているほど――してしまっていた。
「でも、ヨーロッパが今のように寒冷化したのはセカンドインパクトが直接の原因ですけど、もしセカンドインパクトが起こらなくとも、後30年もすれば同じような気候になっていたんですよ。」
「そうなの?」
ミサトにすれば全く専門外のジャンルであり、シンジのいうことが本当なのかは分からない。
ただ、後で調べれば分かることであり、わざわざ嘘をつく意味はないだろうと信用することとする。
「ええ。なんでも、元々地球の環境は数十年周期で激変していたらしいんです。
それが何故かこの八千年ほどの間だけは、ほとんど気候が変化しなかったんですよ。
それこそ・・・神様が人類が文明をはぐくむのを手助けしていたかのように。」
シンジの言葉の中の神様という名から、自然と使徒を連想するミサト。
使徒と戦っている我々はもう神の恩恵を受けられないといっているように思える。
そんなミサトの考えを分かっていたかのようにシンジは話を続ける。
「でも、もうこの星には神様は居ない。
八千年の至福の時を終えて、これから地球の環境は激変するでしょう。
これからの世界を生き抜くためには、もはや人は今のままではいられないんです。そしてそのために・・・・・・」
(・・・それが貴方の目指す人類補完計画ということなのね。)
シンジの言葉を継いでミサトが心の中で呟く。
そして、翌日、シンジは予定どおり日本を発つのだった。
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相変わらず、原作と異なる使徒の撃退方法シリーズ継続しています。
シンジがバックアップ側に回った以上は、よりミサトとは異なる発想をさせたいところですから。
ただ、シンジが出撃しないためか、またも戦闘シーンがやたら淡泊になってしまってます。
そのせいもあって、前回に引き続き短めです。
それと最後の気候の変化は結構信憑性のある話です。
簡単にいうと、このまま地球の温暖化が進むと極地の氷が溶けて、極地付近の海水の濃度が下がることで、海流が今と全く変わってしまうらしいのです。
その結果、ヨーロッパを緯度の割に温暖にしていた西大西洋海流(名前は自信なし)も無くなってしまい、ヨーロッパが凍り付いてしまうということなのです。
また、赤道付近で暖められた海流があまり緯度の高い地域まで行かないので、亜熱帯の地域が広がりますから、第3新東京市はどうか知りませんが、九州あたりは常夏になるおそれがあります。
ともかく、それだけ環境が変われば、世界の穀物は全滅に近くなるでしょう。
また、海流が変われば海洋資源も深刻なダメージを受けるでしょう。
こうやって書いてると、本当に怖い話です。
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