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暗闇の中に浮かぶ円卓。
その席に着くのは6つの影。
「さて、先日の六分儀からの報告にあったとおり、日本政府は今後のエヴァの建造費供出を拒否すると言ってきているそうだ。」
「ワシントンも何かと理由を付けて渋っているというのに、このままだと七号機以降の予算のめどがたたんではないか。」
「だが、六分儀めも自分の失態を棚に上げて、よくもおめおめとこんな報告をあげてきたものだ。」
「これは首のすげ替えも考えねばならんな。」
「少なくとも、さらなる追加予算の要求など受け入れられんよ。」
人類補完委員会の会合は多分にこのような展開になる。
ゲンドウらに「口ばかりで何もできない老人たち」と呼ばれるのも無理無いのかもしれない。
「日本政府に関しては、碇君に一任しようと思うのだがどうかね。
彼の手腕も見ておかねばならないと思うのだが。」
委員の一人がそんな提案をする。
「そうだな。いくら同志碇ユイの後継者とはいえ、無能な者は我らには必要ないからな。」
別の委員が値踏みするようにシンジを見る。
「私としてはかまいませんが。」
シンジはそう言いながら、向かい側、上座の議長に伺いを立てる。
「よかろう。その件については碇君に任せよう。」
キール議長はしばらく考え込んだ後に許可を出した。
その後、補完計画中間報告について話が続くが、既に確認事項となっているものが多く、メンバーらの承諾が出て終わりである。
そして仮想空間からすべての影が消える。
シンジが手元のスイッチを入れると、暗闇だった部屋に明かりがともる。
そこはNERV本部内のシンジに与えられた個室だった。
この部屋にはNERVのIDカードとは異なるパスが必要となっている。
当然そのパスを持つものはシンジのみのはずだったのだが。
「御老人方は相変わらずだな。」
「急に変われないのが老人なんじゃないですか。」
「だが、君は私に変われと強要している。ひどい話とは思わないか。」
「そんなことありませんよ。僕はただ、昔のあなたに戻っていただきたいだけです。
母から聞いている冬月先生に。」
終末を導くもの
第12回 前編
(ああ、またこの夢だ。)
自分がまだ少女と呼べる歳の頃、父が最後の力を振り絞って自分を救ったときの夢。
この15年の間、何度と無く見続けてきたその夢。
今では夢を見ながらもそれを夢だと自覚しており映画を見ているような感覚すらしている。
だが、どうしてもその時の父がどのような表情をしていたのか思い出すことはできなかった。
父は自分のことをどう思っていたのか。
そして自分は父のことをどう思っているのか。
ミサトには、父の表情が思い出せないのは自分自身の気持ちの整理がいまだついていないことが原因であるように思えるのだった。
なんにせよ、いまだに15年前のことをトラウマとして引きずっているミサトである。
寝起きの頭で夢のことを考えながら、リビングに出てきたミサト。
「おはようございます、ミサトさん。ご飯はもうできますから。」
シンジは朝食をテーブルに並べている最中だった。
「ああ、先にシャワー浴びてくるから、ゆっくりでいいわよ。シンジ君は先に食べといていいから。」
「はい。ミサトさんを待ってたら遅刻しますから。」
あっさりとそう返事するシンジ。
少しは遠慮してくることを期待していたミサトはシンジのそんな返事に憮然としつつバスルームへ向かう
プルルルル。
部屋の中に電子音が鳴り響く。
NERV直通の緊急連絡用の呼び出し音である。
丁度シャワーを浴び終わったミサトがすぐさま受話器を取る。
「葛城です。」
直通電話による緊急連絡がある場合は限られている。
案の定、それは第7の使徒襲来を告げるものだった。
ミサトは丁度家を出ようとしていたシンジを呼び止める。
「使徒ですね。アスカを呼んできます。」
シンジも呼び出し音で予想していたのだろう。ミサトの声で確信したシンジは既に玄関を出ていた。
まだ非常警戒宣言の出されていない市内を、朝食を食べ損なったミサトの運転するルノーが交通法規を知らないかのごとき無謀な運転でNERVに到着した。
ゼリー状の補助栄養食を口にしながらミサトは発令所に向かう。
「よくも、あんな運転の後で食欲がわくものね。」
後に続くアスカは嘔吐感を押さえつつあきれって言った。
シンジは、
「・・・・・・」
返事をする元気もなさそうである。
これはシンジが特段車に弱いわけでなく、狭い後部座席のスペースに乗ったシンジの方がダメージが大きかったためだ。
が、アスカにすれば条件に多少の差こそあれ自分がシンジよりもタフだったとして、プライドを満たすことができたらしい。
「これがMAGIの出した使徒の侵攻予想ルートです。」
オペレーターがコンソールを操作すると発令所正面のスクリーンに地図が映る。
司令以下、各スタッフと3人のパイロットが集合している。
「上陸予想時刻は11:20(イチイチフタマル)です。」
続いて、使徒の映像が静止画で出る。
頭頂を除いて海に没しているため、正確なシルエットは分からない。
「意外と侵攻速度は遅いわね。」
ミサトは両腕を組み、顎をしゃくりながら考え込んでる。
ミサトの脳裏にあるのは迎撃のタイミングのことである。
前々回の使徒との戦闘で、かなりの被害を出した第3新東京市の迎撃施設だったが、補完委員会からの追加予算が認められず、いまだ回復していなかった。
使徒の上陸の瞬間をねらって迎撃するか、それとも強羅絶対防衛線で迎え撃つのか。
前の案では、使徒の不意をつけるかもしれないが事前に使徒の能力を把握できない。
かといって後の案では使徒の目的地であるジオフロントにむざむざ敵を近づけることになってしまう。
が、結局は前の案を基本とした作戦を採用することとした。。
具体としては、まずエヴァ2機を海岸に配置し、使徒の上陸の瞬間をねらって一斉攻撃。
万一、それで殲滅できなかった場合には残り1機の援護を受けて一旦後退し、再度作戦を練り直した上3機による波状攻撃を行うというものである。
これはエヴァが3機そろったことで初めて取ることのできる作戦である。
もし初期迎撃に失敗して撤退戦となると、周囲のサポートが非常に重要になってくる。
当然この場合は予備の1機と作戦部長の手腕の見せ所になる。
配置は初号機と弐号機が初期迎撃、零号機が予備戦力となった。
これは、アスカとレイの組み合わせが最もコンビネーションが良いためである。
というより、あまりにシンジが他の二人と合わなさすぎるとため、これ以外に選択の余地がないのだ。
「シンジ君、どうもあの2人には嫌われてますね。」
ミサトの部下の一人がぽつりとそんな言葉を漏らす。
「ま、アスカにすれば強すぎるライバルってのはきついでしょうね。特にあの子の性格からすれば。」
人は自分を遙かに超える存在に出会ったときは、徹底的に反発するか、逆に取り入ってその庇護のもとに入ろうとするものである。
常に背伸びをせんとするアスカの性格からすれば、後者はとても受け入れられるものではなかった。
が、そう答えながらミサトは同時にレイがシンジを嫌う理由について考えていた。
ミサトの知るレイという少女は一言で言うと他人に感情を見せない娘だった。
別に他人を嫌っているというわけでもない。ただ、関心がないだけなのだ。
が、そんなレイがシンジだけは明らかに嫌っていた。
直接の原因は以前に自分が不在の際の夕食での会話だろう。
だが、それ以前に本質的な問題があるはずなのだ。
が、思考はここで止まってしまう。
レイについての情報があまりに少なすぎるからだ。
すべて抹消されなければならなかったというレイの過去。
そこには何が隠されているのか。
ともあれミサトの作戦に基づき使徒迎撃の準備は整えられた。
海岸に立つ初号機と弐号機。
特設の電源ソケットを背に、初号機の手にはパレットガン、弐号機はソニックグレイブが握られている。
役割は前回と同じく弐号機が前衛、初号機が後衛。
「使徒上陸まで後1分。」
アスカがグリップを握り直す。
レイもアスカも視線は接近中の使徒に貼り付いている。
「来るわ。」
レイの呟きを受けて、アスカが飛び出した。
エヴァの操縦の腕前はシンジやアスカに劣るものの、レイの感覚の鋭さはアスカも認めている。
半ば水没しているビルを足場にしてアスカは使徒へと接近する。
ビルは潮のため風化しかけていたが、かろうじてエヴァの体重を支えることができたようである。
「しっかり見てなさいよ。」
アスカのその言葉は明らかにシンジへと向けられた言葉だ。
使徒が海中から身を起こす。
その姿は説明するのは難しいのだが両生類のようなぬめっとした2本足の案山子といった感じだろうか。
バランスが悪そうに見えるのだが、器用にも2本の足で立ってみせている。
「一昔前の前衛芸術みたいだ。」
後方ではシンジがそんな感想を漏らしていた。
初号機が後方からパレットガンを連射して援護する。
使徒は攻撃を受けてとまどったのか、その足を止めていた。
その間に弐号機は最後の足場を踏んで大きく跳躍した。同時にA.T.フィールドを全開にする。
「いける。」
そしてそのまま落下の勢いを得てソニックグレイブを振り下ろす。
「でやあ〜〜!!」
ズシャ。
使徒はかわす暇もなく真っ二つにされた。
「どう、サードチルドレン。シンクロ率だけが実力だけを示すものじゃないのよ。戦いといえども華麗さが無いとね。」
だが、使徒はまだその命を失っていなかった。
「だめ、まだ生きてる。離れて。」
レイの警告を受けてアスカが後方に跳びずさる。
アスカの視界には二つに切り裂いた使徒がそれぞれに脱皮するようにして2本足の弥次郎兵衛のような姿に変形していく所が写っていた。
その胸にはそれぞれに紅く輝くコアがあった。
そのころ移動指揮車にいるミサトはというと、
「なんてインチキな奴!」
と叫んでいたが、叫んでもどうにもならない。
初号機は弐号機が離れるとすぐさまパレットガンを掃射する。
その援護のおかげで、無事弐号機は体勢を立て直すことができた。
海岸にあらかじめ配置していたポジトロンライフルを手にして遠距離射撃を行う。
「シンジ君、出て。」
「分かりました。」
ショックから立ち直ったミサトの指示を受けて零号機も戦線に突入する。
獲物はスマッシュホークである。
「とりあえず、これ以上分身されると困るから、コアだけを狙って攻撃して。」
「できるだけやってみます。」
シンジの表情は、またミサトが無茶を言っているといった風だが別段反抗はしなかった。
初号機、弐号機が火器で牽制している間に零号機が到着し、そのまま近接戦闘に突入する。
そしてフェイントを交えながら片方の使徒に近づき、コアに斧で斬りつける。
メキッ。
見事にコアを破壊された使徒だったが一瞬動きを止めたものの再び活動を再開した。
破壊してもすぐさまコアが再生してしまうのだ。
「これは?」
さしものシンジもあまりの反則技に声を失った。
その間にもう一体が影のように零号機の背後に回り込んでいた。
「零号機、後ろ。」
レイの警告もむなしく、零号機は使徒に捕まってしまい、そしてそのまま抱え上げられてしまう。
「くそっ。」
シンジはそれでも手にしていた斧を器用に振って、コアに攻撃を加える。
「こっちが本体か?」
だが、こちらの半身のコアを破壊してもやはりしばらくすると復活してしまう。
とりあえず、使徒の動きの止まった隙に脱出したものの、どう攻撃を仕掛ければ有効なダメージが与えられるのか見当がつかなかった。
「サードチルドレン、なんとかして見せなさいよ。」
そうは言ったものの、手が思い浮かばないのはアスカも同じこと。
初号機のレイや指揮車に乗るミサトにとってもそうだった。
どこに使徒の弱点があるのか。
それ以前に、敵の体を切り裂くとさらに分身されてしまう可能性もあり、うかつに切り裂けないのだ。
「3人ともとりあえず、遠間から牽制して時間を稼いで。今、MAGIで敵の弱点を探してるから。」
NERV本部の要、第7世代スーパーコンピュータMAGI。
今はそれに頼るしかない。
しかし間に合うのか。
そしてここにある観測機器では満足な情報収集ができるかどうかも問題である。
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はじめての前後編の2部構成です。
ちょっと途切れ方が不自然ですが、戦闘シーンが長引くので分けてしまいました。
今回は書きかけのデータが吹っ飛び一からやり直しになってしまったので、いつもより、さらに遅れてしまいました。
さらに、またも、よそとネタがかぶってしまったことも原因の一つにあります。
更新速度が遅いと、前もって用意していたネタが使えなくなったりして結構困りものです。
また、今回は分離使徒をどうやって倒すかで結構悩んだのですが、少なくとも天の邪鬼な私としては原作のとおりのユニゾンはさせたくなかったので、こういう展開になっています。
感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで