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言語形式

「言語は思惟・思想の形式である」という意味での言語形式という用語法は、おそらく古くからあると思われるが、研究対象として特に採り上げ詳論したのはフンボルト(W. von Humboldt)(1836)『(通称)カヴィ語研究序説』の "Sprachform" が最初であろう。外的言語形式と内的言語形式とに分けるが、外的言語形式とは音声形式とも言われ(ときに誤解されるが)、音声という悟性(知性)のレベル(の感覚)でとらえられる形式という意味で、語や文の構成も含まれており、通常の言語学者がまず扱うのはこれである。内的言語形式というのは、理性のレベルで働くもので、知性(理念)のみならず感情や意志(情意)をも含めた総合的な人間精神の形成に働くものと考えられているようである。
 サピア(E.Sapir)(1921)『言語』の第4章と第5章は、ともに「言語の形式(form in language」と題され、相対的に独立して働く「文法的手順」と「文法的概念」とを「形式」の二つの側面と見て副題でわけて順に考察し、第6章「言語構造の類型」という総合につなげていく構成になっている。文法的手順の主要な六つのタイプとして、並置(語順)・複合・接辞づけ(派生)・音韻交替の四つが単位大から小の順に取り出され、ついで音象徴にかかわる重複(畳語)と超分節的なアクセント(強弱・高低)の変異が付け加えられる。つづく二つの章で、文法概念(語要素)のタイプと 言語構造(統語)のタイプとが 詳しくかつ総合的に扱われるが、それを「一般的な形式(general form)」とも見ていた、と記すにとどめる。
 ヴント心理学を基礎とした1914年の『言語研究序説』から1933年のメカニスト宣言とも言える『言語』へと自己変革を遂げたブルームフィールド(L. Bloomfield)は、後者の第10章「文法的形式」から第16章「形式類と語彙」の諸章で、心理的要因を潔癖に排する立場からの記述方法を詳論している。結論的に言えば、「言語形式(linguistic form)」は「最小または合成された有意味単位」であり、音素の結合による語彙的形式と、語順・抑揚(二次音素)・音声的変容(音声交替形)・形式の選択などによる文法的形式からなるとし、感覚にとらえられる限りで記述するための諸単位を「形態素」などの新造語を用いて煩瑣なまでに細かく設定する。日本では、服部四郎がこれを継承技術化する形で、「具体的言語単位と抽象的言語単位」との区別を立てて操作的により扱いやすい形に整理したうえで、「付属語と付属形式」とを区別する具体的な手順・基準を提示するなどしている。
 明星学園・国語部(1968)『にっぽんご 4の上 文法』と その解説である鈴木重幸(1972)『日本語文法・形態論』は、先述のサピア(1921)やヴィノグラードフ(V.V.Vinogradov)(1947)『ロシア語 単語についての諸学説』などを受け継ぎ、松下文法等を発展させる形で、日本語の品詞全体にわたる「形式・形態」の具体的な体系化を試みており、奥田靖雄(1985)『ことばの研究・序説』は、サピアの並置(語順)という文レベルの部分を拡充発展させる形で、不変化詞としての副詞や用言の終止連体形など語レベルの形式で区別されないものについても、ブルームフィールドらによって取り出されていた「位置(position)」や「配置(distribution)」、それに単語の範疇的な意味(categorical meaning)を組み込んだ「連語の型」や「文の内部構造」が、いわば <構文論的な形式> として働き、またアスペクト(性)やモダリティなどの文法範疇においては、「段落の構造」も形式として働く、とする考えを示している。
 形式(form)という術語は、一般に内容または質料(素材)に対してコトの生起する仕方を言い、そのさい形式を、内容と密接な連関の中にあってコトの構成の骨格をなすと見る立場と、内容と無関係な単なる外部と見る立場とが、両極としてあり、前者では「形相」、後者では「外形」とも呼ばれ、学者の拠って立つ立場により、さまざまな方法や手法の差を生みだしている。

(工 藤 浩)



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