■馬名のローマ字表記方式について

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質問:

2001年8月20日 月曜日 午後3時12分:

突然のメールで失礼いたします。

私の属しております財団法人 日本軽種馬登録協会(ニホンケイシュバトウロクキョウカイ)は、軽種馬(いわゆる競走用馬)の登録業務を行っておりますがその内の一つとして馬名登録があります。

馬名は、片仮名で表記されますがアルファベット表記も必要なために外国語由来以外の馬名は、ローマ字を使用しております。

長年、このローマ字のつづり方は、「修正ヘボン式(標準式)」(添付ファイル 馬名登録基準.doc 参照)として認識して参りましたが、このたび、新たな業務再編に伴う基準の見直しの中で根拠(出典)を明記することが必要となりました。

添付しましたファイルのようなローマ字のつづり方については、昭和29年12月9日付 内閣告示第1号 「ローマ字のつづり方」を根拠とすればよいと考えていますが、「修正ヘボン式(標準式)」と題目をつけることが妥当かどうか思案しております。

つきましては、次の質問についてご回答をよろしくお願いいたします。

  1. 「修正ヘボン式(標準式)」との用語は使用してかまわないでしょうか。
  2. 使用可能ならばその根拠はどこでしょうか。
  3. 使用ができないのならば、どのような代替の表現が適当でしょうか。
  4. 添付ファイルのような使用は妥当でしょうか。
  5. 上記ファイルに不都合な点がありましたらご指摘いただけませんでしょうか。

お忙しいところ誠に恐縮ですがよろしくお願いいたします。

添付ファイルの内容:

別表3

修正ヘボン式(標準式)

ア   イ   ウ   エ   オ    キャ   キュ   キョ
A   I   U   E   O    KYA  KYU  KYO

カ   キ   ク   ケ   コ    シャ   シュ   ショ
KA  KI  KU  KE  KO   SHA  SHU  SHO

サ   シ   ス   セ   ソ    チャ      チュ   チョ
SA  SHI SU  SE  SO   CHA  CHU  CHO

タ   チ   ツ   テ   ト    ニャ   ニュ   ニョ
TA  CHI TSU TE  TO   NYA  NYU  NYO

ナ   ニ   ヌ   ネ   ノ    ヒャ   ヒュ   ヒョ
NA  NI  NU  NE  NO   HYA  HYU  HYO

ハ   ヒ   フ   ヘ   ホ    ミャ   ミュ   ミョ
HA  HI  FU  HE  HO   MYA  MYU  MYO

マ   ミ   ム   メ   モ    リャ   リュ   リョ
MA  MI  MU  ME  MO   RYA  RYU  RYO

ヤ   イ   ユ   エ   ヨ    ギャ   ギュ   ギョ
YA  I   YU  E   YO   GYA  GYU  GYO

ラ   リ   ル   レ   ロ    ジャ   ジュ   ジョ
RA  RI  RU  RE  RO   JA   JU   JO

ワ   イ   ウ   エ   ヲ    ビャ   ビュ   ビョ
WA  I   U   E   O    BYA  BYU  BYO

ガ   ギ   グ   ゲ   ギ    ピャ   ピュ   ピョ
GA  GI  GU  GE  GO   PYA  PYU  PYO

ザ   ジ   ズ   ゼ   ゾ
ZA  JI  ZU  ZE  ZO  1 はねる音「ン」はnであらわすが、た
                      だしm,b,pの前ではmを用いる。
ダ   ヂ   ヅ   デ   ゾ
DA  JI  ZU  DE  DO

バ   ビ   ブ   ベ   ボ   2 つまる音は、次に来る最初の子音を重
BA  BI  BU  BE  BO    ねてあらわすが、ただし次にchが
                      つづく場合にはcを重ねずにtを用
パ   ピ   プ   ペ   ポ     いる。
PA  PI  PU  PE  PO

回答:

おといあわせ、ありがとうございます。

まず、基本的な前提として、下記のことをご理解ください。

  1. 日本語のローマ字表記の、現在有効な公的規格としては、以下のものだけだとおもいます。
    • 国際規格 (INTERNATIONAL STANDARD, ISO 3602, "Documentation -- Romanizatio of Japanese (kana script)", First Edition, 1989-09-01, International Organization for Standardization)
    • 内閣告示 (昭和二十九年十二月九日内閣告示第一号, 『ローマ字のつづり方』、内閣訓令第一号, 『ローマ字のつづり方の実施について』, 1954年)
    • 英国規格 (BS 4812 : 1972, "SPECIFICATION FOR THE ROMANIZATION OF JAPANESE", BRITISH STANDARDS INSTITUTION, 1972)
  2. 公的規格に順ずるものとして、日本のパスポートのローマ字氏名につかわれている「外務省式」があるとおもいます。
  3. 「修正ヘボン式」あるいは「標準式」とよばれる方式は、出版社などの企業が、自社で発行する書物や掲示物につかったり、ローマ字運動の団体が、その団体の出版物でつかったり、社会に対して一般にもちいることを提唱したりしているもので、公的規格ではないとおもいます。

「修正ヘボン式」あるいは「標準式」とよばれる方式の、わたくしが理解している内容は、上記の「国際規格」「内閣告示」「英国規格」「外務省式」のいずれとも一致しません。

また、おくっていただいた添付ファイルの内容ですが、この方式は、わたくしが理解している、「国際規格」「内閣告示」「英国規格」「外務省式」「修正ヘボン式」「標準式」のいずれとも一致しません。

したがって、

のどちらも、いままでの慣習に対して対立するものといえるとおもいます。

添付ファイルの方式と、「標準式」のおもなちがいは、

  1. 標準式では、長音の表記の規則がある。母音字のうえに、マクロン(¯)またはアクサンシルコンフレックス(^)のどちらかを、ダイアクリティカルマークとしてつけることになっている。
  2. 撥音(/ン/)の表記で、<m>, <b>, <p> のまえは、<m>のほか、<n>でかいてもよいようになっている。(便宜上、ローマ字は小文字のみをかいています。以下おなじです。)
  3. 撥音(/ン/)の表記で、母音字や<y>のまえは、<n'>でかくようになっている。

だとおもいます。「標準式」のよりどころとしては、「天野景康(編著). ローマ字ひろめ会認定 ローマ字文の手ほどき 標準式ローマ字書き日本語の書き方. 東京都, 財団法人標準ローマ字(発行), 1974年, 12p. (Japanese, A5よこがき)」を参照しました。

添付ファイルの、「ガ   ギ   グ   ゲ   ギ」の最後の「ギ」と、「ダ   ヂ   ヅ   デ   ゾ」の「ゾ」は、誤植のたぐいとおもわれます。

添付ファイルの方式と、内閣告示とのおもなちがいは、

  1. 内閣告示には、長音の表記の規則がある。母音字のうえに、アクサンシルコンフレックス(^)を、ダイアクリティカルマークとしてつけることになっている。
  2. 内閣告示には、撥音の表記で、<m><b><p> のまえは<m>とかくという規則はなく、すべて<n>(母音字や<y>のまえは<n'>)である。
  3. 内閣告示には、促音の表記で、<ch>のまえは<t>でかくという規則はなく、すべて直後の子音字でかく。
  4. 内閣告示には、「し」「ち」「つ」などのローマ字表記については、第1表の<si><ti><tu>などが原則であり、<shi><chi><tsu>などは第2表にふくまれていて、「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。 」とある。

だとおもいます。内閣告示の内容は、http://www.halcat.com/roomazi/doc/koks291209.html をご参照ください。

添付ファイルの方式と、英国規格のおもなちがいは、

  1. 英国規格では、長音の表記の規則がある。母音字のうえに、マクロン(¯)を、ダイアクリティカルマークとしてつけることになっている。
  2. 英国規格では、撥音の表記で、<m><b><p> のまえは<m>とかくという規則はなく、すべて<n>(母音字や<y>のまえは<n'>)である。

だとおもいます。

添付ファイルの方式と、「外務省式」のおもなちがいは、

  1. 外務省式では、長音の表記は省略するか、オ列長音にかぎり<OH>でかくことができることになっている。

だとおもいます。「外務省式」の内容は、たとえば http://www.nta.co.jp/kaigai/hebon.htm をご参照ください。なお、外務省では、「外務省式」のことを、ふだんは「ヘボン式」といっています。

というわけで、おくっていただいた添付ファイルのローマ字表記方式ですが、あくまでこの方式を変更しないのであれば、その直接的なよりどころとなる文献はなく、たとえば、

といったことがかんがえられます。

また、あくまで公的規格にのっとりたいのであれば、いずれかの公的規格をえらび、それにあわせたかたちに、添付ファイルの内容を変更する必要があるとおもいます。

わかりにくいところがございましたら、またおといあわせください。

≡‥≡海津知緒(KAIZU Haruo)


変更記録

第1.1版(2001年8月21日)
新規登録。
第1.1.1版(2002年2月3日)
単独文書に分離。

版:
第1.1.2版
発行日:
2001年8月21日
最終更新日:
2002年2月3日
編著者:
海津知緒
発行者:
海津知緒 (大阪府)

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