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NERVの誇る第7世代スーパーコンピュータ、MAGI−SYSTEM。
今は亡き赤木ナオコ博士が生み出した、世界で初めて人格移植OSを搭載したスパコンである。
Casper、Balthasar、Melchior。3機の微妙にプログラムの変えられた同型機の合議制による判断を第1の特徴とし、完成以後数年間世界最高峰の能力を誇るMAGIが、今その総力を結集して使徒の能力解析にあたっていた。
2つに切り裂くとそのまま2体に分離し、さらにコアを破壊されてもすぐさま再生してしまうという非常に不条理な能力を見せた第7使徒。その能力の限界はどこにあるのか。
反撃ののろしはまだ上がってはいない。
終末を導くもの
第12回 後編
シンジに一旦コアを破壊されてか、使徒は新たに光線兵器まで身につけていた。
丁度使徒の顔に相当する部分から発射されたそれが、不意をつかれたかたちの零号機の手にしていた両手斧スマッシュホークを焼く。
「しまった。」
零号機はたまらず今回の作戦のため海岸に設置されていた防護壁に身を隠す。
初号機、弐号機もひとまずそれに習った。
「どうやら動きも機敏になってきてる。」
使徒に決定的なダメージを与えることができない今、下手に中途半端なダメージを与えては機能増幅されるだけである。これでは迂闊に攻撃を仕掛けることもできない。
といって、全く手を出さないでいては使徒の侵攻を止めることもできない。
「学習と自己修復、そして機能増幅。きっちりと単独兵器として必要な能力を兼ね備えてくれてますね。」
ともかく現状でもただ手を拱いているわけにもいかず、シンジやアスカ、レイはおのおのに工夫を凝らした遠距離攻撃で使徒の動きを押さえようとするが、A.T.フィールドを中和できない距離からの攻撃は全く効果を見せてはいなかった。
「ミサト。早くなんか作戦を考えなさいよ。」
戦闘の合間を縫ってのアスカの非難の声はかなりせっぱ詰まっていた。
しかし、未だ使徒の能力を把握しきれていない状態では作戦の立てようがない。MAGIにより何らかの結論が出るまで、どうにかして時間を稼いでもらうしかない。
ミサトは歯がみする思いでその時を待つ。
そこには一旦戦略自衛隊に協力を要請するという選択肢はなかった。
NERVと戦自の仲は第3使徒襲撃以来険悪の一途をたどっていた。それよりも、日本政府との軋轢ということが先にある。
例えば、市政自体がMAGIに管理されている第3新東京市は実質治外法権とでもいうべき状態である。国内に政府の手の及ばない地があるだけでも面子が立たない。
さらに多額の分担金を支払わされておりながら、世界最高峰のスーパーコンピュータであるMAGIや強力な兵器であるエヴァに関する技術情報の提供をしようとしないNERVのやり方に不満が募っていることもその一因である。
協力を要請すれば、どれだけの条件を突きつけられるか分かったものではない。さもなくば黙殺されるのみか。
いずれにせよ、エヴァ3体が健在な内は自力でなんとかするしかない。
ようやく待ちかねていたMAGIから使徒の能力がミサトの元に報告された。
今回の使徒は2つコアを持ち、そのどちらか一方が破壊されてももう一方が健在ならば、すぐさま破壊された側も再生させてしまう能力がある。ただし、コアの数は最初から2つであり、肉体が切り裂かれたときに増殖したわけではなく、これ以上使徒が分裂するおそれはない。。
一方のコアが破壊されて再生されるまでの予想時間は約2秒弱。つまり2秒足らずの間に両方のコアを破壊して見せればよいということである。
ただし、この再生までの時間は徐々に短くなっており、万一失敗した場合はさらに時間がシビアになる可能性が高い。
その報告を受けて立案された作戦は、零号機を囮として残る初号機、弐号機でそれぞれ使徒の分離体を同時攻撃するというものだった。
使徒の分離体をそれぞれ分断して、タイミングを合わせて攻撃するという案も提案されたが、離れた場所ではタイミングが取りづらく失敗の可能性が高いこと。その場合、使徒の能力がさらに強化されてしまうおそれがあることからこの案は採用されることはなかった。
さて、作戦の第1段階として零号機を囮として使徒に印象づけるため、まず初号機と弐号機は一旦後退する。
当然その間、零号機は2体の使徒からの猛攻を一身に受けることになる。
最も負担のかかる役割であるからこそシンジにその役が与えられたのだが、当然シンジが他の二人とコンビネーションに問題があることも理由のひとつである。
「悪いけど、これはシンジ君にお願いするしかないの。」
ミサトがアスカに聞こえないようこっそりとシンジに頼む。
「できるだけのことはやります。僕もこれが最善だと思いますから。」
そうシンジは笑って返すと、零号機の装備をパレットガンからソニックグレイブに持ち替えて使徒の前に立ちはだかった。
2体に分離した使徒に対し、数で劣る零号機としてはスピードでそれをカバーするしかない。当然、近接戦闘が中心ということになってくる。
が、使徒の機能増幅は光線兵器だけではなく、その両手がかなりの切れ味を持つ刃と化していたのである。
元々、使徒の近接攻撃はその体型からして円運動になるため攻防切替時の隙が少ない。
さらに2対に分離した使徒はお互いに攻撃の死角を無くすよう背後を庇い合うなど、見事な協力体制を取っている。元々が1体であっただけにその連携は非常によく、とても積極的に攻撃を仕掛ける余裕はない。
それでも2体の使徒の両手、合計4つの刃をかいくぐりつつソニックグレイブの柄の方を用いて使徒を牽制するなど、なんとか堪えるシンジ。
しかし使徒がシンジの戦い方を学習してきたため、徐々に手詰まりになっていく。
そして、わずかづつではあるが零号機もダメージを負ってきていた。
エヴァの生体部分にまでは至ってないものの、外部装甲は何カ所も削られてきていたし、乗っているシンジの体力・精神力もかなり消耗してしまっている。
しかしそれでも、作戦ではこれから使徒に初号機、弐号機が攻撃するための隙を作らせなければならないのだ。
そこにようやく初号機、弐号機の配置が終わった報告が来る。
待ちに待った報告に、シンジは最後の力を振り絞る。
戦闘中ながら、シンジは視界の端でその配置場所を確認すると、逃げる振りを見せて使徒を目標地点に誘導を始める。
これは使徒の侵攻方向とほぼ同じであったので、さほど難しいものではない。
問題は次の、両方の使徒に同時に隙を作ってみせることである。
シンジは逃げる途中もう1本ソニックグレイブを拾っていた。
二刀流となった零号機は侵攻してくる使徒に相対すると大きく跳躍して後ろに回り込んだ。
使徒は零号機を追ってきていて2体共そろって零号機の方に向いていたため、その背後を庇い合ってはいなかった。
さらにそれまでの零号機は、攻防の中では一度も大きな跳躍を見せていなかったことで、上下の動きに使徒はついていけなかったのだ。
完全に背後を取った零号機は、使徒2体の足をソニックグレイブで地面に縫いつけ、その動きを止めてみせた。
もはやこれ以上無いという攻撃の瞬間が訪れた。
「アタシの出番ね。」
「初号機、攻撃を開始します。」
使徒に向かって右手から弐号機、左手から初号機が待機場所から飛び出し一気に間合いを詰める。
使徒はなんとかソニックグレイブを抜こうとうごめいていて2機の接近に気付いていない。
よしんば気付いていてももはやかわすことはできないだろう。
「もらったぁ。」
アスカのかけ声を合図に初号機と弐号機はほとんど同時に使徒のコアめがけてプログナイフを突き立てようとする。
誰もが勝利を確信した瞬間、それは起こった。
「うわあああああああ。」
確かに使徒は作戦どおり2機のエヴァの同時攻撃によって殲滅された。
しかし、使徒を押さえ込んでいた零号機は、使徒を縫いつけていたはずのソニックグレイブ2本によって、串刺しにされていた。
零号機が轟音をあげてそのまま地面に突っ伏す。
その衝撃で移動指揮車が大きく揺れる。
使徒がどのような手段を用いたのかは今は問題ではない。
すぐさま零号機とシンジへのダメージが確認される。
「パイロットの生存を確認。しかし心音微弱。」
「フィードバックを全面カット。」
「生命維持装置最大。」
「シンクロ率、一気に47%低下。」
「パルス寸断、全身に27カ所モニターできない部分があります。」
「停止信号発信。プラグ排出、急いで。」
作戦中以上に騒然となる移動指揮車内。
各種モニターからはプラグ内のシンジの生存は確認されているものの、その状態は決して楽観できる状態ではなかった。
プラグから運び出されたシンジは意識を失っており、すぐさま救急施設に運ばれていく。
「シンジ君。」
ミサトは作戦終了を告げるとと同時に移動指揮車を飛び出してシンジのもとへと駆け寄っていた。
目の前で、シンジが苦痛に顔を歪めたまま担架で運ばれていく。
その姿がミサトの脳裏に焼き付く。
自分の作戦には間違いは無かったのか。
まず、シンジに過剰な期待をしていたのではないか。
或いは作戦自体急ぎすぎたのではないか。
そしてなにより。
自分がNERVで使徒と戦っている根本の理由は、私怨であること。
それに巻き込まれて子供達が辛い思いをする。
自分の生き方自体、何かが間違っていたのではないか。
ミサトの迷いは止まらなかった。
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私の作中の「シンジ」がアスカ(またはレイ)とユニゾンする事など、私の頭の中には全くありませんでした。と言って残るアスカ&レイにユニゾン特訓させるという線も、アスカがレイに関わりすぎることになるので却下。せいぜい、ぶっつけのコンビネーションプレーをさせる程度になってしまいました。
しかし、思ったよりも短い。すんごく短い。
プロットを考えた時点ではもう少し長くなるだろうと思って前後編に分けたのに・・・
何故かと考えると、キャラクターの台詞がほとんど無いからなんですね。作戦中、全然会話がないですし。
なんでこんなに短い文章に1月もかかるのやら。
しかしなんとか12話も終わり、後もう少し踏ん張れば当初から書きたかった謎解きに関わるあたりにまでたどり着けそうなのですが・・・それでもまだまだ道は険しいです。
またも一部修正をしてしまいました。
話の筋は変わっていませんが、やや説明不足だった部分に書き足しをしています。
そういえば、今回の倒し方では使徒の名前のISRAFEL(音楽の天使)に全然ふさわしくないですね。名前を変えてしまおうかとも考えます。
感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで