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「だから言ってるじゃないの。」
「・・・そう、分かったわ。」
「はあ、ホントに分かってんのかしら。」
2-Aの教室でアスカとレイが話している。
相変わらず無愛想なレイだったが、アスカに対してのみはいくらか表情を見せるようになっていた。
そういう経過から、アスカの口からレイもエヴァパイロットであることは漏れていた。
クラスメイトからはシンジがそれを知りながら今まで黙っていたことを責める声が挙がったりしたのだが、本人が口にしていないことを自分が勝手に喋るわけにはいけないとシンジが受け流すと、誰も返す言葉がなかった。
そんな中で、どうやらシンジとレイ、アスカの仲が悪い(正確にはアスカらがシンジを嫌っている)らしいということはクラスの中でも認知されつつあった。
ともあれ、そんな二人の様子をケンスケが見ながら一言。
「綾波もさ、結構いい顔するようになったよな。」
レイが少しは表情を変えると言っても、それはアスカに対してのみ、それもほんのわずかに表情を変えるだけでしかないのだが、それに気づくとは伊達に女生徒の隠し撮り写真を売りさばいているワケではないようだ。
「そないなもんか?ワシにはようわからんけどな。」
一方の鈍いと言われる相棒にはよく分からなかったらしい。
「トウジには分からないかも知れないけどさ、シンジなら・・・・」
ケンスケはシンジなら自分の意見に同意してくれるのではないかと期待したのだが、自分のそばにはシンジの姿が無い。
辺りを見回してみると、その姿はもう一人の転校生、山岸マユミのそばにあった。
「あら・・・・・・やっぱ、あの二人、怪しいよな・・・?」
「そうやな。」
このことに関しては、二人の意見は一致したようだった。
終末を導くもの
第15回
昼休み、山岸マユミの姿は図書館にあった。
転校以来、ほとんど毎日のことだが、その間の読書量は相当なものになっている。
以前、シンジと最初に話をしたとき自ら言ったとおり活字中毒気味なのは間違いないようだが、その読書スピードも大したもので、すでにこの図書室の本の内、興味の沸きそうなものはほとんど制覇してしまったようだ。
ただし、いくら速いといってもマユミの読む本のジャンルが結構限られていてこそだ。
興味の沸かないものには歯牙もかけず、ただひたすら好みの、それも小説類のみを読みあさっていたのだから。
そしてそれは同時に、本の知識がほとんど彼女の成長の肥やしになっていないということをも表していた。
自分に心地よいものだけを集めているだけでは、人に成長はあり得ない。
肉体も精神も、何らかのストレスを受けてそれを克服しようとして初めて成長するのだ。
マユミ自身、それを考えないわけではなかったが、それも理屈の上で分かっているだけのこと。
実践できないからこそ、他人との接触を避けて本の世界に籠もっているのだ。
私には他の人に誇れるものなんて無い。
だから、他の人と一緒にいて比較されるのがイヤ。
現実の世界で他人との触れ合うことは、自分が傷つけられるだけ。
本の世界の中ならイヤな思いなどしなくても済む。
それが今まで他人との接触を避け続けてきたマユミの姿である。
だが、そんなマユミにひとつの転機が来た。
シンジとの出会いである。
あの図書室での出会い以来、少しずつだが確実にシンジという存在がマユミの心の内へと入り込んできていた。
学校に来ればシンジと会える。
マユミ自身ははっきりと自覚はしていなかったが、それを期待している彼女が確かにあったのだ。
マユミからすれば、本来シンジは羨望と同時に別世界の存在と感じる相手のはずだった。
世界を守るロボットのパイロットで、クラスでも人気者。
自分との接点など生まれることの無い相手だと思っていた。
それなのに何故かシンジとの相対していても不自然さを感じることはなく、また後で気を使われていたことなどに気づいても、自分の心を覗かれたような不快感を感じることがない。
理由はマユミ自身には分からない。
しかし確実にシンジには、わずかながらにも心を開きだしていた。
そうしていつものようにマユミが図書館にいると、そこに同じクラスの女生徒数人が現れた。
そして無言のまま引きずるようにして、有無を言わさずマユミを書架の奥の方へと連れていく。
一同が図書室の一番奥に到着すると、女生徒達はマユミを取り囲んだ。
そしてリーダー格の女生徒がマユミの首を押さえるようにして顎を掴む。
壁を背にしたマユミには逃れる道はなかったが、それ以前に何故こんな目に遭うのか分からず混乱したままがくがくと震えるだけで声も出せない状態であったから、そんなことに考えも及ばなかった。
「アンタ、なんでこんな目に遭ってるのか分かってるでしょうね。」
リーダー格がマユミを睨み付けながらそう言う。
だがマユミには理由など見当もつかなかったから、返す言葉が見あたらない。
ただ、下手に分からないと答えれば女生徒達を余計に刺激することだけは分かったので何もできないでいた。
だが、
「私らの相手なんてバカらしくって出来ないっての?」
何も答えないで居ても結局は相手を興奮させるだけであった。
「なんでアンタみたいなのが・・・」
「何か面白そうな事してるね。」
リーダー格の女生徒が何も答えないマユミに焦れて本題に入ろうとしたところ、そこにふらりとシンジが現れた。
いつの間に近づいたのか、相変わらずの神出鬼没である。
女生徒達は一体どこから見られていたのかとぎょっとしてシンジを見る。
「僕のことは構わないから続けたら?」
シンジはそう言うが、女生徒達としてはそうはいかない。
「もう終わったわ。」
と、マユミから手を離す。
そしてきつくマユミを睨み付けると、渋々ではあるが立ち去って行くのだった。
「やれやれ。」
女生徒達の姿が見えなくなると、シンジはオーバーに肩をすくめて見せながらため息を付いてみせる。
そしてその後は、残るマユミに対しては何も聞かない。
同時に優しい言葉もかけはしなかったわけだが。
しかし、その方がマユミとしても気が楽だった。
恩を着せられることも、同情されることも彼女の好むことではなかったし、助けられたこと自体はありがたいが、そんな弱い自分を思い知らされることが一番の苦痛であったから、何もなかったことにされるのがなによりなのだ。
つまりはそういうところがマユミにとって丁度よい距離だったのだろう。
「ミサトさんは知ってます?何でマルドゥック機関の、チルドレンの選考基準はおろか、その組織さえNERVにも知らせていないのか、その理由を。」
自分の個室で人類補完委員会向けの戦闘報告をまとめていたミサトに、それを手伝っていたシンジが話しかけた。
ミサトは今までの経験で、シンジのこういった発言には必ず意味があることを分かっていた。
ミサト自身も以前から疑問に思っていた問題であり、結論は一つしかないと思っていたのだ。
「それって・・・・・・NERVに知られないうちに、他にもチルドレンを手にしているところがあるってことね?」
「ご明察。」
チルドレンの価値とはすなわちエヴァを操れること。
そして、A.T.フィールドにより通常兵器による攻撃を無効化できるエヴァに対抗できるものを考えれば、最も有力なのは同じエヴァである。
チルドレンを確保すること、それはすなわち、NERVと敵対する可能性を想定しているとも言える。
しかし、これだけならばエヴァに軍事的脅威を感じている国家ならすべてが該当することであり、今更話題にするほどではない。
問題は、NERVと同じく国連人類補完委員会直属の非公開組織であるはずのマルドゥック機関が、NERVに敵対する組織に与しているということにある。
続けてシンジは
「NERV第2支部で建造中のエヴァ参号機と四号機、もうすぐロールアウトする予定ですけど、誰が乗ることになるんでしょうね。」
と、さらに問いかける。
確かに参、四号機はかなり強引な手を使ってアメリカが建造を始めた機体で、国外への持ち出しを渋っている。
しかし、チルドレンが居なければエヴァは扱えない以上、ここに送られてくるのは時間の問題とミサトは考えていたのだ。
だが、シンジの話からすれば既にパイロットを確保した所があるということになり、そこへ機体が持ち込まれるということになる。
すでにエヴァは七号機までの建造計画が動き出しており、計画だけならば拾弐号機までが予定されている。
そのあおりを受けて、現在、司令と副司令は新規建造予定のエヴァに、本部の予算を奪われないよう世界を駆け回っている最中であったりするのだが。
ともかく、近い将来、エヴァ同士の戦闘が起こりうるという可能性がかなりの確率であるということであり、それを研究しておく必要があるとシンジはミサトに警告しているのだろう。
となると、ミサトとしてはどうしてもシンジのニュースソースが気になってくるところである。
だが、二人の会話はそこで断ち切られることになった。
緊急放送が鳴り出したのだ。
「現在使徒接近中。各部は速やかに第1種警戒態勢へ移行。」
アナウンスを聞いたミサトとシンジはすぐさま発令所へ向かって駆け出す。
「まあったく、司令達が居ないって時に。」
話の途中で邪魔をされたことに対する愚痴が、そんな風に口に出るミサトだった。
なお、優れた跳躍能力と強酸性の溶解液を武器とする第9使徒だったが、ミサトの指揮する初号機、弐号機のコンビネーション攻撃によりその実力を存分に発揮することも無いまま、第3新東京市侵入前に迎撃された。
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あとがきのようなもの
前回から思いっきり間が空いて、丸3ヶ月ぶりの更新となりました。
そのくせ今までで一番短かったりします。
さて、まず一番弱いと言われる第9使徒ですが、今回はさすがに弱すぎですね。
ギャグものを除いて、これほど簡単に描かれたことはないと思います。(姿形も描写していないぐらい)
もともと原作では停電が起こる回なわけですが、それが無いので全然違う話になってますが、これも理由があることので仕方ないのです。
とはいえ、今回も主要イベントである停電、進路相談、共になし。
今までも、ヤシマ作戦もなければユニゾン特訓も無いし……本当に一体何を書いているのやらとは思ってます。
さて次回は墜落使徒の出番ですが、シンジ抜きのエヴァ2体ではさすがに受け止めきれないと考えてますが、代わりの倒し方をどうするか迷ってます。(今のところ案は2種類あります。)
感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで