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魔王さまと僕

ハロウインの悪魔

 10月31日、ハロウインパーティ。

 この日僕は教会のボランティアをする予定だった。知り合いに頼まれて神父さんのお手伝いをする。無神論者どころか恋人が人外の魔物だというのにいのかなとは思ったりしたけど。
 形だけだから、と神父服と十字架を渡された。テカテカしたそれはポリエステルなのか、本物に比べれば安っぽい。それでも身につけてみるとそれなりに神父さんらしく見えたりする。
 やることは教会にきた子供たちにお菓子を渡したり、バザーにきてくれたおかあさんたちの案内、あとは机を並べたりなどの力仕事だ。
 まあどうせハロウインなんてこんなことでもないと縁のないイベントでもあるし、暇だし、いいかと思ってでかける準備をしてたその時に。
 
 金色の悪魔がやってきた。
 


「さよーならー」
「さよならー」
「おやすみなさーい」
「おやすみー」

 子供たちが明るい声を上げて帰って行く。その楽しそうな笑顔を見送り、僕は教会の扉を閉めた。
「やれやれ、ご苦労さま、ラキエ」
「何でオレサマがこんなことしなきゃならないんだ」
 ラキエはうんざりした顔で窮屈な襟元を弄る。金髪の悪魔が罰当たりにも神父服を着ている。
「ほんとにね。悪魔なのにそんなに神父のコスプレが似合ってどうするんだ」
 僕は笑って背の高い恋人を見上げた。ラキエは気に入らない服が似合うと言われて、ますます機嫌の悪そうな顔になった。
「今日神父さまが留守だから僕はここに泊まるように言われてるけど、君はどうする? ここは居心地よくないだろ?」
「タダで済むと思ってるのか?」
 凄む悪魔に僕は眉を寄せ言い聞かせるように言った。
「僕についてくるって言い張ったのは君だろ」
 しかし体は言葉ほど強くなく逃げ腰になっている。
「どれだけ我慢してやったと思ってるんだ」
 ラキエはそんな僕に詰め寄って、腰に手を回した。
「だから最初に君には無理だって何度も………」
「無理じゃないからここにいる」
 僕はその手をよけて祭壇の方へ逃げた。ラキエはすぐに追いかけようとせず、祭壇の僕を睨みつける。
「だいたい、せっかくこっちに来た俺をおいて、わざわざ出かけるような用事だったか? これが」
「人間にはいろいろとつきあいってのが大切なんだ」

 夕方やってきたラキエは、これからでかけると言う僕に強引についてきてしまった。到着したのが教会だったのでさすがに帰るかな? と思ってたら一緒に中にはいってきた。そうしたら僕の友人だと思われ神父の服を渡されたのだ。
 不愉快そうな顔をしながらも、ラキエは神父服を着て、僕と一緒に教会のボランティアをはじめた。金髪碧眼のとんでもなくキレイな顔をした神父に、子供たちばかりか母親までうっとりとしたまなざしを送り、なにかと話しかけてきたが、ラキエはいっさい答えなかった。愛想笑いのひとつもできない無愛想で乱暴な神父だったが、それでも彼がいるだけで場は華やいだ。
 しかしその間僕はキリキリ痛む胃を抱え、早く時間が過ぎてくれることを、遠慮のない子供がラキエの髪をひっぱたり、触ったり、わめいたりしないことだけを祈っていた。
 ラキエは笑ったり話こそしなかったが、完璧に人間のふりを演じ続け、立派にボランティアの役割は果たした。さすがに本物の神父が説教をはじめたときは気分が悪いと言って外へ出てしまったが。
 それでも神父服を着て十字架をさげて教会の中に平然とした顔でいられるなんて。
 以前ラキエは神も天使も自分たちと同じ種族だと言った。仲は良くないし、敵対し、争ったこともあるようだったが、これだけ教会が平気なら確かにその言葉は信じられる。

「ねえ、機嫌を直してくれよ、帰ったら………その、なんとか、するから」
 なんでもする、とは言わない。言ったら最後、確実に僕はヤリ殺されてしまうだろう。しかし、怒った顔で立っているラキエも黒い神父服に金髪が映えてとてもきれいだ、と思う。
「イヤだね」
 ラキエはあっさりと、子供のように断言した。そして音もなく跳んで、一瞬で祭壇の前の僕の側まで来た。ダン! と、祭壇に手をついて腕の中に僕を閉じ込める。
「この借りは高くつくぞ」
 ラキエは人の悪い笑みを浮かべたまま、顔を近づける。目が金色に光っていた。誰もいなくなった教会で悪魔の本性を表したのだ。
「立ち去れサタン」
 僕は思わず胸の十字架をラキエにつきつけた。
 ラキエは突然のことに一瞬だけ動きを止めたが、すぐに呆れた表情になった。
「こんなオモチャ、効くと思うか?」
「………思わないけど」
 そもそもラキエも十字架さげているし。
 ラキエに言わせるとこの十字の形は悪魔が好まない形、という意味合いしかない。下等な悪魔は確かにこれを苦手とし、避けるが、それは猫がペットボトルを、鳥が目玉のマークを苦手とするくらいの威力らしい。
 ラキエはつきつけられた十字架を掴んだ。直に触ると少しビリビリすると言ってたが、指先が少し震えたくらいで、平気な顔でそれを僕の背中に回した。
「こんな物、フェンクの餌にもならねぇよ」
「あの、ねえ。ここは教会だよ?」
 僕は周りを見回した。無神論者でもやはりこの場所で………というのは畏れ多い気がする。
「それがどうした」
「だから―――帰ったら、家に戻ったらその、借りは返すから」
「イヤだって言ったろ」
 ラキエは口角をあげ獰猛な笑みを見せた。
「今、ここで返せ」
「ちょ………っ」
 いきなり口をキスで塞がれ、覆いかぶさってきた彼に祭壇へと押し付けられる。さすがに僕も祭壇で神父の格好でどうにかされるのはいやなので、腕を叩いたりして抵抗してみた。そんなもので悪魔の力がどうこうできるものではないが………
 ラキエはもがく僕を体重をかけて押さえつけた。キスを深くしながら浮いた足の間を膝で刺激する。
 目を開けるとマリア像が見下ろしている。その優しい視線に羞恥を煽られ、ぎゅっと目を閉じた。ラキエのキスに感じて力が弱まる。
 ラキエは胸を撫で回していたが、たくさんのボタンとその間隔の狭さに服の中へと入り込めなかったらしい。舌打ちをしながら襟のカラーの際をきつく吸い上げた。
「ラキ……ッ」
 熱い痛みを感じて僕は哀願した。
「あ、あとをつけないで………っ」
「今日の分のお願いはもう終わりだ」
 ラキエは唇を襟に移動させ噛んだ。もしかして破こうとしている………?
 だめだ、この服はレンタルなんだし。
「ラキエ、ここじゃいやだ、この格好じゃ………だめだ………!」
 ラキエは服の上から僕のモノを掴んだ。
「ここは誰もいないし、この格好でいるのはお前の勝手だ」
「あ、だ、だめだって。汚しちゃまずい………」
 それに。
 偽物とはいえ神父の服を着て犯されるなんて―――どんなコスプレだよ。
「今日はこのままだ」
 掴んだ手を動かし、服の上から擦りあげる。
「ラキエ………ッ」
 神父服のまま覆いかぶさってくるラキエの姿がすごく背徳的。ぞくぞくするくらい似合うから。
 冒涜ってこんなことを言うのか、と思う。
 でもラキエは「背徳」も「冒涜」も「畏れ」も知らないだろう。罪の意識って言葉すら………知らないに違いない。
「アシュ、オマエの色、いつもと違ってる」
 ラキエが目を細めて薄く笑った。
「そ、そんなの………しらないって」
「羞恥も快感も、いつもより強い。それと、見慣れない色だ」
 休めず手を動かしながら感じ入ったようにつぶやく。
「これもきれいだな」
 たぶんそれはラキエが一生持つことのない「罪の意識」。服に着られるって言葉があるけど、こんな場所で、こんな格好をしているせいで、僕の中に芽生えているのだろう。
「ラキエ………もうやめて、ほんとに………」
 ラキエの指が生み出す快感に僕の抵抗が消えて行く。人間が悪魔の愛撫に耐えられるはずがない。
 ラキエはいったん手を離し、裾から中へ手を入れた。足を撫で上げ、下着の中に差し入れて、直に触れる。
「あっ」
 僕はなんとか祭壇の上で身を起こそうとした。
「だ、だめ………っ」
 ラキエはすでに滲んだものがたてる音を聞かせるように手を動かした。
「いつもより早いな」
「………服、が」
「窮屈なのか?」
「ぬ、脱がせて」
 脱いでしまえばもう少し羞恥は減るかもしれない。それに汚したくない。
「その願いはきいてやる。どうせ邪魔だしな」
 ラキエはそう言って、下着に爪を立て、布地を切り裂いた。神父服を脱がす気はないということがわかる。
 ああ、もう………っ。
 このままイカされたら服に恥ずかしい染みがついてしまう。ラキエが脱がしてくれないならせめて汚れないように………
 僕は片手で服のわきをつかむとすそをもちあげようとした。しかしそれがどんな恥ずかしい格好になるか、一瞬で気づいて逡巡した。
 ラキエは先端を掌で包むようにして、クルクルと撫でる。
「あっ、だ、だめ、そんなにしたら………っ」
 仕方ない。僕は腹を決めて裾を膝まであげた。
「がまんせずにイケばいいだろ」
「う、………っ」
 もうイキそう。でも、このままイクと服の内側が汚れてしまう。
 ラキエは指の輪で何度か上下に擦って、一度ギュッと強く握る。
「あっ、ああっ!」
 僕は身をよじり、そのいきおいで服を腰の上まであげた。
「いい格好だな」
 ラキエに笑われ、かあっっと顔が熱くなる。
「ふ、服が………っ、汚れるから………っ!」
 ラキエはゆっくりと手の力を抜いて、触れるか触れないかの微妙な距離をとったまま、指先を先端へと移動させた。
「あ………?」
 触れ方が変わって僕はとまどい彼を見上げた。
「もっとして欲しいって、ねだってるようにしか見えないぞ」
 思わず服を離してしまう。ばさりとすそが膝を覆った。
「いいのか? 汚れるのがイヤなんだろ?」
 指先が、ただそこに置かれる感じで先端に触れる。やさしい刺激に思わず腰を動かすが、ラキエの言葉で我に返った。
「別に俺はこんな服一枚がどうなろうと、かまわないがな」
「………」
 僕はすそをつまんだ。汚すわけにはいかないのだ。
 服を引き上げるその様子をじっと見ながら、ラキエはゆるく爪をたてた。
「アッ………ッ」
 痛みより快感にのけぞる。服の裾は太ももの上で止まった。
 ラキエは軽く引っかいて僕を刺激する。
「あ、や、やめ………っ、あ、」
 もう限界だ。あとちょっと、ほんの少しで。
「もっと上にあげないと濡れるぞ」
 ラキエがにやにやしながら言う。
「、………っ」
 服の裾を腹の上まであげて握りしめる。覆い被さっているラキエに見せつけているような姿になったことにひどく背徳的な快感。両足がびくびく震えた。
 曝されて震えているモノに顔を寄せて、ラキエは長い舌でぺろりとなめた。。
「あっ……―――!」
 止められなくてそのまま僕はラキエの白い顔に射精してしまった。神父服の彼に。
「ああ―――」
 ぐったりと祭壇の上に伸びる僕を見下ろし、ラキエは頬を伝い落ちる雫を舌を伸ばして舐めとった。
「こういうのも、なかなか楽しいな」