ティー・ラウンジ(思い付いたことのメモ)

 リストを作りながら、気づいたことをまとめる雑文のコーナーです。
 まだ3本だけですが……。なお古い文章ほどこのファイルの下の方にあります。

(3)A・マクリーン『北極戦線』の初出について
  本リストはEQ誌に連載された「EQチェックリスト」を基にして作られています。したがってEQ誌発刊(1978年)以降のリストは比較的正確なのですが、それ以前のリスト作成には手軽に利用できる資料がありませんでした。そこで代わりにミステリー・サークル「SRの会」の機関誌「SRMonthly」や国会図書館東京都立図書館のデータベースを活用しましたが、やはり急いで作った関係上、いくつかミスがありました。それらのミスは気づいたときに秘かに直していますが、最近直したデータにA・マクリーンの『北極戦線』がありました。
 私はマクリーンのあまり良い読者ではないので、『北極戦線』が初めて翻訳されたときには読みませんでしたが、他のマクリーン作品と同じく「ハヤカワ・ノヴェルズ」の一冊として刊行されたと考えていました。だが初出年を調べるために国会図書館のデータベースを検索したところ、「ハヤカワ・ノヴェルズ」版の『北極戦線』は蔵書されていないことがわかりました。1960年代に出版されたと思っていたので意外に思ったのですが、次に検索した東京都立図書館では「ハヤカワ・ノヴェルズ」版は1976年となっていたので、深く考えずに『北極戦線』は1976年のリストに含めてしまいました。
 ところが最近、なんとなく『北極戦線』が読みたくなり、文庫版に手を出してみました。文庫の初版は1977年になっています。普通、文庫の出版は早くてもハードカバーが出てから3年後と言われています。それが単行本(厳密には「ハヤカワ・ノヴェルズ」はソフトカバー本ですが)出版から1年後に文庫版が出るとは異例です。1976年の初出は間違いだと気づき、改めて『極楽の鬼』(石川喬司著)をチェックしたら、1969年の書評で取り上げられていました。どうやら「ハヤカワ・ノヴェルズ」版の初版年は1969年のようです。1969年であれば、その頃陸続と翻訳されていた他のマクリーン作品との整合性も問題ありません。というわけで『北極戦線』の初出を1976年から1969年に訂正しました。
 それにしても謎なのは、1969年の発行ならば、当然蔵書されているはずの「ハヤカワ・ノヴェルズ」版の『北極戦線』が国会図書館にも東京都立図書館にもないことです。この初版本は見本刷が完成後、なにか問題が見つかり、一部は市販されたものの、結局図書館には納入されなかったということなのか?
(蛇足:東京都の図書館の横断検索をしてみたら、府中市立図書館にのみ1969年発行の『北極戦線』が蔵書されていました。)     (2005.11.9)

(2)月曜書房から出版されたシャーロック・ホームズ全集
  "戦後”の定義を最初に考えたものから変更したため、初めに公表したリストの一部を変更しました。しかし変更とはいっても、雄鶏社の「雄鶏みすてりい」や早川書房の「世界傑作探偵小説シリーズ」で含まれる作品の一部と予想したため、大仕事にはならないと判断したのですが、なんの気なしに国会図書館のデータベースで延原謙の翻訳を検索してみて、ビックリしました。シャーロキアンにとっては常識なのかもしれませんが、戦後に出た最初の延原訳シャーロック・ホームズ物は新潮文庫ではなく、月曜書房から出た全集であることがわかったからです。
 そこで三度、最初のリストを大幅に変更するはめになりましたが、内容の紹介は新潮文庫版について書いたものを変更しませんでした。月曜書房版はまったく見たことがないためと、私が最初に読んだホームズ物が新潮文庫版であったからです。
 なお調べてみると、ドイルではない別の作者が書いた贋作「指名手配の男」が、月曜書房版の『シャーロック・ホームズ全集第13巻』には「求むる男」と題されて掲載されていることがわかりました(「EQ」1979年9月号)。シャーロキアンや古本者にとっては貴重な全集なのでしょう。     (2003.11.16)

(1)戦後翻訳された英国ミステリーの出版点数

 雑誌に掲載された長編を1冊と数えたり、逆に上中下の三巻本を一冊に数えたりと厳密な意味での出版点数ではありませんが(そもそも英国ミステリーの定義が問題になりますが)、傾向はよく出ていると思います。
 つまり英国ミステリーの本邦への紹介は、1950年代末に第一のピークがあり、1990年頃に第ニのピークがあります。第一のピークは謎解きミステリーの名作が数多く翻訳された時期に相当します。そして第ニのピークは他の多くの現象がそうであるように、バブル経済の影響と考えられます。
 この第一のピークは、私が大学生活を始める数年前になります。大学生になった時には英国ミステリー・ブーム(?)は終っていたはずですが、その頃の本は古本屋にいけば安く買えましたので(数年の時差がちょうど良かった!)、ヒマな学生の私は、結果としてミステリーを数多く読むことができました。純粋な読者として、多少時間遅れがありましたが、このブームを肌で実感できたわけです。
 そして第ニのピークを挟む前後20年くらいは、EQ誌のチェックリストの関係で、ヒマを作り出してはミステリーを読んでいた時期でした。つまりこちらのブーム(?)には、多少とも関係者として参加していたわけです。
 二つのピーク前後にたくさんの英国ミステリーを読めたことは、”極楽”であったのか”地獄”だったのか?  (2003.3.30)


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