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時の副詞・時の名詞

「いま」を原点として出来事を時間的に位置づける単語群があり、基本的に副詞として機能するが、日本語では通常、出来事が生起する時期(時点と期間)をあらわす「時の名詞」と、出来事間または出来事内部の時間量を相対的に量り位置づける「時の副詞」とに分けて理解されている。名詞か否かの差は、時期は出来事の舞台として対象=モノ化されやすく、主語や補語としても働くために格変化をもちやすいのに対し、相対的時間量は出来事の様相=サマとして認識されて、副詞=不変化詞として機能しやすい、という事情による。「いま」は、原点として分水嶺の位置に立ち、用法としては当然両面性をもつし、いわゆる頻度は、一定の期間の生起量であるから境界をまたぐようにして働く。
【A 時の名詞】は、出来事の生起する <時期> の示し方によって、(1) 発話時(イマ)を基準とする「きのう−きょう−あした」(2) 他の出来事や場面時(ソノ時)を基準とする「前日−当日−翌日」(3) 客観時「朝−晩 昼−夜 / 日曜日 月曜日 … / 2007年 …」などに分けられる。(3)は「日・暦・特定の記念日などを「隠れた基準」とすると言ってもいいか。以上の例は、 <時点> をあらわすとともに一定の長さのあるもの(ex.先週 2007年)は <期間> もあらわしうるが、それを明示するには、(4)「ひと月・一日中・三日間」のような時間数詞と接辞とによるか、(5)「朝から晩まで」のように起点と終点(またはその片方)を明示して表わす。<頻度>は、(6)「(週に)一度」などの度数詞や、(7)「毎日・一日おきに・日曜ごとに」などの接辞によって半ば副詞化して表わす。以上を通じて、時の名詞とはいっても「基準」に基づく意味の相対性と関連して、多かれ少なかれ格助辞を伴わずに「副詞的用法」にも立つ。
【B 時の副詞 】まず【B1】時の名詞に大きくは対応しながら副詞用法に傾斜するものとして、(1) 時期に対応:発話時を基準とする前後関係「<現在> いま 目下」「<過去> いましがた かつて」「<未来> いまに いずれ」(2) 期間に対応:概括的時間量「しばらく しばし いつまでも」(3) 頻度に対応:反復量「たえず しばしば ときどき たまに」(4) 恒常「つねに いつも」などがある。(1)は述語動詞のテンスと呼応して出来事時を設定するもの。(2)は述語動詞の継続時間量を規定するもので、単純相(スル)とも持続相(シテイル)とも共起することに注意。所属語彙が少ないのは、程度副詞「ちょっと すこし だいぶ かなり」なども時間量をあらわしうるからだろう。(3)は、語彙が豊富で、独自形態をもたない述語の <反復> のアスペクトに呼応するというより規定するもので、反復量を規定することは、時の名詞の <頻度> 用法も含めて副詞らしい働きだといっていい。(4)は(3)の延長だが、形容詞述語と共起しうる。
【B2】副詞に独自なものとして、まず出来事と基準時との関係をあらわすものに、(5) 変化の生起と基準時との前後関係「もう・すでに(・とっくに)⇔まだ・いまだに」(6) 基準時から動作や変化の起こるまでの時間量「すぐ ただちに / やがて まもなく / 同時に」(6')時間量小+無前兆「とつぜん 急に ふいに いきなり」(6")時間量大+困難性「やっと ようやく とうとう ついに」などがある。もとは複文・連文において複数の出来事間の前後関係(タクシス)を量的に位置づけるものであり、単文においては発話時・場面時を基準とする前後関係を規定することとなって、テンスやパーフェクトなどの補充や補強(ex.まもなく もう)の役もはたす。
【B3】次に一連の出来事の内部の時間的な様態をあらわすものとして、(7)変化の進行「しだいに 徐々に だんだん」、(8)同類の累加「ぞくぞく つぎつぎ」、(9)不変化の持続「ずうっと 依然として 相変わらず」などがある。これらは、述語部分の「していく・してくる」などの新しい分析形式とともに、文=出来事のアスペクト性(aspectuality)を変化量の面で(異様なほどの不変化をも含め)補充・補強するものである。
なお、(6)「すぐに」や(6')「急に」などは <変化の速度> とも見うるが、動作の速度(等速度)の「ゆっくり・あわてて」などは、時の副詞というより動作様態の副詞(または用言副詞形)と見るべきであろう。すくなくとも述語の階層的構造との相関関係からはそう見るべきであり、<時> の認識が、事態の <変化> の認知に始まるものだ、ということとも符合する。以上の概観にもれたもの、規定の不十分なもの、また分類の枠組自体の修正革新などについて、研究はいまなお進行中である。
【参考文献】
 川端善明(1964)「時の副詞(上・下)」(京都大『国語国文』33-11・12)
 工藤 浩(1985)「日本語の文の時間表現」(『言語生活』403 )
 矢澤真人(2000)「副詞的修飾の諸相」(『日本語の文法 1 文の骨格』岩波書店)
 仁田義雄(2002)『副詞的表現の諸相』第7・8章(くろしお出版)

(工藤 浩)



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