住宅ローンを支払っているケース。


ケース2、・・・・松岡 正さんの場合

松岡 正さんは、10年前、マンションを購入し住宅ローンを組みました。
しかし、いまから1年前、リストラされてしまい無職の時期が1年ほどありました。
その間、失業保険の給付金のみでは生活費・住宅ローンの支払いに不足したので、サラ金業者から300万円ほど借り入れてしましました。
現在は、再就職できましたが、以前の職場より給料が少なってしまいました。
仮に、サラ金からの借金がなく、住宅ローンだけであればなんとか支払っていけるのですが、
サラ金の利息を払うと、住宅ローンの支払いが滞りがちになってしまいます(現在3ヶ月分滞納)。
破産する方法もありますが、それではせっかく買ったマンションも処分されてしまいます。
そこで正さんは住宅資金特別条項を含めた個人再生手続を検討しました。


正さんの基礎データー

仕事 手取り月給→約30万円  ボーナスあり とする。
家族構成 申立人・正さん(14年11月16日現在40歳)→(15年4月1日には、41歳になる)
その妻・花子さん(40歳)→(40歳)
子   ・ヨウイチ(14歳)→(15歳)
の3人家族とする
・・・・年齢は再生計画案を提出した日以後の最初の4月1日における年齢を基準にする
住まい 横浜市内のマンションを10年前にローンで購入(25年ローン)。
現在の住宅ローン残高・・・1000万円、利率年2.5%(月々約66700円の返済、ボーナス払いなし)
                現在から15年後完済の予定。
目下、返済する必要がある金額

月々の住宅ローン・・・・66700円
滞納した住宅ローン・・・3ヶ月分・・・約20万円
住宅ローン以外に、サラ金から300万円の借入金。


住宅資金特別条項を利用する場合、まず、@住宅ローンの債務とA住宅ローン以外の債務を分けて検討する必要があります。



@まず、住宅ローンについて考えます・・・
 住宅ローンも再生債権であるので、再生手続の開始決定がなされると弁済できなくなるのが原則です(民再85条1項)。
 しかし、住宅ローンの支払いをストップさせると、残元本全額に対して遅延損害金が発生してしまいます
 (正さんの例では1000万円に対して損害金が発生することになり遅延損害金だけでもかなりの金額になってしまいます)。
 そこで、大阪地裁などの一部の裁判所では、平成15年改正以前でも住宅ローン債権には弁済禁止効が及ばないとして遅延損害金が発生しないような運用をしていました・・・クレジット・サラ金処理の手引・226p
 このような遅延損害金の問題がありましたので、平成15年4月に民亊再生法は改正されました。
 すなわち、「住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者の申立てにより、裁判所は住宅ローンの弁済をすることを許可することができる。」としたのです(民再197条3項)。
 この改正により大阪地裁以外の裁判所でも住宅ローンを開始決定後も支払い続ける事により遅延損害金の発生を回避できるようになりました。


 正さんはサラ金の利息の支払いがあったので、住宅ローンを3ヶ月分の滞納してしまいました。
 しかし、再生手続開始決定後は、サラ金への支払は禁止されるので、少しは余裕があります。
 そこで、裁判所の許可をもらい再生手続開始決定後にも月々の住宅ローン66700円を支払う事にしました。


 したがって、正さんのケースでは、@月々の66700円のローンの支払のほか、A3ヶ月分の滞納とその遅延損害金(約30万円としましょう)についてだけ検討すればよいのです。
 ちなみに、平成15年改正以前は、前滞納(開始決定前の滞納分)と後滞納(開始決定後から認可されるまでの滞納分)およびそれらの遅延損害金を検討する必要がありました。

 具体的なリスケジュールとして・・・
 @期限の利益回復型・・・・民再199条1項
   この方法は、今まで通り、66700円のローンを支払ながら、上記Aの30万円の金額について再生計画の期間内に分割して支払っていくものです。
 よって、例えば弁済期間を3年とした場合・・・30万円÷3年÷12ヶ月=8333円 を月々支払うことになります。
 したがって、66700円+8333円=75033円を3年間、毎月支払うことになります。

 A期間延長型・・・・199条2項
   @の方法が原則でありますが、支払が困難な場合もあります。
 その場合、70歳を超えない範囲で、約定返済期限を10年まで延長することが出来ます。
 正さんのケースでは約定のローン終了時期は15年後で55歳の時です。したがって、10年ローンを延ばしてもらう事が可能です。
 ローンを伸ばせばその分月々の返済額が減らすことができます。
 具体的には1000万円のローン残金と上記Aの30万円を25年間で支払うとすると月々45690円となります(年利2.5%とした)
 概算をするにはローン返済シュミレーションのページが便利です。

 B元本猶予期間併用型・・・199条3項
 Aの方法が困難とした場合。Aの延長に加えて、一般弁済期間の範囲内で、住宅資金貸付債権の残元本の一部と、その元本に対する住宅約定利率のみを支払う「元本猶予期間」を設けること。
 正さんのケースでは、サラ金に300万円の借金がありますので、300万円をカットした残額を認可後3年間ないし5年間で分割弁済しなければなりません。したがって、その間は、住宅ローンへの支払が困難になります。そこでその期間の住宅ローンを減らし、サラ金への返済が終了した3年後、今度は集中的に住宅ローンを支払っていくものです。

 C同意型・・・・
 199条4項・・・  住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者の同意がある場合には、前三項の規定にかかわらず、約定最終弁済期から十年を超えて住宅資金貸付債権に係る債務の期限を猶予することその他前三項に規定する変更以外の変更をすることを内容とする住宅資金特別条項を定めることができる。
民再規則100条1項によると同意は文書でなさなければならないとしている。
しかし、銀行はたとえ同意していても同意書として文書の形に残すことを嫌う。
そこで、東京地裁では、同意書という書面にこだわっていないそうです。


 現実の運用は、@の期限の利益回復型を選択するケースが多いようです。
 いずれにしても、ローンのリスケジュールは複雑な計算になるので銀行などのローン会社と事前協議をすることになっています(民再規則101条)・・・・事前協議といっても大げさなものではなく、弁護士は電話はFAXで簡単にやり取りするだけの場合が多いようです。

 正さんの場合、再就職できても住宅ローンの支払が苦しいのでAの期間延長型を選択する事にしました。
 銀行に相談に行き、リスケジュールした場合の月々の支払額を算出してもらいました。
 その結果、月々約46000万円弱を支払っていけばよいと分かりました。


A次に、住宅ローン以外の借金について検討します。
この計算方法はコチラのケース(太郎さんのケース)と同じです。

 @まず、借金総額300万円であるので、債務額との関係からの最低弁済価格は100万円は分かりました。
 
 A次に、正さんの総資産額を算出しなければなりません。
  正さんは、マンションを持っていますので、まず、不動産屋で時価の査定をしてもらわなければなりません。
  査定をしてもらった結果、マンションを現在処分すれば、1000万円になると分かりました。
  (最近の不動産の下落は著しい。。。5〜6年前に5000万円で買ったマンションが、1500万円の時価しかないと査定されたケースもあった)
  しかし、マンションには1000万円の住宅ローンの抵当権が設定されているので、
  資産は1000万円−1000万円=0円 すわち資産価値は無いと考えます。
  他のコマゴマした資産は全部で20万円あるとします。
  従って、正さんの総資産額は20万円と分かりました。

 B正さんは、最近再就職しましたが、サラリーマンであるので、可処分所得を計算しなければなりません。
  この計算は、コチラのケース(太郎さんのケース)と同じです。
  ただ、異なる部分は、太郎さんのケースは、賃貸アパートに住んでいますが、
  正さんのケースは自己所有のマンションに住宅ローンを支払いながら住んでいる点です。
  したがって、可処分所得算出シートの住宅費の年間支払総額の部分が異なります。
  正さんは、上記で述べたように今後月々約46000円住宅ローンを支払うので、年間の住宅費は55万2000円程度になります。
  結局、太郎さんのケースと同様100万円以下でした。
 
 Cしたがって、@〜Bのうち最も多額なのは@の100万円であるので、
 サラ金に返済する金額は100万円でよいと分かりました。・・・通常3年での分割弁済なので月々3万円弱を支払っていけばよい。


Bまとめ
以上から、正さんは、住宅ローンを約46000円 と サラ金に約3万円 月々支払っていけばよいと分かりました。
3年間は、住宅ローンの他、サラ金への返済があるので大変ですが、払えない額ではないので、
正さんは再生手続をしてみようと決意しました。