「葛城1尉、まだ来てないよな。」
「そうだな。まあ、あの人のことだから、また二日酔いか寝坊じゃないの?」
「ホント、ずぼらですよね、あの人。」
発令所において、待機中のオペレーターたちが話している。
「今日中に昨日の報告書出さないといけないのに。やっぱり、今度もまた俺が代わりに作らないといけないんだろうなあ。」
そう愚痴をこぼしているのはミサトの直属の部下、日向だ。
「いいかげんあきらめろよ。ああいう上司の下についちまったんだから、仕方ないってさ。」
ギターを抱えたまますぐ横の席に座る青葉がそう答える。
そうしていると通話機の呼び出し音が突然鳴る。
通信士である青葉がすぐさま出る。
「日向2尉に外線。警察から、葛城1尉の事でらしいけど。」
と、日向に受話器を渡す。
そう言えば遅刻の理由としては、二日酔いと寝坊以外に道路交通法違反という線もありうるなと思いながら電話に出る日向。
「はい、そうです。え?なんですか。はい、葛城はうちの上司ですけど。はあ?」
なにやら話が要領を得ない。
なにやら子供がどうだとか、指紋が一致しているだのIDカードがどうだとか言っているようだが、警察の方も混乱しているようで肝心の用件が一向に伝わってこない。
そうこうしているうちにおそらく業を煮やしたのだろう、直接電話にミサトが出てきた。(きっと無理矢理受話器を奪ったはずである。)
『日向君。悪いけど迎えに来て〜。』
受話器から聞こえるその声は妙にトーンが高いような気がしたが、電話だからかと思い深く考えない日向。
そのため、まだこれから起こる騒動に気づいてはいなかった。
ミサト14
MI SA TO 14
第2話
かなりのすったもんだを経て、ようやくミサトがNERV本部に到着した。
一応、本人だということは、指紋とその特徴的な行動から認めさせたらしい。
だが、続いて発令所で待ち受けていたのは不気味にメガネを輝かせて怪しい笑みを浮かべているリツコだった。
「うふふふふ。ミサト、こんな非常識なことしでかすなんて、私の今の気持ちが分かるかしら?」
なにやら身の危険を感じて後ずさるミサト。
「ちょ、ちょ、ちょっと、赤木博士?」
来る前にある程度予想はしていたのだが、それでもまさか自分の親友がここまでマッドが入っているとは考えていなかった。自分がその対象になってみて、ようやくその事実に気付き驚いていた。
なお、そのまわりには「あのナイスバディが、なんで一夜にして発育不良に・・・」などと燃え尽きた表情でぶつぶつ呟く眼鏡や、今までと違って妙にこちらを気にして色目を使ってきているロンゲなどが居たのだが、最初からミサトの視界には入っていない。
ミサトの神経のすべては正面のリツコを警戒するために使われていた。
リツコが怪しげな笑みを浮かべたまま口を開く。
「マヤ。」
リツコのその声を聞いてはっと後ろを振り向くミサト。
ミサトの背後には、怪しげな薬品の入っていそうな注射器をミサトの腕に刺そうとして待ちかまえているマヤの姿があった。
「葛城さん、ごめんなさい。」
とっさに飛び退くミサト。
「ごめんなさいって、どういうことよ。謝らなきゃなんないほど、危ない薬なんじゃないの?」
「えーと・・・」
マヤが一瞬言い淀む。だが、ちらりとリツコの方を見ると、
「やっぱり、ごめんなさい。」
どうやら図星だったらしい。誤魔化すように、先程と同じく注射器を突き刺そうとミサトへと突っ込んでくる。
「大丈夫よ。ミサトなら、きっと。」
リツコも何処から出したものか、怪しげな薬品をガーゼに染み込ませようとしている。
しかし、リツコの大丈夫という言葉には本来何の根拠もないはずなのだが、相手がミサトだとなんとなくそうかなあという気がしないでもない。
それはともかく、発令所中を舞台にして大騒ぎになるのだが、さすがに運動神経ではマヤ&リツコがミサトに到底敵うはずもない。
それから十分あまり他の職員たちを巻き込んでの追い駆け合いが続いた。
その間、逃げるミサトに足蹴にされたり、盾にされてミサトの代わりにマヤの注射器の餌食になった職員などが続出。
だが、デスクワークしかしていない2人には結局ミサトを捕まえることは出来ず、
「ぜーっ、ぜーっ・・・・う、運動機能は、衰えるどころか上がってるのね。」
「せんぱあい。私ももうだめです。」
ということで、結局無理矢理というのは諦めざるをえなかった。
しかしこの騒ぎでリツコに対するNERV職員の評価が大きく変わったことは間違いない。
「へっへぇん。おばさんたちはダメねぇ。」
まだまだ元気にそう挑発してみせるミサト。
が、たとえ逃げ切ったとしても、結局は検査をしてもらわなければならないのことをすっかり忘れているようだ。
放課後になってさすがにミサトのことが心配でNERV本部にやってきたシンジ。
だが、そのミサトの居場所が分からない。
普段出入りする発令所やミサトの個室を覗いてみたがその姿を見つけられず途方に暮れていた。
元々シンジはエヴァに乗ることに苦痛を感じているため、必要以上にNERV本部内に居たことがない。そのためジオフロント内の地理にはかなり不案内だった。
さらにミサト以外に気安く声をかけることの出来る相手も居ないので、誰かに聞くということも彼の性格としては出来ない。
そんな自分の性格に自己嫌悪しながらあてもなく歩き回っているうちに、ふとNERVの総合病院の存在を思い出した。
「そうか。検査とかするならきっと病院だよな。」
突然ひらめいたアイデアに自分で納得しながらその足を病院へと向ける。
あまりうれしい話ではないが、シンジは病院には何度も運び込まれているので、NERVの中でもその場所だけはよく分かっているのだ。
「あれ?」
総合病院の前に来たシンジはそこでミサトではなく自分と同じエヴァパイロットである少女の姿を見つける。
彼女は今日は朝から学校へ来ていなかったのだが、病院にでも行っていたのだろうかとシンジは考えた。
「あ、あの、綾波。」
名を呼ばれて初めてシンジの方を向く綾波レイ。
「何?」
相変わらずの敵意さえ含んでいるようにさえ感じるその返事に一瞬たじろいだシンジ。
前回の第5使徒との戦闘で少しはレイとうち解けたつもりだったのだが、彼女の相変わらずの様子にどう声をかけていいのか分からない。
「い、いや、ミサトさん見なかった?」
かろうじてそれだけ声に出す。
「見てないわ。」
「そう。」
せっかく思いついたこの病院もはずれだったのかと落ち込むシンジ。
それでも念のため病院の受付で聞くだけ聞いてみることにする。
それは受付の女性は何度か顔を合わしていたので声をかけやすかったからではあるのだが。
「あら、碇君。どうしたの?」
受付の女性がロビーに入ってきたシンジの姿を認めて声をかけてきた。
彼女は結構人なつっこい笑顔が印象的な女性で、まだ二十歳過ぎといったところだろうか。ややカールさせた栗色の髪がさらに彼女の印象を明るく見せている。
「それに綾波さんまで。」
「え?」
そう言われて振り向いてみて、シンジは初めて後ろにレイが付いてきていたことに気づく。
「綾波、どうして?」
いつもながらの他人を寄せ付けない態度に、まさかレイがついてきているなどとは思っても見なかったシンジだったが、レイの次の一言でその疑問も氷解する。
「私も葛城一尉を探しているの。」
「なんだ、そうだったんだ。」
ただ、綾波がミサトさんを探すなんて意外なこともあるもんだなと思いはするのだが。
一方せっかく声をかけたのに無視されるようになった受付嬢――名札には桑原とある――が口を挟んでくる。
「どうしたの?葛城さんのこと?」
「知ってるんですか?」
「ええ、私が直接見たワケじゃないけど、赤木博士とかが大勢で葛城さんから採取した献体を検査部に持っていってたみたいよ。でも、あれって結局何だったのかしら。」
シンジにはその騒ぎの原因は分かっていたがさすがに口には出来ない。
もとより言ったところで実物を見なければ誰も信じないだろう。
「でも、それじゃあミサトさんが今何処にいるかは分からないですね。」
「そうね。ごめんなさ・・・・
あ、そうだ。ちょっと待ってて。」
桑原が何かを思いだして、手元の端末を操作し出す。
「えーと・・・・・・・確か・・・ああ、出た出た。
検査結果なんだけど、少し前に司令執務室の方に報告が送られているわ。」
「父さんの所に?」
一瞬意外に思ったシンジだが、確かにミサト「父「父「父「父「父「父「父「父けにはいかないだろうと思い直す。
「あ、ありがとうございました。行ってみます。」
「いいえ、どういたしまして。」
そうにっこりほほえみ返されて一瞬どぎまぎしてしまうシンジ。
その後ろではレイが不思議そうにそんなシンジの様子を見ていた。
司令執務室もシンジは場所を知っている。
しかし、その場所はシンジがもっとも行きづらく思っている場所でもあった。
正確にはこの部屋の主が苦手なのであるが。
そんなわけで部屋の前まで来たところで自然と足が止まってしまうシンジ。
「あれ、シンジ君。」
そんなシンジを呼ぶ声がする。声のする方へ顔を上げるシンジ。ミサトとその後ろにリツコが居る。
「それにレイも居るのね。」
ようやくミサトを発見できてほっとするシンジ。
だが、
「あなた、誰?」
レイはミサトが若返ったことを知らない。
ミサトはそこでまた良からぬことを考えたのか、
「へっへーん、誰だと思う〜?」
と言いつつ、シンジの腕に抱きついた。
それを見たレイがわずかに表情を堅くする。
「わ、わ、やめてよ、ミサトさん。」
シンジはあわてて振りほどこうとするが、ミサトは放そうとしない。
「いいじゃない。私とシンちゃんの仲なんだしぃ。」
レイを見るとなにやら怒っているように思えるのだが、シンジにはその理由が分からない。そしてそこでどうしたらいいのか分からず固まってしまっている。
ミサトはそれをいいことにレイを挑発し続けと、レイは自分の感情を持て余しているのか、どうしていいのか分からずその表情にわずかに不快感を表すのがやっとだった。
ポコ。
「いい加減になさい。」
丸めた書類でリツコがミサトの頭を叩いた。
それで仕方なくといった感じでミサトがシンジから離れ、シンジはほっとため息をつく。
「えへへ、ゴメンね、レイ。私、こんな姿だけど、葛城ミサトなのよ。」
「本当よ。ミサトらしく非常識というか、なんというか…」
同意するリツコの口調がキツめなのは、おそらくミサトの検査を好きなようにできなかったせいだろう。
「葛城一尉・・・ですか。」
レイもその風貌にミサトの面影を認めたらしい。リツコの言葉と併せて何とか納得したようだ。
「そ。なんだかよく分かんないけど、今朝起きたらこうなっちゃてたのよね〜。」
「・・・あの、それで、原因とかは?」
シンジがそう尋ねるのだが、
「それについては今から司令に報告するとこだから、一緒に入りましょう。」
リツコにそう言われて後回しに。
「作戦部、葛城一尉他3名、入ります。」
やたら元気に司令室に入っていくミサト。
後にリツコ、シンジ、レイがぞろぞろと付いていく。
「来たか。」
机を前にして座って、いつものポーズで睨みを利かせているゲンドウ。そしていつものように冬月が斜め後方に立っている。
(・・・むう。)
ゲンドウらは既に検査結果を受け取っていたとはいえ、さすがに若返ってミサトを見てわずかに驚いているのだが、ミサトやシンジには感じさせない程度だった。伊達にNERVの司令を何年もやっていない。
(ちっ。)
が、ミサトはゲンドウが驚きあわてふためくのを期待していたのでこっそりと舌打ちしていた。
そんなことは無視するようにリツコが報告を行う。
「本日早朝より、葛城一尉の身体は、14歳当時の状態に変化していることが確認されました。本日行った検査のうち結果が出ているものは既に転送したとおりです。ご覧の通り、今のところ原因は不明です。最終的な結論はすべての検査結果の出揃う3日後になります。」
「そうか。ならば・・・・・・葛城一尉、君には当面作戦部長の任から離れてもらう。」
「えっ!?」
「そんな!!」
しかしゲンドウの反応は、
「もはやこれは決定事項だ。」
とりつくしまもなかった。
あとがきのようなもの
あうあう。
(もろもろの事情があり)ただでさえ最近筆が進まなくなっているのに新作なんて始めるんじゃなかった。
愚痴はさておき、原作第七話から分岐のこのシリーズ。実はシンジ×ミサトものを目指しているわけではありません。あくまでミサト補完ものということが決まっているのみです。
その割には肝心のミサトの出番が今一つだったりしています。
それに全体としてノリも悪いですし、せっかくの素材をうまく消化できてません。引きも結構シリアス系だし。
次はアスカ登場の予定です。(あくまで予定)
感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで