1−B1
山脇昭慈は県立鹿北台高校の2年生だ。
クラスの中では余り目立たないものの、彼を知る者は口を揃えて変人だと評価しているようで、わたしから見ても確かに結構変わった個性を持っているという見方は変わらない。
ただし、普通変人という言葉にはどちらかというと悪いニュアンスを含んでいるものだけれど、彼の場合は特にそういう意味合いではなく、人畜無害な単純に変わった人という評価らしい。
だが何にせよ彼のそういった個性がなければ、わたしと彼は単なるクラスメイトの一人として認識するだけで終わっていただろう。
まあ、それが良かったのか悪かったのかは色々な意見があるようだけれど。
彼と知り合ったきっかけというと、2年になった始業式の日に遡ることになる。
クラス替えにより1年生の間特に親しかった友達達とはこぞって別のクラスになったのだけれど、それでも多少は見知った顔を見つけてその横の席を陣取って他愛のない話をしつつ、新たなクラスメイト達の顔ぶれを確かめていたわたしの視界に入ってきたのが彼だった。
教室に入った皆が適当な席に座っていく中、彼は教室に入るやいなや、まっすぐにわたしの陣取っていた席の真ん前に向かって来て、わたしに軽く会釈した後、机の上に鞄を置いた。
そして席に座ると早速居眠りを始めたのだ。
わたしが今の席を陣取ったのは先に言ったとおり見知っている娘の横に来ただけなのだけれど、彼の場合は特に周囲の誰かと知り合いという感じでもないし、なぜこの席に陣取ったのかは分からない。
単に、席はどこでも座れればよかったのか、はたまた前のクラスでの席と同じ位置を取りたかったのだろうと見当をつけてみたものの、新しいクラスに来ていきなり寝る人間というのはそれだけでも珍しい。
普通はクラスメイトと情報交換とかをするものではないだろうか。
単なる人嫌いなのかも知れないが、それだと最初の会釈がどうも釈然としない。
腕を組んで背もたれに寄りかかる形で寝ている彼のそんな様子を気にかけていると、わたしのそばに陣取っていた娘の一人が目聡くそれを見かけて問いかけてきた。
「桐嶋さん、山脇君がどうしたの?」
小柄で活発そうな、正直女のわたしが見ても可愛らしいという第一印象を持ってしまう彼女は、橡(くぬぎ)摩耶子という名である。
今まで彼女とは話をしたことはなかったのだけれど、友達の友達という形で顔と名前は見知っていた。
彼女の問いに対しては、まあ別に隠すことでもないので正直に、いきなり寝てしまった彼を変わった人だと思ったと答えて、逆に彼を知っているのかと問い返した。
「1年の時のクラスメイトだったからね。」
さらに彼女に、いつもこんな風に寝ているのかと尋ねてみると、月曜日や休日の翌日はたいていそうだという返事だった。
何をやっているのか分からないが、学校が休みの日には寝る時間を惜しんでまでやっていることがあるということらしい。
そこでわたしは、そんなにも熱中できることがあるのならそれは羨ましいことだと思って、あとは別の話題に話を切り替えた。
結局、その日は帰る時まで彼は眠り続け、他のクラスらしい友人が帰りに呼びに来るまで起きなかったため、彼と話をすることはなかった。
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