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NERV本部の中でも最深部にあたる場所に二つの影があった。
ターミナルドグマ。
それがその場所の名である。
ここに入ることを許された人間はNERV内でも数えるほどしかいなかった。
室内は暗く、人影からはその顔を判別できない。
「彼は、私たちの味方なのですか。・・・それとも・・・」
おそらく女性であろう背の低い方の影のつぶやく声が室内に響いていく。
対するもう一つの影は無言である。
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終末を導くもの



第三回







翌朝、ミサトとシンジがネルフ本部に来てみると、やはりというかゲンドウは現在の日本の首都である第2新東京市に行っており不在だった。
どうやら、ゲンドウは政府から呼び出しを食らったらしい。
副司令によると、数日は帰ってこれないとのことだった。


さて、代わってシンジを待っていたのはエヴァのシンクロテストと、昨日は時間がなく省略されていた、エヴァやその他の迎撃システムのレクチャーだった。
すでにシンジには、昨日の今日で、エヴァ用のパイロットスーツであるプラグスーツが用意されていた。これは、パイロットとエヴァのシンクロを阻害せずに生命維持機能などを持たせた密着型の服で、完全なオーダーメイドである。


その一方で、昨日倒したばかりの使徒(第3使徒サキエルと命名された)の解体・分析作業が行われていた。
が、分析を始めようとして、使徒の体から破壊されたコアの部分がごっそり無くなっていることが判明し、大騒ぎになっていた。
少なくとも昨日シンジが倒した直後には、破壊はされていたが、はっきりと残骸が確認されている。
しかし、使徒の活動停止が確認された後は各種エネルギー反応が計測されていなかったため、情報が不足していたのだ。
そのため赤木リツコをはじめとする技術部スタッフは昨晩から完徹である。そして、いつ解放されるか見当も付かない状況でもあった。


「エヴァは通常、背中のアンビリカルケーブル経由で供給される電力で動いているの。
 もし、ケーブルの断線などで外部からの電力供給が断たれた場合、内部電源による活動に切り替わるわ。
 この場合には内臓電池の容量の関係で、全力で1分、ゲインを利用しても5分間しか電池が持たないの。だから、これは緊急時の保険程度に考えておいて。」
「はい。」
ブリーフィングルームで、ミサトがシンジのエヴァのシステムについてのレクチャーを行っている。
本来なら、こういう場面には技術部のスタッフも一緒にいるべきなのだが、今は第3使徒の騒ぎで全くその余裕がない状態である。

さて、シンジはこのレクチャーでも非常に飲み込みが早く、1を教えれば10を知るといった具合で、半日ほどの間にほとんど教えることがなくなってしまった。


続いてのシンクロテストについては、さすがに技術部のスタッフがいないと行うことはできない。
エヴァはシンクロ率が高いほどその能力が高まるので、よりシンクロ率が上げれるよう、常に微調整を行う必要があるからだ。
ようやく使徒の件が一段落ついたのか、夕方にはどうにかシンクロテストの段取りが整っていた。

NERV第7ケイジ。
「これより、初号機の起動実験を行います。」
「第1次接続開始。」
「主電源コンタクト。」
「フォーマットをフェイズ2へ移行。」
「パイロット、初号機と接続開始。」
「回線開きます。」
「パルス及びハーモニクス正常。」「シンクロ問題なし。」
「中枢神経素子に異常なし。」
「絶対境界線まであと、
 2.5
 1.7
 1.5
 1.2
 0.9
 0.6
 0.5
 0.4
 0.3
 0.2
 0.1・・・
 突破。ボーダーラインクリアー。
 初号機、起動しました。」
「引き続き、連動試験に移ります。」
スタッフの緊張が和らぐ。
昨日のような非常時でなくとも無事、初号機は起動した。
「ふう・・・昨日のが、まぐれじゃなくって良かったわ。」
「そうね。それも、相変わらず大した数値を出してるわね。」
計測されているシンクロ率は71.1%。
昨日にはわずかに及ばないものの、それでも十分に高い数値である。
細かな調整をすればもっと上げることが可能だろう。
ファースト、セカンドチルドレンがエヴァを起動できるまでには半年以上かかっている。
さらに、その際のシンクロ率は20%にも満たなかったのにである。

国連軍の攻撃をものともしなかった使徒。
絶望的なまでに強力な人類の敵である。

だが、少年の乗るエヴァならば何とかしてくれるかもしれない。
昨日の少年の完璧なまでの戦いぶりは、皆にそう思わせるに十分なものだったのだから。

そして人々は少年に期待する。

少年の意志に関係なく。



「やっぱり、彼、不自然じゃない?」
テストも順調に進み、人心地ついたころ、モニターに写るシンジの姿を見ながらリツコがコーヒーを片手にミサトに話しかける。
「何が?」
「何がもなにも。昨日の初出撃から、今現在まで彼に関わるすべての事よ。
 初搭乗でのシンクロ率の異様なまでの高さ、エヴァの機能や使徒の能力をあらかじめ知っていたような戦いぶり、今日のレクチャーでの飲み込みの早さ。どれをとっても、自然とは言えないわ。」
「まあ、ちょーっと出来過ぎという気はするけど、才能があったって事じゃないの?」
お気楽そうなミサトの返事にあきれながら、リツコが反論する。
「少なくとも、ここに来るまでの彼の学校の成績を見る限りでは、とても飲み込みが速いタイプだとは思えないわ。」
「そう?でも、いきなりエヴァを動かせたのはあの子の才能でしょ。」
リツコは何が言いたいのか。
そう答えながらミサトは考え込んでいたが、ようやく結論に至ったようだ。
「まさかリツコ、あの子を疑ってるの?私は結構いい子だと思うけど。」
「いい子かどうかは別にして、何か裏があるのは間違いないでしょう?
 寝首をかかれてからでは遅いのよ。」
リツコが辛辣に反論してくる。
対してミサトが血相を変えて言う。
「私にそのあたりを調べろっていうの?
 あんたいつから諜報部へ鞍替えしたのよ。」
「ここの諜報部があてにならないのはあなたも知ってるでしょ。
 だいたい、彼に何かあって真っ先に困るのは、うちかあなたの所じゃない。」
ミサトの皮肉もリツコには通じない。
「だから、昨日アタシがシンジ君を引き取るのに賛成したのね。」

ミサトはしばらく考え込んでいたが、シンジが何かを隠しているのは間違いないので、結局は渋々承知する。
例えば、昨日の戦闘でシンジが迷わず使徒の急所であるコアのみを攻撃したこと。
ミサトは、昨日の出撃の際にはシンジにそこまで説明してはいない。
その他にも、いくつか気になる点がある。
「まあ、あの親の子だから、何か裏があってもおかしくはないけど。」
ミサトは冗談めかして言っているが、そのことについてはリツコも考えている。
少なくとも、ミサトよりも何十倍も真剣に。
今日の使徒のコア紛失騒ぎも、最後に使徒に触れたのはシンジの乗る初号機だったのだ。
もちろん、初号機のレコーダにはなにも記録はされていない。
だが、彼の父親ならば、そのあたりの事実の隠蔽など造作もないことだから。
リツコはそんなことを考えていたが、口からでてきたのは別の言葉だった。
「利用している相手に感情移入すると、後が辛いわよ。」
「分かってる。わざわざ言われなくてもね。」
ミサトもそれならリツコが一緒に住めば良かったのよ、とは言わなかった。

結局、その後に副司令からもシンジの監視を命じられたため、ミサトは新たに言い訳を考える必要が無くなった。
自分に監視させるぐらいなら、司令が同居して見張ればいいのではないかと思わないでもなかったが、シンジとの同居を言い出したのは自分からなので何も言えなかった。
「これも仕事のうち・・、か・・・・」だが、それは彼女がシンジを引き取ることにした理由に反するものであることも分かっていた。



あまりの飲み込みの速さに時間に余裕のできたシンジについては、早速転入手続きがとられ、近くの第1中学校に編入されることとなった。
それでもしばらくは、毎日、昼は学校、放課後はNERVでテストや訓練ということになるが。


さて、シンジが転校してきてから数日が過ぎていた。
シンジのクラス2年A組の教室では、今日も年輩の数学教師がいつものように授業そっちのけでもう何度目になるか分からない昔話をしている。
「・・・それが世に言うセカンドインパクトなのであります。丁度そのころ私は根府川に住んでいましてね・・・」
この教師は、一度昔話を始めると、頭が完全に過去にタイムスリップしてしまい、周囲の状況が気にならなくなるらしい。それをいいことに、生徒たちは席は立たない程度に結構好き勝手なことをしている。
そんな中、シンジの端末にクラスメートからのメールが届いた。

『碇君があのロボットのパイロットだって言うのは本当?Y/N』

先日の使徒襲撃以来、その被害を怖れて第3新東京市を離れて疎開する者も多く、この数日のうちに転校していった生徒は数知れなかった。
そこに、逆に転入してきたシンジは格好の噂の的であった。
ただ、シンジから積極的にクラスメートと交わろうとしなかったし、シンジには何か不思議な雰囲気があり、この数日、誰も声をかけられずにいたのだ。
一方で、この街に住む人間のほとんどは何らかの形でNERVに関与しており、NERVの機密事項が漏れてしまうのは、ある意味仕方がないことだった。
実際、シンジにメールを送ってきた女生徒は、NERVの総務部職員の娘であった。

だが、シンジはそのメールを黙殺する。
再度メールが送られてくるが、あくまでシンジは無視。
それがしばらく続くうちに、メールの送り主はしびれを切らし、休み時間になって直接聞いてきた。
「ねえ、無視しないで答えてよ。碇君が例のロボットのパイロットなんでしょ。」
シンジが無視し続けたことに腹を立てたのか、怒ったように言ってくる。
対してシンジはあくまで冷静である。
「関わっていることは本当だけど、それ以上は何も言えないんだ。機密だから。」
が、そんなことはお構いなしに、質問が浴びせられる。
「ねえねえ、どうやって選ばれたの?テストとかあった?」
さらに話を聞きつけた他の生徒も集まってきて、あっというまにシンジのまわりに人だかりが出来る。
「街を襲ってきたあの怪物って何なの?」
「あのロボットの名前は?」
「あの怪物はまた来るのか?」

生徒ののほとんどはシンジの周囲に集まっていたが、それに混じらない影が二つ。
一人は人混みには混じろうとせず、しかし、話に聞き耳を立ててつぶさに自分の端末に打ち込んでいる丸い眼鏡の少年。
もう一人が、シンジを憮然とした表情で見つめる黒いジャージ姿の少年である。



「転校生の碇って奴はどいつだ。」
昼休みになり、昼食を取ろうとしたシンジを教室の入り口から呼ぶ声がする。
何事かと振り向くと、入り口に3人の男子生徒が立っている。
どうやら3年生のようだ。
たまたま入り口近くにいた女生徒が3人組に捕まり、仕方なくシンジの方を指差した。
シンジは嫌そうに立ち上がる。
「僕に何か用ですか?」

「ちょっと、話がある。顔貸せ。」
3人組のリーダー格なのだろう、中でも一番長身の長髪の男が顎で指図する。
シンジは芝居がかった様子で、いかにも不当な扱いを受けているという態度ながら3人について行く。

「先公にちくるなよ。」
教師に知らせに行こうとした生徒が居たが、その前に釘を差されてしまう。
3人組はこういったことには手慣れた様子である。

仕方なく、黙って動けずにいるクラスメートたち。

ただ、2人のみがしばらくしてから後を追っていった。



テニスコート裏。
学校内でもっとも人通りの少ない場所の一つである。

3人組がシンジを取り囲んでいる。
「お前、例のロボットのパイロットだってな。」
「悪いですけど事情があって、それには答えられません。」
シンジの立場はその通りなのだが、といってそんな回答の仕方はない。
案の定、長髪は苛ついてシンジの胸元をつかみあげる。
「こら、お前、なめてやがるのか?」
長髪はさすがに年季が入っているのかなかなかに迫力のある調子でにらみつける。

「そういうつもりはないですけど、こっちにも事情があって・・・ぐっ。」
シンジがそう答えようとするが、途中、長髪の右の拳がシンジの腹にめり込み、一旦は言葉を詰まらせる。
が、腹を押さえながらもなんとか答えきる。
「ほいほいとしゃべる訳には・・・いかないんだって・・・。」
そして息を整え直して言う。が、一瞬口調が変わっている。
「話はこれで終わりですか?なら、もう帰りますよ。」

「待てよ。」
殴っても態度を変えようとしないシンジにさらに苛立ってか、長髪がもう一発殴りかかる。
が、その瞬間シンジの体は長髪の視界から消えていた。
もちろん消えたというのは、長髪の感覚での話だ。
ともかく目標を見失った長髪はパンチの勢いを止めることができない。そして、そのままシンジの後ろに回り込んでいたはずの仲間の一人にぶつかってしまう。
シンジは長髪のパンチが怒りで大振りになった隙をついて、その背後に体を入れ替えていたのだ。長髪の目からはシンジが消えたように見えたのは、長髪の振りかぶった腕により死角になるようシンジが動いたためである。

そしてぶつかった2人はそのまま絡まって倒れ、残ったもう一人も倒れる2人をよけてあわてて跳びずさったためバランスを崩し、結局は尻餅をついていた。
ちなみに跳びずさったやつには、仲間を受け止めるという発想はないらしい。所詮そういうつながりの仲間と言うことのようだ。

「ってて。よくもやってくれたな。」
長髪が起きあがりながら睨み付ける。
「言っときますけど、そっちが先に手を出したんですよ。」



「ちょっとまてや!」
シンジと3人組の対決必至というその場面に、黒い影が割り込んでくる。

「1人に3人がかりとは、卑怯やないか?」
そこに現れたのは、シンジのクラスメートの黒いジャージの少年である。
さらにその後ろ、少し離れてデジタルカメラを手にした眼鏡の少年もいる。

「お前ら、関係ないだろ。邪魔するな。」
3人組がうっとうしそうに、ぷらぷらと手を振って追い返そうとする。

が、ジャージの少年は引く気など毛頭ない。
「こないだなったばっかしでも、一応クラスメートや。見殺しにしたら寝覚めが悪いからな。」
「先輩方、これ以上は止めといた方がいいですよ。さっき、転校生をなぐってた証拠写真もありますし。」
眼鏡の少年がカメラを指差して言う。


割り込んできた二人に勢いを止められた長髪だが、口だけは勢いが消えていない。
「例のロボット騒ぎに巻き込まれて、俺のうちはぶっ壊されたんだ。原因のそいつを1発や2発殴って何処が悪い。」

「それは残念なことですけど・・・、だからって、そんなことで何発も殴られるつもりは毛頭ないですよ。
 責任が誰にあるのかはっきりしなくて怒りのはけ口が無いのは分かりますけど、僕もそんなお人好しじゃあありませんからね。」
シンジはあくまで正論を続ける。
が、それで納得するような人間なら最初から絡んできたりはしない。

「うるせー。
 それでもおまえを殴らないと、気が済まんねーんだよ。」
長髪はもう一度シンジに殴りかかる。

ジャージの少年がそれを止めようと動くよりも前に、シンジは行動を開始していた。
「仕方ない。」

長髪の右ごぶしをすんででかわし、その腕に自分の腕を絡めて引く。
「これ以上殴らせる義理はないから。」
同時に長髪の軸足を刈る。

瞬間、長髪の体は宙を舞い、そして、地面にたたきつけられた。

残る二人は加勢しようとしたが、ジャージの少年に牽制されてそうもいかない。


「覚えてろよ。この落とし前は必ずつけてやるからな。」
結局、3人組はありきたりな捨てぜりふを残して走り去った。



「へえ、やるもんだね。」
「ほんまや。わしらが手え貸す必要なかったんちゃうか。」
シンジの見事な投げに感心した風なジャージと眼鏡の二人組。
「いや、助かったよ。さすがに3人相手だときついから。」

「まあ、半分謙遜として受とっておくけど、確かにマンチェスターの方程式なら戦力比は9倍だしな。」
眼鏡の方がなにやら独自の納得の仕方をしている。

「えーと・・・、ごめん、なんてったけ。」
「ああ、まだ名前、言ってなかったな。俺は相田ケンスケ。」
眼鏡の方が名乗ったのを受けて、ジャージの少年も後に続く。
「わしは鈴原トウジや。」

「じゃあ、改めてありがとう。相田君、鈴原君。」

「そんなむずかゆいような呼びかた止めてくれや。トウジでええわ。」
「俺もケンスケでいいよ。」

「そう?じゃあ、僕もシンジでいいよ。」




それから少しして、シンジ、ケンスケ、トウジの3人は昼食を取るべく屋上に来ていた。

シンジは結局この2人には正直にエヴァのパイロットであるということを明かした。
クラスにあれほど情報が漏れている以上、今更隠しても仕方ないと観念したと言うこともある。
もっとも、場所が屋上であったということも理由の一つに含まれている。
ここは、学校内では監視の目の届かない数少ない場所だったから。


昼食後に人心地ついてから、ケンスケが好奇心丸出しでシンジに質問してくる。
「ふうん。じゃあ、エヴァってのが例のロボットの名前なんだな。」
「正しくは、汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンって赤木博士が呼んでた。でも、普段はそう略してるみたいだね。」
「ふーん。で、街に襲って来た敵の正体は?」
「よく分からないんだ。NERVでは、使徒って呼んでるけど・・・」
「なんや、当てにならん話やな。」
「末端のパイロットには、あんまり詳しいこと教えてくれないよ。
 まあ、僕の口から機密が漏れてほしくないってこともあるんだろうけど。」
シンジは苦笑して答える。
「それじゃ、やっぱり碇がパイロットなんだな。どうやって選ばれたんだ?」
「この間、急にNERVに呼ばれて来たら、いきなりエヴァに乗って戦えって言われて・・・そのまま出撃。
 結局色々あったから何で僕が選ばれたのかまでは聞いてない。」
「なんだ?訓練もなしに実戦に出されたのか?NERVってとこも、結構無茶苦茶だなぁ。」
「うん。でも、戦自は足止め程度しかできなかったし、エヴァを動かせる人間は僕を含めてまだ世界中に3人しか見つかっていないらしいから。」
「ふーん。選ばれたヒーローって訳か。やっぱ、すげえよなあ。」
「確かに、エヴァのパイロットは、まだ世界に僕を含めて3人しか見つかっては居ないし、そのうち一人はドイツにいて、もう一人は入院中・・・実質的には僕たった一人という状態だから、確かに『特別』といえばそうかも知れない。
 ただそのせいで、普段から護衛兼監視の黒服の諜報部員が見張ってるんだ。今だって、学校の周辺に黒服が張り付いてるよ。
 それに、いつ呼び出しがかかるか分からないから、勝手に市外に出ることも許可されないし。
 だから、どっちかって言うと、かごの中の鳥って感じかな。
 あんまりヒーローって感じじゃないよ。」
シンジは結構あっさりと答えたが、その内容は残る2人に衝撃を与えた。


少しの間をおいた後、トウジが意を決したように言う。
「すまんかった。ワシは最初お前のこと、なんやすかした、いけすかん奴やとおもとったんや・・・。せやけど、なんや、えらい大変な目におうとるみたいやな。」
「いや、そんな、僕自身、結構状況を楽しんでるつもりだし。」
「ホンマはな、お前が調子に乗ってしょうもないことぬかすような奴やったら、あの先輩らと同じで一発どついたろと思とったんや。
 せやけど、そうしたら護衛の黒服にとっ捕まっとったかもしれんな。」
最後は身振りを加えて冗談めかして言う。
これはシンジの特殊な事情に対しての、彼なりの気遣いなのだろう。
「ま、これからよろしゅうたのむわ。」
と、手を差し出してくる。
「こっちこそ、よろしく。」
握手で返すシンジその手に、さらにケンスケの手が重ねられる。
「俺も忘れないでくれよ。」
3人はがっちりと握手をするのだった。


結構感動的なところだったが、そこでケンスケがポロッと一言漏らす。
「でも、俺達余計なことを知ったって、まさか黒服に消されたりしないよな?」
もちろん冗談なのだが、表情を見ると一部に本気も混じっているようだ。上級生を脅したりする割には意外に小心者である。

「さあどうだろ。結構危ないんじゃない?
 なんてね。」
シンジもおどけて答える。


青空の下、3人の少年の笑い声が響いた。




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あとがきのようなもの


シンジとトウジ、ケンスケとの出会いはまたまた違う展開をしてしまいました。
さらに当初の公開時より25%増しというサイズ。
トウジの妹を出さずにどうやって友達にさせるかというのはなかなか難しいのですが、やっぱりうまくいってません。




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