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「アンタ、お払い箱になったんじゃなかったの?」
何処から聞きつけたのか、シンジの顔を見るなりそう言うアスカ。
しかしシンジは特に機嫌を損ねた風もなく答える。
「パイロットとしてはね。今後は作戦部長補佐として、ここに残ることになったよ。」
「ふーん。」
アスカは機密漏洩防止の措置であろうと考えた。
NERVの持つオーバーテクノロジーを手に入れようと、多くの国家、企業が待ちかまえている第3新東京市の外へ出して危険を増やすよりも、ここでそのまま飼い殺しにすることを選ぶということである。
しかし、確かに表向きはそういう説明がなされてはいたのだが、実際には完委員であるシンジをNERVの組織の外に出してしまうわけにもいかず、やむなくとられた特別措置であった。
どちらにせよシンジがチルドレンでなくなったことは、アスカにすれば自分の地位を脅かす存在がいなくなったことでもあるので、アスカは以前ほどには敵対心を見せていない。
逆に、作戦部長補佐というのも名ばかりで体の良い飼い殺しだろうと思っていたので、心理的に優位に立ったような気分で同情心も沸いてこようというものだろう。
だが、それもシンジの次の一言を聞くまでのことだった。
「ってことだから、今後は僕は君の上司って事になるから。」
「なぁんですって!!」
アスカが目を剥いて怒り出す。
「それってどういうことよ。何でアンタがアタシの上司になるっての?」
てっきり、準軟禁状態になるものと思っていたシンジが、逆に昇格して上司になるなんてことはアスカからすれば許し難いことである。
何故、チルドレンの資格を失ったものがチルドレンよりも上に位置するというのか。
NERVが世界にわずかしか居ないエヴァパイロットに、大した価値を見いだしていないとはさすがに思えない。何かそれなりの理由があるはずである。
「そもそもアンタ何者なのよ。」
それは以前からもアスカの持っていた疑問である。無論、シンジが保管委員会のメンバーであることなどは知る由もない。
「さあ。でも、自分が何者か知ってる人間なんて本当にいる?」
「あんた、わざととぼけてるでしょ。この間だって・・・」
だが、アスカの追求に対して、シンジはそれ以上のことは話さない。
結局、シンジとアスカが話をしたところで、既に決定事項である事実は動くわけもなく。
こいつの命令など絶対聞くものかと、アスカは反発心を強めるだけだったのではあるが。
終末を導くもの
第14回
NERVに浅間山地震観測所から、浅間山火口で使徒らしきものの反応を観測したとの報が届く。
第一報を受け、まずはミサト以下数人のスタッフが現地へ向かった。
そして、高額な――と言ってもエヴァとは比べものにならないが、それでも資金繰りの厳しいNERVには弁償するには、それなりにきつい額ではある――耐熱耐圧観測機を破壊してまで入手した再観測結果はパターン青。
それは使徒を表す固有波形パターン。
火口内には成長しきっていない蛹状態の使徒が居た。
直ちにA-17指令が発令され、使徒を捕獲すべく初号機と弐号機が浅間山に派遣される。
A-17とは簡単に言うと、使徒対策のためにあらゆる事象に対してNERVが優先権限を持つ体制の発動である。
今までは、只、襲いかかってくる使徒を撃退するしかなかったNERVにとって、初めて攻勢に出ることのできるチャンスであったが、同時にそれは、要らぬ手出しをすることで危険な状態を誘発する可能性も含んでいる。
それゆえ人類補完委員会は今回の作戦に危惧を持つものもかなり居た。
「15年前のあれを忘れたとは言わさんぞ」と。
だが、結局は「虎穴に入らずんば虎児を得ず」のとおり、せっかく発見した使徒の幼生を放置しておくことはできなかった。
作戦の遂行に当たり、火口に潜り使徒の幼生を捕獲すべく潜るのは、耐熱耐圧用であるD型装備の使える制式仕様の弐号機が担当となった。
一方、初号機は火口で待機である。初号機も若干の改造を加えればD型装備が使えないわけでもなかったのだが、今回はその改造の時間も惜しいための配置である。
そして作戦指揮は、作戦部長補佐となったばかりのシンジが行う。
これは六分儀司令直々の命令であったが、当然その背後には委員会の意向がある。
A-17を発令するほどの作戦でありながら、シンジが指揮を執ることへの疑念は当然発生した。
ミサトも作戦部長である自分をないがしろにされていること感じたが、元より反論を許すような上司ではなく、重要な作戦故に自分をさらに残しておくのだと無理矢理自らを納得させるしか無かった。
また当然のごとく、それを知らされたアスカは一旦シンジの指揮下で動くことを嫌がる。
「何であんなヤツの言うこと聞かなきゃならないのよ。」と。
そんなアスカをなだめてその気にさせたのはレイと加持だった。
近頃意外と仲の良いレイ以上に、ドイツ時代に世話役であった加持の言葉はアスカに大きな影響を与えるようだ。
加持は、背伸びして自分を大人に見せたがっているアスカにとっては、丁度理想とする大人の代表といった存在だったのだ。
「仕方ないわね。加持さんにいいとこ見せないとね。」
アスカは加持が作戦に参加しないことを知らなかった。
浅間山火口。
そこにNERVの仮設発令所が急遽設置されている。
「レーザー、打ち込みます。」
「進路確保。」
「D型装備異常なし。」
「弐号機発進位置。」
着々と準備が進み、いざ、作戦開始。
「弐号機、溶岩内に入ります。」
縮尺こそ遙かに大きいものの、一昔前の深海潜水服を思わす姿のD型装備。
それが大型クレーンにより冷却液などを送り込むパイプにつながれ、ゆっくりと溶岩内を潜っていく。
そして、その視界は地上の仮設発令所に届けられているが、溶岩内ではほとんど何も見えない。
「光学ではダメですね。弐号機、視界をCTに変更。」
「わざわざ、言われなくったって分かってるわよ。」
苛立ちながらも指示に従うアスカ。
「これでも有効視界はせいぜい120だわ。」
「それでもソナーと併用してやるしか無いんだ。期待してるよ。」
「あんたに言われなくてもやるわよ。」
「深度、400・・・450・・・500・・・」
ゆっくりと沈降する弐号機。
オペレーターの報告のみが伝えられるのみである。
「深度、1100・・・1300。目標予測地点です。」
オペレーターの報告により、沈降が一旦停止する。
だが、「反応ありませんね。」センサーには何も変化が見られない。
「対流速度が予測よりもわずかに速いですね。目標の予測地点に誤差が出てます。」
「すぐに、再計算を開始して下さい。」
その結果地点はさらに400も下であった。
再度沈降を開始する弐号機。
「深度1400・・・1450・・・」
「そろそろ限界深度付近ですね。一旦引き上げますか。」
慎重論のシンジ。
だが、アスカは反発してまだいけると主張する。
「大丈夫よ。まだ、十分いけるわ。ね、ミサト。」
「そうね。A-17を発令した以上、ことは急を要するわ。このまま作戦を続行しましょう。」
ミサトの後押しもあり、結局は継続してさらに潜ることになる。
ミシッ・・・
あまりの高圧のためにD型装備がきしむ。
さすがにアスカの顔に不安が浮かぶ。
1箇所でも亀裂が入れば、もう圧力を維持できなくなり、一気に圧壊してしまう。
その瞬間が来ればもう助からない。
キシッ・・・
期待のきしむ音が聞こえる度にアスカの緊張が進む。
だが、まだ目標深度まではしばらくある。
D型装備のカタログ上の限界深度を超えること300。再計算による予測地点である。
再び、沈降停止。
「・・・いた・・・。」
ついに使徒発見。
既にD型装備は限界を越えかけている。
「捕獲準備。」
「さあ、本番ね。」
待つだけの時間は終わったことが、アスカの心を活性化させる。
「対流が思ったよりも速いわ。お互い、対流に流されてるから、チャンスは一度だけね。」
「大丈夫よ。アタシに任せなさい。」
アスカはリツコの警告にも強気な返事を返して見せる。
「相対速度2.2・・・軸線に乗ったわ。」
使徒の繭が弐号機とすれ違おうとする瞬間
「電磁柵展開・・・・・・捕獲します。」
弐号機の手にする電磁柵捕獲機が展開する。
「捕獲作業完了。」
無事作業は完了した。
アスカの報告にほっと空気が和らぐ。
だが、シンジは捕獲した使徒が前に観測したものよりも遙かに成長していることに気づく。
それを警告しようとした瞬間、電磁柵内の使徒が突然のたうち始めた。
溶岩内の音の伝達率が空気中と異なることもあるが、それを差し引いても気持ち悪くなるような雄叫びを上げだす使徒。
「これは、まさか・・・羽化を始めたんだわ。計算より速すぎるわ。」
活動を始めた使徒はとても電磁柵では支えきれそうにない。
「作戦変更。弐号機、電磁柵停止と同時に捕獲機を放棄。そのまま使徒を素手で押さえ込んで。」
「ちょっと、待ちなさい。」
「いえ、エヴァのパワーなら大丈夫です。それに、惣流さんの腕ならできないはずありません。」
「やってみせればいいんでしょう。」
シンジの挑発に乗る形で、とっさながらにも見事な対応を見せるアスカ。
見事に暴れる使徒を押さえ込んでいる。
「当然でしょ。これくらい、アタシにかかれば朝飯前よ。」
D型装備の強度に不安がある中での無茶な作戦要求だったが、アスカのシンジへの反発心から無理でもやって見せようとするのが功をそうしたらしい。
最も、それさえもシンジの予測の範疇であったのだろうが。
一方、変態途中の不安定な状態にエヴァの力で拘束を受けたことで、使徒はいびつな形に成長を遂げてしまう。
その歪んだ姿からは、もはやどのような姿へと羽化をしようとしたのかすら分からないほどである。
同時にそれは使徒が不完全な能力しか持ち合わせていないことの印でもある。もちろん、それでもエヴァ以外には脅威以外の何者でもないのだが。
ともかく、満足に力を発揮することもかなわず弐号機によって地表に引きずり出され、初号機、弐号機の連続攻撃にいとも簡単に倒されてしまうのだった。
結果として、シンジの判断がリスクを減らすことに成功したということになる。
かつて第4使徒の時にもシンジがミサトの判断を無視して使徒を倒したことがあった。そして今回も。
そのことに気を取られていたミサトは、今回の作戦中の重大な事実に気付いていなかった。
それは、使徒の姿を変態中に外から力を加えることで、ある程度変化させられるという事実。
仮設発令所に於いてそのことに気付いたのは、シンジとリツコのみであった。
作戦終了後、シンジは浅間山に残るミサトらとは別行動をとる。
その行き先は・・・京都。そして、どうやら待ち合わせ相手がいたようだ。
「どうだい?A-17が撤回されて助かったんじゃないか?」
今回の作戦終了により、すぐさまA-17は撤回されていた。
「そうですね。もしあのまま使徒を捕獲していればシナリオの変更を余儀なくされたことでしょう。実のところNERVに必要以上に使徒の情報を与えたくないのがご老人方の真意ですしね。できれば、A-17の発令だってさせたくなかったというのが本音ですから。」
シンジが言う言葉は委員会メンバーとしての立場のものだ。
情報は、それを知る者が少ないほど価値がある。
支配するものからすれば、その力を維持するためには情報の独占という手法は外すことはできないのだ。
「それでも司令は結構うまく立ち回ったようですよ。資金不足も少しは解消できたんじゃないんですか。」
A-17指令の中には現有資産の凍結も条項として含まれている。それを逆に利用すれば、結構な利財を生むことも可能である。
今まで委員会が追加予算を渋っていたのは、六分儀司令個人の資産から不足分を捻出させて、彼の力を弱めようとしていた側面もあったのだが、それも今回で無駄になってしまったわけである。
「なるほど。例のダミー会社は六分儀指令にとってはそういう役割もあったんだな。」
加持がこの京都の地にやってきていたのは、六分儀ゲンドウが役員となっている企業の情報を自らの目で確認するためだった。
「それよりもマルドゥックの方は追っても無駄ですよ。もはや実態は無くなってますから。」
加持の追っていた企業は同時にチルドレンの選出機関であるマルドゥック機関に繋がるものでもあった。
だが、今回の結果もそうであったがすべて実態のないダミー企業ばかり。
加持自身、マルドゥック機関の存在を疑いかけていたところだったのだ。
「すべては11年前に決まってしまったことなんですよ。」
「そういえば、加持さんは惣流さんにえらく気に入られてますよね。」
シンジは唐突に話を変える。
「ああ。ドイツの頃から一緒だったからな。」
気むずかしい彼女に気に入られるまでには紆余曲折があったようだが、それはまた別の機会に。
「僕はどうも彼女に目の敵にされているみたいなんで、結構身動きが取りにくいんですよ。綾波だけなら問題なかったんですけど、彼女のように考えるより即決即実行ってタイプはちょっと。」
先日もアスカに尾行されかかったシンジである。
シンジにとって、アスカの尾行をまくのはさほど難しいことではないが、尾行に飽き足らなくなったときの彼女の行動に懸念があった。
「で、俺にどうしろと?」
「加持さんには彼女の注意を引きつけて置いてほしいですね。
方法は任せますが・・・加持さんの守備範囲からははずれるかもしれないですけど、いっそ手を出してみるとか。」
冗談めかしているが、そこにはそのままさらに加持に惹かれるもよし、たとえうまくいかなくともアスカの意識は加持に釘付けになるだろうという打算があった。
「おいおい、俺を何だと思ってるんだ。だいたい、それが原因でエヴァに乗れなくなるってこともあり得るだろう?」
ただでさえシンジが抜けてパイロットが不足しているところなのにと加持は言ってるのだが、
「まあ、そうですね。・・・別にそうなったらそうなったで別のパイロットを用意すればいいんでしょうけど、それで加持さんが責任を取らされて首になったりしたら困りますね。」
と、シンジの言葉はチルドレンの代わりはいくらでも居るといわんばかりである。
この発言がアスカに知れれば、彼女のプライドは大いに傷つくことになるだろう。
「何にしても、彼女の注意を引きつけておいてほしいんですよ。これからしばらく忙しくなりそうですから。」
現在、NERVの作戦部長補佐、人類補完委員、碇家の跡継ぎ(まだ年齢が若く、正式に相続していないものも多い)、そして現役の中学生と、非常に多くの肩書きを持っているシンジである。
「俺はこの頃、ゼーレや六分儀司令の思惑よりも、君の考えの方が気になりだしているよ。 シンジ君、君の狙いは一体何なんだ?」
シンジは答えない。
加持も返事は元から期待はしていない。ただ、シンジの横顔をじっと見つめていた。
だがしばらくして、シンジがぽつりぽつりと話し出した。
「僕は小さい頃に母を亡くし、父ともずっと離れて、祖父母と一緒に暮らしてきました。しかし祖父母は厳しかったですけど私のことを愛してくれてましたし、僕もそれに応えたいと思っていました。
でも・・・・・・僕は祖父母に愛情を返すことが出来なかった。僕の心はそういうふうにはできていなかったんです。
いわば、僕はどこか人として備えているべき心の大事な部分が欠けた人間なんですよ。
だから・・・自分のためには、結局はどんな勝手で残酷なことだってできてしまうんです。」
シンジの言葉はゆっくりとだが、しかしはっきりと加持の耳に届いていた。
そして、その裏にある本当の意味も分かりかけていた。
「人の心にはどこか欠けた部分があるものだ。例えば俺の場合は、物事を自分自身で確かめないと納得できないということなどがそうだろう。
だが、君の言う欠けたところというのは、それとは次元の違うものだということは分かる。」
しかしそれが何をもたらすのか。
加持にはそこまで分かり得なかった。
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あら、修学旅行が出てきてなかった。
プールや温泉にも行ってないし、それ以前にいまだミサトと加持は対面していないし、アスカが加持にじゃれつくシーンもなし。
相変わらず原作のイベントはこなしてません。
はっきり言って、このごろはかなり当初のプロットからはずれてきていて、方向修正をするのに大わらわ状態です。
あ、今気がつきましたが、「パターン青」って単語も今回初めて書いたような気がします。
実際MAGIの名前が出るのもやたら遅かったし、ヤシマ作戦も時田氏もオーバーザレインボウも出てこない本編系FFはうちぐらいじゃないでしょうか。
さて、次回はいよいよマユミ活躍の(あくまで)予定です。
時期については、ご容赦ください。とりあえず、年内には・・・
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