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先行したゲンドウに遅れること20分。
ミサトの乗るヘリが松代実験場に到着した。

出発前にミサトが予想していたとおり、全ては遅きに失したようである。
彼女が松代実験場に到着した時には、爆発の混乱中、松代実験場を襲った謎の一団は既に撤収済みであった。

もはや詳しい調べをするまでもなく、爆発の原因は外部からの破壊工作であることは間違いないであろう。
これだけの規模の襲撃には相当の準備期間が必要であり、計画的な犯行であることは間違いないのだから。

ただ、幸いと言うべきか、ミサトがNERV本部で見た衛星からの映像にあった煙は爆発によるものではなく、襲撃犯による煙幕であって、松代の施設の被害は局地的なものだった。
破壊されたのは、警備及び通信施設と電力供給設備で、あくまで一時的に松代の機能を麻痺させるのが目的であったのだろう。

先行して到着していた保安部員の1人を捕まえて無理矢理に聞き出したところ、襲撃犯の目的は――ある程度予想はしていたのだが――MAGI2号機の持つデータのようであった。
そしてその中には、当然、丁度実験中であったエヴァ4号機に関する多くのデータが含まれているのである。
これまで、エヴァの管理運用に関する部分はほぼ機密が守られていた――もっとも、意図的に偽情報を紛れさせて多少の情報は流出させてはいたが――のだが、今回の件でそうもいかなくなってしまったことになる。



「申し訳ありません。みすみす目の前でやられてしまいました。」
救急テント内で簡易ベッドに横たわりながら、ミサトに対して不手際を詫びるシンジ。
爆発に巻き込まれて、全身打撲などで全治1ヶ月という状態である。
「あなたの責任じゃないわ。施設の警備は保安部の管轄よ。
 それに、山岸さんが無事でよかったわ。」
シンジの横にはサードチルドレン山岸マユミが不安げな顔で、うつむいて座っていた。
マユミにすれば、ただでさえ突然エヴァのパイロットとして選出されて、怪しげな――マユミの視点からすればだが――実験に参加化せられたところにこの騒ぎである。
そして最も身近な存在であったシンジが重傷を負ってしまったことで、不安が頂点に達してしまっており、何かきっかけで手の付けられない状態になってもおかしくないように見える。
そのため、この場においてマユミと親しいと言える人間はシンジのみであり、ミサトにはマユミにかける言葉すら思いつかなかった。
なら、一緒のヘリに乗ってきた加持の口の巧さに期待したいところなのだが、ヘリを降りるなり何を確認しようとしたのか、いつの間にか姿が見えなくなっていた。






終末を導くもの



第19回







事件発生から1週間が過ぎた。
しかし、襲撃犯の行方を捜索している諜報部員達がことごとく失踪してしまうなど捜査は難航し、未だその行方の糸口さえ掴めていなかった。

ただし、目撃者の証言や事件現場に残されていた足跡などから、襲撃犯はエヴァに匹敵するサイズの大型のロボットを使用されていたことが判明しており、さらに、つい最近戦略自衛隊が開発していた陸上巡洋艦と呼ばれる大型の機動兵器も行方不明になっているという情報が入ってきた。
状況的に、犯行に使われた機体は自衛隊の陸上巡洋艦である可能性が高いのだが、諜報部の調べでは、陸上巡洋艦の行方不明は、この事件のための戦略自衛隊の自作自演のカモフラージュである可能性は低いとのこと。
そして、陸上巡洋艦の強奪犯は未だ目星がついてはいないようである。

また、もう一つ犯行に使われた可能性が考えられるものとして、かつて使徒ガギエルによって破壊され、その後開発に大幅な路線変更があったとされる日重の無人人型機――JTというコードネームらしい――が挙げられる。
こちらの方は、その開発計画の見直し後その所在がしれなくなってしまっているが、あれほどの巨体を開発・運用できる施設はかなり限られるはずであり、それでもその存在が確認できないというということなら、現在は動作する機体が存在している可能性は低いと考えられていた。

そのほかの手がかりとなると、現場に残されていた足跡を詳しく調べていた技術部から、犯行に使われた機体の概要の推察が挙げられる。
それによると、足跡の深さや歩幅から推定されたその機体の想像図は、ロボットといってもエヴァやJAとはかなりかけ離れた姿をしており、どちらかというと2足歩行の肉食恐竜――丁度ティラノサウルスレックスのような――を思わせるフォルムだった。

それともう一点。
襲撃犯のその襲撃の経過からして、その目的があくまでMAGI2号機内のエヴァ4号機のデータの奪取のみであったことは間違いないだろう。
だがそれならば、襲撃作戦にエヴァサイズの大型ロボットが本当に必要だったのかという疑問が浮かんでくるのである。
その疑問に対して思いつく理由としては、例えば犯行を戦自だと思わせるためのカモフラージュということや、新兵器の運用テストではないかというものだったが、どちらも決め手に欠ける。
それよりは、万一エヴァ四号機が立ちはだかって作戦の障害となった場合の保険として用意してあったと考える方が自然かもしれない。
だがそれならば、少なくとも襲撃犯側は、そのロボットが十分エヴァに対抗できるモノだと考えていることになる。
それならば、襲撃犯が最も欲しがっていたデータは、おそらく通常兵器では決して発生させることの出来ないA.T.フィールドに関するものではなかったかという推測もできる。

だが、状況証拠から出来る推理はこのあたりが限界である。
諜報部は強奪犯の襲撃を事前に察知できなかったという失点からしてあまり信用は置けないのだが、それでも諜報部以外に他に強力な情報源を持たないNERV本部には、これ以上捜索のために強力な手がかりが無い事も事実。
ましてミサトの立場はあくまで作戦部長であり、襲撃事件に関してはあくまで管轄外なのである。

実際、ミサトが何故そこまでこの事件の真相を追おうとするのかと言われると、自身よく分からないところではある。
最初は、襲撃犯の目当てがエヴァ四号機そのものではないかと思い現場に急行したのだが、奪われたのはあくまでデータだけでしかない。
ミサトの指令下に入る4機のエヴァはすべて無事であり、作戦部には直接の被害は無かったのだ。

だが、ミサトの頭脳の何処かで、この事件を放っておいてはいけないという警鐘が鳴り響いているのである。
あえて理由を挙げるならば、もしNERVに敵対する組織からの襲撃を受けた場合にエヴァの運用上の弱点を知られている可能性を危惧してのことということになるのだが、それとて奪われた情報が一般に公開されてしまえば襲撃犯を捕まえたとて意味は為さなくなる。
幸いにして、今のところ奪われた情報は一般――いわゆる裏社会も含めて――に流れ出してはいない。
もっとも、同時にそれが捜査を難航させる原因にもなってはいるのだが。



こうして手詰まりかと思われた状況の中、ミサトの脳裏に浮かんだのは、男臭い、そしてどこか怪しい笑みを浮かべた学生時代の同棲相手の顔だった。
結局、事件当日の松代へ向かうヘリの中ではめぼしい情報を引き出せなかったが、その後の行動の怪しさなどから見ても、彼が自分の知らない情報を握っていることは疑う余地はなかった。
もはや、それこそ色仕掛けでも脅迫、拷問ででも、どんな手段を用いても情報を引き出してやろうと少々物騒なことを考えるミサト。
そして意外にも、ミサトの求める情報源はカフェテリアで独り休憩をしてい彼女の元にやってくるのであった。

「よう、葛城。元気にしてるか?」
「何か、用?」

彼は自ら接触しようとしていた相手だったが、過去の経緯を思い出してしまって、つい不機嫌な表情を見せてしまうミサトだった。






さて話は変わって、さきの襲撃事件で中断してしまったエヴァ四号機の起動実験だが、とりあえずエヴァ自身はNERV本部に運び込まれていた。
ただし、今後の予定はというと、様々なごたごたの末に未だ再開のスケジュールが立っていない状態だった。
そのため、山岸マユミの立場は非常に宙ぶらりんな状態となっていた。
実のところ、あの襲撃事件の翌日に、再度のメディカルチェックを本部で受けて以来、マユミにはNERVからの呼び出しはただの一度もなかったのだ。
マユミにすれば、それにホっとする反面、次に呼び出されたとしたら今度はどんな目に遭うことかという言いしれぬ不安の方が大きいのだが、かといって自らNERV本部に出ていってそのあたりの情報を得ようとするだけの勇気など持ち合わせていなかった。


そうして2週間余りが過ぎた頃、事件以来学校に全く姿を見せていなかったシンジがようやく登校してきた。
シンジは事件の際に負った傷で数日入院していたのだが、もとより多くの仕事を掛け持ちしているだけに退院後もそれまでに貯め込んでしまった仕事に追われていて、それがやっと余裕が出てきたことで、ようやくの登校となったのである。
だが、マユミの心の内には、適任者に選出されて以来の疑念が渦巻いている。
それはシンジの興味はあくまでチルドレンにあるのであって、山岸マユミという個人には何の価値も見いだしていないのではないかということについてだ。

それでなくとも、もともとNERVの召喚に応じたのも単に断る決断が出来なかっただけでしかなく、何か理由があればすぐにでもNERVとの縁など切ってしまいたいと思っていたのである。
そして、先日の事件で、決して自分が安全な場所にいるのではないことをはっきりと思い知らされてしまった訳であり、たとえ相手がシンジであってもNERVに関連する人間とは会いたくもないという気持ちが先にあった。

そのため、せっかくNERV関係のことをまともに尋ねることの出来る相手がやって来たというのに、マユミはシンジに話しかけることすら出来ないでいた。
逆にシンジの方から接触しようとしてきても、マユミは何かと理由を作ってシンジのことを避けてしまうことになる。
さらにシンジの方も、マユミが避けようとしていることに気づいてか積極的に近づいてこないこともあって、さらに疎遠になってしまっていた。

だが、たとえその行動が矛盾しているように見えようとも、マユミの本心は、シンジに自分と親しくしている理由がNERVとは全く関係ないという返事が欲しいのだ。





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あー、なんかものすごーく間が空いてしまいました。(空きすぎです。>私)
やはり書きかけのデータが吹っ飛んでしまったショックだったとか、一時期引越やら仕事が忙しくて執筆の余裕がなかったことなどが主な原因なのですが、余裕が戻ってからしばらくはゲーム方面に浮気してしまったりということも一因だったりします。
しかし、もはや本編再構成系のエヴァとは言えない展開になってきてますね。

それと、普段から私の文章って地の文の比率が高めなのですが、今回に至ってはキャラの台詞がたった4つしか無いという……(うーむ)


感想、苦情等がありましたら、uji@ss.iij4u.or.jpあるいは掲示板まで