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「赤木博士のこの報告データだが、おそらくダミーだろうな。」
机の上の報告書を冬月の方へと放り投げるゲンドウ。
冬月はそれを受け取ると、ぱらぱらとめくってみせる。
「エヴァによらない補完計画の可能性か。確かに独占したくなる気も分からんでもないが。
 しかし、葛城博士も厄介なものを残してくれたものだ…」
「まあよい。ことがゼーレの耳に入る前に処理出来さえすれば、とりあえずは問題ない。」
「だが、彼女の後任はどうするつもりだ?」
「既に目星は付けてある。次の使徒襲来までには間に合う。」

相変わらず、暗い部屋でごそごそとやってる二人。
会話も含めて怪しいこと極まりない。
ともかく、ミサトいきなりの解任劇の裏にはこのような会話があった。






ミサト14
MI SA TO 14

第3話





結局、ゲンドウらに作戦部長解任を言い渡されたミサトは、シンジらとともにNERVのラウンジに来ていた。
元々の趣旨は不幸続きのミサトを慰めようと言うものだったのだが、実のところ、誰もミサトにかけるべき言葉を持たなかった。
ということで、どんよりと澱みながらも緊迫した雰囲気の中、皆、黙々と飲み物を飲んでいる。
ミサトはできることならやけ酒と行きたかったのだろうが、若返ってアルコール類を舌が受け付けなくなってしまっていたため、やむなくフルーツジュースをあおっている。
その胸元には父の形見である銀のロザリオがいつものように輝いている。
なお、リツコはブラックの珈琲、シンジはアイスレモンティ、そしてレイは水である。

「そう言えば、綾波は何かミサトさんに用があったんじゃなかったっけ?」
沈黙に耐えられなくなったシンジが、思いだしたようにそんなことを話題にする。
だが、紅い瞳の少女の返事は
「もういいわ。私が用があったのは作戦部長にだから。」
(ミサトにはその時のレイの顔が、ゲンドウ譲りの「ニヤリ」という表情に見えたらしい。)
というもので、ミサトにさらなる追い打ちをかけてしまう。

「けっ、どうせ私はもう作戦部長じゃありませんよ。」

とか、隅の方でぶつくさ言っているミサト。
「ああ。」
シンジはフォローのしようもなく、おろおろとするだけ。
リツコはというと、先頃からずっと何や思案している模様だ。

実のところ、ミサト自身、自分がこのような姿になってしまった以上、作戦部長の責が果たせるとは思ってはいない。
今のこの姿ではざっと考えただけでも両手の指では足りないほどの数の問題が思い当たる。
これでは元の状態に戻れるまではどうしようもないことだろう。
そして今のところは3日後に出るはずのすべての検査結果を待つしかなく、しかも検査結果が出たからといってそれですぐに元通りに戻れるというわけでもない。
とりあえず、今日出ている検査結果では体組織は安定しているということだし、自覚できる不調もないので、しばらくは大丈夫だとは思ってはいる。
しかし、明日目を覚ましたらさらに若返っていて、今度は赤ん坊とかになっていないという保証もなく、それも気休めにすぎないのだが。

それでもこのまま落ち込んだままではいられないと、
「あーあ、どうせなら二十歳くらいになればよかったわ。それならビールが飲めなくなるなんて事もなかったのに。」
空元気でも、なんとかそういう言葉を発して気分を切り替えようとするミサト。
だが、10年来の親友の言葉は冷たい。
「あら、シンジ君は喜んでるんじゃない?もう酒代で家計のやりくりを心配する必要もなくなるって。」
リツコとすれば、一人若返ってしまった親友に対する嫉妬心もあるのか一向に容赦がない。
どうも、ミサトが若返った秘密を解き明かして、自らも若返りたいという本音も隠れているようである。
ともかく、妙に楽観視している風な様子がリツコらしくないということにミサトも気づきかけていた。

その脇では、シンジが役に立ちそうにないフォローをしているのだがあまり意味が無いどころか、「ミサトさんのずぼらには、もう慣れてますから。」などと言ってとどめを刺していたりもする。

「あー、もう、あんたらは私のことを何だと思ってんのよ。」

ミサトはそう言って暴れるが、若返っているので本来の迫力がでていない。
声も若返っており中学生くらいの少女が少々癇癪を起こしたという程度にしか見えないのだから、逆にリツコあたりからすれば微笑ましく見えていたりする。

「で、これからどうする気?今日はもうすること無いんでしょ。」
「もうちょいしたら帰るわよ。リツコこそ、こんなとこで時間つぶしてる暇があったら、さっさと私を元に戻す方法を見つけなさいよ。」
明らかに自分で遊ぼうとしているリツコについとげとげしい態度をとるミサト。
どうもリツコの様子がいつもの彼女らしくないことが気にかかっているようだ。
「検査結果が出る前に下手に手を出して、もっとひどい状態にはなりたくないでしょう?
 ほんと、体と一緒に頭まで14歳に戻ったのかしら。」

「あれ、なんでこの体が14歳だって断定できたの?」
成長程度は個体差が大きく、肉体年齢を一歳単位で限定できるほど、現代科学は万能ではない。
「あなたの14歳当時のデータは、ここには腐るほどあるから、それと照合したのよ。」
それでミサトにはすぐに合点がいった。
セカンドインパクトの際の南極探索隊の唯一の生き残りである自分は、救出されてから二月ほどの間、ずっと検査ずくめだったのだ。もっとも、結局は自分の体からは大した情報は得られなかったはずなのだが。
ミサトにはセカンドインパクト以降2年ほどには余りよい記憶がない。
言葉を失っていたこともそうだが、毎晩あの日のことでうなされ続けていたし、周りの人間も何か腫れ物に触るように自分に接していたこともある。

ミサトとリツコの会話を不思議そうに見ているシンジ。
それに気付いたミサトが声をかける。
「ああ、私はセカンドインパクトの現場の唯一の生き残りなのよ。だからその時色々と検査を受けた記録が残ってるのね。」
「そう・・・なんですか。」
「要は、貴重な生きた資料だったのよ。」
リツコの言いぐさはいつものごとし。
「それに今だってまた貴重な研究資料になったのよ。」
追い打ちをかけるようにさらに言ってのけるリツコに、さすがにミサトも黙っていられなくなる。
「ちょっとリツコ。もうちょっと、言い方ってものがあるでしょう。人のことを実験動物みたいに。」
「どう言いつくろったって事実は同じよ。」

二人のやりとりを聞いてショックを受けるシンジ。
「・・・そんな・・・」
今までシンジはミサトが茶化していたため、それほどの事態とは思ってもみなかったのだ。
作戦部長をはずされたのも一時的な処置だと思ったし、ミサトのことを考えるよりも、そう決断したゲンドウの非情な対応の方を気にしていたためでもある。
しかしそれ以前にシンジは重大なことに気が付いていない。
それを指摘したのは今まで只じっと話を聞いていたレイだった。
「実験材料なのは私たちも同じよ。」と。

そうなのだ。
今も、不安定なエヴァのシステムを少しでも改善するために、連日、様々なテスト繰り返されており、シンジとレイはそれに駆り出され続けているのだから。

レイのその言葉を聞いて、ミサトはあちゃーと言わんばかりの表情になる。
今の今まで、シンジにそのことを考えさせないために自分が茶化した態度を続けていたというのに、それも台無しになってしまったのだから。
ただでさえ落ち込みやすいシンジに、また悩む機会を与えてしまったことになる。

だが、レイを責めるわけにもいかない。
レイは最初のチルドレンとして、エヴァの開発当初から様々なテストをこなしてきており、その回数はシンジの比ではない上、事故で何度か重傷を負ったこともあるくらいなのだから。

ミサトはそんな沈みそうになる雰囲気を無理矢理引き戻そうと、
「ま、まあ・・・これで私もシンジ君やレイとお仲間ってことよね。
 丁度同じ歳になったことだし、どうせなら私も一緒にガッコ行こうかしら。」
と呆けてみせながら、リツコに突っ込むよう目で合図を送る。
が、
「そうね。さすがに、あなたが若返ったことは大っぴらにはできないし・・・木を隠すなら林の中とも言うし、ミサトの従姉妹か何かということで中学校に編入できるよう手続きするわ。」
と、リツコの言葉はミサトの期待を裏切っていた。

「ちょ、ちょ、ちょっと。」
「戸籍の偽造くらいMAGIを使えば全然問題なしにすぐ出来るわ。それにどうせあなた、今、何もすることないんでしょ。」
「待ちなさい。何、本人を無視して勝手にそんなこと決めてるのよ。」
怒るミサトに対し、リツコが真剣な視線を返す。
「分かってるの?今のあなたはチルドレン並に特別な立場なのよ。
 あなたには今、シンジ君らと同じランクの護衛が必要なの。だから一緒に行動してくれた方が安全なのは分かるでしょう。」
どうやらこの話は今突然思いついたわけではなく、既に決定事項だったらしい。
そして理屈の勝負となればミサトがリツコに敵うはずもなく、既に作戦部長としての地位を失ったミサトには、もはや反論する糸口すら見つけられなかった。

「・・・・・・分かったわよ。私にはもうそれしかないんでしょ。」
ミサトは芝居がかった仕草で両手を挙げてみせる。
たとえミサトの検査の結果を待っている状態とはいえ、忙しいリツコがミサトにずっと張り付いているのは監視の意味もあるのである。
つまりミサトを普通の中学生と見せかけることはNERVの意志であるということである。
おそらく、すべてのデータを取り終わるまではミサトは元の姿に戻してもらえないだろう。
NERVという組織は、もう、ミサトという存在を自由にはさせてくれないのだ。

(また、15年前に逆戻りってことね・・・)
心の中で自嘲気味にそう笑うミサト。
(でも、今度は一人じゃないし・・・ね。)
そしてミサトはシンジとレイの顔を頼もしげに見つめるのだった。





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あとがきのようなもの

すみません。
今回はアスカ登場まで行きませんでした。
というか、次でもアスカが出てこなくなってしまいました。
まさか、ミサトを学校に行かせる理由付けだけでこれほど手間取ってしまうとは思ってもみませんでした。
ほとんど考えなしに始めてしまったので今更ながらに設定をいじくっていたら、なんか冒頭からかなりシリアスな方向へと流れていってしまってますし、陰謀の気配も出てきてます。
しかし、本当にこれを収拾できるのかどうか、ちょっと心配ですが。

ところで、原作七話時点ではまだルノーは修理が終わってなかったんでしたっけ?
もしそうだったら、1話を修正しないと。



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