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東京外国語大学
日本言語研究
2009年度
日本語学要説


叙法性研究の諸問題





授業内容(趣旨・目標)


 陳述性(predicativity)研究を含め、日本語の叙法性(modality)研究の いくつかの潮流をたどり 論点を整理したうえで、欠落を補い ひとつの集成を試みる。


概 要



開 幕 前口上
    語 と 文 ──「文」の予備的観察として ──

第一幕 文の組織(くみたて)についての研究 略史
    述語(用言)の構造と、節(句)の構造と、文(複文)の構造と
    古代語中心か、現代語中心か

幕 間 狂言
    古代語の体系 ―― 叙実と叙想 ―― から
    現代語の体系 ―― 行為と認識 ―― へと
    歴史的な展相 ―― 趨勢(drift) ―― を とらえうるか ?

第二幕 文の陳述性・叙法性の組織 素描 ―― 現代語
    陳述性:叙法性・時間性・題述性の からみあいの なかで
    レベル:語・文・文章を とりむすぶ はたらきの なかで

第三幕 個別・具体的な 記述の試み ふたつ
    「してほしい」:<あゆひ>への みちすじ ―― 文法化(grammaticalization)
    「どうしても」:<かざし>への みちすじ ―― 語彙化(lexicalization)

閉 幕 逃げ口上
    分類別案 の 素描
    語 と 文 の 組織


参 考 文 献


 ・山田 孝雄1908『日本文法論』(宝文館)
 ・山田 孝雄1936『日本文法学概論』(宝文館)
 ・松下大三郎1928『改撰標準日本文法』(1930訂正版 中文館 1974復刊 勉誠社)
 ・松下大三郎1930『標準日本口語法』(中文館 1977復刊 勉誠社)
 ・時枝 誠記1941『国語学原論』(岩波書店)
 ・時枝 誠記1950『日本文法 口語篇』(岩波書店)
 ・時枝 誠記1955『国語学原論 続篇』(岩波書店)
 ・渡 辺  実1953「叙述と陳述 ── 述語文節の構造 ──」(『国語学』13/14)
 ・渡 辺  実1971『国語構文論』(塙書房)
 ・佐久間 鼎1940『現代日本語法の研究』(1956改訂版 厚生閣 1995復刊 くろしお)
 ・佐久間 鼎1941『日本語の特質』(育英書院 1995復刊くろしお出版)
 ・三 尾  砂1942『話言葉の文法(言葉遣篇)』(帝国教育会 1995復刊 くろしお出版)
 ・三 尾  砂1948『国語法文章論』(三省堂)
 ・三 上  章1953『現代語法序説』(刀江書院 1972増補復刊 くろしお出版)
 ・南 不二男1964「述語文の構造」(国学院大『国語研究』18)
 ・南 不二男1993『現代日本語文法の輪郭』(大修館)
 ・奥田 靖雄1985『ことばの研究・序説』(むぎ書房)
 ・鈴木 重幸1972『日本語文法・形態論』(むぎ書房)
 ・鈴木 重幸1972『文法と文法指導』(むぎ書房)
 ・工 藤  浩1982「叙法副詞の意味と機能」(国語研『研究報告集(3)』 秀英出版)
 ・工 藤  浩1989「現代日本語の文の叙法性 序章」 (『東京外国語大学論集』39号)
 ・工 藤  浩1996「どうしても考」(鈴木・角田編『日本語文法の諸問題』ひつじ書房)
 ・工 藤  浩2005「文の機能と 叙法性」(『国語と国文学』82巻8号)
 ・Buhler, Karl (1934, 19652) Sprachtheorie. Gustav Fischer Verlag, Stuttgart.
   脇阪 豊 ほか 訳(1983-5)『言語理論(上・下)』(クロノス)
 ・Gardiner,A.H.(1932, 19512) The Theory of Speech and Language. Oxford UP.
   毛利 可信 訳述1958『SPEECHとLANGUAGE』(研究社 英語学ライブラリー)
 ・Benveniste, Emile(1966) Problemes de linguistique generale. Gallimard.
   岸本 通夫 監訳1983『一般言語学の諸問題』(みすず書房)X 言語における人間
 ・Sweet, H.(1891) A New English Grammar, Part I. Introduction. Oxford UP.
   半田 一吉 抄訳 1980『新英文法 ─ 序説』(南雲堂)
 ・Jespersen, O.(1924) The Philosophy of Grammar. George Allen & Unwin.
   半田 一郎 訳 1958『文法の原理』(岩波書店) 安藤 貞雄 訳 2006 (岩波文庫)
 ・Vinogradov,V.V.(1950) "O kategorii modal'nosti i modal'nykh slavakh v russkom jazyke."
            (ロシア語の叙法性のカテゴリーと叙法(副)詞について)
 ・Vinogradov,V.V.(1955) "Osnovnye voprosy sintaksisa predlozhenija" .
            (構文論の基本的な諸問題)
        [どちらも、同1975『ロシア語文法 著作集』ナウカ社 モスクワ(露文)に所収]



序章 語 と 文 ──「文」の予備的観察として ──

0-1 一語文(独立語文) と 二語文(述語文) [Karl Buhler『言語理論』(クロノス)]
 ・一語文:発話の現場にしばられて、<いま・ここ・私>のことしか あらわせない。
      発話の意味は、共実践的sympraktisch。しいて分ければ、
       ワンワン!  キャッ、ゴキブリ!  発見・確認
       ゥマンマ!  オーイ、お茶!    欲求・命令[欠如=否定の萌芽]
       ママー!   中村クーン!     よびかけ [「名詞の命令法」]
       ゥン(mmm)? エッ? ハアー?   疑念(問い返し) [疑問兆候]

 ・二語文:できごとを[モ ノ ── サ マ]に分析し、
      ものごとを[テーマ ── レーマ]に分割して、表現する。<構造性>
      現場以外のできごと・ものごとを表しうる。 [転移用法displaced speech]
      そのため、叙法性・時間性・人称性などの <陳述性>が分化する。

0-2 文の二側面   [従来の諸学説との おおよその対応。精密には 違いも大きい] 
  @ <構造性>:名づけ的  事柄的  客体的   客観的  対象的 な側面
  A <陳述性>:のべ方的  陳述的  主体的   主観的  作用的 な側面
          (奥田靖雄 南不二男 時枝誠記 松下大三郎 森重敏) 
            鈴木 重幸   渡辺 実 金田一春彦

 \ @ (機能)   │ 主語       述語  │ 主語  補語   述語  
A \  (意味)   │ モノ(対象〜主体) 動き  │ 主体 客体(対象) 動作  
──────────┼─────────────┼──────────────
    叙述法・肯定│ 水が 流れている。    │ 男が 水を 流している。  
        否定│ 水が 流れていない。   │ 男は 水を 流していない。 
        推量│     〃   だろう。 │  〃      だろう。 
    疑問法   │ 水は 流れている(の)か? │ 男は 水を 流している(の)か?
    命令法   │ (水よ) 流れろ。     │(男よ)水を流せ。      
     …    │     …        │      …       
    とりたて  │ 水まで 流れている。   │ 男が 水まで 流している。 
     …    │     …        │      …       

0-3 文の階層性
 ・山田孝雄1936の「語排列上の遠心性」(p.1034)  [p.27の図a 参照]
 ・時枝誠記1941の「入れ子」型構文(p.316)     [p.27の図b 参照]
 ・阪倉篤義1966『語構成の研究』(p.155-6)の図式  [p.27の図c 参照]
 ・南不二男1993の「四段階」モデル        [p.27の図d 参照]


【補説】文は、伝え合い(communication)の機能を果たす言語活動の場における最小の単位である。極端な例をあげれば、「これは何?」と聞かれたのに対して「絵。」と答えた場合、あるいは、なにか思いついたように「絵!」と叫んだ場合、それは、1音=1語=1文である。言語場の中で、それは立派に言語活動の単位として機能している。伝え合いの単位であるために、文は、必ず <話し手> が <聞き手> に対して、<何を> 伝えるかの面と <いかに> 伝えるかの面とを もつ。独白ないし思考活動は、内面化された(自らを聞き手とする)「伝え合い」だと、ここでは ひとまず みなしておく。一語文では、形態的に未分化だが、通常の文では、ことがらを写しとり描きだす <構造的な面> と、話し手が聞き手にどのように伝えるかという <陳述的な面> とに、分けて考えることが出来る。もっとも、この二つの面が、表現形式の面で 常に 分節的(segmental)に分離できるとは限らないが、表現内容の面では、相対的に独立した二側面として 分けられると考える。
 文法論としての文論は、個々の言語活動としての側面は切り捨てる。たとえば、「ぼくは、きみをきのうここで待っていたんだよ」という文(発話)を扱うとして、その文(発話)の表わす、時間と空間と人間に定位された一回一回の場面的な指示(「ぼく・きみ・きのう・ここで」が何を指すかなど)や、話し手のその場限りの感情的な態度や発話の意図(親しみか 詰りか 皮肉か 恨み言か など)は、理解や観察の対象ではもちろんあるが、分析の対象としては とりあげない。慎重に ときには いとおしみつつ 切り捨てる。しかし、

  一人称シテ + 二人称ウケテ + 過去   の    行為 
   ぼく(ガ)    きみヲ     きのう ここで 待っていた (コト)
      は                          んだ よ
  主題(theme)   述                部(rheme) 説明と告知

と、図式化できるような、文の意味と機能の <型(pattern)> は、文法論の分析対象であり、そうした文の型の中に一般化して やきつけられた <陳述性(predicativity)> の刻印は、具体的な場から抽象したとしても なお、文から消え去りはしない。文論の分析対象となる。
 A.H.Gardiner(1951)や E.Benveniste(1964)など 古典的な著作も力説しているように、文はたしかに、言語(language, langue)の単位ではなく、言語活動(speech) あるいは (談)話(discours)の単位である。また じっさい、語彙と文法という言語の手段によって構成される文(発話)は、現象的には 多種多様であり、量的には 無限の拡がりをもつ。しかし、体系性を もたないわけではない。現象的に 無限に多様な文(発話)は、 <陳述的なタイプ> として、 <構造的なシェーマ> として抽象され 類型・図式化されて、有限の <型> として 体系化されている。文は、まさに言語活動=伝え合いの単位として機能するために、言語の <構成体の型> として、間主体的・社会的に作り出され、慣習的・制度的に存在させられるのである。いわば、アクチュアルな言語活動を支えるポテンシャルなエネルギーとして、それは存在する。言語体系としての語彙と文法は、F. de Saussureが考えたように「言語活動の外に」「人間の脳裏に」存在するのではなく、具体的な言語活動の中に内在し、その中で多少の変容を受けながらも、しなやかに したたかに 生きつづける。
 私たち 言語研究者が、言語活動の所産としての 具体的な言語作品群の中に、言語の諸法則を探り出し、一般化を試みなければならない理由は、まずは、ここにある。

第一章 文の構造についての研究略史


1-0 山田孝雄1936『日本文法学概論』 (研究史的には、1908『日本文法論』に原型)
  ・「句」(=文の素≒ clause):一つの「統覚」作用によってまとめられたもの
    喚体の句:<連体格 + 体言の呼格>───[連体格+体言]呼格
      感動───面白の 景色や。  妙なる 笛の音よ。
      希望───(あはれ知りたる)人もがな。 

    述体の句:<主格 + 賓格・述格> ───[主格+賓格]述格
         (主体 + 属性・陳述) ───[主体+属性]陳述
         「主語」   「述語」
      叙述─┬─説明──松は 緑なり。 月 清し。 鳥 なく。
         └─疑問──何ものをか 得たる。
      命令───喜んでこれを受けよ。 人の悪をいふことなかれ。

       「松」(主格) ─┐
        ↑       │
       「は」<係り> ←┼───→「なり」<結び>
        ↓       │    (述格=陳述をなす格)
       「緑」(賓格) ─┘     [参考までに 工藤が 編集・作図]

  語─┬─観念語─┬─自用語─┬─概念語──体言(代名詞・数詞を含む)
    │     │     └─陳述語──用言(形式用言・複語尾を含む)
    │     └─副用語────────副詞(接続副詞・感動副詞を含む)
    └─関係語──────────────助詞

  ・用言:陳述の力の寓せられてある語にして、多くの場合に事物の属性を同時にあ
      らはせり。用言は体言と相待ちて句の組立の骨子となるものにして、体言
      に対して何等かの説明をして陳述をなす要素なり。

  ・複語尾:用言の各活用形にてそれぞれ一定の陳述は なしうるものなるが、それは
      単純なる直接的なる陳述をなすに止まるものにして、複雑なる間接的なる
      種々の陳述のしかたは本来の活用形のみにては あらはし得ざるなり。(中
      略)それら(希望・予想・推量など)種々の思想上の状態に応じて、それぞ
      れ陳述を果たす為にこれらの複語尾が付随して あらはるるなり。
  (p.28の「複語尾の表」参照)

  ・係助詞:陳述をなす用言に関係ある語に付属して、その陳述に勢力を及ぼすもの
      鳥が飛ぶ時には その姿勢を見たまへ/空気が動く。     
      鳥は飛ぶ時に羽根をこんな風にする。
    連体格にたつ用言は、「十分の陳述をなせるもの」ではない。

1-1 「陳述」・「述語性」の精密化の流れ ―― 述語(用言)の構造へ


1-1-0 時枝誠記1941『国語学原論』              (cf. F.de Saussure)
  「言語過程説」:言語の本質は、実体的なもの(記号)ではなく、  (langue)
                 表現−理解の過程そのもの、とする (parole)

   詞:概念過程を経た形式  表現の素材(表象・概念)を、客体化して表わす
      体言(名詞 代名詞) 用言(動詞 形容詞) 副詞 連体詞 接尾語
   辞:概念過程を経ない形式 主体的な態度・関係づけを、直接的に表出する
      感動詞 接続詞 助詞 助動詞(セル・レル・タイは接尾語)
        ex. かれも 行きたいの だろう。
              接尾語(詞) 助動詞(辞)
              主語の希望 話者の推量

   詞と辞は、全く別の次元に属し、包むものと包まれるものとの関係にある
        =詞辞非連続説   =「入れ子」型構造     [p.27 図b参照]
                   (風呂敷型ともいう。なお西洋語は、天秤型)
   詞と辞の結合(=句)によって、はじめて具体的な思想を表現することができる
    助詞助動詞のないところには「零記号の辞」(■で表わす)があるとする

 <問題点>命令形(立て・起きろ) 形容動詞(静かだ) 副詞(常に・決して)

1-1-1 大野晋1950「言語過程説における詞・辞の分類について」(『国語と国文学』)
   用言の活用は、単なる形式的系列ではなく、職能的・機能的系列であって、
          主体みづからの判断や関係づけ、つまり「辞」的機能を表わす
       ex. 終止法(肯定 命令)  中止法  条件法(仮定  既定) 
             行く。行け。  行き(て)、    行かば、行けば、
   用言は、詞と辞との両者にまたがる性質を持つ

1-1-2 金田一春彦1953「不変化助動詞の本質1・2」(『国語国文』22-2・3)
      <modus>助動詞のうち、「う・よう・まい・だろう」など、終止形しかない、つま
      り活用のないものは、<話者のその時(=発話時)の心理の主観的表現>をする
      <dictum>助動詞のうち、「ない・らしい・ます・です」など、いろいろの活用形を
      もつものは、動詞・形容詞と同じく、事態・属性などを客観的に表現する
         ex. 彼は 来るだろう。
            彼は 来るらしい/かった。
            ぼくが 行こう。
            ぼくは 行くつもりだ/だった。
 ・橋本進吉の「叙述性」(属性があるということ)を援用。 cf. 松下大三郎の「叙述性」
     ex. 「白い」= 属性概念「白」(しろ-) + 叙述性(−い)
       「咲く」= 作用概念「開花」(sak-) + 叙述性(−u)
1-1-3 渡辺実1953「叙述と陳述」(『国語学』13/14  『日本の言語学 文法T』再録)
 ・叙述と陳述との分離───山田文法の「陳述」と 時枝文法の「詞・辞」の精密化
  「叙述」:思想や事柄の内容を描きあげようとする話し手のいとなみ
      連体節内に収まる   「の」によって体言化される  詞的素材性の内
  「陳述」:言語者めあての主体的なはたらきかけ  文「完結」のいとなみ
      連体節内に収まらない 「の」によって体言化されない 詞的素材性の外

   ex. 去年の今頃がなつかしいねえ。 ⇒ 去年の今頃がなつかしいのも ………
     明日から煙草をやめるよ。   ⇒ 明日から煙草をやめるのは ………
     あいつは数学の天才だわい。  ⇒ あいつが数学の天才なのは ………

 ・品詞の4大別
    詞 :体 言 ── 素材としての客体的概念
   叙述詞:用 言 ── 素材(属性)+主体的叙述
   叙述辞:格助詞 ── 素材概念性はないが、詞的素材性のうちに収まる
    辞 :終助詞 ── 陳述

 ・助動詞の種と類──助動詞の相互承接
   ┌───┬──────────────────┬───────┬───┐
   │種\類│    第   1   類     │第  2  類│第3類│
   ├───┼──────────────────┼───────┼───┤
   │甲 種│     だ(である)       :ら  し  い:だろう│
   ├───┼─────┬─────┬……┬………┼……………┬…┼───┤
   │乙 種│ せ る : れ る :たい:そうだ:ない(ぬ) :た:う(ヨウ)│
   │   │(させる) : (られる)├──┴───┴─────┴─┴───┤
   │   │     :     :               ま い│
   └───┴─────┴─────┴──────────────────┘
  甲種:直接体言に接しうるもの、体言を述語化するもの(山田文法の「形式用言」)
  乙種:用言にしか接しえないもの、述語である用言を補助するもの(同「複語尾」)

  第1類:述語の一部  用言の素材内容を補足         <叙述>
       太郎が花子にふられる。     ×[太郎が花子にふら]れる。
                     cf. ○[太郎を花子がふら]れる。

  第2類:述語の延長  一旦は述語の外で働くが、結局は述語の一部となるもの
      [台風が上陸する]らしい。    ○[────らしい]情勢なので、
      [うまく論文がまとまら]ない。  ○[────ない]時期には、

  第3類:終助詞に準じるもの  徹頭徹尾 述語の外で働くもの  <陳述>
      [太郎が花子にふられる]だろう。 ×[────だろう]模様なので、
           │第1類     第2類     第3類
   ────────┼─────────────────────
    承接順位   │上 位      〜      下 位
    諸活用形   │完 備     不完備     不変化
    意  味   │論理的      〜      情意的
     (甲種では)│断 定     推 定     推 測
    構文機能   │叙 述      〜      陳 述
           │

 ・述語文節のモデル
   用言・体言───第  1  類───第  2  類──第3類───終助詞
 例)行か−せ−られ−た−そうで(-モ)──なかっ−た─── (ノ)だろう───よ。
   行か−せ−られ──────────なかっ−た−らしい──のだ───ね。
   行か−せ────たく───────ない−らしかっ−た−そうだ───よ。
   真犯人─────────で(-ハ)──なかっ−た−らしい─ノダ─ソウダ──ね。

  ⇒ 叙述と陳述とは、一旦は区別できるが、1〜3類の助動詞を介して、連続する

1-2 「題目」・「題述性」の精密化の流れ ―― 節(句)の構造から 文(複文)の構造へ


1-2-0 松下大三郎1928『改撰標準日本文法』       
   思惟断句─┬─有題的──今宵は 十五夜なり。  注)「断句」=文
        └─無題的──花 咲きたり。        「φ」=ゼロ記号
   直観断句─┬─概念的──君よ。
        └─主観的──ああ! 否。     
    題目態─┬─分説:月は もう 出た。    酒は きのう 飲んだ。
        ├─合説:月も もう 出た。    酒も きのう 飲んだ。
        └─単説:月φ もう 出たよ。   酒φ きのう 飲んだよ。
    平説態──────もう 月が/φ 出たよ。 きのう 酒を/φ 飲んだ。

1-2-1 佐久間鼎1941『日本語の特質』ほか [K.ビューラーの organon modelの援用]
  ・「表出」の文:感動詞   ああ!      まあ!
  ・「訴え」の文:呼び掛け  オイ 君!    ネェ 田中君!
          命  令  こっちへ来い。  こちらに来てください。
  ・「演述」の文=「いいたて文」──#
   #─┬─物語り文───────────動 詞文:〜が どうする/した※
     └─品定め文─┬─性状規定文───形容詞文:〜は どんなだ
            └─判断措定文───名 詞文:〜は なにかだ

    ※物語り文において、時間表現(テンス・アスペクト)も
              空間表現(コソアドなど)   も、分化する
1-2-2 三尾砂1948『国語法文章論』── 話の「場」との関連による文の類型
 ・現象文:場の文  [〜が 動詞]  (電話が故障だ。) 梅が咲いている。
 ・判断文:場を含む文[課題は 解決だ] これは 梅だ。 梅は咲いている。
    「転位の判断文」[解決が 課題だ] これが 梅だ。 梅が咲いているのだ。
 ・未展開文:場を指向する文(いわゆる一語文)あっ、梅だ! 君! ごはんですよ。
 ・分節文:場と相補う文(省略文)[これはなんだ?] 梅だ。 梅が咲いているのだ。

 ※「雨が降っているのだ。」は、場面によって、両義的。
  @「雨」に強勢が置かれる場合:「降っているのは雨だ(雪デハナイ)」の 転位の判断文
  A「あの音は?」に対する答の場合:「あの音は、雨が降っているのだ」の分節文

  三尾砂1942『話言葉の文法(言葉遣篇)』(1958改訂版 1995初版復刊)
  主文がていねい体(です体)である場合に、「が・から・ので・と」などの接続助詞 を伴う<接続部>や、体言にかかる<連体部>の用言が、ていねい体(です体)になる か、普通体(だ体)になるか、という<文の内部におけるていねいさの表現>について の、当時の戯曲を資料とした実態調査を含む。複文の「陳述度」に関する先駆的研究。
    例)       ┌─ る ─┐┌─ と ─┐
     雨が降ってい─┤    ├┼─ので─┼─出掛けません。
            └─ます─┘└─から─┘

  丁寧化率 │  が けれど から  し  ので と (た)ら 
  ─────┼─────────────────────
  国語読本 │  98  ─   80  ─  22  26  ─
  戯曲作品 │  94.5  86   73  58  28   7.3  6
         [pp.279-281にある数値表から 百分率のみ 抽出し順序替え]


1-2-3 三上 章1953『現代語法序説』第4章   同1955『現代語法新説』第10章
   寝坊したために遅刻した回数は、少ない。病気ノために<単式>連体に収まる
  ?寝坊したので、遅刻した回数は、少ない。病気ナので <軟式>中 間 的
  ??寝坊したから、遅刻した回数は少ない。 病気ダから <硬式>連体に収まらない

 ┌─単式:不定法部分(=コト)の内部に終始する関係    「不定法部分の譜代」
 ├─複式:不定法と外部との関係             
 │  └┬─軟式:不定法と馴合ってそれに巻込まれてしまう 「不定法部分の外様」
 │   └─硬式:あくまでその外部に踏み止まるもの    「不定法部分と対抗」
 ├─遊式:不定法部分と無関係で、内部にあるときも 治外法権的
 │     ex. 昨日の、ねえ君、あの可愛らしい少年がスリの手先だったってさ。
 └─ト式:ト錠を下ろして どこへでも持っていける     [注:引用句のこと]

1-2-4 南不二男1964「述語文の構造」(『国語研究』18『日本の言語学 文法T』再録)
   ────1993『現代日本語文法の輪郭』

・述語の要素(助動詞的部分)
           │−せる│−たい −ない −た −ます│−だろう(-ウ・-マイ)
 ──────────┼───┼──────────────┼─────────
  A段階 −ながら │ + │ −   −   −  − │  − (−−)
  B段階 −の で │ + │ +   +   +  + │  − (−−)
  C段階 − が  │ + │ +   +   +  + │  + (++)

・文中の成分をも含めた包摂関係
  A 兄は、[たばこを スパスパ 吸い]ながら、テレビを見ていた。
    母は、[弟に 肩を 叩いてもらい]ながら、テレビを見ていた。
    父は、[玄関から 居間の方へ 歩き]ながら、母に話しかけていた。

  B [雨が 降っている]ので、(私は)外に出られない。
    [きのう よく眠っておいた]ので、きょうは気分がいい。
    [家で ちゃんと勉強して来た]ので、教室でまごつかないですむ。
    [酒は飲んでも たばこは吸わない]ので、肺ガンの心配はない。

  C [たぶん 彼は もうすぐ来るでしょう]から、もう少し待ちましょう。
    [選手は 走りおわると足をもみます]が、これは、血行を良くし、疲労回復を
       早めるために行なうのです。

・従属節どうしの包摂関係
  A [(手をつない)でa 歩き]ながらa 歌を歌いました。
    cf. (危ない所にさしかかっ)たらb、[(手をつない)でa 歩き]なさい。
      (焦げる恐れがあります)からc、[(かきまぜ)ながらa 煮]ましょう。

  B [(キャラメルをなめ)ながらa 走る]とb 舌をかみますよ。
    [(月末になれ)ばb 新製品が入荷致します]のでb それまでお待ちください。

  C [(彼がすすめる)のでb 行ってみました]けれどc 、それほどでもなかったよ。
    cf.[(彼がすすめる)からc 行ってみた]のにb 、それほどでもなかったよ。

・文の階層的な構造(の ひな型)
    「[{(テレビを見ながら)書いたので}変な文になったが]もう書き直せない]
   [予約制ですから{電話をいただければ(待たずに 診察が 受けられます)}]
   「あのねぇ[花子は{どうも きのう(雨に 降られ)た らしい}のだ]よ」
   「ねぇ[ひょっとしたら{ぜんぜん(人が集まら)ない}かもしれない]ね」

1-3 文の四段階と文法的カテゴリー (南理論に、部分的修正と 範疇例の増補とを加える)


[A段階] 語彙文法的な(ことがら的な)性格が強い
      <修飾句>:ながら1 (並行) つつ て1 (状態)
 イ「述語の要素」
   ヴォイス: 受身:(ら)れる  使役:(さ)せる 
   やりもらい:してやる(あげる) してもらう(いただく)  してくれる(くださる)
   もくろみ:してみる  してみせる
   敬 称; 仕手尊敬:お〜になる  受手尊敬(いわゆる謙譲):お〜する

 ロ「文中の成分」
   格関係(斜格):を・に・と・へ・で(手段)・から・まで  
   状態・程度量の副詞(句):ゆっくり・ややetc. / Aそうに・Nのようにetc.
 ※ 主格(ガ)、場所格(デ)、時間名詞(ex. きょう 正午に)は、B段階。
  ただし、主文の主語と<全体と部分>の関係にあるものは、A段階に現われうる。
     主格:「(選手が)足音も高く行進する」「(柿が)枝もたわわに実る」
        「台風19号は、勢力が次第に衰えながら、東方海上に去りました」
     デ格:「彼はボールを手の上でくるくると回しながら、その様子を話した」
        「彼女は、こどもを隣の部屋で遊ばせながら、仕事をした」
     時間:「(若い頃は)夜ガードマンをしながら、昼間大学に通っていた」

[B段階] 述語性<認定性>が強まる  ※主文のモダリティに制限のあるもの、あり。
  (B1) <条件節〜契機・継起節>:ば なら / と たら / て2(継起)
  (B2) <因果節>:ので のに / ながら2(逆接)  て3(原因)
(B1〜B2)<連体節>:形式名詞「の・こと」ナド / 実質名詞 [連体内部は複雑]
 イ「述語の要素」
  ていねいさ:します ※連体節・条件節には、現われないことが多い
  テ ン ス:した  ※B1には現れず。連体節では <相対的テンス>が普通
  アスペクト:している / してある  してしまう / しておく
  みとめかた:しない(せぬ・せん)
  可能・能力:することができる  しうる  -eru(書けるetc.)
  願望(ねがい):したい  してほしい  してもらいたい
  意図(つもり):するつもり-だ(で いる)  する気-だ(が ある)
  必要・義務:しなければならない    すべきだ
    (不可避):しないわけにはいかない  せざるをえない
  適切・勧め:したら/すると/すれば いい   した/する方が いい
  許容・許可:してもいい  したってかまわない
 (不許可~不適切):してはならない  してはいけない  したらいけない
  推定〜様態:らしい  ようだ  しそうだ  / 様子だ  見込みだ
  確 か さ:にちがいない  かもしれない  / はずだ 
  伝   聞:ダそうだ / という−ことだ(話だ) ※B2か。条件・連体なし
 ロ「文中の成分」
  主格の「が」  ※選択指定の「が」はD/C? cf. 彼が社長だ。 /彼が社長なので、…。
  状況語:空間のデ格(部屋で げたの上で)  時間のφ格(夜 夕食のあと)
  とりたて:こそ さえ しか / は(対比) ※「手モ/ダケ/バカリ 振リナガラ」はAか?
  陳述成分:否定(けっして ちっとも) 希望〜当為(どうしても ぜひ)  
       推定・たしかさ(どうやら ひょっとしたら)
       評価・感情(さいわい あいにく / じつに とにかく やっぱり)

[C段階] modalな性格が相当こまかく決まってくる。 <自分>の段階
     <因果〜並列節>:から / けれど が / し
 イ「述語の要素」
  推量:するだろう 
  説明:するのだ / するわけだ(解説〜意味づけ)
  回顧:したものだ
  当為:するものだ  ※「することだ」はDか? (*コウイウ場合ハ 〜 スルことだカラ)

 ロ「文中の成分」
  主題の「は」 / いわゆる詠嘆の「も」(イチローも すごい活躍ぶりだが、…)
  陳述成分:推量(たぶん) 説明(じつは 道理で)etc.

[D段階]  <相手>の段階   ※複文内に収めるのは、引用の「と」のみ。
 イ「述語の要素」
  決意・勧誘:しよう  す(る)まい
  命令・禁止:しろ  してください  するな
  疑問・質問:するか  するでしょうか
  叙述の種々相:わ ぞ / とも / ダこと ダもの(もん)
  (後略形から)  ダって したらナァ しなくっちゃ −かもネ etc.

 ロ「文中の成分」
  呼びかけ(おーい! 田中くん!)
  もちかけ(感動詞 さあ・陳述副詞 どうぞ / 間投助詞 ね ・間投詞 あのう )

<参考> 階層性の 立体図
    太郎      花子       写真   見       素材
                  に        を   せる      A
          が  特に    は  全く         ない     B
    多分    は                       だろう  C
 ねえ   ネ     ネ    ネ     ネ    ネ     ネ         ね D
────────────────────────────────────────
「ねえ 多分ネ  太郎はネ 特にネ 花子にはネ 全くネ 写真をネ 見せないだろうね」

幕 間 に 狂 言 ひとつ


 古代語の 主要な叙法性形式は、素人考えでは、たとえば、

    肯 定 | 否 定 |
   ─────┼─────┼────┬────┬────
     す  | せ ず | 現然 | 現 実 |
   ─────┼─────┼────┼────┤ 中
    せ む | せ じ | 仮想 |    |
   ─────┼─────┼────┤ 非現実 | 核
    すべし | すまじ | 潜勢 |    |
   ─────┴─────┼────┼────┼────
    す/せざ(る) らし  | 推定 |    | 周      (テンスと 証拠性)
    すめり | ――― | 目賭 | 証拠性 |       cf. き (目睹回想)
    すなり | ――― | 伝聞 |    | 辺       けり(伝聞回想)
   ───────────┴────┴────┴────
  cf. つ ぬ (アスペクトと 証拠性と 肯否性)

のように 体系化できそうにも思われるが、中央の有標の4形式(下線)は、それぞれ 認識的な「推量」も、行為的な「意志」や「当為」も、うちに含んでいる、あるいは、とけ込ませている(多義か 融合かは いまは 問わない)。これらが 共通にもつ 一般的な意味特性は、<非現実性> であろう。

 これに対し、中村通夫1941「東京語における意志形と推量形」を はじめ、同1948『東京語の性格』所収の諸論文などが、明らかにしてきたように、たとえば、
    せ む─┬─しよう   意志
        └─するだろう 推量
    すべし─┬─すべきだ  当為
        └─するはずだ 推論
のように、近代語では、行為的な「意志」と認識的な「推量」、行為的な「当為」と認識的な「推論」とが、分化して表現されるようになってきている。形態と意味との二重の意味での「分析的傾向」(O. Jespersen, 田中章夫)である。
 この、古代の<現実 realis−非現実 irrealis>の対立・統合を軸にした体系から、
近代の<行為 actus(dynamis)−認識 episteme>の対立・統合を軸にした体系への
構造的な転換局面において、諸要素の変容や交代、分岐や合流、消滅や発生、といった体系変化の諸様相を分析し、その要因を解明することは、日本語の叙法性の研究にとって 最重要の研究課題であろう。
 従来の諸研究は、研究対象が 古代語中心か 現代語中心か、という点で 大きく異なり、また、切り口や視角の点でも、主たる関心が 述語(用言)の構造にあるか、節(句)の構造にあるか、文(複文)の構造にあるか、という点にも 異なりや かたよりを もつ。
 ひとつの <総合> が 待たれるのだが、本講が その先ぶれの役を さて はたせるか?

第二章 文の陳述性・叙法性

2-1 陳述性・のべかた predicativity (предикативность)

 単語や単語の組合せが、言語活動の最小単位である「文」として成り立つために持たされる、話し手の立場から取り結ばれる文法的諸特性を、総称して「陳述性」と呼ぶ。
「陳述性」のカテゴリーのもとには、次のような下位カテゴリーが考えられる。

<カテゴリー>     : 代表的な形式(表現手段)
 a) 叙法性・かたりかた modality :ムード語形 分析形式 叙法副詞 イントネーション
   肯否性・みとめかた(polarity) :「ない・ん/φ」 否定副詞 応答詞(イイエ)
   待遇性・ていねいさ(politeness):「ます・です/φ」 「お−」
   対人性・もちかけ方(phatics) :終助詞(ヨ・ゾ) 間投助詞(ネ) 間投詞(アノウ)
   評価性・ねぶみ evaluativity  :副詞句(アイニク・困ッタコトニ・タッタ) 助動詞(-ニスギナイ)
    感情性・きもち emotivity :感動詞(イヤハヤ・モウ) プロミネンス 特殊拍(スッゴク・マアルイ)

 b) 時間性・とき temporality    :「した・している/φ」 時間副詞(カツテ・モウ)
  cf.ダイクシス deixis[これ自体は pragmatics の用語](三上章の「境遇性」)
    人称性・やくわりpersonality :人称代名詞     *題述関係にからむ 
    空間性・なわばりspaciality :指示詞「こそあ」  *語彙的手つづき

 c) 題述関係・係結び theme-rheme:係助詞「は/が/φ」 語順  cf.ヴォイス
   対照性・とりたて(focusing) :副助詞(ダケ サエ) 副詞(タダ トクニ)  プロミネンス

 陳述性の中でもっとも中核的なものは、a) 叙法性であろう。
 叙法性の種類によって、b)時間性も分化し、c)題述(ないし主述)関係も分化する。
  たとえば、命令文では、テンスは分化せず、主述関係も十分には分化しない。

<参考・比較>
「主体性 subjectivity」
時枝誠記1941『国語学原論』 同1955『国語学原論 続篇』
Benveniste, Emile(1966)『一般言語学の諸問題』 第V部 言語における人間
Lyons, John(1977) Semantics II. 16.1. Speech-acts pp.739-
─────(1995) Linguistic Semantics. Ch.10 The subjectivity of utterance
Yaguello, Marina ed.(1994) Subjecthood and Subjectivity. Ophrys.
Stein, Dieter & Writht. Susan ed.(1995) Subjectivity and subjectivisation. Cambridge

言語表現における「主体性」の現われ
  ・「沈黙」や「間(ま)」──記号がないことのもつ意味   [cf. unmarked form]
  ・「口調」や「語り口」 / 「表情」や「姿勢」── langue/parole, verbal/nonverbal
  ・単語の使用法:比喩(直喩 隠喩 換喩 提喩) 婉曲 誇張 皮肉 etc.
  ・陳述的(modal)な形式 [時枝の「辞」]の使用

2-2 叙法性・かたりかた modality

<従来の主要学説>
  H.Sweet (1891) A New English Grammar.Introduction "mood" の項(邦訳あり)
   主語と述語との間の種々に区別される諸関係を表わす文法形態  cf.山田の「陳述」
  O.Jespersen (1924) The Philosophy of Grammar.  "mood"の項(邦訳あり)
   文の内容に対する話し手の心的態度(心の構え attitudes of the mind)cf.時枝の「辞」
  V.V.Vinogradov(1955)「文のシンタクスにおける基本的な諸問題」(露文)
   発話内容と現実とのさまざまな諸関係を表わす文法的形式 cf.奥田の「モダリティ」
このうち、Jespersen の定義が、最も単純明快であり、また基本的だとは思われるが、それを修正・精密化した通説──文の内容に対する 発話時の 話し手の心的態度──では、
  ex)彼は 行き−たく−ない−よう−でし−た。
といった、過去形をとりうる「たい」「ようだ」/「ない」のようなものが、モダリティから除外されることになるようであるが、それでよいのだろうか。
 また「ます・です」はどうか? ──「ました・でした」と過去形になるからといって、過去における聞き手に対する「ていねい」の態度ではなく、発話時の態度であろう。

<この講義での定義> ─── 研究の出発点として、あいまいでも、対象を広めにとる。
  話し手の立場から定められる、文のことがら的な内容と場面(現実および聞き手)との
  関わり合い(関係表示〜関連づけ)についての文法的な表現。
・ポイントは、言語場における必須の四契機である、話し手・聞き手・素材世界・言語内 容という 四者間の <関係表示> である、ということ。
・叙法性は、<主体面と客体面との総合・相即>として存在する、ということ。
  客体的なことがらの側面から言えば、文の <ありかた> 存在の「様式 mode, mood」
  主体的な話し手の側面から言えば、文の <語りかた> 話し手の「態度・気分mood」
<例証>
@助詞「か」の意味構造における、主体的な<疑問>性 と 客体的な<不定>性との統一
 文末の終止用法「あした来られますか?」において <疑問性> が卓越し、文中の不特定詞用法「どこか遠くへ行きたい」において <不定性> が卓越し、そしてその中間の「どこからか、笛の音が聞こえてくる」のような挿入句的な(間接疑問の)場合に、両性格はほぼ拮抗する。
A助動詞「ようだ」における、客体的な<様態>性 と 主体的な<推定>性との統一
 「まるで山のようなゴミ」「たとえば次のように」などの「連体」や「連用」の「修飾語」用法においては ことがらの <様態〜比喩性> や <例示性> の面が表立っており、「どうやらまちがったようだ」のような「終止」の「述語」用法において 主体的な<推定性> が表面化することになるが、「だいぶ疲れているようだ/ように見える」のように、<様態性> と <推定性> が ほぼ拮抗する場合も多いし、「副詞はまるでハキダメのようだ」のように、<様態性> ないし <比喩性> の叙述に とどまることもあって、複雑である。
<注> 三上章や寺村秀夫のいう「コトとムード」や、Ch. Fillmoreのいう "Propositionと
Modality"のような、文の二大別のカテゴリーとしての「ムード」や「モダリティ」は、テンスや題述関係も含められるようだから、ここでの「陳述性」に近い。

2-3 述語の形態的構造───ムード・モダリティを中心に───

 <屈折語形> ───もっとも狭義の「ムード語形」
   kak-u       oki-ru     k-u-ru     叙述法
     -e         -ro      -o-i      命令法
     -oo        -yoo      -o-yoo     勧誘法

 <膠着的な手つづきの「助動詞」>
    動 詞─┐┌─ス ル─┐┌─(φ)だろう らしい みたいだ
    形容詞─┼┤(シテイル/イタ)├┼─(ダ)そうだ
    名 詞─┘└─シ タ─┘└─(ナ)のだ  (ノ)ようだ
         
 <文法的な「派生用言」「複合用言」>
    書か−ない
    書き−そうだ  −たい  −たがる  −ます
    起き−やすい  −にくい  /  −がちだ  −がたい

 <分析的な手つづきの「補助動詞」「形式語」>
    −と 思う(思われる) 見える(見られる) 言う(言われる) 聞く
    −に ちがいない  きまっている  すぎない  ほかならない
    −かも しれない(わからない)  cf. 終助詞化「かしら」(←か知らん)
    しても いい   しては いけない   しなければ ならない
    はずだ わけだ ことだ ものだ つもりだ / 見込みだ 様子だ 気だetc.
    ことが できる  ことに する  ことが ある 
      必要が ある  おそれが ある  可能性が ある  ふしが ある
      公算が 大きい  見込みは 小さい  / ことは 必至だ etc.

 一般に、上のものほど文法−形態化されており、下のものほど語彙性が高く文法性が低い。最後の二行など、「形態論的形式」どころか、文レベルでも「文法的」形式と見なせるか、議論の余地があるだろう。これは、<文法化grammaticalization>の度合いの問題であって、実際には連綿として連なっていて、一線で区切ることは出来ないだろう。
 このほか「終助詞」「間投助詞」と呼ばれる小詞 particle もあって、主として聞き手への「もちかけ」方を示す。以上の諸形式は、互いに組合せて用いることができる。

 <相互承接>の面で、他のカテゴリーも含めて図式化して見ると、おおよそ、
    ┌─────────────────────────────────┐
    │ヴォイス−アスペクト−客体的M/認め方−テンス−主体的M−もちかけ│
    └─────────────────────────────────┘
例)読ま−せ−られ−て い  −たく(は)−なかっ −た −のだ   −ね
  怒ら−れ   −て い  −なく−てもよかっ −た −のだろう −よ
  行か−せ   −て しまう−コトガデキ−ナケレバナラナカッ−た −のだ−ソウダ−よ

2-4 文の構造・陳述的なタイプ 基底の三分類

 ※叙法性を基軸にすえて、時間性と主語の人称性との分化を、分類の基準とする

 a)独立語文───テンス・人称、分化せず <ここ・いま・わたし>
   「感 嘆 文」:キャッ、ゴキブリ!(発見)  オーイ、お茶!(欲求)
   「疑問兆候」:ウン?  エッ?  はあ?!
   「応 答 文」:はい ええ うん / いいえ いや / もちろん なるほど
   「よびかけ」:田中さん!  おにいちゃん! (cf. 弟よ!)
          もしもし、ベンチでささやく おふたりさん!
          さきほど婦人服売場で、スーツをお買い求めになった お客様!
   *擬似独立語文:おとうさんの うそつき!   おにいちゃんの いじわる!
    号令・掲示etc.:出発!  起立! 礼! / 禁煙  静粛

 b)意欲文───テンス・人称に、制限あり
     ※通常、主語なし文。 [よびかけの独立語 + 行為述語]が基本構造
   ・命令〜依頼文(二人称):ポチ、来い!  田中さん、こちらに来てください。
                cf. 田中君、おしゃべりはやめましょう。
   ・勧誘文(一・二人称) :さあ、行こう。 田中さん、一緒に行きましょう。
     決意文(一人称)  :(ぼくが)行こう。 
              cf..「ぼくたちも 行こう」という文の両義性
   *擬似意欲文:「貧乏人は 麦を 食え」と蔵相が発言した。
          「タバコの吸い殻は 吸い殻入れに 捨てましょう」

 c)述語文───テンス・人称、ともに基本的に制限なし
   ・叙述文(いわゆる「平叙文」)
     無題文〜物語り文〜現象文(「が」)───テンス・アスペクトが主に分化
        しとしとと 雨が 降りつづいている/いた。
        寒い夜だった。暗かった。 / 無性にひとが恋しかった。
     有題文〜品定め文〜判断文(「は」)───叙法性が主に分化。時間性は様々。
        人間というものは、悲しい動物である。嫉妬深い上に、ずる賢い。
        あいつも俺も、嫉妬心から言い争ったにすぎないのかもしれなかった。
        あいつだって、今頃は後悔していることだろう。
   ・疑問文
     一次的疑問文───質問文・念押し文(確認文)・試問文・問い返し文 etc.
     二次的疑問文───熟考的疑問文・感嘆的疑問文・依頼的疑問文・反語 etc.
   *擬似述語文(感覚・感情表出):嬉しい! 淋しいなあ。 痛い! 寒いよ。
         (指示・指令など):さっさと並ぶ(んだ)! 明日は十時に集合(のこと)
      希望文(願望・希求など):行きたい。来てほしい。 助かりますように!
【注】<枝分れ tree 式>に示せるのは、ここまでだろう。以下は、実のところ、
   <網の目 network 状> もしくは <根茎 rhizome 状>に 入り組んだものと思われる。

2-5 叙述文の叙法形式 一覧 [あえて <枝分れ tree 式> に 整理してみれば]

A 基本的(主体的)叙法性 ──「叙述の様式」
  ※テンスを持った出来事を受ける。自らはテンスが、無いか または 変容する。
 a)捉えかた−認識のしかた            [cf. epistemic modality]
     断定 ⇔ 推量:するφ⇔するだろう / と思う(思ワレル) -ノデハナイ(ダロウ)カ
         伝聞:そうだ / という(話だ)  と聞く  (んだ)って
         推論:はずだ / ということになる といっていい(?) cf.必然
  a' たしかさ−確信度:にちがいない  かもしれない  かしら (だろうか)
  a"見なしかた−推定:らしい / と見える    [cf. evidentials]
         様態:ようだ  みたいだ     [cf. c 兆候「しそうだ」]
 b)説きかた−説明のしかた          ┌──────┬───────┐
     記述 ⇔ 説明:するφ⇔するのだ   │  す  る │ する だろう │
         解説:わけだ        ├──────┼───────┤
                       │  するのだ │ するのだろう │
B 副次的(客体的)叙法性 ──「出来事の様相」 └──────┴───────┘
  ※用言語基に接尾。連体形を受けるものも、テンスの対立は、無いか 中和する。
   派生用言・用言複合体として自らがテンスを持つ。ただし、現在か 超時 が多い。
  c)ありかた−出来事の存在のしかた(Sein)    [cf. alethic〜dynamic modality]
        兆候:しそうだ        [cf. a" 様態「ようだ」]
        傾向:しがちだ  しかねない  なりやすい  なりにくい
           しないともかぎらない することもある cf. シテシマウ(不本意・無意図)
        可能:することができる  しうる  −られる  -eru
       ?必然:するφ  デなければならない
  d)あるべかしさ−行為の当為(Sollen)・規範的なありかた  [cf.deontic modality]
        許容:しても/たって いい  しても/たって かまわない(へいきだ)
       不許容:しては ならない   しては/たら いけない(だめだ)
       不適切:すると いけない   したら/ては いけない(まずい)
        適切:すれば いい  したら いい  すると いい
        適当:した/する方が いい  / (勧告)する/したが いい
        必要=否定の不許容:しなければ ならない  しなく-ては いけない
       (不可避)否定の不可能:せざるを えない  しない-わけには いかない
        当然:す(る)べきだ  / (道理)するものだ  することだ
                   [cf. 回想:したものだ  したことだった]
  e)のぞみかた−情意のありかた               [cf. intentionality]
        願望:したい  したがる
        希求:して ほしい  して もらいたい(いただきたい)
        意図:するつもりだ  する気だ   cf. してしまう(不本意・無意図)
        企図:して みる  して みせる  して やる  / して おく
  e') 感情性  評価:−に限る −にすぎない するまでもない するにおよばない
   (emotivity) 程度:Vされて(Aしくて)ならない  Aしくてたまらない

2-6 叙法形式とテンスとの関係

2-6-0 基本的叙法性自身は、テンスの対立を持たない(発話時=現在の態度だから)。
その点、「しろ」「しよう」「する/した か」「する/した だろう」は、問題がない。

2-6-1 説明の「−のだった」は、
  どこからともなく、かぐわしい花のかおりが、ただよって来るのでした。
  怪人二十面相は、そう言うやいなや、煙のように消え去ったのであった。
のような、物語り(説き語り)文体のものに多く見られるが、他の文体では、
  太郎はそう言って、大きなため息をもらすのであった。
  花子はこの一言が聞きたくて、わざわざここまで、やって来たのであった。
のような、叙情的な回顧・詠嘆調を伴うものが多く、また、
  こんなことになるのなら、ぼくが行くのだった。
    cf. そうと知っていたら、ぼくも行った(のに)。
のような、反実仮想的な、後悔口調のものも多い。

2-6-2 伝聞の「するそうだった」は、
 ?さっき聞いた話では、田中さん、きのうのパーティには来なかったそうでしたよ。
cf. さっき聞いた話では、──────────────ということ(話)でしたよ。
のような例があってもよさそうに思えるが、実際に見出すことは、難しい。
昭和テクスト  22例【立原7、周五郎5、井伏3、聖子3、宮本輝3、三浦哲郎1】
明治テクスト  10例【漱石8、鴎外1、藤村『破戒』(明治39年)1】
 cf. 現在形「そうだ」3334例

2-6-3 解説の「−わけだった」は、さほど多くない。中に「そういうわけだった」「〜したことが〜した訳(=理由)だった」のような原義が生きているものも、少なくない。
2-6-4 推論の「はずだった」は、反事実的用法が目立つ。
「スルはずだった」と「シタはずだった」では、用法が異なるだろう。
 ちなみに、否定の形も、「〜ないはずだ」、「〜はずが/は ない」(?〜はずではない)、「〜はずではなかった」「〜はずが/は なかった」などのように、特異である。

2-6-5 <確かさ>の「−にちがいない」「−かもしれない」や、<推定・様態>の「−らしい」「−ようだ」などのタ形は、量的には使用頻度の多少、質的には意味用法のかたより ―― ex. まともなテンスか、反実仮想か、内的独白「…と思った」の圧縮か ―― 等の点で、異なりを示しつつも 連続的に連なっているだろう。
  それはきっと刑務所のなかで何度も考えつくされた話にちがいなかった。
  恐らく他の女助手を使っているのに比べて …… 能率が違うにちがいなかった。
  それが一度や二度のことなら、佐蔵にわからずにすんだかもしれなかった。
  あるいは協力者たり得たかもしれなかった者も、───わしから離れていった。
  その日は、よほど疲れているらしかった。
  ある日、どうやら梅田に出かけて行ったらしかった。
2-6-6 <願望・希求>の「したい」「してほしい」等や、<当為>の「すべきだ」「すればいい」「してもいい」等も、タ形を持つが、<反実仮想性>を持った例が多い。
<願望>
  前々から、あなたと一緒に行きたかったのです。(実現した前からの願望)
  ぼくだって、あの時、行きたかったのに。 (実現しなかった過去の願望)
  あしたの遠足、ぼくも行きたかったなあ。 (実現し得ない現在の願望)
<希求>
  明子は、民夫に来てほしかったのです。
  父には、もう少し、長生きしてほしかった。
<当然〜義務・必要>
  彼は、きのう行くべきでした。(しかし、行かなかった)
 ?彼は、きのう行くべきでした。(だから、無理をして行きました)
  彼は、その時勉強しなければならなかったのだ。(しかし、遊んでしまった)
  彼は、その時勉強しなければならなかったのだ。(だから、友達のさそいを断った)
<適切〜許容>
  当時は、ただ勉強さえしていればよかった。 (○ −ばそれでよかった)
  あの当時しっかり勉強しておけばよかった。 (× −ばそれでよかった)
  昔は、自転車を乗り入れて(も)よかった。
  あしたは、行かなくて(も)よかったんだよ。

2-6-7 可能の「することができる」「読める」等は、過去形では、原義の「出で来る」や 自発性・自動詞性が生きていて、<期待される事柄の実現>を表わすことが多い。
  長い間、列に並んでいたおかげで、やっと切符を手に入れることができた。
  電車が混んでいたので心配だったが、なんとか座席にすわれた。
  きのう早く寝たので、けさは6時に、ちゃんと起きられた。
ただし、次は、過去の可能(状態)の用法
  彼は若い頃は、この川を泳いで渡ることができた。  <過去の能力可能>
  昔は、この川もきれいだったので、子供たちが泳げた。<過去の状況可能>
<参考>「できる」発生:「足に おできが 出来る」(<「出で来(る)」)
    「刷り上がったばかりの新聞が 出来てきた」
 実現:「ああ、やっと(作品が) 出来た」
    「ああ、私にも、(そうすることが)できたらなあ」
 可能:「私は、〜することができる」
「折れる・知れる・読めるetc.」:自動詞 ⇒ 可能動詞
「−(ら)れる[起きられるetc.]」:自発態 ⇒ 可能態
「台風で 木の枝が 折れた」 自動
「僕にも 木の枝が 折れた」   実現
「ぼくは 木の枝が 折れる」   可能 事態的
   (?)「ぼくは 木の枝を 折れる」   可能 行為的
   cf. 「ぼくは 木の枝を 折れる ように/人に なりたい」

2-7「が」と「は」───「主格」と「主題」、いわゆる「主語」をめぐって

1)形態論的な性格
 「が」:格の表示(格助詞)
     主 格:犬が 走っている。  きのう田中さんが 遊びにきた。
    (部分主格) 象は 鼻が 長い。  象は 性質が おとなしい。
     対象格:(私は)水が 飲みたい。  (私は)故郷が なつかしい。
            手/傷/とげが 痛い。   目/太陽が まぶしい。
         彼は 英語が 話せる。  彼女(に)は その理由が わかった。
         私にも 英語が 話せた。 いま 私には 神の声が 聞こえません。
           [一般的な能力(可能動詞)か、個別的な実現(自動詞)か]
     指定とりたて:「ああ、あれが、波布の港なんですね」

 「は」:提示(係助詞)〜とりたて(副助詞)
     −は(が格、を格)−には −へは −では −とは −からはetc.
   題目提示:(主格)万葉集は 日本最古の歌集である。
        (対格)日本酒は 米から作ります。
        (題目語)会場は 下の地図をご覧ください。
        (端折り)春は曙。冬はやっぱり鍋物だなあ。山は富士、酒は○○。
   状況提示 (設定):日曜日(に)は たいていこどもと遊びに出ている。
            学校では きょう、運動会が行なわれている。

   特立とりたて:(私は)そんなことは 聞いていません。
          (その件は)田中さんには 知らせておきました。
          (私は)あの人とは 口もききたくありません。
    対比・対照:酒は飲むが、たばこは吸わない。
          京都には行ったが、大阪には行けなかった。
   (否定の焦点) 三年生は、全員  参加しなかった。(全面否定)
           三年生は、全員は 参加しなかった。(部分否定)
           かれと そこでは 会わなかった。 [そこで会った]のではない
           そこで かれとは 会わなかった。 [かれと会った]のではない

2)複文における用法(従属節の用法)
 主題の「は」は、連体節・条件節etc.、独立性の高くない従属節(南不二男のB段階の従属節)には、おさまりきらない。別の主題が現われるまで、ゆるく、全体にかかっていく。[文末にまで、あるいは、文をこえて、かかっていく。主題の統一=段落(同一場面)]
    雪が/*は(/の) 降る夜は、楽しいペチカ。
    風が/*は(/*の) 吹けば、おけ屋がもうかる。

    鳥が/*は 飛ぶとき、砂塵があがった。
    鳥は/*が 飛ぶとき、羽をこう広げる。
    その本は、僕も読んだが、たいへんおもしろかったよ。
         (本を)   (本が)
    家の貸間は、あまりきたないので、誰も借りに来ない。
          (貸間が)     (貸間を)

    太郎が 上着を脱いで ハンガーにかけた。[太郎が を含意]
    太郎は 上着を脱いで ハンガーにかけた。[太郎が を含意]
    太郎が 上着を脱ぐと ハンガーにかけた。[花子が を含意]
    太郎は 上着を脱ぐと ハンガーにかけた。[太郎が を含意]

    太郎が 話しかけてきても なまくらな返事をするだけだった。[花子は を含意]
    太郎は 話しかけてきても なまくらな返事をするだけだった。[太郎が を含意]

    男は上の娘と同じ床に寝ていた。それを見るまで、私は二人が夫婦であることを
   ちっとも知らなかったのだ。
    夜、私が木賃宿に出向いていくと、踊り子は三味線を習っているところだった。
    自分もその頃はまだ若かった。当時わが国の碩学はチャムブレンという外人教師
   から日本文典を学ばれた( )話を聞いて大いに慨嘆し不束なものを公にしたので
   あった。   [トイフ抜け。個別具体的な動詞文]
   デパートは 午後 こむ ことを 知らなかった。 [一般抽象的な動詞文]
   1たす1は 2である ことまで、君は 否定しようと いうのか。  [名詞文]

   祖父の三回忌の法事のある前の晩、信太郎は寝床で小説を読んでいると、並んで寝
    ている祖母が、「…………」と言った。(志賀直哉『或る朝』)

   母親はしきりに男の子を前に押し出そうとするので、男の子の顔は恐怖に強ばって
  いまにも泣き出しそうだ。
   それも彼女は、私に直接でなく先生を通して頼むので、とてもいやな気持ちがした
  ものです。                    cf. とてもいやな感じでした。

   選手たちは、走り終わると足をもみますが、これはたまった疲労素を早く分解して
  酸素補給をよくするためです。[まえおきの「が」。全体を「これは」と うける]

   ちっとも落ち着いて本を読まない子はお母さんの頭痛の種ですが、それと反対に、
  学校から帰って来るなり、机の前にすわりこんで漫画の本にしがみついている子、こ
  れもまた、心配ですね。[まえおき・逆接の「が」。「は」は 対比性を もちやすい]

   カルダノは、すぐれた数学者であると同時に職業的賭博師でもあるという、狂天才
  の名にふさわしい人物でしたが、彼は、歴史上はじめて、賭の有利不利に関する問題
  を解いています。[まえおきの「が」だが、「彼は」と くりかえした方が おちつく]
3)文の意味・機能的な構造における 主語性
 「が」:無題文・物語り文・現象文の主体[全体が新情報]   「ただ(中立)の 主語」
      典型的には、動詞文、および、一時的状態の形容詞文
    庭で子供たちが、元気に遊んでいる。
    空気が すがすがしかった。小川のせせらぎが、耳に快かった。

   cf. となりが火事だ。 学校が休みだ。 足が泥だらけだ。   [動詞的な 名詞]

 「は」:有題文・品定め文・判断文の主題[思考の 題目]    「ただ(中立)の 主語」
      典型的には、名詞文、および、恒常的性質の形容詞文
    クジラは、哺乳動物である。魚ではない。  [一般人称]
    吾輩は 猫である。             [特定人称 一人称]
    これは、最近発売されたばかりの新製品です。[指示詞]

    ダイオードとは(というのは)、半導体で作った二端子素子のことである。
    cf. ダイオードは、半導体で作った二端子素子である。[未知のことを定義する]

    海は、広いな、大きいな。         [一般の 特性]
    この犬は とっても りこうです。      [特定の 性質]
    霜は、晴れて 風の ない 夜に よく 降りる。 [一般の 習性・傾向]
    あの人は、毎晩 お酒を 飲みます。  [特定の 習慣]

4)テクストの構造の中での のべかた(結果面としての 情報性)
 「が」:news(ノーボエ・新知)  説明 / 新情報 未知
         何が あったのか    *彼が どうしたの(問返し・詰問のみ可)
 「は」:given(ダンノエ・所与)  根拠 / 旧情報 既知
         *何は あったのか    彼は どうしたの(疑問詞述語の標準用法)
   疑問詞と逆に、1、2人称代名詞(会話の当事者)は、「−は」の形がニュートラル。

・物語の 冒頭 (舞台・場面設定するまでは、「が」で 現象・できごとを描写)
    昔々、ある 所に、おじいさんと おばあさんが いました。ある 日、おじいさん
   は、山へ 柴刈りに、おばあさんは、川へ 洗濯に 行きました。
    cf. ある 日、おじいさんが 山へ 柴刈りに 行きました。すると、………

    学校へ 行く 途中に、大きな 池が ありました。一年生たちが、あさ、そこを
   通りかかりました。池の 中には、ひよめが 五、六羽、くろく 浮かんで おりま
   した。それを 見ると、一年生たちは、いつもの ように 声を そろえて「ひよめ、
   ひよめ。だんご やあるに くうぐれっ」と うたいました。すると、ひよめは、
   あたまから ぷくりと、水の なかに もぐりました。(新美 南吉)
    cf. それを見て、一年生たちが………うたいました。すると、ひよめは、………
・小説の 冒頭 (すべてが新情報のはずだが、名詞文・形容詞文という文構造面が優先)
    木曽路は すべて山のなかである。
    高瀬舟は 京都の高瀬川を上下する小舟である。
    剃刀を使うにかけては、芳三郎は 実に名人だった。
    北国の秋は 早い。とくに今年は早いようである。

・四つの 名詞文[情報性と 語順]
    あの人は 社長です。   社長(であるの)は あの人です。 包摂判断
     旧    新          旧       新    (A>B)
    あの人が 社長です。   社長(であるの)が あの人です。 同一判断
     新    旧          新       旧    (A=B)
      下は +α(場面的 とりたて性 ないし 表現的 強調性)
      ∵「判断」の自然な流れは、旧情報・既知 ⇒ 新情報・未知

5)とりたて性(場面におけるモノゴトの比較表現性。文体的強調性もふくめておく)
 「が」:指定性(結果面で 量的に「総記」とも いう)
    「いったい、どなたが社長(なん)ですか」 「あの人が、社長(なん)です」
    「ああ、あれが、波布の港なんですね」

    この、十才になっても寝小便をたれていた男が、のちの坂本龍馬である。
    春琴の強情と気ままとは、かくのごとくであったけれども、
   とくに佐助に対する時がそうなのであって、………

    ことに教育部門に関しては、学校だけが教育する場所ではないのである。

    (ほかならぬ)あなたが 自分で 行くべきです。
    今度の ことは、(ひとえに)私が いけなかったのです。
    彼の せいでは ありません。私が かってに 無断で やったのです。

 「は」:対比性・特立性
    酒は飲んでも、たばこは吸わない(という)男が、増えてきた。
    空は晴れても、心は闇だ。
    背丈は高いが、からだの柔軟性や持久力はあまりない子供が増えている。
    心臓は動いている脳死の患者から腎臓を摘出、透析患者に移植手術をしたのは、
    鼻は 象が 長いが、首は きりんが 長い。
   cf.(ふつうは) 象は 鼻が 長く、きりんは 首が 長い。(全体ハ 部分ガ)

<参考>三上 章1953『現代語法序説』、 同1960『象は鼻が長い』
    奥田靖雄1956「日本語における主語」( 同1984『ことばの研究・序説』所収)
    大槻邦敏1987「『は』と『が』の つかいわけ」(『教育国語』91)

第三章 個別・具体的な 記述の試み ふたつ

3-1 希求文(「してほしい」「してもらいたい」「していただきたい」)

3-1-1 形態論的性格 ── 活用は、イ形容詞型。
    感情形容詞と同様、連用形副詞法を もたない。(中止法・内容(結果)法は もつ)

3-1-2 統語論的性格 ── 願望態「したい」にくらべれば、形容詞(述語)性は希薄。
   ・程度限定性:?とても│買ってほしい。   ?非常に │読んでほしい本
           ぜ ひ│           ぜひとも│
              cf. 買いたい           cf. 読みたい
   ・ヲとガの交替:この本を/?が 買ってほしい。    cf. 買いたい
           この映画を/?が 見てもらいたい。  cf. 見たい

   ・論理的意味構造として、[希求主]のガ格(主格)のほか、
               [希求の相手=動作主]のニ格(与格)が必要 
3-1-3 陳述論的性格
3-1-3-1 主体の人称制限、過去形の意味など、基本的に 願望態「したい」に同じ。
     何でもいいから、着物を一枚貸してほしいね。
     やはりお父さんは、国の方にいてほしい。
     あたし、それより聖書を読んでほしい。

     明子は、民夫に来てほしかったのです。
     父には、もう少し、長生きしていてほしかった。
     どうせなら、見え透いた嘘でもいいから、それらしく振る舞ってほしかった。

     今度のことでは、ぜひとも君に、力を貸してもらいたい。
     次の会には、あの方にも参加してもらいたいな。

     あの人にだけは、本当のことを知っていてもらいたかったのです。
     父にも、きょうの晴れ姿を見てもらいたかった。

     あなたにも一つおおいに奮発していただきたい。
     どうか一つ、今回のことは穏便に処理していただきたい。
     亡き師匠にも、一目見てもらって、辛辣な批評を聞かしていただきたかった。

3-1-3-2 否定の形には、それぞれ 次の二つがある。
       「してほしくない」   と「しないでほしい」
       「してもらいたくない」 と「しないでもらいたい」
       「していただきたくない」と「しないでいただきたい」
    前者も、希求の否定=欠如ではなく、シナイことの希求であるから、    
    両者は、見かけほどの違いはない 類義表現ということになる。
    ただし、人称表現の現われ方に差がある。
     あたし、こんな看病なら、してほしかないの。
     あんな奴に同情など、してほしくないな。
     あたし、あなたにそんなことしてもらいたくないの。
     君達にそういう心配はしてもらいたくない。
     いやだという者に、無理にもらってもらいたくはない。
     でも違うのよ。あなたにだけは、誤解していただきたくないの。

     邪魔をしないでもらいたい。一人にしておいてくれ。
     不吉なことは言わないでもらいたい。
     もう、見送らないでほしいな。
     悪気はないんだ。気にしないでほしい。
     誤解なさらないでいただきたいわ。
     こどもの前で、馬鹿なことは言わないでいただきたい。

   ・前者は、人称表現の明示 多く、希求の叙述文としての性格が強い
    後者は、人称表現の省略 多く、依頼の意欲文としての性格が強い
     ?? 私は 彼に 来ないで もらいたい/ほしい。
    cf. 私は 彼に 来ないで もらいたい/ほしい のだ。
      私は 彼に 来て もらいたくない/ほしくない。

     ?あなたに 同情しないで もらいたい/ほしい。
      あなたに 同情して もらいたくない/ほしくない。

3-1-4 希求から依頼へ
   希求の意味的構造:希求のシテ   希求のウケテ     動作の希求
             あの人は    あなたに     来てほしい のだ。
   依頼の意味的構造:一人称シテ   二人称ウケテ     動作の希求
   希求の機能的構造: 主語      補語        叙述文述語
             わたしは     あなたに     来てほしい。
     叙述文構造  わたしは    あなたに     来てほしくない。
      ↓
   依頼の機能的構造: <消去>    独立語/主題・主語  意欲文述語
              φ      田中君、  すぐ 来てほしい。
     意欲文構造    φ      きみは、  もう 来ないでほしい。
              φ      きみが ひとりで 調査してほしい。
3-1-5 さらに 願望へ か
  こういう若者が もっと ふえてほしいんです。
  もっと 雨が 降ってほしいですね。
  かかってほしい曲 ベストテン (あるテレビ番組の企画名)

3-2「どうしても」の意味構造 抄

(くわしくは、http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/kudohiro/doositemo.html)
 比較的に成立が新しく、現に句的形態を保っている副詞「どうしても」を取り上げて、文の中での諸用法を記述しながら、語における多義・多機能の定着のしかたの一端を探ってみたい。
3-2-1 「どうしても」の語構成の由来は、
   未定副詞「どう」 + 形式動詞逆条件形「しても」
 (あるいは 未定副詞「どう」+形式動詞中止形「して」+係助詞「も」)
であり、
   彼女は、いくら食べても、太らない。       <非実現>
   どんなにすすめられても、彼は行こうとしない。  <否定意志>
   誰がどんなに反対しても、私は行く。       <意志>
   どんなことが起こっても、君は行きなさい。    <命令>
   誰がなんと言おうと(も)、間違いは間違いだ。   <判断>
のような複文において、主文の陳述が「あらゆる条件のもとで(いつも)成り立つ」ものとして差し出しながら、主文をいわゆる全面否定あるいは全面肯定に導く、 <全称> 的な条件句の構造がもとになっている。
 「どうしても」は明治期以降のデータに限っても、その副詞化の程度に差が認められるのだが、その形式動詞部分「しても」は、@「どう手をつくしても」「どう試みても」などの行為を代行するばかりでなく、A「どう見ても」「どう考えても」などの知覚・思考作用や、さらに、そうした個別的な行為や認知作用を想定しにくいB「(事情が)どう(で)あっても」のような状況をも代理するようになっている。概して、@は否定呼応用法に、Aは判断用法に、Bは意志・希望・必要用法に多く見られる。
 なお、本稿の資料は文字資料であるため、アクセントについては、資料からはなにも言えないが、一語としての/ドーシテモ/だけでなく、句=二語としての/ドー シテモ/ が混じっている可能性がある。本稿では、疑わしきものも対象として扱うことにする。

3-2-2 予備的な 概観と、多義・多用法の まとめ
以下しばらく、細部にわたる記述がつづくので、はじめに概観の意味で、共起する述語形式による分類に従って、その典型例と、手元の資料(全 381例)での用例数とを挙げておく。二面性・二重性をもった境界事例的なものも、あえてどこかに押し込んであるので、この数値は、おおよその見当をつけるためのものと受け取っていただきたい。
  1)不可能:どうしても 食べられない/食えない    114例 29.9%
  2)非実現:どうしても 見つからない/わからない    50例 13.1%
  3)趨 勢:どうしても まちがってしまう/〜しがちだ  33例  8.7%
  4)意 志:どうしても 行くと言った/行こうと思った  55例 14.4%
  5)希 望:どうしても 行きたい/来てもらいたい    41例 10.8%
  6)必 要:どうしても 行かなければならない/必要だ  40例 10.5%
  7)判 断:どうしても 我が軍の負けだ/尋常ではない  40例 10.5%
  8)略 体:どうしてもと言われるのでしたら………    8例  2.1%
このうち1)不可能から5)希望までの「どうしても」が用いられる文は、 <出来事や行為> についての「記述文」としての性格が強い。そのうち1)不可能と2)非実現と3)趨勢が、動作主体の意図や期待に反する出来事 <思い通りにならないこと> の描写だとすれば、4)意志と5)希望は、そうした困難を乗り越えようとする動作主体の意志的行為 <思い通りにすること> の表現(表白)である。また、以上の1)〜5)の「記述文」に対して、7)判断用法の文が、ものごとの関係や特徴についての「判断文」であるとすれば、6)必要用法は、行為的必要と判断的必然とにまたがり、両者をとりむすぶものである。3)趨勢に入れておいた不可避表現(ex.セザルヲエナイ)も、判断文性をあわせもつ。
 記述文的なものはもちろん、判断文的なものといっても、「どうしても」が現われる文の表わす事態は、個別・具体的な事態が多く、一般・抽象的な事態は少ない。これは、否定の「とても・到底」や傾向性の「とかく・えてして」などの類義的な副詞との基本的な相違点であって、「どうしても」に従属句的性格が残っていることの現われかと思われる。
 なお、否定形式と共起する例は全体のほぼ半数に上り、「どうしても」の基本的特徴をなすが、そのうち「どうしても 行きたくない・行こうとしない」のような否定希望・否定意志の形と共起する例は、本稿では、それぞれ希望・意志の用法に組み入れた。それは、この用法の「どうしても」自体の意味が、否定に多い@行為的なものというより、希望や意志に多いB状況的なものだからでもあるが、また、それらを外すことによって、いわゆる「否定呼応」という漠然とした規定が、1)不可能と2)非実現という二つに(さらに抽象すれば、期待の非実現という一つに)明確に限定しうるからでもある。
               <記述の 詳細は 略す>
 意味・用法の <派生関係> は、期待の非実現・不可能を出発点に置いて、一元的に考えれば、次のような派生・移行関係を考えることもできるだろうか。

    期待の非実現  ┌──回避することの不可能───趨勢(傾向)
     ならない   │  セズニハイラレナイ セザルヲエナイ   シテシマウ シガチダ
      |     ├──意図スル/シナイコトノ不可能 ───希望・意志
    不 可 能───┤  スル気ニナレナイ /シナイワケニハイカナイ  シタ(クナ)イ シヨウ(トシナイ)
     できない   ├──不在・欠如の不可能 ───必要
            │  ナシニハスマサレナイ ナクテハコマル    シナケレバナラナイ
            └──他の認定思考の不可能───判断
               -ニハ見エナイ  -トハ思エナイ    -トシカ考エラレナイ -ダ

 あるいは、出身母体である全称的な従属句構造が否定系列にも肯定系列にも用いえたことを根拠に、多元的な関係を考えるなら、「どうしても」の諸用法の <組織図> を、次のように描いてみることも許されるだろうか。

[複文構造] [文の対象的内容][記 述 性  〜  (二重否定)  判断性]
 否定系列:望まぬ事態の描写─非実現〜不可能─趨勢〜不可避─┐
              (困 難〜拒 否)…………………┼─判断
 肯定系列:志向的行為の表白─願 望〜意 志────必 要─┘

4)終章(逃げ口上)

4-1 分類案の 素描

<構造=陳述的なタイプ> としての「意欲文」は、揚棄し、
「述語文の下位体系」のひとつとして、<認識系> と <行為系> との対立と統合を見る。

 両者の対立の裏に、評価(いい/まずい)や 感情(うれしい/こまる)の系列 <評情系> が、
両者を とりむすぶ(媒介する) ものとして ひそむ、と とらえる。

4-1-1 マトリックス [前後のテンス(「ダブルテンス」)の形と意味による]

   前部テンス │ 後部テンス │ 形  式  例
   ──────┼───────┼──────────────────────
     −   │   −   │ しろ  しよう
     −   │  (+)  │ したい  すべきだ
     −   │   +   │ しそうだ  してみる
   ──────┼───────┼──────────────────────
     +   │   −   │ か  だろう 
     +   │  (+)  │ のだ そうだ はずだ / にちがいない
     +   │   +    │ らしい ようだ(様子だ 模様だ)/かもしれない


4-1-2 分布的図式 [図の「±+」「−±」etc.は「ダブルテンス」の有無を表わす]
   ┌───────┬────────────────────────┐
   |       |±+ 副次的(客体的)〜 基本的(主体的) ±−|
   ├───────┼────────────────────────┤
   |  内的 意図系|  してみる しようとする したい  しよう  |
   |<行為系>−±|−+  しなければならない  すべきだ   −−|
   |  外的 成行系|  しがちだ しそうだ ことができる      |
   ├───────┼────────────────────────┤
   |  外的 状況系|  様子だ ようだ らしい はずだ  そうだ  |
   |<認識系>+±|++かもしれない  にちがいない  だろう か+−|
   |  内的 説明系|    といっていい  わけだ のだ      |
   └───────┴────────────────────────┘

 左右の配置は、承接順序という形式にも基づくが、「複合体」としての意味と機能も考慮されており、連続体である。その位置は、おおよその目安(概念図)と見てほしい。
 <認識系>と<行為系>とのそれぞれに、中核的なものを はさんで、内的なものと 外的なものとを 配置しようとする。 [この縦軸(2象限)は、立体的な「円柱」状に イメージできようか]

4-2 語 と 文 の 組織図
─────────┬───────────────────────
         │ なまへ     かざり     よそひ   
         │ 体言系     相言系     用言系   
────┬────┼───────────────────────
    │(陳述)2│ 取立詞     評価詞     叙法詞   
 こ し│かざし │  :       :       :    
    │    │   …………………………………………     
 と な│副用語 │  :       :       :    
    │(様相)1│ 規定詞     程度詞     様態詞   
 の じ├────┤  │       │       |    
    │ことば │  ↓       ↓       ↓    
 は な│自用語 │ 名 詞 ←── 形容詞 ──→ 動 詞   
    ├────┤  ‖  イ/ナ 語 尾 ク/ニ  ‖    
 ・ ・│(様相)1│ 助 辞 ──→ イ/ダ     複語尾   
    │あゆひ │  │               ↑    
   品│    │  └───────────────┘    
 語  │付属辞 │  :       :       :    
   詞│(叙法)2│ 認識辞     評情辞     行為辞   
────┴────┼───────────────────────
         │ 用言化     用言化     体言化   
 か わ り み │-だった/だろう -かった/だった するの/こと
         │                       
 転     成 │ 相言化     体言化     相言化   
         │(鉄の 意志)   語幹/-の   (うがった 考え) 
────┬────┼───────────────────────
    │さしだし│ 題目語     状況語     陳述語   
 ふ は│設  定│  :       :       :    
   た├────┤  ┌───────────────┐    
 み ら│ほねぐみ│  |               ↓    
   き│    │ 補 語 ←連体 修飾語 連用→ 述 語   
 ・ ・│骨  格│  ↑              (連体節)  
   機├────┤  └───────────────┘    
 文  │つけたし│  :       :       :    
   能│付  加│ 独立語     評釈語     挿入語   
────┴────┴───────────────────────

■この図式は、富士谷 成章の『脚結(あゆひ)抄』や『挿頭(かざし)抄』に見える言語思想を直接の土台にし、森重 敏『日本文法通論』p.137の「第一機構」の組織図を ヒントにして ひねりだした もの。 [立体的な「三角柱」ないし「円柱」状に イメージしてみてほしい]

付)「文の階層性」に関わる 図表




図d 南不二男の「四段階」モデル [例は 工藤 作成]

  「ねぇ[きっと 太郎は{きのう (花子に ふられ)た}のだろう]ね」
          (~~~~ガ)       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄A
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄B
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄C
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄D



複語尾の表

山田 孝雄1936『日本文法学概論』(p.315)





<参照>  「希望」関係の語の扱い
         「未然形」           「連用形」
      【述体】まくほし・まほし[熟語]     たし(中世以降の語)
          な・に・ね/ばや[助詞]
      【喚体】もが(な・も)・てしがな[助詞]

       ※統覚 ―┬― 希望 ……… 希望喚体も あり
            └─ 陳述 ……… 述体(句)・用言(語) の 本質
 

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