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「まあ仕方あるまい。エヴァ弐号機の日本への配備を許可しよう。」
「維持管理のための予算増額も仕方あるまい。」
「恐れ入ります。」
これで今回の委員会の議題はひととおり終了した。
「しかし、サードチルドレン不在がそんなに堪えたかね?」
「君でもさすがに使徒は怖いか。」
一息ついた委員会メンバー達がそろってゲンドウを揶揄する。
ここでもゲンドウは嫌われているらしい。
シンジの失踪が委員会の差し金であろうことは、実はゲンドウの予想の範囲内であった。
諜報部にシンジの捜索をさせなかったのはそのためである。
ただ意外だったのは、シンジの補完委員への就任である。
確かに碇家は華僑とのつながりが深く、世界各国に強い影響力を持っている。
が、それでも弱冠14歳の少年が選出されるほど委員会の席は安くはない。ましてや、ゲンドウへの嫌がらせのためだけに選ばれるなどあり得ない。
シンジが選出された理由は別にあるはずなのだ。
「では六分儀君、うまくやりたまえよ。」
「我々の先行投資が無駄にならぬようにな。」
そうして委員達の姿が順に消えていく。
後に残ったのは、ゲンドウとシンジ、そしてゲンドウの正面に位置する銀髪のゴーグルをつけた老人。
「六分儀。サードは近日中に君のもとへ返そう。」
このゴーグルの老人は他の委員会メンバーとは口調が異り、嫌悪をむき出しにしたりはしていない。もちろん、内心どう思っているのかまでは分からないのだが。
「という事みたいです。今までどおりやっていきましょう。」
そしてシンジはあくまで軽い調子で話す。
そして二人の姿も消える。
最後に只一人ゲンドウの姿のみがぽつんと残る。
少し考え込んでいたが、しばらくしてゲンドウの姿も消えた。
後にはただ闇が残った。
終末を導くもの
第8回
サードチルドレン不在の第3新東京市に次なる使徒襲来の報がもたらされたのは、ファーストチルドレンによる初号機起動成功から丁度7日目の正午過ぎであった。
それは折しも、ドイツから搬送されてきたエヴァ弐号機が横須賀港に到着する予定時刻の4時間前のことでもある。
「こういうときに限ってやって来るのものなのよねえ。」
ミサトの姿は弐号機搬送中の、大型タンカーを改造した輸送艦上にあった。
天気は快晴。
雲一つなく、強い日差しが甲板に強い陰影を作っている。
「きっとアタシの到着を恐れてるのよ。」
ミサトの前で腕を組んで胸を張ったの少女がさも不満そうにそう断言する。
その少女は腰の上まである金髪を振って勢いよく振り向くと、シートに覆われている弐号機の方へと進んで行く。
「このアタシと弐号機にかかれば使徒なんて敵じゃないのに。」
少女は自信満々に言い切る。しかしその仕草にさほど嫌みを感じないのは、彼女の整った風貌のおかげか。
金髪碧眼、スタイルも西洋人風だが、顔立ちは日本人らしさが散見される。日本人の好む美少女像を、実在化させたような姿である。
ともあれ彼女がセカンドチルドレン、エヴァ弐号機専属パイロットである惣流・アスカ・ラングレーだった。
「で、どうする気?このままここで傍観してるわけにもいかないでしょ?」
アスカは再びミサトの方を振り返る。
「大丈夫よ。もう、手は打ってるわよ。
ほら、言ってる間に来たわ。」
ミサトの視線の先には、こちらへと接近してくる航空機の機影が有った。
航空機は近づくにつれて、そのシルエットがあらわになる。
持ち上がった機首、主翼上部に備え付けられた6機のターボフロップエンジン、そして翼下のフロート。
飛行艇である。
それも世界最大サイズの。
「アスカ、弐号機を起動させて。
クルージングの後は遊覧飛行よ。」
飛行艇の機内に置かれた仮の作戦本部。
ここにはミサトの他、数人のオペレーターが配置されている。
「それじゃあ作戦を説明するわ。」
ミサトはヘッドギア内蔵のマイクで、ケイジに待機中のレイと弐号機内のアスカに指示を送る。
「作戦開始は20分後。
まず、レイは初号機で目標の進行方向600m前方に配置。これはあくまで陽動が目的だから、A.T.フィールド全開で防御に徹すること。」
「分かりました。」
「そしてアスカは、目標が初号機に気取られている間に弐号機で上空から一気に降下して、そのまま目標のコアを破壊。」
「了解。任せときなさい。」
ミサトの説明に併せてアスカの視界には市内の立体地図と配置図が表示されている。
既に第3新東京市で訓練を積んできたレイと異なり、ドイツから来たばかりのアスカは地形を把握していないからだ。
続いて、使徒の映像が表示される。
今回の使徒は、今まででの2体と異なり透明の四角錐を二つ、上下に張り合わせたような姿で無機物的な雰囲気を持ち、サイズも全高が100m以上と今までに数倍する体積である。
そして透けた体の中心部に赤黒いコアの姿がかろうじて見える。
「それと万一作戦が失敗した場合は、一旦ジオフロントへ退却すること。いいわね。」
これは、初期迎撃を行った戦自に対し(もちろん、強力なA.T.フィールドに阻まれダメージを与えていない)使徒が反撃しなかったため、使徒の能力がほとんど判明していないからである。
が、アスカは表示されている回収ポイントに見向きもせず、
「失敗なんてこと有るわけ無いでしょ。アタシを誰だと思ってんの。
セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ。
このアタシの乗るエヴァ弐号機は無敵なんだから。」
と強気に宣言する。
だが、ミサトには恐怖を振り払うため多弁になっているとしか見えない。
もちろんアスカの実力についてはよく分かっている。
ドイツ支部が彼女と弐号機を手放すことをずっと渋っていたことも、彼女の才能を示している。
しかしアスカもレイも初陣である。
シンジはこの上ない完璧な初陣を飾ることが出来たが、そんな幸運が何度も都合よく起こるとは限らない。
作戦が始まってしまえばミサト達大人には出来ることはさほど無い。
だからこそ、それまでに可能な限りの手を用意しておかなければならないのだ。
わずかながらもこれまでに得られた情報から、NERV本部の誇る第7世代スーパーコンピュータMAGIを用いてシミュレートを行う。
しかし、あまりに情報が不足していて判断不能としか回答されない。
あとは、自分の直感しか使えるモノがない。
「しっかし、サードチルドレンも迷惑な奴よね。
アタシが急に呼び出されたのは、そいつが突然失踪してくれたせいなんでしょ。」
作戦開始までの間が持たず、すでに何度も言っている言葉がついつい口に出るアスカ。
「ま、確かにそうなんだけど。
でも、そのおかげでうちに新しい戦力が来ることになったワケだから、私からすればある意味彼に感謝もしてるのよ。」
そうおどけて言うミサトだったが、内心シンジの不在はこたえている。
確かにシンジの失踪がなければアスカと弐号機の来日は当面なかっただろう。
だがここで、共に初の実戦で、さらにまだ顔も合わしたことのない二人による共同作戦と、すでに2体の使徒を倒した実績を持つ者の単独作戦を比較してみると・・・。
答えは、将来はいざ知らず、今、作戦を指揮する側としてどちらが信頼できるかとなると後者と言わざるを得ない。
未知数の力に頼っているようでは今後の戦いに勝ち続けることは不可能なのだから。
もちろんこれは愚痴であるからミサトは今更口にはしないし、表情にも出さない。
しかし、それでもアスカは何かを感じ取ったのか表情を堅くする。
すでに使徒は第3新東京市に進入しつつあった。
「作戦、開始。」
ミサトの号令により、地下では初号機がアンビリカルブリッジに乗せられ射出される。
このGはレイにとっても初体験であり、予想以上の重圧にか一瞬彼女の表情が歪む。
それとも、以前の暴走で零号機からエントリープラグごと射出されたときのことを思い出したのか。
しかし、それも一瞬のこと。すぐに地上に到着する。
一方、零号機が地上に出るのにタイミングを合わせ、上空のアスカも飛行艇のカーゴルームからかけ声と共に飛び出す。
「Gehen!」
弐号機の手には槍が握られている。
それを両手で真下に向けて構え、脇の下にあるバーニアで姿勢を制御しながら降下する。
その時、
「目標に高エネルギー反応。縁周部を加速していきます。これはっ・・・!」
上空のミサトの元にオペレーターから悲鳴にも似た報告の声が届く。
カッ!!
そんな音が聞こえそうなまばゆい光が使徒の四角錐の合わさった部分、ベルトラインの角から放出される。
ただの光ではない。
瞬間的に使徒と初号機の間に立つビルが蒸発する。
そして、その光はそのままエヴァの射出口へと突き抜ける。
「レイッ!」
ミサトの声と同時に、初号機は固定具を引きちぎり身をよじっていた。
それでかろうじて直撃は免れたが、それでも右肩が焼かれ装甲が変形している上、アンビリカルブリッジも溶けている。
使徒は、初号機を追いそのまま横へと光線の射線をずらしてくる。
「下げて、早く。」
アンビリカルブリッジごと初号機の回収を指示するリツコ。
「ダメです。動きません。」
女性オペレーターの悲痛な叫び声が響く。
アンビリカルブリッジが熱でゆがみ、動作しないのだ。
そして残りの固定具が邪魔をしてその場を動けない初号機が、ついにその光線にさらされる。
ビルを一瞬で蒸発させるほどの威力では、初号機の張るA.T.フィールドもものの役には足りないだろう。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
誰もが初号機が光線に貫かれると思った瞬間、光線の軸線がそれた。
そこにあったのは降下してきた弐号機がそのまま槍で使徒を突き刺し、地面に押し倒している姿だった。
使徒の巨体の一部が地面にめり込んでいて、光線の放出も終わっている。
間に合わないと見たアスカはバーニアを減速でなく加速に使って急降下し、そのまま直接攻撃を仕掛けたのだ。
だが、減速なしの体当たりは、中のアスカにもとてつもない衝撃を伝えた。水よりも粘性の高いLCLが衝撃を殺していなければ、即死していただろう。
また、LCLがあっても相当の衝撃であり、それでもなんとか意識を失わなわなかったのは、奇跡的にグリップを放さなかったためだ。手を離していれば、プラグの内壁に叩き付けられて、とても只ではすまなかったはずである。
使徒はまだ活動を停止していなかった。
弐号機の攻撃でダメージは負ってはいたものの、槍は肝心のコアをそれていたのだ。
「目標が活動を再開します。」
ゆっくりと地面にめり込んだ体を震わせ出す。
対するアスカも朦朧とした意識の中で、執念で弐号機を操ろうとする。
だが、軽い脳震盪状態にあるアスカにはエヴァを操るイメージが出来ず、なかなか起きあがることが出来ない。
先にその身を起こしたのは使徒の方だった。
「目標、再度浮上。内部に再度高エネルギー反応!」
そして、再び光線を放とうとエネルギーを溜め始める。
危機を救ったのは今度は初号機だった。
ようやく、すべての固定具を自力で引きちぎり、使徒の元まで走ってきたのだ。
そしてそのまま速度を生かして使徒に体当たりし、近くのビルへとはじき飛ばす。
続いて左の貫手を使徒の槍の刺さっていた後に突き立てた。
今回の使徒はA.T.フィールドこそ強力だが体表はさほど丈夫でなかったのか、はたまた既にこれまでのダメージで弱っていたのか、意外にもあっさりと初号機の攻撃で体が砕けていく。
使徒は体を砕かれ、既に光線を放つこともできなくなったようだ。
そんな使徒にとどめを刺したのは、最後にいいとこ取りされてはかなわないとばかりに、ようやく意識を回復したアスカの駆る弐号機だった。
「そいつのとどめはアタシが刺すのよ。」
と、既に初号機の攻撃で露呈しつつあった使徒のコアに槍を突き立てたのだ。
こうして第3新東京市のを襲った3番目の使徒は活動を停止した。
「だから、言ったでしょ。このアタシに、かかれば、使徒なんて、こんなものよ・・・」
アスカはあくまで強気の姿勢を止めずにそこまで言うと、気を失った。
ただプライドが高いだけのイミテイションではなく、なかなか筋が通っている娘のようである。
発令所でのアスカの印象は悪いモノではなかった。
レイの方はというと、相変わらずの無表情で
「作戦終了。これより帰投します。」
と報告をする。
これはとても、激戦の末ようやく使徒を倒した後だとは思えないのだが、彼女らしいといえばそうだ。
「しっかし、今回は派手にぶっ壊しちゃったわね。」
そう呟くミサトの目の前には、今回の戦闘で破壊された街並みが広がっている。
過去二回の戦闘では都市にはさほど大きな被害は出なかったのだが、今回は街中でまさに格闘戦をしてしまったのだ。
被害は甚大である。
これで、第3新東京市の整備計画は、見直しを余儀なくされた。
その一方で、撃退した使徒の解体作業が早速行われつつある。
何しろ、巨大すぎてそのままでは撤去するにも持っていく先がないのだ。
サンプルとなる部分を指示すべく、解体作業を見ていたリツコが、ミサトの姿を見つけて近づいてくる。
「セカンドチルドレンの具合はどうだったの?」
エヴァパイロット達の健康管理は作戦部の管轄である。
「ん、打撲などで全治2週間、脳の方には問題なし。今は寝てるけど、明日には退院できるわ。
これでシンジ君が帰ってくれば、結構やってくれそうなメンバーだと思うんだけどね。」
「本当に帰ってくるの?彼。」
リツコはミサトのように物事を楽観視できるタイプではない。
というより、たいていの点は二人は正反対なのだ。
「私はそう信じてるわ。」
ミサトは自分に言い聞かせるようにそう答えた。
自分が家族と認めたシンジなのだから。
「六分儀よ、サードが委員会に入ったそうじゃないか。」
冬月が訝しげにゲンドウを問いただす。
「ああ。おそらくユイの遺産の一部を奴らに売って取り入ったんだろう。」
「何故今まで黙っていた?もしや奴らにこちらの計画がばれたやもしれんというのに。」
「問題はない。委員会に流れた情報もすでに把握している。」
そう言いきるゲンドウだが、冬月は不安を感じずに居られない。
向こうはこちらの計画に気付いていないのではなく、気付いていない振りをしているだけなのかも知れないのに。
もちろん今更降りることもできないという事実がある。もはや後悔などしている余裕はない。
彼女と出会ったときに既に自分の運命は決まっていたのだから。
「少なくとも、彼が戻ってくると言うことは監視の目が一つ増えると言うことだ。それも最前線での。
少しは自重してもらわんと困るぞ。」
ゲンドウの返事はない。
(やれやれ、おいそれと言うことをきかせられる相手ではないと無いということは分かっているつもりだったのだがな。)
既に15年以上のつきあいとなる相手に、今更ながら、言わずもがなのことを口にしてしまった自分に苦笑する冬月だった。
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ようやくアスカ登場。
それもいきなりレイとの共同作戦です。
出来れば二人のやりとりも入れたかったのですが。
しかし今回は非常に難産でした。
前回がすんなり出来ただけに余計にきつかった。
断片的なシーンは有るんですけどそれが全然つながらなくて・・・
弐号機を輸送した飛行艇については何も考えていないので、特定のモデルがあるわけではないです。エンジン6機の飛行艇なんて多分実在しないでしょうから。
ただ、セカンドインパクトで空港も多数水没したでしょうから、その後に開発された飛行機には飛行艇がけっこう有るんじゃないかと想像して描いています。
それと、今回はシンジの出番はほとんど無し。台詞がひとつだけでした。
次回、加持の登場に併せて復帰予定です。
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