01:建築家になろうと志したきっかけ
元々、モノをつくることや手を動かすことが好きだった私は、カメラや時計といった細かい道具を作る世界に興味があり、大学も工学系の学科に行こうかなと漠然と考えていました。そんな大学の受験を控えた高校3年生の夏、本屋で建築の写真集を手に取って見たときに初めて、「建築」という今までずっと触れてきたはずの世界に気づきました。そのことがきっかけで「建築=モノづくり」なんだと考えるようになり、叔父の仕事部屋を訪れた幼い頃の記憶も手伝って、製図板や図面に色々と空想もふくらみ、建築という世界に惹かれるていき、建築を学ぼうと考えるようになりました。
その後大学で学ぶ中で、今までの中学・高校生活時代に自分の部屋を持たなかった私は、当時遊びに行った友人の「自分の部屋」をうらやましく思った自己体験から、一番身近である「個室」という私的空間に興味をもち始め、家族関係も含めた公と私の入り交じった住宅設計について考えるようになりました。
02:住宅について
一口に建築といっても住宅・オフィス・ホテル・学校・美術館...等々数多くの建築がありますが、なぜ住宅に興味があるのか。大学時代は先に述べた以外にも細かいことが好きだという単純な考えもありました。当時は規模の大小により細かな部分をどこまで考えるかに大きな違いがあると考えてしまっていたもので。(今となっては浅はかとしか言いようがありませんが...)
不特定多数の人々が生活する空間では、その総体としての性格がその個性として空間・建築として表現されますが、住宅においてはその家族、大家族を別とすれば2人から多くて5,6人、個室に至っては1人という、ごく少ない人の性格を個性として表現することになります。そう言った意味で、住宅とはより住まい手の個性が強く表現される建築・空間だと思っています。
人は順応性があり、総体としての性格を持つ空間においても十分に生活が出来るとは考えています。もちろん、空間だけでなく家具やその他色々な身の回りの道具によって生活が成り立っているからという理由もあります。しかし、家を建てるということは「住まい手としての家族」と「建築家・設計者としての私」の個性を表現する建築・空間を創るということであり、そこにある家具や身の回りの道具から全てを含めた生活自体をつくる作業です。その建築・空間は、その住まい手が心地よくなれる空間、居場所としての空間、帰る場所としての空間、そんな根付くことの出来る建築・空間にすることができると考えています。そういった1対1の関係から構築する建築・空間をモノづくりとして、人と人との関係として創っていきたいと考えています。
03:「未白」
私は建築には色々な意味で余白があるべきであると考えています。ただ単に余分なスペースがあるというのでは意味がありませんが、プラン的・精神的余白であれば大いに得有効であると考えています。
プラン的に余白を持たせることで、そこにフレキシビリティ(可変性)が生まれたり、全く違う空間へと変わりうるポテンシャルになると思います。それは人間関係のフレキシビリティ、人と自然との関係のフレキシビリティなど、表面的なことから潜在的なことまで多々あると思います。そして、その効果は意識下におけるものであれ、無意識下におけるものであれ、人々にゆとりと安らぎを与えてくれると考えております。
それは「余った」ではなく「今は未だ(まだ)」という性格の空間であり「未白」空間であると考えています。また、未白があると言うことは未完成であると言うことが言えると思います。(そもそも完成された空間があるのか?人々は住みながらにその空間を変質しているのでは?という問いもあるとはおもいますが...)未だ白い空間に色を与える。そこに与えた色が廻りに染まっていく。そうすることで新たな空間として生まれ変わる。未白とは空間だけではなく心に関しても言えることだと思いますが、色を与える過程において変わっていく、また変わらずに成長するなど、多角的視野を持ち得るのだと考えています。
04:建築と時間
人生は砂のように小さな時間の積み重ねにより大きくなっていきます。その砂には多くの種類・形・重さがあり絶え間なくたまり続け、その質が経験となり個性を生み出していると思います。このことは常に変わらず営まれていることではありますが、近年の技術・機器の発達によりその砂の大きさが大きく変化しているように思います。今までと同じ事をするために要する時間が徐々に減少したり、物理的距離を埋めるヴァーチャルな技術などにより同じ一日という尺度の中で行われる活動が増加したように思います。また、そのことにより一分一秒に対する価値が大きくなっている、時間に対して神経質になっている部分もあるようにも感じています。
もともと建築・空間は時間を刻み内包するものです。その建築・空間に時間軸を定義する、つまり自分の軌跡を刻む。それぞれの時間には安らぎ、悲しみ、喜びや怒りなど色々な感情が表出してきます。中には無や無駄といった感情もあるかもしれませんが、感情があると言うことはその時間・空間が生きている証であると思います。そんな時間・空間を創っていきたいと考えています。
00:ページのトップ 01:建築家になろうと志したきっかけ 02:住宅について 03:空間の余白「未白」
04:建築と時間