邦題 『運命の時計が回るとき』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Over My Dead Body(2021)
訳者 戸田裕之
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2023/10/20
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ファラデー家の殺人』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Police at the Funeral(1931)
訳者 渕上痩平
出版社 論創社
出版年 2023/9/15
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵のアルバート・キャンピオン(職業冒険家を自称)。実際の事件担当者はロンドン警視庁犯罪捜査課主任警部のスタニスラウス・オーツ。
事件 ケンブリッジに住むファラデー家の女主人キャロラインの甥アンドルー・シーリーは、朝の礼拝に出席後、行方不明となった。そして12日後、シーリーは手足を縛られたまま、至近距離から射殺された状態で発見。自殺か他殺か? さらに次女ジュリアがお茶に仕込まれた毒で殺され、長男ウイリアムも夜間に襲われた。遠縁のジョイスに捜査を頼まれたキャンピオンは……。
背景 キャンピオン・シリーズの第4作。1957年に『手をやく捜査網』として抄訳されたが、今回が完訳。独創的なトリックがあり、登場人物の造形もなかなかのものだ。

邦題 『ある刑事の冒険談』
原作者 ウォーターズ
原題 Recollections of a Detective Police-Officer Second Series(1859)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2023
面白度 ★★
主人公 ロンドンの刑事ウォーターズ。
事件 「クイーンの定員」の第2番に選ばれた『ある刑事の回想録』に続く第二短編集で8本の短篇が収録されている。「マーク・ストレットン」「戯曲作家」「二人の未亡人」「ウィザートン夫人」「みなし子達」「ヘレン・フォーサイス」「溺死」「火の手」の8本。題名はそっけないし、物語は新聞記事を長くしたようなもの。事件の動機は圧倒的に遺産相続に関するものが多いが、当時の読者はそのような事件に興味を持っていたのだろう。
背景 訳者によると、「チェンバース・エジンバラ・ジャーナル」にとびとびに連載された同一主人公による読み切り短編集で、これはホームズ・シリーズより早い。歴史的価値が高いか。

邦題 『ねじれた蝋燭の手がかり』
原作者 エドガー・ウォーレス
原題 The Clue of the Twisted Candle(1918)
訳者 白石肇
出版社 仙仁堂
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎』
原作者 ジル・ペイトン・ウォルシュ
原題 A Piece of Justice(1995)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2023/10/20
面白度 ★★★
主人公 ケンブリッジ大学の貧乏学寮セント・アガサ・カレッジの学寮付き保健師イモージェン・クワイ。防犯や家計の助けになると考え、学生を下宿させている。
事件 彼女の家の下宿学生フランが、ある数学者の伝記を執筆することになった。なぜか以前の執筆者は途中で行方不明になったり、病死したりしていたので、彼女は三代目。中断の理由は、その数学者の経歴で詳細が不明な1978年夏の数日間にありそうだと気付いたが――。
背景 イモージェン・シリーズの第2作。冒頭彼女がキルト制作に熱中しているシーンが謎解きに生きるなど伏線張りは巧みだが、伝記対象の肝心な数学者に人間的魅力がないのが欠点か。それにしてもケンブリッジ大学とその傘下の学寮との関係は複雑で、日本の読者には理解できない。

邦題 『処刑台広場の女』
原作者 マーティン・エドワーズ
原題 Gallows Court(2018)
訳者 加賀山卓朗
出版社 早川書房
出版年 2023/8/25
面白度 ★★★★
主人公 名探偵のレイチェル・サヴァナクとクラリオン紙の記者ジェイコブ・フリント。
事件 1930年、ロンドン。レイチェルには、彼女が突き止めた殺人者を死に追いやっているという黒い噂がつきまとっていた。記者のジェイコブはその彼女の秘密を暴こうとして、密室での奇妙な自殺や、ショー上演中の焼死といった不可解な事件に巻き込まれてしまったのだ。一連の真犯人は本当にレイチェルなのか?
背景 背表紙には「極上の謎解きミステリ」と紹介されているが、これは誤解を招きかねない。実際は謎解き小説というよりサスペンス小説の方が相応しいか。実在した「地獄の火クラブ」を連想させる組織を取り込んだプロットは雄大・迫力十分で、読みだしたら止まらない。

邦題 『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』
原作者 リチャード・オスマン
原題 The Bullet That Missed (2022)
訳者 羽田詩津子
出版社 早川書房
出版年 2023/7/15
面白度 ★★★★
主人公 木曜殺人クラブの4人。つまりエリザベス・ベスト(元諜報員),ジョイス・メドウクロフト(元看護婦)、ロン・リッチー(元労働運動家)、イブラヒム・アリフ(元精神科医)。
事件 4人が手掛ける未解決事件は、約十年前に地元ニュース番組の女性キャスターが深夜に車ごと崖から落ちたが、死体が見つからなかったもの。彼女と親交のあった有名キャスターに接触を図るも、エリザベスは夫とともに何者かに拉致され……。捜査と関係あるのか?
背景 木曜殺人クラブ・シリーズの第3弾。毎作ごとに物語のスケールは大きくなり(今回は報道の世界やネット金融など)、個性的な人物も一段と多く登場している。ユーモアのある語り口に加えてサスペンスも横溢する娯楽ミステリだが、読者サービスが過剰すぎないか?

邦題 『帝国の亡霊、そして殺人』
原作者 ヴァシーム・カーン
原題 Midnight at Malabar House(2020)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2023/2/15
面白度 ★★★★
主人公 インド初の女性警部ペルシス・ワディア。20代後半の独身。相棒はロンドン警視庁付き犯罪学者のアルキメデス(アーチー)・ブラックフィンチ。
事件 時は共和国化目前の1949年の大晦日。所はインド・ボンベイの英国外交官ヘリオット卿が住むラバーナム館。その館でのパーティーの最中に卿が殺されたのだ。犯行現場の金庫は空で、上着からは暗号めいたメモも。だた最も不思議な点は下半身は裸で、ズボンが消えていたのだ。
背景 インドを舞台にした警察小説には、古くはキーティングのゴーテ警部物が、最近もムカジーのサム・ウィンダム警部物がある。本書もその系統に属するが、最大の魅力はペルシス警部その人と当時の時代背景を丁寧に描写していることだろう。CWAの歴史ミステリ受賞作。

邦題 『チョプラ警部の思いがけない相続』
原作者 ヴァシーム・カーン
原題 The Unexpected Inheritance of Inspector Chopra(2015)
訳者 舩山むつみ
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2023/5/20
面白度 ★★★
主人公 ムンバイ警察サハール署署長で、階級は警部のアシュウィン・チョプラ。現在は退職し無職。相棒は伯父から相続した子象ガネーシャ。
事件 退職当日に警部を待っていたのは少年の水死体。検死解剖もせずに後任が事故としたその死に、チョプラは違和感を覚えて独自に調査を始めた。すると死亡したはずの暗黒街の大物を目撃し、ガネーシャとともに尾行した結果、大掛かりな犯罪が浮かび上がり……。
背景 『帝国の、そして殺人』で本邦デビューした著者の別シリーズの第一作。インドの大都会ムンバイを舞台にした風俗ミステリー。ユーモアもありそれなりに楽しめるが、子象が助手となる展開はちょっと子供向けだし、フェミニズム的には妻の行動が不満だ。

邦題 『ボンド街の歯科医師事件』
原作者 H・H・クリフォード・ギボンズ
原題 The Case of the Bond Street Dentist(1922)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2023/5/
面白度 ★★
主人公 ベイカー街に住む名探偵セクストン・ブレイク。協力者は助手のテインカー少年を始めブレイクの友人である貴族で若き冒険家ジョン・ロウレス閣下、スコットランド・ヤードのコーツ警部補。
事件 ロンドンでは、持ち主しか知らない秘密の場所に隠した貴重品が盗まれる怪事件が立て続けに起きた。典型例は予備寝室の床に敷いたカーペットの下に隠したダイヤモンド商の宝石が盗まれた事件。コーツの依頼でブレイクが捜査を始めると、ある歯科医師に……。
背景 何千冊という膨大な作品があるセクストン・ブレイク・シリーズの1冊。ジュブナイル向けの内容で、読みやすいのが取り柄。現在の大人が楽しめるとすれば、当時の歯科医院の治療やロンドンの車事情という風俗描写などであろう。

邦題 『イングリッシュマン 復讐のロシア』
原作者 デイヴィッド・ギルマン
原題 The Englishman(2020)
訳者 黒木章人
出版社 早川書房
出版年 2023/4/25
面白度 ★★★
主人公 元フランス外国人部隊第二空挺連隊伍長の”イングリッシュマン”、ことダン・ラグラン。重要な脇役を演じるのはMI6の高官ラルフ・マグワイア。
事件 ロンドン金融街の銀行役員カーターが襲撃・拉致された。わずか27秒の犯行で、手掛かりは一切ない。事態を憂慮したマグワイアは、カーターの友人で凄腕の傭兵でもあるラグランを急遽フランスから呼び寄せた。時間に追われながらロンドンでカーターを探すが……。
背景 英国人作家が米国風冒険小説を書いたような作品。プロットは実に都合よく展開して読みやすいものの(不要な人物はすぐに亡くなるが、主人公は傷付かない!)、英国冒険小説らしい重厚さが不足している。第3部はその欠点を修正するために敢えて書き加えられたか。

邦題 『哀惜』
原作者 アン・クリーヴス
原題 The Long Call(2019)
訳者 高山真由美
出版社 早川書房
出版年 2023/3/25
面白度 ★★★★
主人公 本書は事件の被害者と加害者、捜査側人物の各視点で描かれる犯罪小説で、主人公は一人に絞れない。捜査側に限れば、バーンスタブル警察署警部マシュー・ヴェン(同性愛者)と同部長刑事ジェン・ラファティ(離婚者で子持ち)、同刑事ロス・メイの三人。
事件 イギリス南西部のノース・デヴォンの海岸で死体が見つかった。被害者は近頃町へ来たアルコール依存症の男で、マシューの夫が運営する複合施設でボランティアとして働いていた。交通事故で子供を死なせて心の病も抱えていたらしい。そのような男を殺す動機とは?
背景 シェトランド島を舞台にした<ジミー・ペレス警部>シリーズで有名な著者の新シリーズ第一弾。登場人物全員の性格と行動、そして風景を実に丁寧に描写していて圧倒される。

邦題 『見知らぬ人』
原作者 アガサ・クリスティ
原題 The Stranger(1932)
訳者 羽田詩津子
出版社 早川書房
出版年 2023/7/25(雑誌HMM7月号)
面白度 ★★
主人公 新婚のエニド・ブラッドショー、28歳。新居に引っ越したばかり。
事件 永年の婚約を破棄したエドナは、一目惚れの男性ジェラルドと結婚して、人里離れたコテージに移り住むことに。だがある日エドナは夫の机の引き出しに衝撃的なものを見つけたのだ!
背景 短編「ナイチンゲール荘」を基にした戯曲。だが本劇の上演権を買い取った俳優兼劇作家のフランク・ヴォスパーが勝手に脚本に手を入れことから問題が発生。三幕三場の元戯曲を三幕六場に引き延ばし(登場人物を6人から8人に増やし)、独自の戯曲「見知らぬ人からの愛」にしてしまったからである。その改変は結果的には成功し(ロンドン公演は149回にも及ぶ)、クリスティの戯曲はお蔵入り。2021年9月に初めて英国で初演されたわけである。

邦題 『罪の壁』
原作者 ウィンストン・グレアム
原題 The Little Walls(1955)
訳者 三角和代
出版社 新潮社
出版年 2023/1/1
面白度 ★★★★
主人公 兄の死因の謎を調べる航空機メーカー社員のフィリップ・ターナーだが、真の主人公はフィリップの兄。つまり自殺した考古学者で元物理学者のグレヴィル・ターナー。
事件 1954年、米国で生活していたフィリップは、兄がアムステルダムの運河で身を投げたとの知らせを受けた。目撃者もおり警察は事件と認めなかったが、彼は水死という死因に不審を抱いた。さらに兄が持っていた手紙から、恋人らしき女性を追ってカプリ島に向かうが……。
背景 第1回CWA賞の長編賞を受賞した作品。著者は映画「マーニイ」の原作者として知られるが、本書は42年振りとなる5冊目の翻訳。善悪のモラルや恋愛を絡めたサスペンス小説として面白いが、謎解き小説ではないので原書出版時の翻訳は無理だったか、と納得。なお6月には『小さな壁』(藤盛千夏訳、論創社)という別題の訳書も出版されている。

邦題 『グレイラットの殺人』
原作者 M・W・クレイヴン
原題 Dead Ground(2021)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2023/9/25
面白度 ★★★★
主人公 国家犯罪対策庁(SCA)の重大犯罪分析課(CAS)の部長刑事ワシントン・ポーと同課の分析官ステファニー・フリン。
事件 貸金庫を襲った強盗団が身元不明の遺体と鼠の置物を残して姿を消した。その三年後、サミット開催直前に要人を搬送するヘリコプター会社の社長がホテルの一室で撲殺される。だがその部屋には同じ鼠の置物が! 二つの事件には関係があるのか?
背景 ポー&フリン・シリーズの第4弾。同年のCWAイアン・フレミング・ダガー賞受賞作。このシリーズの特徴である物語が快調に展開し、新しい謎を次々と小出しにするプロットは相変わらず健在。ただし文庫本700頁を越える長編だけに、中盤はさすがに少しダレ気味か。

邦題 『黒猫になった教授』
原作者 A・B・コックス
原題 The Professor on Paws(1926)
訳者 森沢くみ子
出版社 論創社
出版年 2023/9/15
面白度 ★★
主人公 著名な生物学者のリッジリー教授。カントレル教授と共に脳の研究していたが、最近死の直後に脳の一部を移植すれば記憶や知的能力が維持できることを解明した。
事件 そのリッジリ―教授が急死した。生前の約束通りカントレルは教授の脳を雌の黒猫に移植すると、なんと黒猫は教授の口調で喋り出したのだ。だが幽閉されていることに嫌気をさした黒猫(教授)が外出してみると、犬に追われたり……。
背景 アントニイ・バークリーがコックス名義で書いた長編第2作。人間の脳を猫に移植するというSF的設定であるが、その後の物語は喋る黒猫という貴重な生物を巡るドタバタ・ユーモア小説で、意外性のある結末などはミステリ・ファンでも楽しめるだろう。

邦題 『善意の代償』
原作者 ベルトン・コッブ
原題 Murder:Men Only(1962)
訳者 菱山美穂
出版社 論創社
出版年 2023/1/30
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁女性捜査部巡査キティー・パルグレーヴ。公式な捜査担当者は同捜査部警部のチェビオット・バーマンと同巡査のブライアン・アーミテージ。
事件 キティーは婚約者のブライアンから、ある下宿屋で殺人が起こるかもしれないという情報を教えられた。ただ捜査部は積極的に関与しないようだ。彼女は起こるかもしれない事件への懸念と好奇心から、休暇をとってその下宿屋に潜入すると、なんと殺人が!
背景 一軒の下宿屋で発生した殺人事件で、容疑者は下宿人の中の一人という設定の謎解き物。著者はクリスティとほぼ同時代の作家で、ミステリは三十数作を書いている(本書は邦訳4冊目)。トリックは平凡でサスペンスも不足。翻訳第一号『消えた犠牲者』だけが例外的に面白い。

邦題 『英国古典推理小説集』
原作者 佐々木徹編
原題 Guilty or Not Guilty(1856)他
訳者 佐々木徹
出版社 岩波書店
出版年 2023/4/14
面白度 ★★★★
主人公 19世紀後半から20世紀前半に書かれた古典的推理小説を集めた短編集。
事件 並び順に書くと『バーナビー・ラッジ』(第1章、チャールズ・ディケンズ、1841)、「有罪か無罪か」(ウォーターズ、1856)、「七番の謎」(ヘンリー・ウッド夫人、1877)、「誰がゼビディーを殺したのか」(ウィルキー・コリンズ、1880)、「引き抜かれた短剣」(キャサリン・ルイーザ・パーキス、1893)、「イズリアル・ガウの名誉」(G・K・チェスタトン、1911)、「オターモゥル氏の手」(トマス・バーグ、1931)、「ノッティング・ヒルの謎」(チャールズ・フォーリクス、1863)の8編。4編は本邦初訳と思われる。
背景 最後の一編はコリンズ『月長石』に先立つ英国最初の推理小説(J・シモンズ)だそうだ。岩波文庫から出たというだけに珍しい歓迎すべき企画だ。

邦題 『卒業生には向かない真実』
原作者 ホリー・ジャクソン
原題 As Good as Dead(2021)
訳者 服部京子
出版社 東京創元社
出版年 2023/7/14
面白度 ★★★★
主人公 リトル・キルトン・グラマースクールの卒業生で、18歳のピッパ(ピップ)・フィッツ=アモーブ。ポッド・キャストを運営している。
事件 大学入学直前のヒップに、無言電話や匿名のメールが届いたり、首を切られた鳩が家の敷地で見つかったりと、不審な出来事が起きていた。だが調べてみると、6年前の連続殺人との類似点に気付いたのだ。その犯人は服役中だが、真の犯人は別にいるのではないか?
背景 ピッパ三部作の最終巻。700頁近い長編ながら一気に読める語り口は快調だが、本書の最大の売りは衝撃的な結末。残念ながら、個人的にはピップ行動や考え方には共感できないものの、このプロットに独創性があるのは間違いないであろう。

邦題 『消えた戦友』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Bad Luck and Trouble(2007)
訳者 青木創
出版社 講談社
出版年 2023/8/10
面白度 ★★★
主人公 元憲兵隊指揮官ジャック・リーチャー。昔の仲間で生き残った元特別捜査官のフランシス・ニーグリー、カーラ・ディクソン、デイヴィッド・オドンネルの三人も活躍する。
事件 特別捜査部隊時代の盟友が砂漠で遺体となって見つかった。拷問を受けたうえでヘリコプターから落とされたようだ。リーチャーはニーグリーからの知らせで他の仲間を集めようとするも、皆の消息がつかめない。墜落死と連絡不通とは関係があるのか?
背景 リーチャー・シリーズの第11作。邦訳は原書の出版順でないため、一匹狼的なリーチャーが共同で活躍するプロットは本書が初めてかどうか知らないが、敵も大組織なので10人近くを殺している。荒っぽい展開だが、一気に読ませる筆力にはいつもながら圧倒される。

邦題 『トランペット』
原作者 ウォルター・デ・ラ・メア
原題 The Trumpet and Other Stories(1936他)
訳者 和爾桃子
出版社 白水社
出版年 2023/7/5
面白度 ★★★
主人公 訳者による日本独自の短編集。その第2巻で7本の短編から構成されている。
事件 「失踪」(猛暑の喫茶店で初対面の男から、同居女性が失踪したという話を聞かされて……)「トランペット」(天使像が持つ木製のトランペットを少年が吹きならすと……)「豚」(生前には未刊行作品。豚肉を食べるのか?)「ミス・ミラー」(ナニーのミス・ミラーと子どもの話)「お好み三昧―風流小景」(爆買いした結果は?)「アリスの代理さま」「350年生きてきた老女の誕生日に招かれた子供の話)「姫君」(少年がスコットランドの古屋敷に侵入すると――)
背景 幻想怪奇趣味や宗教色がそれほど強くない作品が多いので、個人的には楽しめた。特に「失踪」は、語り手の性格のいやらしさが巧みに表現されている。

邦題 『すり替えられた誘拐』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Death is My Bridegroom(1969)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2023/5/31
面白度 ★★
主人公 多視点で語られる小説なので主人公は一人に絞れないが、謎解きの一端を担うのはギリシャ語の講師ブライアン・アーマーと容疑者の姉ローナ・デントンの二人。
事件 ブランチフィールド大学には問題が山積していた。なかでも大きな問題は、講師と交際している問題児の女子学生が誘拐されるという噂だった。彼女が大学に多大な寄付をしている人間の娘であるからだが、学生集会の最中に本当に誘拐されてしまったのだ!
背景 著者のミステリは死後に出版された『ウォリス家の殺人』を含めて全13作あるが、本書は最後の邦訳作品。残り物には福がある場合もあるが、本書は狙いが中途半端で残念の一言。犯罪小説より倒叙ミステリとして完成させてほしかった。

邦題 『空軍輸送部隊の殺人』
原作者 N・R・ドーズ
原題 A Quiet Place to Kill(2021)
訳者 唐木田みゆき
出版社 早川書房
出版年 2023/5/15
面白度 ★★
主人公 三等航空士で心理学博士のエリザベス(リジー)・ヘイズとケント州警察警部補のジョナサン・ケイバー。ケイバーはスコットランド・ヤードから出向中の身である。
事件 1940年、ケント州農村部の空軍駐屯地に女性飛行士だけの後方支援組織<補助航空部隊>が配属された。彼女たちの任務は軍用機を輸送することであったが、そこで切り裂きジャック事件を想起する連続事件が発生したのだ。女性蔑視の空軍内での捜査は困難を極めるが……。
背景 著者は60歳にして本書でデビューした遅咲き作家。新人作家とはいえベテランらしい丁寧な語り口で、事件背景も詳しく描写されている。ただ中盤までは謎解き小説のような展開ながら、それ以降はサスペンス小説に移行してしまうプロットは中途半端な印象を持ってしまう。

邦題 『昏き聖母』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Our Lady of Darkness(2000)
訳者 田村美佐子
出版社 東京創元社
出版年 2023/3/10
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターのキャシェルマのフィデルマ。修道女だが、7世紀アイルランドの法廷に立つドーリィー(法廷弁護士)でもある。現フラン王の妹。
事件 巡礼の旅に出ていたフィデルマは、友人のサクソン人修道士エイダルフがカンタベリーへの帰途、12歳の少女に対する暴行・殺人罪で隣国で捕まったという手紙を受け取った。しかも彼の処刑は翌朝だという! 圧倒的な不利な状況で捜査を始めるが……。
背景 フィデルマ・シリーズの長編第9作。本国では今年中に長編第32作が刊行されるそうだ。宗教が背景にある歴史ミステリだが、読みやすい文章や法廷場面の迫力などは毎度ながら楽しめる。ただ今回のプロットは(特に前半は)、あまりに無理筋なのが少し残念だ。

邦題 『ラヴデイ・ブルックの事件簿』
原作者 キャサリン・ルイーザ・パーキス
原題 The Experiences of Loveday Brooks: Lady Detective(1894)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2023/11/
面白度 ★★★
主人公 フリート街リンチ・コートの有名探偵事務所に所属する女性探偵ラヴデイ・ブルック。三十少し過ぎで、容貌は平凡。いつも黒い服を着ている。
事件 「玄関階段に残された黒い鞄」「トロイテ・ヒルの殺人」「レッドヒルの修道女」「王女の復讐」「短剣の絵」(『英国古典推理小説集』(2023、岩波文庫)にも収録)「ファウンテイン・レーンの幽霊」「失踪!」の8本からなる短編集。
背景 訳者解説によるとヴィクトリア朝時代には女性探偵の作品は結構出版されていたそうだが、歴史的観点から評価すべき点は、女性作家が女性探偵を描いていることと、一人で探偵する自立型の探偵であること。作品では「短剣の絵」を除くと、読むべき程のことはないが。

邦題 『血塗られた一月』
原作者 アラン・パークス
原題 Bloody January(2017)
訳者 吉野弘人
出版社 早川書房
出版年 2023/6/25
面白度 ★★★
主人公 グラスゴー警察の部長刑事ハリー・マッコイ。バツイチの30歳。相棒は同警察の見習い刑事ワッティー。
事件 1973年の元旦、マッコイは囚人から、明日とある少女が殺されると告げられる。そして翌日、少年が少女を射殺し、自殺する事件が発生。これが”血塗られた一月”事件の始まりだった。マッコイは、自分と因縁のあるダンロップ卿の関与を疑うが、卿は警察に圧力を掛け始め……。
背景 新シリーズの第一弾。まずはハリー・マッコイの人間的魅力を紹介している作品といってよく、出自がかなり悲惨で悪徳刑事風のマッコイが正義感を忘れない刑事で、外部からの圧力にも屈しない人間であることがわかる。この彼の魅力に比べると事件解決が中途半端で平凡。

邦題 『闇夜に惑う二月』
原作者 アラン・パークス
原題 Feburary's Son(2019)
訳者 吉野弘人
出版社 早川書房
出版年 2023/10/25
面白度 ★★★
主人公 グラスゴー警察の部長刑事ハリー・マッコイ。上司は同警察の警部マレーで、相棒は同警察の新米刑事ワッティー。
事件 1973年2月10日、建設中のオフィスタワー屋上で惨殺死体が発見された。被害者は若手サッカー選手で、ギャングのボスの娘と婚約していた。容疑者はそのボスの右腕とすぐに推定されたが、取り逃がしてしまう。さらに無関係と思われたホームレスの自殺事件に――。
背景 マッコイ・シリーズの第2弾。本シリーズは1973年の一年間の毎月に事件が起きる設定らしく、この事件は2月の10日から19日まで。暗い過去を持つマッコイが一匹狼とは少し異なる活躍をする設定はそれなりに迫力はあるが、シリーズ物だけに結末に締まりがない。

邦題 『レイヴンズ・スカー山の死』
原作者 アルバート・ハーディング
原題 Death on Ravens' Scar(1953)
訳者 小林晋
出版社 ROM
出版年 2023/12/28
面白度 ★★★
主人公 保険会社を定年退職した男やもめのジョージ・プロッサー。自宅や財産を処分し放浪の生活を始める。相棒は湖水地方で知り合った児童文学作家フィービー・コックス。
事件 プロッサーは知人の住んでいる湖水地方に向かうが、途中で車に誘われた。運転していた女性は元警官(現私立探偵)で、同じ湖水地方に向かうという。彼女の伯父は数ヶ月前に転落死したが、現地に到着後にはもう一人の伯父も同じ場所で墜落死したのだ。事件の真相は?
背景 訳者あとがきによれば、全くの正体不明な作家で、作品は本作のみ。プロットや文章は素人の域を越えているので、訳者は有名作家の別名義作品ではないかとしている。ということで断定できないものの、舞台背景からして英国人作家と考えてほぼ間違いないはず。

邦題 『アガサ・レーズンと毒入りジャム』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and a Spoonful of Poison()
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『孔雀屋敷』
原作者 イーデン・フィルポッツ
原題 Peacock House and Other Stories(1926)
訳者 武藤崇恵
出版社 東京創元社
出版年 2023/11/30
面白度 ★★★
主人公 6本の短編よりなる日本独自の短編集。
事件 「孔雀屋敷」(名付け親の将軍が住む屋敷のあるダートムアを訪れた女性が偶然孔雀屋敷を見つけるが、次に訪れると消えていた!)「ステパン・トロフィミッチ」(ロシアの寒村を舞台にした凶器に関する謎解き物語)「初めての殺人事件」(題名通りの作品)「三人の死体」(バルバドス島で見つかった三死体。その関連と謎をデュヴィーン所長が解く安楽椅子探偵物)「鉄のパイナップル」(偏執的性癖を持つ男の奇妙な物語。編中で最も評価できる)「フライング・スコッツマン号の冒険」(遺産相続を巡る鉄道を舞台にした話。著者の最初の作品)
背景 怪奇小説だけでなく、謎解きや冒険・悪漢小説までバラエティの広さに驚いた。

邦題 『濃霧は危険』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 Welcome to Danger(1948)
訳者 宮脇裕子
出版社 国書刊行会
出版年 2023/2/20
面白度 ★★★
主人公 デヴォンシャーの大地主レデヴン家の跡取り息子で11歳の少年ビル・レデヴンと片目に眼帯を付けている謎の少年パッチ。そしてパッチの飼っている猫サンタクロースも?
事件 ビルは休暇を過ごすためロールスロイスに乗せられた。だが濃霧の荒地で、お抱え運転手に車から放り出されてしまったのだ。同じ頃、同地の少年院から<ナイフ>と呼ばれる若者が脱出。途中で知り合ったパッチとビルの二人は、<ナイフ>らの悪人との追いつ追われつの冒険を!
背景 著者唯一のジュヴナイル物。原題通り次々と危機が訪れる冒険小説。謎解きがメインではないものの、暗号解読の面白さがある。またミステリ作家らしい終盤の意外性も楽しい。ただ冒険譚を入れ過ぎたためか、物語が複雑過ぎて一気に読めないもどかしさがある。

邦題 『やかましい遺産争族』
原作者 ジョージェット・へイヤー
原題 They Found Him Dead(1937)
訳者 木村浩美
出版社 論創社
出版年 2023/10/15
面白度 ★★★
主人公 事件担当はロンドン警視庁警視ハナサイドと同部長刑事ヘミングウェイだが、物語の主人公らは生き残ったケイン家の面々か。
事件 霧の夜、裕福な実業家のサイラス・ケインが崖から落ちて死亡した。続いて遺産相続した甥が屋敷内で銃殺されたのだ。ロンドン警視庁が捜査に乗り出すが、次の相続人は二度も命を狙われる。単なる遺産相続の争いか、事業を巡る争いか、真の動機はなんなのか?
背景 ハナサイド警視シリーズは全4冊あるが、本書はその3作目で唯一の未訳であった。裕福な一家の遺産相続を巡る連続殺人事件という謎解きの王道を行く作品ながら、アリバイ・トリックや犯人の意外性は平凡。ユニークな登場人物やユーモラスな会話でもっている作品だ。

邦題 『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬』
原作者 S・J・ベネット
原題 Her Majesty the Queen Investigates Book2 A Three Dog Problem(2021)
訳者 芹澤 恵
出版社 KADOKAWA
出版年 2023/2/25
面白度 ★★★★
主人公 一人には絞れない。まあ、女王エリザベス二世と女王に仕える若き秘書官補のロージー・オショーディ(ナイジェリア系)。
事件 英国のEU離脱で沸く2016年。バッキンガム宮殿の室内プールで王室家政婦のミセス・ハリスが不慮の死を遂げた。事故死と思われたが、女王とロージーは殺人事件の線で捜査に乗り出す。50年前に寄贈された女王お気に入りの悪趣味な絵画が関係ありそうとわかり……。
背景 女王が探偵役となるシリーズ第2弾。文庫で500頁を越えるコージー・ミステリの大作だが、様々な事件が並行して描かれるので飽きることはない。特に女王お気に入りの絵画の盗難が巧みに処理されていて、これぞコージー・ミステリという結末となっている。

邦題 『貧乏お嬢さまの困った招待状』
原作者 リース・ボウエン
原題 God Rest Ye, Royal Gentlemen()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『貧乏お嬢さま、花の都へ』
原作者 リース・ボウエン
原題 Peril in Paris()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ナイフをひねれば』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 The Twist of a Knife(2022)
訳者 山田蘭
出版社 東京創元社
出版年 2023/9/8
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの元刑事でロンドン警視庁顧問のダニエル・ホーソーンと作家で語り手(私)であるアンソニー・ホロヴィッツのコンビ。
事件 私の戯曲「マインドゲーム」のロンドン公演の初日。劇場近くのトルコ料理店で初日を祝うパーティーが開かれたが、その席上劇評家の酷評が披露され、私は落胆した。ところが翌朝、その劇評家の死体が見つかり、私の短剣で刺殺されたとして、私は逮捕されてしまったのだ!
背景 <ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズの第4弾。シリーズ最初の頃は、事件の語り手が本書の著者という奇抜な設定のため謎解き以外の面白さもがあったが、第4作ともなるとその魅力は減っている。謎解きはまあまあとはいえ、総合的には前3作より見劣りがする。

邦題 『未来が落とす影』
原作者 ドロシー・ボワーズ
原題 Shadows Before(1939)
訳者 友田葉子
出版社 論創社
出版年 2023/11/20
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターのロンドン警視庁警部のダン・パードウと同部長警部のトミー・ソルトのコンビ。
事件 失業中の女性アウレリアは、コッツウォール丘陵の麓にある荘園屋敷に住む元大学教授の病弱な妻の付き添い婦に急遽雇われた。だが元教授は義妹を金目当てに毒殺したと起訴され無罪となった男だった。そして一ヶ月もしないうちに妻は砒素中毒で死んでしまったのだ!
背景 同シリーズは4冊あるが、本書は最後の翻訳作品。作者は1948年に46歳の若さで亡くなったのが惜しまれる。登場人物の造形力や風景の描写力などは非凡なものがある。ただ謎解き小説としては警部らの捜査が中途半端で、読後にアンフェア感が残るのが少し残念。

邦題 『闇が迫る マクベス殺人事件』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Light Thickens(1982)
訳者 丸山敬子
出版社 論創社
出版年 2023/5/10
面白度 ★★★
主人公 事件を解くのはお馴染みのロンドン警視庁首席警視ロデリック・アレンだが、物語の主人公は戯曲「マクベス」の上演に関与した演出家や俳優の面々か。
事件 ドルフィン劇場では「マクベス」の上演が決まった。俳優には、マクベス役のマクドゥーガルやバンクォー役のバラベル、魔女を演じるマリオ族の血を引くランギ等。初日から大入りとなったが、「マクベス」上演は縁起のが悪いことがあるのか、なんと上演中に殺人事件が!
背景 マーシュの長編は全32作あるが、本書は遺作となった作品。演劇好きな作者らしく、演劇の世界を舞台にして、しかも終演直前にマクベス役が殺されるというクローズド・サークル物。謎解き小説としては平板な出来だが、殺人動機の意外性だけでも大いに楽しめる。

邦題 『幕が下りて』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Final Curtain(1947)
訳者 松本真一
出版社 風詠社
出版年 2023/7/12
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『死と奇術師』
原作者 トム・ミード
原題 Death and the Conjuror(2022)
訳者 中山宥
出版社 早川書房
出版年 2023/4/15
面白度 ★★★
主人公 元奇術師で私立探偵のジョセフ・スペクター。
事件 1936年のロンドン。高名な心理学者リーズ博士が密室状態の自宅の書斎で殺された。手掛かりも凶器も見つからない。この不可解な事件の捜査を依頼されたスペクターは、容疑者である博士の患者らに注目するも、再び密室殺人が起こり――。
背景 冒頭の献辞に「父と母、そして亡きJDC(1906〜1977)に捧ぐ」とあるように、カーの密室物と同じような設定・プロットの作品。第一の密室の謎はまあ楽しめるが、カーとの違いは語り口にファースやハッタリがないことで、解決部になっても説明が平板でイマイチ盛り上がりに欠けている。大先輩に少し遠慮があったのかもしれないので、次作にを期待したい。

邦題 『オパールの囚人』
原作者 A・E・W・メイスン
原題 The Prisoner in the Opal(1928)
訳者 金井美子
出版社 論創社
出版年 2023/5/10
面白度 ★★
主人公 パリ警視庁警部のガブリエル・アノー。『薔薇荘にて』と『矢の家』に続く三度目の登場。ワトスン役は『薔薇荘にて』に続くジュリアス・リカード(隠退した実業家)。
事件 リカードは、ブドウ収穫祭で賑わうボルドーの田舎屋敷を訪問するが、屋敷にはどこか不穏な気配が漂っていた。そして翌朝、反目しあっていた二人の若き美女が行方不明になり、やがて美女の一人が片方の手首を切り取られた死体で見つかったのだ。
背景 著者自身が「本作は『矢の家』と全く同じ公式に則って書いたものである」と言っているらしい。古めかしいプロットのままで、何故死体から手首が切断されたのかという魅力的な謎が活かしきれていない。謎解き作家というよりジョン・バカン風の冒険小説作家なのだろう。

邦題 『ガラム・マサラ!』
原作者 ラーフル・ライナ
原題 How to Kidnap the Rich(2021)
訳者 武藤陽生
出版社 文藝春秋
出版年 2023/10/30
面白度 ★★★
主人公 インド社会の貧困の中からのしあがった青年ラメッシュ・クマール。ニューデリーで受験コンサルタント業を営んでいる。
事件 ラメッシュが富裕な建設業者から依頼された仕事は、息子ルディをインドの一流大学に入れて欲しいというもの。ルディは馬鹿なドラ息子なので、ラメッシュが替え玉受験をすることに。受験は無事終了するも、予想外の結果が! 全国トップの成績を上げてしまったのだ。
背景 訳題は、カレー料理などに用いる混合香辛料のこと。著者はインド人だが、英国とインドの両方で仕事をし、本書が英語で書かれたので英国ミステリに入れることにした。とはいえ後半の誘拐事件はミステリ的な面白さはなく、まあ、風俗小説として楽しめる程度か。

邦題 『カラス殺人事件』
原作者 サラ・ヤーウッド・ラヴェット
原題 A Murder of Crows(2022)
訳者 法村里絵
出版社 KADOKAWA
出版年 2023/11/25
面白度 ★★
主人公 蝙蝠を調査する生態学博士のネル・ワードとペンドルベリー警察の巡査部長ジェームズ・クラーク。ジェームズはネルに一目惚れしてしまう。
事件 英国の田舎町ベンドルベリーにある荘園領主ソフィ・クロウズが惨殺された。彼女は8ヶ月ほど前に町の開発合同会社のCEOスティーブンソンと結婚したばかりだった。事件当時には彼にはアリバイがあり、逆に現場で動植物の調査を単独でしていたネルは第一容疑者に!
背景 ネル・シリーズの第一作。英国ではコージー・ミステリ・シリーズとしてすでに第4作まで出ているそうだ。冒頭に殺人事件が発生するという謎解き小説的展開ながら、その後は捜査も推理も中途半端なうえに、翻訳の影響があるかもしれないが”コージー”部分もさほど楽しめない。

邦題 『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』
原作者 ジェイムズ・ラヴグローヴ
原題 The Cthulhu Casebooks:Sherlock Holmes And the Miskatonic Monstosities()
訳者 日暮雅通
出版社 早川書房
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』
原作者 ジェイムズ・ラヴグローヴ
原題 The Cthulhu Casebooks:Sherlock Holmes And the Sussex Sea-Devils()
訳者 日暮雅通
出版社 早川書房
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『森のロマンス』
原作者 アン・ラドクリフ
原題 The Romance of the Forest(1791)
訳者 三馬志伸
出版社 作品社
出版年 2023/11/30
面白度 ★★★
主人公 美しい容姿と清純な心を持つ若きアドリース。尼僧院で育てられる。
事件 パリで贅沢三昧の生活を送っていたラ・モット夫妻は破産して夜逃げすることに。だが道に迷い、荒野の一軒家に紛れ込むと、何故か悪漢たちからアドリーヌを押しつけられた。そして三人で逃げ込んだのが深い森の中の廃墟となった僧院。しかし数か月後、かつての僧院の持ち主の侯爵が現われ、一目惚れしたアドリーヌを自分の”女”にしようと画策したため……。
背景 『ユドルフォ城の怪奇』で有名な著者の出世作となった著者の第三作。この時27歳だったというから驚きだ。ウォルポールの『オトラント城』のような怪奇趣味は少なく、美女が逃げ回るサスペンス小説か。圧倒的な筆力に加えて結末の意外性もあり、今読んでもそれなりに楽しめる。

邦題 『叫びの穴』
原作者 アーサー・J・リース
原題 The Shrieking Pit(1919)
訳者 稲見佳代子
出版社 論創社
出版年 2023/10/30
面白度 ★★
主人公 探偵のグラント・コルウィン。アメリカ人とイギリス人のハーフ。
事件 コルウィンはノーフォークにあるホテルの食堂で、ある若者がテーブルにナイフを突き立てている異様な光景を目撃する。医師と一緒に介抱すると意識は戻るものの、唐突にホテルから姿を消した。その若者が、その後湿地のはずれにある宿で殺人を犯して逃走中であることが判ったのだ。探偵が捜査に加わると、どうやら宿の主人や給仕などが怪しいと思われたが……。
背景 戦前、評論家の井上良夫が絶賛していた作家の初の邦訳。興味深いのは、翌年の1920年に出たクリスティの『スタイルズ荘の怪事件』と比較してみると、いかにも黄金時代以前の古いプロット・語り口で作られていることだ。読みやすさだけが取り柄だが。

邦題 『カーミラ レ・ファニュ傑作選』
原作者 レ・ファニュ
原題 Carmila(1872)
訳者 南条竹則
出版社 光文社
出版年 2023/12/20
面白度 ★★★
主人公 訳者による日本独自の作品集。6本の作品より構成されている。
事件 「シャルケン画伯」(1839)、「幽霊と接骨師」(ユーモラスな怪奇小説、1839)、「チャペリゾットの幽霊譚、1851)、「緑茶」(著者の短編では最も広く知られている作品、1869)、「クロウル奥方の幽霊」(1870)、「カーミラ」(本書の中で唯一の中編、1872)の6本。
背景 レ・ファニュの傑作集は、これまでにも何冊か出版されている。また怪奇小説のアンソロジーにも、「緑茶」を始めとして何本の短篇が採り上げられている。本書収録の短編の中で初めて翻訳された作品があるのかどうか、怪奇小説に詳しくないのでわからないが、久しぶりのレ・ファニュの短編集なのでリストに入れてしまった。どれもそれなりに面白い。

邦題 『シェフ探偵パールの事件簿』
原作者 ジュリー・ワスマー
原題 The Whitstable pearl Mystery(2015)
訳者 圷香織
出版社 東京創元社
出版年 2023/5/19
面白度 ★★★
主人公 レストラン<ウィスタブル・パール>の店主であるパール・ノーラン・39歳で、ケント大学の学生チャーリーがいる。副業として探偵業を始めた。
事件 海辺の町ウィウタブルでシーフード・レストランを経営するパールは、最近副業として探偵業を始めた。すると依頼人が現われ、ある漁師に貸した金の返済がないので彼の経済状態を調べて欲しいと。依頼は断ったものの、その漁師が彼女の友人なので、彼の釣り船に行ってみると……。
背景 新コージー・ミステリ・シリーズの第一作。もともと脚本家であっただけに主人公などの人物造形はきちんとなされているし、会話は巧みで楽しい。料理の説明も詳細でコージーな雰囲気は申し分ないが、警部の活動などのミステリ部分はもう少し深く描いて欲しかった。

邦題 『クリスマスカードに悪意を添えて』
原作者 ジュリー・ワスマー
原題 Murder on Sea(2015)
訳者 圷香織
出版社 東京創元社
出版年 2023/11/17
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『愛の終わりは家庭から』
原作者 コリン・ワトソン
原題 Charity Ends at Home(1968)
訳者 岩崎たまゑ
出版社 論創社
出版年 2023/6/10
面白度 ★★★★
主人公 フラックス・バラ警察署の警部ウォルター・バープライト。ロンドンの謎の私立探偵モーティマー・ハイブが協力者。
事件 のどかな街フラックス・バラの有力者三人(検死官、警察署長、地方紙の編集主任)に、奇妙な内容の手紙が届いた。「私は殺されそうなの」と記されていたが、署名はなかった。そしてなんと、慈善活動家のヘンリエッタが溺死体で見つかったのだ。関係はあるのか?
背景 全12冊ある<フラックス・バラ・クロニクル>の邦訳第5弾。コージー・ミステリーのような雰囲気があるが、意外とまっとうな謎解き小説になっている。特にミス・ディレクションが巧みで、小品ながら大いに楽しめる。

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