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言語学研究会文法の 成立と 展開
―― 質疑と討議のために ――
月末金曜日の会 2007/03/30 工藤 浩
1)奥田靖雄の 文法論の ほねぐみ
1-0-1 言語学原論 (言語学の基礎づけ)
・1951「言語過程説について(1)」『コトバの科学』4号
さて、言語は感性的表象が非感性的概念に移る契機において、感性的な支柱として発見されるとすれば、言語学の全理論体系が、ここから出発しなければならないことは疑いえない。概念は、実際の意義を判断と推理とのうちにもつのであるから、言語はつねに文法的様相をともなう。従って、言語学は語彙論と文法とに分割される。
さらに、表象に対する音声の付与が言語の生誕であるとすれば、この二つの分野で働く言語上の手つづきは音声的なものであり、音韻論的手つづきこそ、言語発展の最初の段階とみなさねばならず、それゆえに、論理的体系としての言語学は、音韻論をもって、最初の環とみなさねばならない。【結語の部分】
・1980〜1「言語の体系性」『教育国語』63〜66号(4回連載 未完?)
・1984「文のこと」【宮教大 最終講義】宮教大『国語国文』13/14合併号
1-0-2 文法概論
・1956「ことばの組みたて」『民族とことば』(講座日本語 I)
はじめに 単語について 文法について 形態論について 文章論について
1-1 形態論
・1952「日本語動詞の語幹について」『コトバの科学』7号
服部の「形式主義的な、共時論的語幹論」に対する歴史文法の立場からの批判
・1953「単語について」『新しい教室』8月号
・1968『にっぽんご 4の上 文法』
1-2 構文論
・1954「日本語の文法的クミタテ」『国語問題の現代的展開』
「小学校の文法教育としては、文章論【=構文論】をまんなかにおいて、それに形態論をつけたす、といった具合でおしえた方がよいと、わたしは考えているので、……」
・1956「日本語における主語」(研究会報告)
・1985「文のこと ―― 文のさまざま(1) ――」『教育国語』80号
1-3 連語論
・1958「単語のくみあわせの理論」(研究会報告)【要旨『言語学研究会ニュース 9』】
・1960「を格のかたちをとる名詞と動詞とのくみあわせ」(研究会報告)
・1968-72「を格の名詞と動詞とのくみあわせ(1)-(9)」『教育国語』12-28号(断続)
・1976「言語の単位としての連語」『教育国語』45号
2)鈴木重幸 と 宮島達夫
・1953『正しい日本文の書き方』(とくに 第一部 第五章 動詞のつかいかた)
・M1956「文法体系について ―― 方言文法のために ―― 」(『国語学』25)
・M1957『ことばの発展』(国語と文学の教室 全10巻の 8冊め)
・M1957『単語教育』(講座 現代の用語・用字教育 全3巻の第1巻)
・M1961「母音の無声化はいつからあったか」(『国語学』45)
・S1963『文法教育 ―― その内容と方法 ―― 』(共著)
・M1964『語彙教育 ―― その内容と方法 ―― 』(共著)
・S1965-6「文法について(上 中 下)」『教育国語』2〜4号
・M1972『動詞の意味・用法の記述的研究』(とくに第三部 文法・文体との関係)
・S1972『日本語文法・形態論』
・S1980「動詞の「たちば」をめぐって」『教育国語』60号
・S1980「品詞をめぐって」『教育国語』62号
・S1983「形態論的なカテゴリーについて」『教育国語』72号
3)質疑と討議のために
3-1 用言の 活用表(paradigm)の つくりかた
a)チャンブレン『日本小文典』(1887)の <系図(tree)状> の 表
「章魚(たこ)の八脚あるに、脚毎に、又、八脚を生ずる如き図」(大槻 評)
b)芳賀矢一『中等教科 明治文典』等の <行列(matrix)状> の 表
『中等教科 明治文典』(1906 訂正改版):縦に 肯否式、横に 相(voice)・法・時
『文法論』(1914 東大講義録):縦に 肯否式、横に 相・法・時
『口語文典大要』(1913):縦に 敬語・肯否式【?手もとのノートによる】
※田丸卓郎−三尾砂は、佐久間鼎−宮田幸一は、そして鈴木重幸・宮島達夫は?
3-2 語(の体系)と 文(の体系)との 関係は?
1) ムードと モダリティ(と モード)
「したい」:希望(の派生)形容詞か、動詞の希望態か。 cf.「まちのぞみ文」
「しよう」:決意用法と 勧誘用法と (とおまわしな命令用法と)を、
「まちのぞみ文」と「そそのかし文」とに わけるべきか どうか。
2) ヴォイスは、形態論的カテゴリーか、語彙=文法的な種類か。
自動−他動、所動−能動
受身: 直接対象・あいて/もちぬし/第三者
使役: a) 主語者が「自分でスル」か「他者にサセル」か
b) 主語者が 他者が動作スルことを ひきおこす(おきサセル)か。
※「受身/使役 構造の文」という あつかいかた や「たがいに・かわるがわる」「それぞれ・おのおの」「自分で・ひとりで・みんなで・いっしょに」などを ともなう 文は、文のヴォイス性(diathese / vocality)の 問題というべきか。
3) アスペクトと アクティオンスアルト(動作態)と アスペクチュアリティ
3-3 連語と 文との 関係
a)主格の名詞と 動詞との くみあわせ といった 連語の構造と、
b)主語−述語 あるいは テーマ−レーマ の 統語的(syntactical)な関係と、
時間性(とき)と叙法性(きもち) といった 陳述的(predicative)な関係とを
あわせもつ 文の構造とを、いかなる 関係で とらえるべきか。
また、「連語の構造的なタイプ」を、<体系>として、<歴史的な発展の過程> として、とらえる ことと、文の陳述=構造的なタイプを、歴史的な体系として とらえる こととは、おなじ ことであろうか。
連語の位置(あるいは レベル)は 文の なかに あり、
文の位置(あるいは レベル)は (文章)段落の なかに ある。
とすれば、いま 文の意味的構造の研究として もちあげるべき ものは、仁田−森山流の動詞文の結合価の研究なのだろうか。連語論に 主格も とりいれて、というより むしろ、言語学研究会文法としての 主語・主題論を 文の陳述性(および ヴォイス性)と からめて、ま正面から 研究(し 教材化)すべき ときなのでは ないだろうか。
3-4 文法と 語彙との 相関的な関係
1)「品詞」は、文法的な種類か、語彙=文法的な種類か。【『形態論』pp.173-5】
2)「カテゴリカルな意味」は? 【cf. 奥田と宮島の 微妙な ちがい】
文法にかかわる限りでの 語彙的な意味の一般化 ↑
語彙的な意味のもつ 一般化された 文法的な性格・種類 |
文法的な意味のもつ 具体化された 語彙的な性格・種類 |
語彙にかかわる限りでの 文法的な意味の具体化 ↓
<つけたり>
・ 文=できごとの「とき」(時間性)に 関連して、
動詞(語彙)のもつ「段階」性:
「局面」性: <将然> <開始> <継続> <終結> <結果>
動詞(述語)のもつ「様相」性: <完成/継続> もしくは <単純/持続>
・ 文の「きもち・のべかた」(叙法性・陳述性)に 関連して、
動詞(語彙)のもつ「意志〜制御可能」性
「様態」性: <感情・評価性> <当為性> <可能性>
動詞(述語)のもつ「叙法」性: <叙述/命令/勧誘> や <断定/推量>
付載)奥田靖雄 日本語研究 略史
1919(大9)年10月19日〜2002(平14)年3月22日
※『ことばの研究・序説』「あとがき」の「ぼくの勉強の歴史」に 基本的に したがう。
第1期:50−56年 (30歳代前半) 【1950スターリン論文】
基礎論:1951「言語過程説について(1)」
・言語学は 語彙論と文法とに 分割される。
・言語学は、音韻論をもって、最初の環と みなさねばならない。
(概論) 1956「ことばの組みたて」
音韻論:1952「音韻についての覚書」「E.サピアの音韻論について」
形態論:1952「日本語動詞の語幹について」
構文論:1954「日本語の文法的クミタテ」 1956「日本語における主語」
*時枝誠記・服部四郎の方法論的批判、大久保忠利ら言語技術派との論争(?)
「主観主義」批判:「日本の言語学の反省と展望」
「読み方教育における主観主義」
cf. 鈴木重幸−森重敏 の間の「論外」争
ただし、けっして「主観」の否定ではない
cf. 最終講義「文のこと」:主体的なリアリティ <わたし>
論理主義・形式主義、技術主義・機能主義の克服、が 課題であったか。
第2期:57−63年 (30歳代後半から40歳代前半)【民科解体 言語学研究会】
連語論(日本語の連語の具体的な調査)
*方法としての <史的 弁証法的 唯物論>(『連語論(資料編)』の「編集にあたって」)
※「(5年ばかりの)空白期」64−67年 (40歳代後半) 【中ソ論争表面化以降】
三部作『読み方教育の理論』『国語教育の理論』『続国語教育の理論』の刊行
教科書『にっぽんご』シリーズの刊行
機関誌『教育国語』の創刊
*国語教育理論確立期 (論争期?):「文学教育における主観主義」etc.
第3期:68−84年 (50歳代から60歳代前半) 【教研講師退任−宮教大就任】
連語論から 文の研究へ 方法の模索
*論理主義・心理主義の克服、システム(体系)論の「模索」
第4期:85年− (60歳代後半以降) 【宮教大退任以降】
文論 その具体的な記述:文のさまざま 説明 現実・可能・必然 複文(共同研究)
*晩年、テクスト論 プラグマチカ 発話 などとの かかわりのなかに ふみこんで、文の陳述論を基礎づけつつ、単語論として「動詞論」を集大成しようとしていたか。
▼ 当日は、以上 A4 4ページ A3 2枚の レジュメの ほか、以下の、おなじく A4 4ページ A3 2枚に きりばり(縮小) コピーした 活用表の 資料も、補助資料として 配布した(ここには 略す)。
W. G. Aston A Grammar of the Japanese Spoken Language (1888 4版) pp.44-45
B. H. Chamberlain A Handbook of Colloquial Japanese (1889 2版) pp.150-151
チャンブレン『日本小文典』(1887) 付表(の 一部)
芳賀矢一『中等教科 明治文典 巻之二』(1906 訂正改版) 付表(の 一部)
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