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シンジはミサトと対決して去っていった後、監視している保安諜報部員に引き継がれる前に姿を消してしまった。
いつの間にジオフロントを出たのか、既にその姿はNERV本部には無かった。
以後はミサトのマンションにも戻っていない。
さらに、第3新東京市内に居るのかどうかさえも不明だった。
翌日、保安諜報部から処罰覚悟で司令のゲンドウにその報告が為されたが、意外にもおとがめは無く、それどころかシンジの捜索も不要という指示が返ってきた。
さらに、今後シンジが戻ってきても監視は必要ないというのである。
しかし、諜報部としても面子がある。
プロがあっさり中学生にまかれてしまいましたでは、信用に関わるのだ。
故に捜索は手空きの職員をフルに動員して続けられた。
が、一日かけてもわずかな手がかりさえ見つけられなかった。
終末を導くもの
第7回
シンジが姿を消して2日後。
シンジに変わって綾波レイをパイロットとしてのエヴァ初号機の起動実験が行われようとしていた。
零号機の度重なる暴走、そして初号機専属パイロットの失踪。
度重なるアクシデントにより稼働するエヴァを一台も持たなくなったNERVにとっては、最後の頼みの綱である。
これが失敗すれば、NERV本部には使徒に対抗する手段が存在しなくなる。
故にゲンドウがシンジの捜索が不要だという指示を出したことについてはかなりの不満が出ていたのだが、表だってゲンドウに意見するものは居なかった。
こういうあたりは、軍や警察のように厳しい階級社会であることが多分に影響している。
ゲンドウはNERV内において絶対の独裁者であった。
ゲンドウ以下冬月、ミサトなどのNERVの主要スタッフが見守る中、リツコの指示で起動実験が開始する。
これだけの人数が集まるということは、それだけせっぱ詰まった状態であるということである。
今回実験を受けるレイにはシンジが失踪したことはまだ告げられていなかったが、この陣容には何かを感じてはいるだろう。
「レイ、いいわね。」
「はい。」
「エヴァ初号機起動実験開始。」
モニターに写るレイの表情は普段と変わらない。
過去2回の暴走事故も彼女の行動に何の影響も与えているようには見えなかった。
「第1次接続開始。」
「エントリープラグ注水。」
「主電源接続。」
このあたりは順調に進む。以前、暴走した際でもこの段階で問題が起こったことはない。
「フォーマットをフェイズ2へ移行。」
「パイロット、初号機と接続開始。」
「回線開きます。」
「パルス及びハーモニクス誤差、修正範囲内。」
「シンクロ問題なし。」
「中枢神経素子にオールグリーン。」
「絶対境界線まであと、
2.0
1.6
1.3
1.0
0.7
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1・・・
突破。ボーダーラインクリアー。
エヴァ初号機、起動しました。」
まずは第1段階突破。
だが、前回の暴走は起動後に起こった。まだここで気を抜いていられない。
「シンクロ率、17.8%、プラスマイナス0.5。」
「ハーモニクスにはわずかに揺らぎが見られますが、今のところ許容範囲内です。」
今のところ問題は出ていないが、それはあくまで問題点を発見できていないにすぎないということでしかない。
まだまだエヴァには研究の余地があり、その能力を把握し切れていないのだから。
「レイ、気分はどう?」
リツコがマイクを取って、話しかける。
「問題ありません。」
「そう。じゃあ引き続いて、連動試験へ移行。いいわね。」
「はい。」
レイはそう答えるとその瞳を閉じた。
!!
プラグ内で意識を集中させているレイの意識の中に、何かのイメージが飛び込んできた。
(何?)
が、はっきりした形にならない。
それは景色のようであり、同時に人の姿のようでもあった。
少なくともレイ自身の記憶の中には、過去の起動実験においてこのようなイメージを見たということはなかった。
が、同時にかつて見たことのあるものであるような気もしている。
ならばこれは何時、何処で見たものなのか。
無意識のうちにレイはそのイメージに近づこうとしていた。
しかし近づいてもそれははっきりした姿を現しはせず、逆に周囲に溶け込んでいく。
そして、手の届くほどのところ(あくまで感覚的に)まで近づいてみると、そのイメージは霧のように広がってしまい、もはや形を捉えることは叶わなくなっていた。
「レイ。 レイッ!!」
不意に大きな声が飛び込んできたため瞳を開く。
レイの中のイメージはそこで途絶えた。
「はい。」
呼び声がリツコのものであることを認識して返事をする。
「どうしたの。」
「なんでもありません。」
「そう。まあいいわ。今日はこれぐらいにしましょう。」
連動試験はここで打ち切られた。
この起動実験が最後の頼みの綱だけあって、リツコの対応も慎重である。
結局、起動実験の結果は、シンクロ率の最高値が19.5%、平均値は18.2%とシンジには遙かに及ばない数値であった。
これではかろうじてエヴァは動いてはくれるものの、シンジほどの能力を期待することはできない。
最悪の事態こそ避けられたが、まだまだ戦力不足の感はぬぐえなかった。
コントロールルームの最前列で仁王立ちしているゲンドウのそばに冬月がやって来て、横からなにやら耳打ちをする。
「やはり、あれを呼び寄せることになるか。」
「ああ。」
ゲンドウは振り向きもせず答える。
「では、至急ドイツと連絡を取ろう。」
「いや、もう連絡済だ。」
「そうか、素早いな。」
はっきりとではなかったが、周囲のスタッフにも冬月が「やはり」などとと言っていることは聞こえた。
それでこの実験結果は司令らの予想の範疇であり、そして対応策も準備中であるらしいことが分かる。
いくらNERVが強力なピラミッド型組織といえど、無能な者にトップは務まらない。
こういうところを見せていることによりゲンドウの独裁が成り立っているのである。
夜も遅くなってから帰宅したミサトが、シンジの部屋を覗いてみる。
が、やはりシンジの姿はない。
部屋は、シンジが居た頃と何一つ変わらない。荷物も残ったままである。
荷物を残しているのは帰ってくるつもりがあるのか。
それとも、単に荷物をどうかする暇が無かっただけなのか。
そして、ダイニングキッチンに戻り冷蔵庫からビール缶を取り出す。
プシュ。
缶の口を開けてそのまま一気に飲み干す。
が、そこでミサトの口から出た言葉は、
「美味しくない・・・」
だった。
もとは化かし合いの偽装家族であったはずだ。
少なくとも同居中はそう思っていた。いや、思い込もうとしていた。
しかし、いつの間にかシンジに家族のぬくもりを感じてしまっていたミサトだった。
不機嫌なままにミサトはチェストに腰掛ける。
ただし、その手には2本目のビールが握られている。
たとえ美味しく感じられなくともビールを手放せないあたりがミサトらしい。
そして、ふとカップ麺の食べかすとビールの空き缶の積み上げられたテーブルに目を向けると、一通の封筒があることに気付く。
ミサトはこんな封筒を見た覚えはない。
「まさか?」
焦りながら、引きちぎるように封筒を開けるミサト。
中から出てきた便箋にはこう書いてあった。
前略、葛城ミサト様 先日はミサトさんが僕に余計な責任を負わせたくないためにあのように言ってくれていたのに、気づきもせずに勝手なことを言ってしまいました。 後になって気が付いて、今は反省しています。 生意気なことを言ってどうもすみませんでした。 今日までは芦屋の家の方に居たのですが連絡も入れず、心配をおかけしたと思います。 まだ後1週間ほどは手が放せないのですが、必ず帰りますので部屋はそのままにしておいて下さい。 それでは、ビールばかり飲んでお体を壊すことがないようにお気を付け下さい。 碇シンジ |
目頭が熱くなる。
シンジはここに「帰る」と言っているのだ。
「あの馬鹿、心配かけて・・・戻ってきたなら顔くらい見せなさい。
・・・ほんと、生意気ばっか・・・」
目元に光るものをため、鼻声になってミサトはそう呟く。
2本目のビールの味は、1本目とうって変わって旨かった。
真っ暗な空間に突然浮かび上がる6つの影。
テーブルを囲むような形で6人の人物が姿を現す。
その一人はゲンドウであった。
「第4使徒についての報告は先にお送りした資料の通りです。何かご質問は?」
ここはNERVの上位組織である人類補完委員会の報告会。
ネットワークで繋がった仮想会議場で開かれている。
「いや。六分儀君、今日はその前に我々の新しいメンバーを紹介しよう。」
ゲンドウの正面に位置する奇妙なゴーグルのような物を付けた男がそう言うと、6人の輪から少し離れた場所に新たな人物の姿が浮かび上がる。
その人物は、他の委員会メンバーと比べて非常に若い。それも、少年と言っていいほどの年齢である。
「いや、君には紹介するまでもなかったかな?」
明らかに嘲笑を含む声で揶揄されるが、ゲンドウはあいも変わらずの鉄面皮である。
全く驚いていないわけではないのだろうが、それを表に出さないスタイルを確立してしまっている。
もちろんその人物はゲンドウのよく知っている者だ。
「碇です。よろしく、六分儀司令。」
微笑を浮かべて自己紹介をしたその人物は・・・そう、3日前に失踪したサードチルドレン、碇シンジだった。
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あとがきのようなもの
ようやく秘密の一端が明らかになりつつあります。ただその分、新しい謎も出てきましたが。
しかし、未だにシンジがうまく描けていない。(それなら他のキャラクターはうまく描けているのかと突っ込まれそうですが)
一応シンジのキャラクターのイメージは、「グインサーガ」のアルド・ナリスの若い頃を口うるさくすると、という感じなんですが、全然それらしくなってません。
他人をたらし込んで使うなど、びしばし暗躍させたいんですけど。
しかし、シンジの委員会入りは今までどこの誰もやったことがないアイデアのはず。
もっともこういう設定だけはやたらとあるんですが、全然消化できてないんですけどね。
それから、お待たせしました。次回ようやくアスカ登場です。
ただ、これから書き始めるのでいつ完成するかは未定ですが・・・
感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで