The biography of Gou Yuehua

03-05/14

5.嵐の夜

 この夜、滅多に来ない大暴風雨が襲って来た。天を引き裂かんばかりの稲妻と共に雷鳴が轟き、大粒の雨が風の勢いを借りて情け容赦なく打ってくる。古い大木も根こそぎ吹き飛ばされるような凄まじさだった。

 "ガチャン"というガラスが割れるような音がし、続いて人の騒ぐ声が聞こえてきた。ひどい目に合った私を映し出そうとするかの様に空は明るくなったり、暗くなったりしていた。私は全身びしょ濡れになっているが小腋の下のラケットも同じ破目になったのは言うまでも無い。突然やってきたこの嵐に、私は身を預ける場所も無かった。

 私は大きく身震いをした。次の瞬間、厦門市体育学校の普通クラスにいた時のことが頭を掠めた。その頃毎晩練習が終わってから家まで10分程の暗い夜道を歩かなければならなかった。湯先生はいつも送ってくれると言っていたが、私はその都度大丈夫だと言って断った。しかし、たまたま仲間がいなくて1人で帰る時は途中で身の毛がよだつような怖さに襲われることもあった。そういう時は、歌を歌うか、口笛を吹いて気を紛らし、度胸をつけようと努めるのだった。しかし、それでも歩いているうちに、つい走り出してしまうことが度々だった。今、自分は、このような進退きわまる窮地に追い込まれているのだ。悪魔のように私を囲んでいる暗闇の中で、私は歌も歌えなければ口笛を吹く気にもなれない。やはり走ろう。家へ、それとも計量所へ、私は計量所へ走ろうと決心した。

 トントンと厦門市科学技術計量局の門を滅茶苦茶に叩く。電灯のついている守衛室から門を開けに来てくれた人は私を見ると驚いた顔で言った。

 「昨日教えたでしょう、蘇立言さんは杏林へ行って、当分帰って来ないよ早く中へ入りなさい」

 私は立ちすくんだまま卓球室の方へ目をやった。卓球室も寂しそうな顔をしている。今日は練習を諦めなければならないと分かり、門を開けてくれた守衛さんに礼を言って走って帰った。

郭躍華自伝03***水が増える分だけ船があがる***

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