邦題 『狙われた英国の薔薇 ロンドン警視庁王室警護本部』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Next in Line()
訳者 戸田裕之
出版社 ハーパーBOOKS
出版年 2024/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『終りなき夜に少女は』
原作者 クリス・ウィタカー
原題 All the Wicked Girls(2017)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2024/5/25
面白度 ★★★
主人公 一人には絞れない。失踪した双子の姉サマー・ライアン、サマーを探す妹レインと高校生のノア、ノアの親友パーヴの三人組。事件捜査を担当するブラック警察署署長など。
事件 1995年、米国アラバマ州の小さな町グレイス。以前からの連続少女誘拐事件は未解決のままであったが、5月の夜サマーは失踪した。警察は単なる家出と判断したが、誰よりもサマーを愛する不良少女的なレインは3人組で捜索を開始。事件背後には悪魔崇拝なども浮かび……。
背景 評判となった『われら闇より天を見る』の前作で、著者の二作目。これまでの全三作は米国が舞台で米国人ばかり登場し、米国で起きそうな事件を扱っているものの、それでも著者は英国生れで、語り口も(勝手な印象ですが!)英国的雰囲気があるので、本リストに加えている。

邦題 『海老足男との対決』
原作者 ヴァレンタイン・ウイリアム
原題 The Man with the Clubfoot(1918)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2024/5
面白度 ★★★
主人公 デズモンド・オークウッド(弟)とフランシス・オークウッド(兄)。二人ともイギリス諜報部の将校。敵役は<海老足男>ことドイツ人のアドルフ・グルトン博士。
事件 第一次世界大戦中にドイツ皇帝が不用意に書いた手紙があり、秘密諜報機関員の海老足男はそれを取り戻そうとしていた。一方デズモンドは海老足男の任務を阻止することであったが、その過程で兄がドイツに隠れていることを知った。デズモンドは単独ドイツに潜入するも……。
背景 クリスティの『おしどり探偵』は、当時の有名探偵をパロディ化した短編集だが、14人の探偵の内、4人の活躍は戦後まったく翻訳されていない。そのため出版されたのがスパイ冒険小説でもある本書。なお海老足とは内反足のことだが、この障害は事件と直接の関係はない。

邦題 『貧乏カレッジの困った遺産』
原作者 ジル・ペイトン・ウォルシュ
原題 Debts of Dishonour(2006)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2024/10/31
面白度 ★★★
主人公 セント・アガサ・カレッジのカレッジ・ナース(学寮付き保健師)のイモージェン・クワイ。30代後半の独身女性。
事件 イモージェインのもとに、国際的大企業の経営者ファラン(カレッジ卒業生)の訃報が届いた。アルコール依存症の治療施設に入っていて、誤って崖から転落したという。だがその数か月前に命を狙われていると、イモージェンは彼からうち開けられていた。調べ始めると……。
背景 『ウィンダム図書館の奇妙な事件』から始まるイモージェン・シリーズの第3弾。今回の事件は、多くが大学施設外で起きるので、前2作とは雰囲気が異なっている。また2死体をめぐる捜査に関する推理の楽しさは少ないが、事件の意外な収束には独創性を感じる。

邦題 『モルグ館の客人』
原作者 マーティン・エドワーズ
原題 Mortmain Hall(2020)
訳者 加賀山卓朗
出版社 早川書房
出版年 2024/7/15
面白度 ★★★
主人公 名探偵レイチェル・サヴァナクとクラリオン紙の記者ジョウ・フリント。
事件 モルグ館はヨークシャー北部モートメイン岬の突端にある。その館の主人にして犯罪学者のレオノーラから、館で催されるパーティにレイチェルとジョウの二人は招待された。パーティには殺人を犯しながらも法で裁かれなかった者たちが集まっていたが、真の目的を探るうち、レイチェルは意外な殺人事件に遭遇する……。
背景 『処刑台広場の女』に続くシリーズ第二弾。館に起きた殺人事件の犯人捜しについてはフェアな姿勢を示しているとはいえ、登場人物が多すぎることもあり、謎解き小説としては面白くない。レイチェルの魅力と1930年代初頭の風俗描写で読ませるスリラー小説か。

邦題 『ブレグジットの日に少女は死んだ』
原作者 イライザ・クラーク
原題 Penance(2023)
訳者 満園真木
出版社 小学館
出版年 2024/7/10
面白度 ★★★
主人公 事件の被害者ジョーンと、ジョーンと同じ地元の高校に通う同級生アンジェリカとヴァイオレット、そして上級生のドロシーの加害者三人。
事件 2016年6月のEU離脱を問う国民投票の日、ヨークシャーの浜辺の町で、16歳の少女ジョーンが暴行され焼き殺された。犯人は高校生の三人。その事件を調査して纏めたノンフィクションが発表されたが、内容に問題があると告発された。真実はどこにあるのか?
背景 珍しい疑似ノンフィクション型犯罪小説。被害者・加害者とも十代の少女なので、事件の背景にはSNS上のいじめなどが詳しく描かれている。そのような語り口には個人的には馴染めないのだが、本書中に登場する作家を本書の作者がインタビューする構成は面白い。

邦題 『エイリアス・エマ』
原作者 エイヴァ・グラス
原題 Alias Emma(2022)
訳者 池田真紀子
出版社 集英社
出版年 2024/8/30
面白度 ★★★
主人公 英国情報機関<エージェンシー>のエージェント、エマ・メイクピース。入局2年目の新人。彼女と共にロシアスパイから逃げるのがロシア人科学者夫妻の一人息子マイケル・プリマロフ。
事件 エマが受けた初の重大な指令は、マイケルを単独で保護せよといいうもの。だが現在ロンドンの監視カメラ・ネットワークはロシアの諜報員にハッキングされている。二人はカメラを避け、敵の暗殺チームの追跡をかわしながら、テムズ河沿いにあるMI6本部にたどりつけるか!
背景 ロンドン市内約10Kmを、敵の追跡を避けて目的地まで到達できるかという単純なプロットながら、エマの過去のエピソードなどを巧みに交えて最後まで飽きさせない。新人ながらかなりの筆力の持ち主だとわかる。ただし後日談はサービス過剰では?

邦題 『列をなす棺』
原作者 エドマンド・クリスピン
原題 Frequent Hearses(1950)
訳者 宮澤洋司
出版社 論創社
出版年 2024/6/30
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵のオックスフォードの英文学教授ジャーヴァス・フェンだが、事件の捜査を指揮するのはスコットランド・ヤードのハンブルビー警部。
事件 ロンドン近郊ロング・フルトンにある映画撮影所での脚本会議に出席予定のフェンは、撮影所の近くで、偶然ハンブルビーに出くわした。映画に出演していた女優グロリアの自殺の調査をしに来たという。その理由は妊娠三ヶ月であったとのことだが、撮影所内の誰が父親なのか?
背景 著者の長編は9冊あり、本書は7番目の作品。残る未訳作は"Glimpses of the Moon"(26年後に執筆された長編)の一作だけとなった。本書の舞台は映画撮影所で、すべての容疑者が映画関係者という風俗小説的な面白さはあるが、フェンの言動のファルス風味は減っている。

邦題 『ボタニストの殺人』上下
原作者 M・W・クレイヴン
原題 The Botanist(2022)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2024/8/25
面白度 ★★★★★
主人公 国家犯罪対策庁重大犯罪分析課(NCASAS)の部長刑事ワシントン・ポーとその一派の警部ステファニー・フリン、分析官ティリー・ブラッドショー、病理学者エステル・ドイル。
事件 生放送中のトーク番組で、女性蔑視論者のジャーナリストが突然倒れ、病院で死亡。男は脅迫状を受け取っており、警察は捜査を開始。一方ポーの同僚ドイルは父親の射殺容疑で逮捕された。さらに第二の脅迫状が下院議員に届き、議員は24時間監視の警護となるが……。
背景 ポー・シリーズ第5作。二つの事件が並行して語られるので、これまでの作品の中で最長。雪の密室と衆人監視下の病室での殺人という不可能犯罪を扱っている。謎解き小説としての出来ばえ以上に、二つの事件が不自然なく結びつくプロットや語り口の妙で読ませる第一級のエンタメ。

邦題 『殺人は夕礼拝の前に』
原作者 リチャード・コールズ
原題 Murder Before Evesong(2022)
訳者 西谷かおり
出版社 早川書房
出版年 2024/9/15
面白度 ★★★
主人公 英国の田舎町チャンプストンの聖マリア教会の牧師ダニエル・クレメント司祭。噂話が好きな母親オードリーと教区の牧師館に住んでいる。
事件 ダニエルは教会にトイレを設置する提案をしたものの、賛否を巡って村が真っ二つに分かれてしまった。そんななか、地主一族ド・フローレス家の関係者が、教会の中で剪定ばさみで喉を掻き切られて殺されたのだ。殺人の動機はトイレ設置と関係があるのか?
背景 著者は実際の英国国教会司祭で、ノンフィクションの分野で20冊以上の著書を持つが、本書が初ミステリ。筆力十分で、主人公を始め地主一族や村人達の人間描写は安心して楽しめる(適度なユーモアもある!)。コージー・ミステリとしてのレベルは高いが、謎解きの弱さが残念。

邦題 『善人は二度、牙をむく』
原作者 ベルトン・コッブ
原題 I Never Miss Twice(1965)
訳者 菱山美穂
出版社 論創社
出版年 2024/3/30
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁捜査部長のブライアン・アーミテージ。彼のフィアンセは同捜査部巡査のキティー・パルグレーヴ。
事件 ロンドン市内でダイヤモンド強盗が発生した。その頃アーミテージは、強盗事件の共犯容疑をかけている一家が貸し間を提供しているとの情報を得た。そこで彼は上司にも相談せず、素性を隠してその貸し間に下宿する。つまり潜入捜査を始めたのだが、はたして……。
背景 著者のロンドン警視庁シリーズの一冊。今回は警察官の共同捜査を描くのではなく、アーミテージの個人的な行動・推理で事件を解決するという展開。公的な捜査としては穴が多くて緻密さが足りないが、1960年代の風俗小説としてはそれなりに興味深い。

邦題 『ロンドン幽霊譚傑作集』
原作者 W・コリンズ他
原題 Mrs.Zant and the Ghost and Other Twelve Victorian Ghost Londoners(1885)
訳者 夏来健次編訳
出版社 東京創元社
出版年 2024/2/29
面白度 ★★★
主人公 ヴィクトリア朝時代(1837-1901)の首都ロンドンを舞台にした典型的な幽霊物からユーモア幽霊譚を含む13本の短編を収録した短編集。種々の幽霊が登場。
事件 「ザント夫人と幽霊」W・コリンズ(本作のみ既訳あり)、「C-ストリートの旅籠」D・クレイク、「ウェラム・スクエア十一番地」E・マーシー、「シャーロット・クレイの幽霊」F・マリヤット、「ハートフォード・オドンネルの凶兆」、C・リデル「ファージング館の出来事」、T・スペイト「降霊会の部屋にて」L・ガルブレイス、「黒檀の額縁」E・ネ0ズビット、「事実を、事実のすべてを、なによりも事実を」R・ブロートン、「女優の最後の舞台」M・ブラッドン、「揺らめく裳裾」M・モールズワース、「隣牀の患者」L・ボールドウィン、「令嬢キティー」W・ベサント&J・ライス
背景 知らない作家が多い。当時は幽霊譚の人気が高いことがよくわかる。

邦題 『コールド・バック』
原作者 ヒュー・コンウェイ
原題 Called Back(1883)
訳者 高木直二 ・門脇智子
出版社 論創社
出版年 2024/5/30
面白度
主人公 紳士階級のイギリス青年ギルバート・ヴォーンと彼が恋慕する女性ポーリーン・マーチ(イタリア人のハーフ)。
事件 ギルバートは眼の病気で失明していた時、迷い込んだ家で殺人を目撃した。その後手術で視力が回復し、旅先のイタリアで不思議な雰囲気の美しい女性ポーリーンに出合う。彼は一目で恋に落ち、求婚も受け入れられたが、彼女の様子は謎めいており……。
背景 『ダーク・デイズ』の前年に出版された著者の第一作。ミステリの要素は少なく、ロマンス小説といってよい。ヴィクトリア朝後期の文学に興味のある人ならともかく、普通のミステリ・ファンにとっては退屈な作品。

邦題 『受験生は謎解きに向かない』
原作者 ホリー・ジャクソン
原題 Kill Joy(2021)
訳者 服部京子
出版社 東京創元社
出版年 2024/1/12
面白度 ★★★
主人公 リトル・キルトン・グラマースクールの学生ピッパ(ピップ)・フィッツ=アモーブ。
事件 ピップに、試験が終わった週末に友人宅で行なわれる架空の殺人犯当てゲームに参加しませんかという招待状が届いた。時は1924年、舞台は孤島に建つ大富豪の館という設定で、参加者は同級生とその兄の7人。そしてゲーム開始早々、館主が刺殺死体で発見されたのだ。ピップはいつしかゲームにのめり込んだが……。
背景 ピップ・シリーズは三部作で完結しているが、本書は『自由研究には向かない殺人』の前日譚というべき中編。内容も殺人ゲームを扱った軽い読み物だが、一定のサスペンスがあるうえに各登場人物の書き分けも巧みなので、まあ読んでも損したとは感じないだろう。

邦題 『鼠の島』
原作者 ジョン・スティール
原題 Rat Island(2021)
訳者 青木創
出版社 早川書房
出版年 2024/12/15
面白度 ★★★★
主人公 王立香港警察(RHKP)の警部カラム・バーク。ベルファスト出身の白人の29歳。妻子がいる。
事件 香港返還が2年後に迫った1995年。ニューヨーク市警からカラムに連絡が入った。返還を前に香港から逃げて来る中国系犯罪組織を撲滅するため、潜入捜査をして欲しいというのだ。ニューヨーク市警麻薬課や麻薬取締局の担当者の援助で組織に潜入するが……。
背景 本書は香港返還2年前のニューヨーク市を舞台にした犯罪小説。著者は二十代でアメリカに渡り、日本を含む三大陸に住みながら多くの職業を経験。現在は英国で作家となっている。潜入捜査の詳細も興味深いが、ラスト50頁の迫力は犯罪小説として読みごたえがある。

邦題 『副大統領暗殺』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Without Fail(2002)
訳者 青木創
出版社 講談社
出版年 2024/8/9
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターのジャック・リーチャー。家も車も持たず、放浪の旅を続ける元憲兵隊指揮官。今回の相棒は彼の元部下のフランシス・ニーグリー。
事件 リーチャーのもとに奇妙な依頼が届いた。亡兄の元恋人でシークレット・サービスの幹部フレイリックから、殺害予告の届いた次期副大統領の警護への援助だった。ニーグリーの協力を得て警備の強化を図るが、感謝祭で賑わうワシントンDCで副大統領が狙われ……。
背景 原書は現在28冊が刊行されているが、本書は6番目の作品で訳書としては15冊目。シリーズの人気がわかるというもので、リーチャーの魅力や緊迫感のある戦闘場面の描写は流石。不満を言えば、これまでの翻訳作品に比べると犯人や謎の意外性が少ないことか。

邦題 『終着点』
原作者 エヴァ・ドーラン
原題 This is How it Ends(2018)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2024/8/23
面白度 ★★★★
主人公 ロンドンの集合住宅の解体に反対運動をしているエラ・リオダンとエラを社会改革の活動家に育て上げた年上のモリー・フェイダー。
事件 エラからモリーに緊急の電話がかかってきた。駆け付けるとエラのそばに死体が! 見知らぬ男に襲われ、身を守るために殺したのだという。二人は、警察の介入を恐れ、死体をエレベータ・シャフトに隠すことにした。しかし時間が経つにつれ、モリーは疑問を持ち始め……。
背景 著者の初めての翻訳作品であるとともに、著書の中の唯一の非リーズ作品。本書の独創性は、死体が見つかった時点からモリーの話は未来に、エラの話は過去に向かう。しかもそれを交互に語っているという離れ業を演じている。暗い話なのが少し残念。

邦題 『風に散る煙』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Smoke in the Wind(2001)
訳者 田村美佐子
出版社 東京創元社
出版年 2024/7/19
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターのキャシェルのフィデルマ修道女。ドーリィ(法廷弁護士)でもある。相棒はサクソン人修道士のエイダルフ。
事件 海路カンタベリーに向かっていたフィデルマとエイダルフは、時化のためダヴェド王国に上陸した。フィデルマの評判を聞きつけた国王から、小さな修道院の修道士がすべて消え失せるという不可解な事件の解決を要請された。さらにその途上で私刑に遭っている若者を見つけ……。
背景 フィデルマ・シリーズの第10作。本国ではすでに32冊も出版されていて今年も新作が出るそうだから本国での人気の程がよくわかる。本作では冒頭の奇妙な謎が面白いが、二つの異質な事件がどう結び付くかという興味で読ませるテクニックも上手いものだ。

邦題 『五本指のけだもの』
原作者 ウィリアム・フライアー・ハーヴィー
原題 The Beast with Five Fingers and Other Stories(1910)
訳者 横山茂雄
出版社 国書刊行会
出版年 2024/7/20
面白度 ★★★★
主人公 訳者が独自に編んだハーヴィーの怪奇小説集。1910年(の作品集)から2本、1920年から2本、1928年から4本、1933年から1本、合計9本の短編から成る(後ろに*の作品は本邦初訳)。
事件 「炎暑」(セイヤーズ編の里程標的怪奇小説アンソロジーに入っている傑作)、「ミス・アヴェナル」*、「アンカーダイン家の専用礼拝席」、「ミス・コーニリアス」、「追随者」*、「道具」、「セアラ・ベネットの憑依」、「ピーター・レヴィシャム」*、「五本指のけだもの」(人間の手が怪物のように動き回る。後日談が素晴らしい)
背景 20世紀の両大戦間の時代に活躍した作家。怪奇小説は大して読んではいないが、冒頭と最後の作品はやはり感心してしまう。ミステリも書いているようなので読んでみたいものだ。

邦題 『タイタン・ノワール』
原作者 ニック・ハーカウェイ
原題 Titanium Noir(2023)
訳者 酒井昭伸
出版社 早川書房
出版年 2024/12/15
面白度 ★★★★
主人公 警察コンサルタントで私立探偵のキャル・サウンダー。
事件 キャルが調査を依頼された事件は、壮年にしか見えない90代の巨大な男の死。彼はトンファミスカ一族が開発したタイタン化技術により、永遠の命を手にしていた「タイタン」人であった。その彼が頭に銃弾を一発くらった結果の他殺であった。生物学者で藻の研究をしていたが、男の過去と死の謎を追って、キャルはトンファミスカ一族の闇に巻き込まれていく――。
背景 若返ると同時に巨大化する薬が実用化されている近未来のSF世界を舞台にしたハードボイルド・ミステリ。SFには疎いのでSFとしての評価はできないが、この薬を除けば、悪漢との対決シーンの迫力や意外な犯人、キャルの軽口など、普通のハードボイルド物を越える出来映えだ。

邦題 『悪魔が唾棄する街』
原作者 アラン・パークス
原題 Bobby March Will Live Forever(2020)
訳者 吉野弘人
出版社 早川書房
出版年 2024/3/25
面白度 ★★★★
主人公 グラスゴー市警の部長刑事ハリー・マッコイ。シリーズ・キャラクター。上司のマレー警部や相棒のワッティー刑事などは名脇役。
事件 少女失踪事件で騒然となるグラスゴーで、ロックスターのボビー・マーチが不審死を遂げた。その捜査を始めると、さらに上司から彼の家出した姪を秘かに探すことを命じられた。事態は複雑になるが、さらに同僚からの捜査妨害を受けて……。
背景 マッコイ・シリーズの三作目。前二作は、1973年の毎月が原題に含まれ、その月の事件を扱っているが、本書は3月が題名に含まれているものの、事件は7月中に起きている。マッコイの正義感はカッコイイし、謎解き小説的展開も面白い。シリーズは高みに登っているようだ。

邦題 『象られた闇』
原作者 ローラ・パーセル
原題 The Shape of Darkness(2021)
訳者 国弘喜美代
出版社 早川書房
出版年 2024/2/25
面白度 ★★★
主人公 切り絵作家のアグネスと色素欠乏症の霊媒師パール。前者は50代の独身女性で、亡妹の息子と母親の面倒を見ている。後者は催眠術師の姉の指示で降霊術を実施している。
事件 ある日、アグネスの店に警官が訪ねてきた。彼女に肖像画を依頼した男が、次々に謎の死を遂げているというのだ。アグネスは事件解決ため、パールが開く降霊会で死者の口から犯人の名前を聞こうとしたが、これを機に二人の人生は狂い始めた。
背景 時代は英国ヴィクトリア朝中期で、霊が信じられていた頃。所は英国一の温泉保養地のバース。現代作家の書いた典型的なゴシック小説といってよい。当時の風俗も巧みに描かれているものの、怖さはそれほどではない。主人公らの奇妙な人間関係がもっとも興味深いか。

邦題 『アルパートンの天使たち』
原作者 ジャニス・ハレット
原題 (2023)
訳者 山田蘭
出版社 集英社
出版年 2024/11/25
面白度 ★★★★
主人公 強いて挙げれば次の3人。犯罪ノンフィクション作家のアマンダ・ベイリーと彼女の昔の同僚オリヴァー・ミンジーズ、彼女を助けるアシスタントの大学院生エリー・クーパー。
事件 2003年、ロンドン北西部の廃倉庫で、自分たちは人間の姿をした天使だと信じるカルト教団≪アルパートンの天使≫信者数人が凄惨な遺体で見つかった。その事件の18年後、出版社の依頼でアマンダは、謎が多いその事件を新しい切り口で調べ始めたが……。
背景 2022年に翻訳された『ポピーのためにできること』と同じく、メールやチャット、ニュース記事、取材記録なとの文章から構成されたミステリ(地の文はなし)。このような様式では単なるパズルになりがちだが、謎解き小説として大いに楽しめる。ただホラー趣味など詰め込み過ぎか。

邦題 『ナッシング・マン』
原作者 キャサリン・ライアン・ハワード
原題 The Nothing Man(2020)
訳者 高山祥子
出版社 新潮社
出版年 2024/1/1
面白度 ★★★★
主人公 警備員のジム・ドイル。18年前の事件当時は警察官で、現在は妻と娘一人がいる。作中作『ナッシング・マン』の作者イヴ・ブラックも主人公か。
事件 イヴは12歳のとき、連続殺人鬼<ナッシング・マン>に家族を惨殺された。唯一の生存者である彼女は成人後、一連の事件を取材し『ナッシング・マン』を上梓する。一方、偶然この本を読んだジムは、事件が暴かれそうだと考え、焦燥にかられるが……。
背景 作中作の『ナッシング・マン』は、ジムがいかにして暴かれるかという謎があり、本書にはシリアルキラーの犯罪小説の面白さがある。このところ作中作を扱った作品が目につくが、結構複雑なプロットを破綻なく描ききる筆力はそれなりに評価できる。

邦題 『アガサ・レーズンとけむたい花嫁』
原作者 M・C・ビートン
原題 There Goes the Bride()
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『すべては〈十七〉に始まった』
原作者 J・J・ファージョン
原題 No.17(1926)
訳者 小倉 さなえ
出版社 論創社
出版年 2024/6/30
面白度 ★★
主人公 海運<マーチャント・サービス>に所属していたベンが活躍するシリーズ物の第一作なのでベンが主人公といえるが、本書に限ればギルバート・フォーダイスか。
事件 失業中のベンは霧のロンドンへ向かっていた。入った大衆食堂で偶然<十七>と書かれた切符を拾う。しかし警官に怪しまれ、霧の中を逃げまっどているうちに、番号が17の空き家が目につく。だがそこで死体を見つけて玄関を飛び出すと、外にはフォーダイスが!
背景 著者は、児童文学作家として著名なエリナー・ファージョンの弟。本書は自作の劇を自分で小説にしたもの(ヒッチコック監督が映画化した邦題は「第十七番」)。『ハリーの災難』のような死体を巡るミステリを期待したのは間違いだったが、軽スリラーとしてそこそこ楽しめる。

邦題 『グッド・バッド・ガール』
原作者 アリス・フィーニー
原題 Good Bad Girl(2023)
訳者 越智睦
出版社 東京創元社
出版年 2024/6/21
面白度 ★★
主人公 女性4人。ロンドンのケアホームで暮らすエディス(80歳)とその娘クリオ(50代)、ケアホームの介護スタッフのペイシェンス(18歳)、ペイシェンスの養母ブランキー(38歳)。
事件 クリオは母エディスと反りが合わず、母を施設に押し込んだが、そのエディスを見張るために施設の職員となったペイシェンスとは、世代は違うものの友情を築いている。ある日エディスはペイシェンスと共に施設から失踪し、施設長は殺されているのが見つかったのだ!
背景 著者の邦訳4冊目。今回は母親と娘をテーマにしたサスペンス小説で、この4人の視点から物語が展開する。これまで同様、一部の情報をわざと語らずにサスペンスを高める技法は巧妙であるものの、母娘の関係や事件解決には、余りに偶然が多すぎて、ガッカリ。

邦題 『悪夢』
原作者 セシル・スコット・フォレスター
原題 The Nightmare(1954)
訳者 一瀬さおり
出版社 HM出版
出版年 2024/12/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『光の鎧』上中下
原作者 ケン・フォレット
原題 The Armour of Light(2023)
訳者 戸田裕之
出版社 扶桑社
出版年 2024/8/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『スリー・カード・マーダー』
原作者 J・L・ブラックハースト
原題 Three Card Murders(2023)
訳者 三角和代
出版社 東京創元社
出版年 2024/3/29
面白度 ★★★
主人公 サッセクス警察重大犯罪班の警部補テス・フォックスとテスの異母妹で詐欺師のセアラ・ジェイコブズ。
事件 喉を無惨に切られた被害者が空から降ってきた。その男は5階のフラットから落ちたと思われたが、バルコニーのある部屋は無人で、しかも玄関ドアは内側から釘と板で封じられていた。密室殺人だが、被害者は15年前のある事件の関係者だったのだ。
背景 小説の構造は、密室物の謎解き小説とテス警部補を中心とした警察小説をミックスしたもの。どちらの小説もそこそこ楽しめるものの、逆に言えば中途半端なプロットになっている。私としては,異色姉妹の活躍する警察小説としての方に魅力を感じた。

邦題 『ヘレン・ヴァードンの告白』
原作者 リチャード・オースティン・フリーマン
原題 Helen Vardon's Confession(1922)
訳者 松本真一
出版社 風詠社
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『狂ったシナリオ』
原作者 レオ・ブルース
原題 Die All, Die Merrily(1961)
訳者 小林晋
出版社 ROM叢書
出版年 2024/12/28
面白度 ★★★
主人公 ニューミンスター・クィーンズ・スクールの上級歴史教師キャロラス・ディーン。40歳。陸上競技やボクシングも得意な万能のアスリートでもある。
事件 名物国会議員の甥リチャード・ホイスデンが、殺人の告白をオープンリールのテープに録音した後に、銃を使って亡くなった。一見して自殺に見える事件だったが、キャロラスはテープを聞いて疑惑を抱いた。本当に自殺なのか? 殺人を告白した死体はなぜ見つからないのか?
背景 キャロラス・ディーン・シリーズの第10作。1960年代に入っても本職が教師という素人探偵が殺人事件を捜査するという設定は、今読むと相当無理に感じてしまうが、パズル・ストーリーと割り切ってしまえば、フーダニットの興味で最後まで読まされる。会話もそこそこ面白い。

邦題 『男を殺して逃げ切る方法』
原作者 ケイティ・ブレント
原題 How to Kill Men and Get Away with it(2022)
訳者 坂本あおい
出版社 海と月社
出版年 2024/12/13
面白度 ★★★
主人公 ロンドン屈指の高級エリア、チェルシーに住む有名なインフルエンサー(SNSのフォロワー数、数百万人)のキティ。コリンズ。肉などを食べないヴィーガン。
事件 キティはある日、酒場から後をつけてきたスケベ男をあやまって殺してしまった。そしてこの経験から自らの掟を作り、死んでも当然の男にのみ手をつける(殺人者ではない!)人間に目覚めたのだ。だが謎の脅迫者から、秘密を知っているというメールが届き……。
背景 ジャーナリストとして活躍している著者のデビュー作品。インフルエンサーという最先端の女性の表と裏の生活を描いた風俗・犯罪小説だが、最後にいかにもミステリらしい捻りがあって楽しめる。映画のようなR指定が本にでもできるなら、R15になりそうだが。

邦題 『ゴア大佐の推理』
原作者 リン・ブロック
原題 The Deductions of Col.Gore(1924)
訳者 白石肇
出版社 仙仁堂
出版年 2024/1/21
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ゴア大佐第二の事件』
原作者 リン・ブロック
原題 Colonel Gore's Second Case(1925)
訳者 白石肇
出版社 仙仁堂
出版年 2024/12/18
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『フォーチュン氏説明する』
原作者 H・C・ベイリー
原題 Mr. Fortune Explains(1930)
訳者 小林晋
出版社 ROM叢書
出版年 2024/12/28
面白度 ★★★
主人公 美食家の医師であるレジナルド・フォーチュン。警察の科学顧問でもある。スコットランド・ヤードのベル警視がフォーチュン氏の捜査に協力する。
事件 8本の短編からなる短編集。「第一の説明 ピクニック」、「第二の説明 可憐な帽子売り」、「第三の説明 結婚指輪」、「第四の説明 フットボールの写真」、「第五の説明 ロックガーデン」、「第六の説明 銀の十字架」、「第七の説明 自転車のヘッドライト」(電池ではなくランプのヘッドライトが登場)、「第八の説明 絵の中の顔」。
背景 フォーチュン氏物の第6短編集。一言で言えば地味な探偵で、謎解きも平凡。でも落ち着いて読んでみると、小説としてそれなりに読ませる上手さがある。

邦題 『白薔薇殺人事件』
原作者 クリスティン・ペリン
原題 How to Solve Your Own Murder(2024)
訳者 上條ひろみ
出版社 東京創元社
出版年 2024/7/12
面白度 ★★★
主人公 ミステリ作家志望のアナベル(アニー)・アダムズ。25歳。
事件
 アニーの大叔母は、「いつかお前は殺される」と若い時に占い師から告げられ、それを信じている変人であった。そしてアニーが大叔母の招待で田舎の屋敷を訪れると、大叔母は図書室で死んでいて、床には白薔薇が落ちていたのだ! 予言を信じていた大叔母は約60年をかけて親族や村人を調査していた。アニーはその調査記録を手掛かりに、犯人探しを始めるが……。
背景 大叔母が調査した結果と、彼女の遺産相続人アニーの視点からの大叔母殺人事件との二つの物語が、ほぼ交互に描かれている。いかにも現代風な、ひと捻りしたプロットを持つ謎解き小説。ただ主人公が素人探偵であるだけに、捜査がずさんという弱点がある。

邦題 『幻想三重奏』
原作者 ノーマン・ベロウ
原題 The Three Tiers of Fantasy(1947)
訳者 松尾恭子
出版社 論創社
出版年 2024/11/20
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは、ウィンチンガム警察署の警部ランスロット・カロラス・スミス。
事件 三つの事件が起きる。@は内気な未婚婦人が俳優と駆け落ちするが、途中で友人の家に立ち寄ったところ彼はそのまま消えてしまった。Aは横領を働いた実業家が大金を持って国外逃亡を試みるが、車の故障である宿に足止めされると、大金とともに男が滞在した三階の部屋が消えてしまった。Bは裕福な未亡人が画家を訪れ、路地にある車庫に車を入れるが、その後画家も路地も消えてしまう。つまり、人も部屋も路地も消失した事件の謎を解くという不可能犯罪ミステリ。
背景 カーばりの不可能犯罪派の作家の邦訳第4作目で、スミス警部物の第一作。不可能犯罪の三連発は奇術を見るような面白さはあるが、小説を読む楽しさに乏しい。

邦題 『恋のスケッチはヴェネツィアで』
原作者 リース・ボウエン
原題 The Venice Sketchbook(2021)
訳者 矢島真理
出版社 早川書房
出版年 2024/10/25
面白度 ★★★ 
主人公 二つの物語が語られる。1928〜1945年の主人公は画家志望の女性ジュリエットで、2001年の主人公は女性誌編集助手のキャロライン。キャロラインの大叔母がジュリエット。
事件 ジュリエットが死にぎわにキャロラインに託したのは、スケッチブックと3本の鍵、そして「ヴェネツィア」の一言だった。大叔母はかつてヴェネツィアで画家を目指して留学していたことを知ったキャロラインは水の都に向かった。鍵の謎解きからジュリエットの秘められた恋を発見するが……。
背景 <貧乏お嬢様>シリーズなどのコージー・ミステリが評判の著者のノン・シリーズ作品。時代は違えど二人の女性がヴェネツィアでハンサムなイタリア人男性と会ってすぐに恋仲になる、という典型的なコージー・ミステリだが、第二次大戦を舞台にした終盤の迫力には圧倒される。

邦題 『奇妙な捕虜』
原作者 マイケル・ホーム
原題 The Strange Prisoner(1947)
訳者 福森典子
出版社 論創社
出版年 2024/1/30
面白度 ★★★
主人公 イギリス陸軍所属のジョン・ベナム大尉とイギリス情報局所属のヘンリー・マーゴー大尉(フランス名はアンリ・マルゴー大尉)。
事件 時は1945年3月。連合軍が勝利を確定させようとしていた頃、英国の捕虜収容所にドイツ軍人の中に奇妙な捕虜がいると報告された。そこで情報局はベナム大尉にロンドンまでの移送任務を託したが、ドイツ人捕虜は途中駅で脱走。なんと数週間後に収容所に戻って来たのだ!
背景 著者のマイケル・ホームは、『完全殺人事件』などで有名なクリストファー・ブッシュの別名義。舞台設定はスパイ小説に近いが、登場人物の人間性などにはさほど触れず、途中で脱走した敵捕虜が3週間後になぜ自主的に戻って来たという魅力的な謎が主題の謎解き小説。

邦題 『マクマスターズ殺人者養成学校』
原作者 ルパート・ホームズ
原題 Murder Your Employer(2023)
訳者 奥村章子
出版社 早川書房
出版年 2024/6/15
面白度 ★★
主人公 特にいないが、強いて挙げれば殺人を計画して養成学校に入っている三人、クリフ・アイヴァーソンとジェマ・リンドリー、ダルシー・モートン(ドリア・メイ)。
事件 航空機メーカーに勤めるクリフは、無理な命令を下す上司の殺害を計画するも失敗。だが謎の人間の手で殺人養成学校に送られた。そこで他の生徒とともにさまざまな殺人方法を学ぶが、卒業できる条件はただ一つ、狙った人間を殺すことだった!
背景 著者はイギリス生れだが、その後アメリカの音楽界で活躍した後、ミステリを書き出した異色の作家。作品も異色で独創性もあるが、新奇すぎて(?)個人的には肌に合わない。古い人間と言われそうだが、アイズル『殺意』のような倒叙物プロットの方が好みだ。

邦題 『身代りの女』
原作者 シャロン・ボルトン
原題 The Pact(2021)
訳者 川副智子
出版社 新潮社
出版年 2024/5/1
面白度 ★★★
主人公 交通事故を起こした卒業間近かのパブリック・スクールの6人の仲間。一人に絞るなら、殺人罪の罪を被って一人で服役することになったメーガンか。
事件 そのメーガンが20年の刑期を終えて、かつての仲間5人の前に姿を現わしたのだ。彼・彼女らは、国会議員や辣腕弁護士、起業家、パブリック・スクールの校長など、成功している人間ばかり。とはいえメーガンには、5人と昔交わしたある”約束”があったのだ!
背景 S・J・ボルトン名義の初期三部作だけしか邦訳のなかった著者の十年振りとなる邦訳サスペンス小説。シャロン・ボルトン名義で書かれた。初期作同様、一気に読ませる筆力は一向に衰えていないが、主人公の6人の誰にも感情移入できないのが弱点。一種のイヤミス?

邦題 『死はすぐそばに』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 Close to Death(2024)
訳者 山田蘭
出版社 東京創元社
出版年 2024/9/13
面白度 ★★★★
主人公 元刑事でロンドン警視庁の顧問ダニエル・ホーソーンと、助手として彼の活躍を執筆している作家のアンソニー・ホロヴィッツ。
事件 テムズ川沿いの閑静な高級住宅地リヴァービュー・クロースで、金融業界のやり手がクロスボウの矢で殺された。門と塀で外部と隔てられた環境なので、犯人は6軒の家の住民しか考えられない。しかも住民は皆動機を持っていた。ホーソーンは警察から招聘され捜査をするが……。
背景 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズの第5作。これまでのシリーズは、ワトソン役の作家のホロヴィッツの視点、つまり一人称で書かれていたが、本書はホロヴィッツがコンビを組む前の事件と現在の事件を扱っているので、半分以上が三人称。複雑な語りの割には意外性は少ない。

邦題 『楽員に弔花を』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Swing, Brother, Swing(1949)
訳者 渕上痩平
出版社 論創社
出版年 2024/9/30
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁犯罪捜査課のロデリック・アレン主任警部。主な脇役としては、捜査を助けるフォックス警部とベイリー巡査部長。
事件 狂人一歩手前の変人といわれているパゴット卿は、卿の妻や娘を連れて音楽会場に乗り込んだ。この会場の余興として卿が楽員の一人に加わり、演奏中に楽員を空砲で撃つ予定であったが、その楽員が実際に死んでしまったのだ。たまたま会場にいたアレンが捜査に乗り出すが……。
背景 アレン・シリーズの第15作。よく言われているように、マシュー作品の欠点は「容疑者への尋問が退屈でだらだら続く」ことで、利点は「人物描写や舞台設定が巧みな」こと。このような評価がよく理解できる典型的な作品と言えそうだ。相殺の結果として★印は3つ。

邦題 『ザ・メイデンズ―ギリシャ悲劇の殺人』
原作者 アレックス・マイクリーディーズ
原題 The Maidens(2021)
訳者 坂本あおい
出版社 早川書房
出版年 2024/2/25
面白度 ★★★★
主人公 グループ・セラピーを専門とする心理療法士のマリアナ。一年前にギリシャの海で夫が溺死し、その悲しみからまだ立ち直れないでいる。
事件 そのマリアナは、ケンブリッジ大学生の姪ゾーイから学友が殺されたと相談される。姪の精神状態を危惧した彼女はケンブリッジに足を運び、殺人事件の調査を始めると、ギリシャ悲劇が専門のフォスカ教授が容疑者に浮かぶ。そして第二の犠牲者も同教授の指導を受けていたのだ!
背景 2019年に評判となった『サイコセラピスト』の著者の第2弾。物語は「エドワード・フォスカは人殺しだ」という一文から始まるので、倒叙ミステリを期待してしまう。その期待は後半になるにつれ萎んでいくが、読ませる筆力は圧倒的だし、結末の意外性も驚きに溢れている。

邦題 『ロング・プレイス、ロング・タイム』
原作者 ジリアン・マカリスター
原題 Wrong Place Wrong Time(2022)
訳者 梅津かおり
出版社 小学館
出版年 2024/3/11
面白度 ★★
主人公 弁護士のジェン・ブラザーフッド。夫は内装業者のケリー。18歳の一人息子ドッドがいる。
事件 10月30日に日付が替わったばかりの深夜、帰宅したトッドは目の前で見知らぬ男を刺し殺してしまう。その事件を目撃したジェンは呆然としながら眠りにつくが、目覚めると10月28日の朝に戻っていた! それ以降、ジェンは眠るたびに時間を遡っていくことが分かったのだ。その事態を把握しながらも彼女は、何とかして息子の殺人を事前に食い止めようとするが……。
背景 現実的なミステリの設定ながら、タイム・リープというSF的手法を盛り込んだ家族小説。この不思議な設定を斬新として評価できるかどうかだが、個人的には通常の手法で殺人事件を扱ってほしかった。結末になってもタイムリープが起きる理由は不明だし……。

邦題 『極夜の灰』
原作者 サイモン・モックラー
原題 The Dark That Doesn't Sleep(2023)
訳者 冨田ひろみ
出版社 東京創元社
出版年 2024/8/23
面白度 ★★★★
主人公 精神科医のジャック・ミラー。自分が運転していた事故で、日本人の妻を亡くした過去を持つ。現在は独身。
事件 1967年末、ジャックは旧知のCIA幹部から、グリーンランドにある米陸軍の秘密基地で発生した火災調査を依頼された。2名が焼死し、唯一の生存者は重度の火傷を負って陸軍病院に入院している事件。だが患者からの聴取には疑問が多く、また二人の焼死状態は違いすぎ……。
背景 本邦初紹介作家のミステリ。実際にあった事故を基にしたサスペンス小説と思って読み始めたが、謎が次々と発生して物語は予測しがたい展開となる。謎解き小説の面白さもあり、読者を飽きさせない。50年前の時代設定や北極圏という舞台設定を巧みに生かしている。

邦題 『ターングラス: 鏡映しの殺人』
原作者 ガレス・ルービン
原題 The Turnglass(2023)
訳者 越前敏弥
出版社 早川書房
出版年 2024/9/25
面白度 ★★★★
主人公 〔エセックス篇〕医師のシメオン・リー。体調不良に悩む伯父オリヴァーが住む、島の唯一の建物ターングラス館を訪れる。〔カリフォルニア篇〕役者志望の若者ケン・コウリアン。
事件 1881年、シメオンはオリヴァーから、ある事情で館に監禁されている義理の妹が自分の毒殺を画策していると告げられた。何故、どのような手段で行なおうとしているのか? 一方1939年のカリフォルニアでは、ケンは州知事の息子で作家のオリヴァー・ジュニアと親しくなったが、その彼が岬にあるガラス製のターングラス館で死体となっていた。鍵は1881年にあるのか?
背景 前からも後ろからも読める(テート・ベージュ形式の)本。独創性が感じられるのは、二つの物語が互いに関係性を持っていること。これはかなりユニークなプロットだ。

戻る