邦題 『悪しき正義をつかまえろ』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Turn a Blind Eye(2021)
訳者 戸田裕之
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2022/10/20
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁警部補に昇進し、内部監察特別捜査班を指揮するウィリアム・ウォーウィック。妻はフィッツモリーン美術館絵画管理者のべス。
事件 ウィリアムの新しい任務は、マフィアとの係わりが囁かれる所轄の花形刑事サマーズを調べること。囮捜査員には巡査のニッキーを抜擢し捜査を開始するが、サマーズの方が一枚上手で……、といった展開で、これに麻薬王の裁判が絡む。
背景 『レンブラントを取り返せ』から始まったウィリアム・ウォーウィック年代記の第3弾。ウィリアムは名目上の主人公といってよく、物語には多くの人物が登場して群像劇に近い。大ベテラン作家だけに相変わらず読みやすい物語設定・文章だが、謎解き要素はさっぱりだ。

邦題 『われら闇より天を見る』
原作者 クリス・ウィタカー
原題 We Begin at the End(2020)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2022/8/25
面白度 ★★★★
主人公 カリフォルニア州の海沿いの町ケープ・ヘイヴンの警察署長ウォーカー(45歳)と同町の13歳の少女ダッチェス・デイ・ラドリー(自称”無法者”)。
事件 30年前の少女死亡事件。ウォーカーの証言により親友ヴィンセントは逮捕され、30年間刑務所に囚われていた。この事実をウォーカーは今だに悔いているのだが、そのヴィンセントが帰ってきた。だがそれは、ダッチェスとウォーカーを巻き込む新たな悲劇の始まりだった。
背景 2021年のCWA最優秀長篇賞を受賞。英国人作家だが、米国西部が舞台の犯罪小説。ダッチェスの活躍やラストの意外性にも共感を覚えるが、信じがたい人間関係はやはり気になる。欧米の読者は、この程度の不可解な人間関係には驚かないのか?

邦題 『ヨーク公階段の謎』
原作者 ヘンリー・ウェイド
原題 The Duke of York's Steps(1929)
訳者 中川美帆子
出版社 論創社
出版年 2022/9/10
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの警部ジョン・プール。本作がデビューで、後に多くの作品で探偵役を務める。オックスフォード大出身の30歳。
事件 ロンドンにあるヨーク公記念柱直下の階段で、銀行家のガース・フラットン卿が背後から駆け降りてきた男に衝突された。そしてその数分後、銀行家は別の場所で倒れて死亡。自然死と考えられたが、動脈瘤の近くに殴打痕があり、他殺だったのだ! 動機は? 殺人手段は?
背景 クリスティやクロフツと同時代に活躍したミステリー作家の邦訳8冊目(ミステリは全部で20冊書いている)。プロットやトリックに派手さはないが(実際本書のトリックなどは平板だが)、上流階層社会を背景にした事件の語り口は、それなりに個性的で興味深い。

邦題 『ある刑事の回想録』
原作者 ウォーターズ
原題 (1852)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2022/11/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ウィンダム図書館の奇妙な事件』
原作者 ジル・ペイトン・ウォルシュ
原題 The Wyndham Case(1993)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2022/11/30
面白度 ★★★
主人公 セント・アガサ・カレッジの学寮付き保健師(カレッジ・ナース)イモージェン・クワイ。独身で、彼女の家には下宿人の学生二人と間借りする教授がいる。
事件 冬の朝、学寮長がイモージェンのもとに駆け込んできた。大学内のウィンダム図書館で学生の死体が発見されたのだ。倒れた拍子に机の角に頭をぶつけたのが死因のようで、そばには古書が一冊。事故なのか? 警察が調べると、学寮の被害者のルームメイトが行方不明に!
背景 著者は児童文学の書き手で日本でも翻訳書が出版されているが、本書はイモージェン・シリーズの第一作となる初のミステリ。舞台や登場人物、語り口などはいかにも英国ミステリらしい雰囲気があり楽しめる。ただ偶然の多すぎるプロットは少し減点か。

邦題 『ブランディングズ城のスカラベ騒動』
原作者 P・G・ウッドハウス
原題 Something New(1915)
訳者 佐藤絵里
出版社 論創社
出版年 2022/3/30
面白度 ★★★
主人公 シリーズ物の主人公はブランディングズ城の城主第九代エムズワース伯爵クラレンスだが、本書では作家のアッシュ・マーソンと同じアパートに住むジョーン・ヴァレンタイン。
事件 エムズワース卿の次男フレデリックは、アメリカの億万長者ピーターズの令嬢と婚約中。そのこともありピーターズはエムズワース卿を自宅に招待し、大切なスカラベの逸品を見せるが、それは無意識の内に卿のポケットに。気付いたピーターズはアッシュを従者に、そして令嬢はジョーンを小間使いに雇い、ブランディングズ城に向かうが……。
背景 シリーズ第一作。ユーモア小説であることは間違いないが、最終的にスカラベを盗んだ犯人の意外性や論創海外ミステリ281として出ている点を考慮して本リストに加えた。

邦題 『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』
原作者 リチャード・オスマン
原題 The Man Who Died Twice(2021)
訳者 羽田詩津子
出版社 早川書房
出版年 2022/11/20
面白度 ★★★★
主人公 エリザベス(元諜報員)、ジョイス(元看護婦)、ロン(元労働運動家)、イブラヒム(元精神科医)の4人だが、フェアヘイヴン警察署のドナ巡査とクリス主任警部も入れたい。さらに本書では町の住人ボグダン(建設業者)も活躍する。
事件 エリザベスは死んだはずの英国諜報員(彼女の元夫)から協力を求められた。2千万ポンド相当のダイア盗作の疑いを掛けられ米国のマフィアに命を狙われているというのだ!
背景 木曜殺人クラブ・シリーズの第二弾。第一作が謎解き小説的な展開であったが、本書はスパイ・犯罪小説風な展開。とはいえ英国人らしい洒落たユーモアが満載されている点は同じ。終盤のまとめ(謎解き)はすっきりしないが、ミステリというより小説を楽しむ作品か。

邦題 『手招く美女』
原作者 オリヴァー・オニオンズ
原題 The Beckoning Fair One and Other Stories(1911他)
訳者 南條竹則・高沢治・館野浩美
出版社 国書刊行会
出版年 2022/2/25
面白度 ★★★
主人公 日本独自に編集された著者の短編集。収録作は8本。後の*印は本邦初訳。
事件 「信条」(自選怪談集の序文)*,「手招く美女」(幽霊屋敷物。最も有名な中編),「幻の船」(幽霊船物)*,「ルーウム」(クレーン操縦士の話),「ベンリアン」(自分が石像になる!)*,「不慮の出来事」(40年もの友人と仲たがいし…),「途で出逢う女」(幽霊に出合った少年の話。語り口が凝っている)*,「彩られた顔」(旅先のチュニスで起きた初恋物語。少女の前世の秘められた掟が…という150頁近い中編)*,「屋根裏のロープ」(顔を激しく損なった英国兵士の悲劇)*
背景 著者(1873〜1961)は20世紀に活躍した怪奇小説作家。批評家などには高く評価されているものの読者のうけはイマイチ。最初から娯楽性は狙っていないからだろう。

邦題 『壜のなかの永遠』
原作者 ジェス ・キッド
原題 Things is Jars()
訳者 木下淳子
出版社 小学館
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『セクストン・ブレイク・コレクション3 ボンド街の歯科医師事件』
原作者 H・H・クリフォード・ギボンズ
原題 The Case of the Bond Street Dentist(1922)
訳者 平山雄一
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2022/5
面白度 ★★
主人公 ベイカー街に住む名探偵セクストン・ブレイクとその少年助手ティンカー。協力者にはブレイクの友人で貴族の若き冒険家ジョン・ロウレス閣下とスコットランド・ヤードのコーツ警部補。
事件 ロンドンでは、持ち主しか知らない秘密の場所に隠してある貴重品が盗まれる怪事件が立て続けに起きた。例えばダイアモンド商が寝室の床に敷いたカーペットの下に咄嗟に隠した宝石も盗まれたのだ。ヤードから捜査依頼を受けたブレイクは、被害者達の共通点に気付く。
背景 ハウス・ネームであるセクストン・ブレイク物の作品は四千冊以上あるそうだが、本書の著者は100冊近くを出版。その中心人物であったようだ。ジュブナイル向けのたわいない内容だが、当時の歯科医院の治療やロンドンの車事情などは、今読むと風俗小説として興味深い。

邦題 『炎の爪痕』
原作者 アン・クリーヴス
原題 Wild Fire(2018)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2022/12/16
面白度 ★★★★
主人公 事件の捜査側はシェトランド署の警部ジミー・ペレスと刑事サンディ・ウィルソン、インヴァネス署の主任警部ウィロー・リーヴス。容疑者・被害者側はファッション・デザイナーのヘレナ・フレミングとその夫、医師のロバート・モンクリーフ一家。そして一家の子守エマ・シアラー。
事件 ヘレナは家族でシェトランド本島の家に引っ越してきたが、その家の納屋では前の持ち主が首吊り自殺をし、今度はエマの首吊り死体が見つかったのだ。しかも彼女は他殺であった。二つの死には関連があるのか? ペレスら三人は執拗な捜査を行うが……。
背景 本書はシェトランド島シリーズの8作目で、最終巻。これまでの作風と同じでミステリとしての驚きはないが、じっくり読ませる筆力は衰えていない。最終巻を考慮して★一つプラス。

邦題 『窓辺の愛書家』
原作者 エリー・グリフィス
原題 The Postscript Murders(2020)
訳者 上條ひろみ
出版社 東京創元社
出版年 2022/8/19
面白度 ★★★
主人公 次の4人。ウェスト・サセックス警察犯罪捜査課のハービンダー・カー(インド系英国人で同性愛者)、介護士ナタルカ・コリスニク(ウクライナ人)、カフェ・オーナーのベネディクト(元修道士)、老紳士エドウィン(BBCを退職した白人)。
事件 高齢者向け共同住宅に住む老女が亡くなった。死因は心臓麻痺だったが、彼女を介護していたナタルカはハービンダーに相談。連続殺人事件を疑い、4人が捜査すると……。
背景 『見知らぬ人』に続く邦訳第2弾。本文中にあるとおりのコージー・クライム小説で、謎解きは平板。主な面白さは、背景となる出版界の現状や、国籍・人種・性癖などの異なる4人が謎解きをするという多様性社会を巧みに描いていることだろう。

邦題 『キュレーターの殺人』
原作者 M・W・クレイヴン
原題 The Curator(2020)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2022/9/25
面白度 ★★★★
主人公 国家犯罪対策庁(NCA)の重大犯罪分析課(SCAS)部長刑事ワシントン・ポーだが、同課の分析官ティリー・ブラッドショーも、ポーに劣らず大活躍する。
事件 クリスマスの英国カンブリア州で、切断された人間の指が次々発見され、現場には”BSC6”という謎めいた文字が残されていた。ポーは三人の犠牲者の身元を明らかにするため捜査を開始。共通点はある裁判の関係者で、事件の背後には実行者を操るキュレーターの存在が!
背景 ポー・シリーズの第三弾。本シリーズの特徴は、警察小説でありながらも謎解き小説としての面白さもあること。本書では小さな謎がいくつも繋がりながら最後にフーダニットという謎が提示される。加えて軽快な語り口の物語展開にも魅了されてしまう。

邦題 『セクストン・ブレイク・コレクション1 「柬埔寨(カンボジア)の月」』
原作者 ウィリアム・マレー・グレイドン
原題 ()
訳者 加藤朝鳥
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年 2022/4/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『クロームハウスの殺人』
原作者 G・D・H & M・コール
原題 The Murder at Crome House(1927)
訳者 菱山美穂
出版社 論創社
出版年 2022/4/1
面白度 ★★★
主人公 31歳の大学講師ジェームズ・フリント。16-17世紀の経済発展に関する分野の権威。女性には奥手で、恋愛より趣味の世界に没頭するのが好きな性格。
事件 フリントが図書館から借りた本に挟まっていた写真の返却を求めて、前の借り手がフリント家を訪れた。一方フリントは友人の依頼で、友人の従妹の婚約者が容疑者となった殺人事件の真犯人を探すことに。だが驚いたことに、その写真には殺人事件の被害者が写っていたのだ!
背景 夫婦合作で有名なコール夫妻の長編第3作。お馴染みのウィルソン警視物ではなく、素人探偵物。ゆるい中盤の展開は少々退屈だが、フリントとその仲間たちのユーモラスな会話は楽しめる。もっとも事件に無関係なラストの捻りが一番楽しめたが。

邦題 『優等生は探偵に向かない』
原作者 ホリー・ジャクソン
原題 Good Girl, Bad Blood(2020)
訳者 服部京子
出版社 東京創元社
出版年 2022/7/22
面白度 ★★★
主人公 リトル・キルトン・グラマースクールの最上級生ピッパ(ピップ)。18歳。
事件 ピップは、友人のコナーから失踪した兄ジェイミーの行方を捜してくれと依頼された。ジェイミーは2週間ほど前から様子が変だったが、ピップは関係者へのインタビューやSNS、ポッドキャストなどを活用し、丹念に調査を続けた。どうやらジェイミーは、あるパーティーに出席後に消息を絶ったことが判ったのだ。生存率の高い72時間が過ぎようとしているが……。
背景 第一作『自由研究には向かない殺人』の続編。冒頭でその事件の犯人・動機などが明かされているものの、必ずしも第一作から読まなければならない作品ではない。今どきの高校生らしくポッドキャストや各種のSNSを駆使して謎を解いていくので、高齢者には向かない?

邦題 『グッゲンハイムの謎』
原作者 ロビン・スティーヴンス(原案:シヴォーン・ダウド)
原題 The Guggenheim Mystery(2017)
訳者 越前敏弥
出版社 東京創元社
出版年 2022/12/9
面白度 ★★★
主人公 謎解きの主人公は自閉スペクトラム症の12歳のテッド・スパークだが、彼の姉カットと彼のいとこサリムの二人がテッドと共に活躍する。
事件 夏休みを迎えたテッドは、母と姉と一緒に、グロリアおばさんとサリムが住むニューヨークを訪れた。おばさんはグッゲンハイム美術館の主任学芸員。休館日の館内を案内して貰っていると、突然白い煙が! それは見せかけで、全員が避難する最中に名画が盗まれていた!
背景『ロンドン・アイの謎』の続編。本来は著者ダウドが書く契約をしていたが、刊行直後に死亡。財団からの指名でスティーヴンスが本書を執筆することになったそうだ。謎解きは平凡だが、ロンドンとニューヨークの文化・風俗の違いをユーモラスに説明している内容などは面白い。

邦題 『カトリアナ』
原作者 ロバート・ルイス・スティーブンソン
原題 Catriona(1893)
訳者 佐復秀樹
出版社 平凡社
出版年 2022/2/10
面白度 ★★
主人公 『誘拐されて』の続編にあたり、財産を得たデイビッド・バルフォアが再登場する。
事件 デイビッドは自らを危機にさらす裁判に係わり、さらには偶然出会った高地の娘との恋愛や逃亡中のアランとの再会、拘束された孤島からの脱出、暗黒の政治裁判から無実者らの救出などを経験し、デイビッドはどう成長したのであろうか?
背景 著者が単独で執筆した生前最後の作品。『誘拐されて』は少年・少女向けの冒険小説だが、本書はその続編なので、恋愛が主題になっている。つまり前半は裁判が扱われているもののミステリー的な面白さはゼロ。一方で後半のヴィクトリア朝後期の若い男女の恋愛模様は風俗小説としてそれなりに興味深いものがある。

邦題 『光を灯す男たち』
原作者 エマ・ストーネクス
原題 The Lamplighters(2021)
訳者 小川高義
出版社 新潮社
出版年 2022/8/25
面白度 ★★★★
主人公 3人の灯台守、主任アーサー、補佐ウィリアム(ビル)、補助員ヴィンセントとそれぞれの妻、ヘレン、子持ちの妻ジェニー、婚約者ミシェルの合計6人。一種の群像劇に近いが、もう一人挙げれば、謎の再調査を始めた海洋冒険作家のダン・シャープか。
事件 1972年末、コーンウォールにある<メイデン・ロック>の灯台から3人の灯台守が忽然と姿を消した。何が起きたのか? 20年後シャープは関係者への取材を始めたが……。
背景 『そして誰もいなくなった』を思い起させる魅力的な物語設定だが、1900年に起きた実際の事件を下敷きにしている。ミステリを意識して書かれた作品ではないので謎の解明は常識的とはいえ、ラストの意外性やサスペンスフルな語り口は並みのミステリを越える迫力がある。

邦題 『セクストン・ブレイク・コレクション2 「謎の無線電信」』
原作者 ウィリアム・ウォルター・セイヤー
原題 ()
訳者 森下雨村
出版社 ヒラヤマ探偵文庫
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『名探偵と海の悪魔』
原作者 スチュアート・タートン
原題 The Devil and the Dark Water(2020)
訳者 三角和代
出版社 文藝春秋
出版年 2022/2/25
面白度 ★★★
主人公 謎解き人を自称する囚人サミュエル・ピップスが登場するも、複数人がいろいろな場面で活躍するので、主人公は一人ではない。名探偵ミステリとは言い難い。
事件 時は1634年。オランダ東インド会社はバタヴィアからアムステルダム行きの貨客船を出航させようとしていた。乗客はバタヴィア総督一家を始めとして、彼の従者アレント・ヘイズ中尉や護送囚人のサミーなど。だが出航後には怪事件が連続し、ついに総督にも……。
背景  『イヴリン嬢は七回殺される』という異色作でデビューした著者の第二弾。今回はホームズ物のような名探偵を扱った歴史ミステリ。導入部が些か退屈で、名探偵は期待したほど活躍しないが、相変わらず独創性の高い異色作であることは間違いない。

邦題 『嘘は校舎のいたるところに』
原作者 ハリエット・タイス
原題 The Lies You Told(2020)
訳者 服部京子
出版社 早川書房
出版年 2022/10/25
面白度 ★★
主人公 刑事専門の女性法廷弁護士(バリスタ)のセイディ・ローパー。彼女には一人娘ロビン(10歳)がいる。
事件 夫に家を追い出され、ロンドンに戻ってきたセイディ。亡き母の家に住み、嫌っていた母校に娘を通わせながら、教え子から性犯罪犯として訴えられた教師の裁判に弁護団の一員として参加することに。だが学校ではPTA会長と衝突し、ロビンのいじめも明らかになり……。
背景 『紅いオレンジ』に続く2作目のドメスティック・スリラー。筆力のある著者らしく、学校内の事件と教師の性犯罪事件の裁判の話は一気に読まされてしまう。だが弁護士らしくないセイディの性格・言動に、個人的には共感できず厳しい評価になった。

邦題 『ロンドン・アイの謎』
原作者 シヴォーン・ダウド
原題 The London Eye Mystery(2007)
訳者 越前敏弥
出版社 東京創元社
出版年 2022/7/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン在住の12歳のテッド・スパーク。自閉スペクトラム症のようで、対人関係は苦手だが、事実や物事の仕組みを考えるのは得意。気象学の知識も専門家並み。
事件 いとこサリムの希望でテッドと姉カットの三人は、巨大な観覧車ロンドン・アイに向かった。長蛇の列だったが、見知らぬ男からチケット1枚を貰い、サリムだけが多くの乗客と一緒にカプセルに乗り込んだ。だが一周後のカプセル内でサリムは消えてしまったのだ!
背景 YA向けの小説だが、一般人が読んでも大いに楽しめる。移動中のカプセル内の人間消失の謎は無理がないうえに、その後にもう一つの謎を設定している構成上の上手さにも感心。各登場人物の性格設定にも好感が持てるし、これは拾い物の一冊か。

邦題 『星は昏い』
原作者 ピーター・チェイニー
原題 The Stars are Dark(1943)
訳者 田中実千晶
出版社 綺想社
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『奪還』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 The Hard Way(2006)
訳者 青木創
出版社 講談社
出版年 2022/8/10
面白度 ★★★
主人公 家も車も持たず、米国で放浪の旅を続ける元憲兵隊指揮官ジャック・リーチャー。今回の相棒は私立探偵で、元FBI特別捜査官のローレン・ポーリング。
事件 舞台はニューヨーク・マンハッタン。民間軍事会社を経営するレインの妻と娘が拉致された。身代金の受け渡し現場にたまたま居合わせたリーチャーは、請われて妻子の救出を助けることに。だが、誘拐犯の要求金額は次第に高くなり、ついには一千万ドルを越えたのだった!
背景 リーチャー・シリーズの第10作。シリーズ最新作は第26作なので、本書は秀作が多いという初期作品群に含まれる。プロットは変化に富んでいるが、拉致犯は中盤過ぎに明らかになり、終盤は約束通り犯人を力で捻じ伏せてしまう。もうひと捻り欲しい気もするが……

邦題 『アーモンドの木』
原作者 ウォルター・デ・ラ・メア
原題 The Almond Tree and Other Stories(1909他)
訳者 和爾桃子
出版社 白水社
出版年 2022/9/15
面白度 ★★★
主人公 訳者による日本独自の短編集。7本の短編を収録している。
事件 「アーモンドの木」(ヒースの原野に建つ家で孤立した一家の父親の不倫を息子の目を通して描く話)「伯爵の求婚」(求婚された叔母の言動がユーモラス)「ミス・デュヴィーン」(少年の視点から描かれた隣家に住む女性への淡い憧れ)「シートンの叔母さん」(叔母さんの異常性に驚くが……)「旅人と寄留者」「クルー」(クルー駅にいた老人が語り始めた恐ろしい話とは)「ルーシー」(三人姉妹の住む石屋敷に運命の手紙が届くが……)の7本。
背景 児童文学的な話は入れていないと思ったが、幻想的なものよりもホラー的作品が多いのは意外だった。朦朧法と呼ばれる文体のためか、オチがすっきりしないのが残念。

邦題 『レックスが囚われた過去に』
原作者 アビゲイル・ディーン
原題 Girl A(2021)
訳者 国弘喜美代
出版社 早川書房
出版年 2022/6/15
面白度 ★★★
主人公 企業で弁護士として働く、かつては「Girl A」と呼ばれた語り手のアレグザンドラ(レックス)だが、実質は彼女の妹2人と兄1人、弟3人のグレイシー家の子供7人か。
事件 子供たちを虐待していた母親が刑務所で亡くなり、遺言指定者になっていたレックスは、ばらばらになっていた妹・兄・弟に連絡を取ることに。そして過去の”恐怖の館”で監禁されていた頃の思い出がフラッシュバックしてレックスを苦しめ……。
背景 著者の第一作だが、物語の語り方が斬新。現在からある過去に移ってその時点の状況を少し語った後に、また別の過去に移る。並みの著者なら、読者を混乱させるような語り口だが、その不安を感じさせないのはあっぱれ。ただし恐怖の細切れ感もあり、恐ろしさはイマイチだ。

邦題 『幻想と怪奇12 イギリス女性作家怪談集』
原作者 チャールズ・ディケンズほか
原題 日本独自の短編集(2022)
訳者 牧原勝志
出版社 新紀元社
出版年 2022/12
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『英国クリスマス幽霊譚傑作集』
原作者 チャールズ・ディケンズほか
原題 A Christmas Tree: and Other Twelve Victorian Ghost Candles(1850他)
訳者 夏来健次・平戸懐古
出版社 東京創元社
出版年 2022/11/30
面白度 ★★★
主人公 物語の日時をクリスマス前後に設定した短編を集めた日本独自の短編集。
事件 「クリスマス・ツリー」(ディケンズ)、「死者の怪談」(フリスウェル)、「わが兄の幽霊譚」(エドワーズ)、「鋼の鏡、あるいは聖夜の夢」(フェン)、「海岸屋敷のクリスマス・イヴ」(リントン)、「胡桃屋敷の幽霊」(リデル夫人)、「メルローズ・スクエア二番地」(ギフト)、「謎の肖像画」(ラザフォード)、「残酷な冗談」(コーベット)、「真鍮の十字架」(ワトスン)、「本物と偽物」(ボールドウィン)、「青い部屋」(ガルブレイス)の13本。
背景 ディケンズのエッセイ以外はすべて初訳で、全作品がヴィクトリア朝のクリスマス幽霊譚。結末はいろいろだが、予定調和的なプロットばかりなのは、19世紀に書かれているからか。

邦題 『シャーロック・ホームズ 10の事件簿』
原作者 ティム・デドプロス
原題 ()
訳者 高橋知子
出版社 二見書房
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『修道女フィデルマの采配』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 The Heir-Apparent and Other Stories(2004)
訳者 田村美佐子
出版社 東京創元社
出版年 2022/2/10
面白度 ★★★
主人公 7世紀アイルランドのドーリィー(法廷弁護士)のフィデルマ。
事件 原題の短編集から5本の短編を選んだ日本独自の短編集。短編は「みずからの殺害を予言した占星術師」(プロットはちょっと面白いがトリックは平板)「魚泥棒は誰だ」(犯人の意外性は無し)「養い親」(この種の制度が7世紀にあるとは?)「「狼だ!」」「法廷推定相続人」(毒殺事件を扱ったもっともミステリらしい展開)の5本。
背景 フィデルマが活躍する短編集の第5弾。本シリーズの特徴は、7世紀アイルランドの法体系の目新しさとフィデルマの人間的魅力、リーダビリティの高い語り口、謎解き小説としての面白さにある。本書の短編には謎解きの面白さが少ないのが残念なところ。

邦題 『完璧な秘書はささやく』
原作者 ルネ・ナイト
原題 The Secretary(2019)
訳者 古賀弥生
出版社 東京創元社
出版年 2022/12/16
面白度 ★★
主人公 大手スーパーであるアプルトン社の最高経営責任者マイナ・アプルトンの個人秘書クリスティーン・ブッチャー。夫と娘一人がいる。
事件 クリスティーンはマイナに抜擢されて個人秘書に採用された。彼女は完璧な忠誠心と職務遂行能力をもって、私生活を犠牲にしてまでマイナに仕えてきた。その結果マイナの父を会社から追い出すことや名誉毀損裁判に勝つことにも成功したのだ。だが、突然警察がやってきて……。
背景 『夏の沈黙』に続く著者の心理スリラー第2弾。クリスティーンの一人称で語られる物語で、手記の形で記述されている。滅私奉公する主人公に個人的には共感できなかったので面白度は低く評価したが、筆力にはそれなりに認められる。

邦題 『吸血鬼ラスヴァン −英米古典吸血鬼小説傑作集−』
原作者 G・G・バイロン他
原題 (2022)
訳者 夏来健次・平戸懐古
出版社 東京創元社
出版年 2022/5/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ポピーのためにできること』
原作者 ジャニス・ハレット
原題 The Appeal(2021)
訳者 山田蘭
出版社 集英社
出版年 2022/5/25
面白度 ★★★★
主人公 実際に読者と同視点に立って謎を解く、二人の司法実務修習生オルフェミ(フェミ)・ハッサンとシャーロット・ホルロイド。
事件 英国の田舎町で劇団を主宰するマーティン・ヘイワードは地元の名士。その彼が劇団員に一斉メールを送り、2歳の孫娘ポピーが難病に罹っていると告白した。高額な治療費が必要な難病であるため、さっそく有志が募金活動を開始したが、これが悲劇を生むことに!
背景 文庫本で700頁もある大作だが、その殆どがメールや新聞記事、調書などといった資料から構成されたミステリ。資料が多いと単なる謎解きパズルになりがちだが、これが小説としても楽しめるのは立派。登場人物の性格・思考などが描き分けられているからであろう。

邦題 『56日間』
原作者 キャサリン・ライアン・ハワード
原題 56 Days(2021)
訳者 山本祥子
出版社 新潮社
出版年 2022/10/1
面白度 ★★★
主人公 テクロノジー企業勤務の独身女性キアラ・ワイズと建築技術者で独身のオリヴァー・ケネディ。事件担当者はアイルランド警察のリー・リアダン警部とカール・コナリー巡査部長。
事件 新型コロナ患者が増加中のダブリン市。キアラとオリヴァーは、スーパーマーケットのレジで偶然出会い、すぐに引かれ合う。そしてコロナの猛威から、政府が外出制限を発した機会に、二人は同棲を始めた。だが数十日後にその住宅から遺体が発見され……。
背景 コロナ禍を舞台背景にした作品。ただしバイオ・スリラーではなく、あくまでも主役は男女の二人。出会いからの56日間を単純な時系列通りではなく語っているのが上手いところ。最後にどのような結末なるのかを、サスペンスフルに描いている。

邦題 『彼は彼女の顔が見えない』
原作者 アリス・フィーニー
原題 Rock Paper Scissors(2021)
訳者 越智睦
出版社 東京創元社
出版年 2022/7/29
面白度 ★★
主人公 夫のアダムと妻のアメリア。
事件 夫婦仲がうまくいっていなかったこともあり、二人は仲直りを兼ねて旅行に出かけることに。そしてスコットランドの山奥にある、古いチャペルを改装して滞在できる建物に予約したが、天気が雪となって到着が遅れた。そのうえ建物の責任者は不在で、冷蔵庫には冷凍食品のみだったりと、不審な出来事が続出するのだが……。
背景 登場人物が極端に少ない(翻訳ミステリには珍しく登場人物リストがない!)サスペンス小説。殆ど夫妻ともう一人の人物との視点で物語が語られるので、すいすい読めてしまうが、驚きは少ない。相貌失認という顔を認識できない病気を活かしきれていないことも一因か。

邦題 『大聖堂 夜と朝と』上中下
原作者 ケン・フォレット
原題 The Evening and the Morning()
訳者 戸田裕之
出版社 扶桑社
出版年 2022/11/2
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『災厄の馬』
原作者 グレッグ・ブキャナン
原題 Sixteen Horses(2021)
訳者 不二淑子
出版社 早川書房
出版年 2022/3/15
面白度 ★★★
主人公 事件担当のイシュマール署の刑事アレック・ニコルズと言いたいところだが、実際はアレックと共同で捜査をする獣医学専門家のクーパー・アレンか。
事件 11月初旬の早朝、浜辺の小さな町イシュマールの郊外にある農場で、16頭の馬の惨殺死体が見つかった。奇怪なのは、馬の首が円を描くように埋められていたこと。何かの儀式のような犯罪現場だったことから、町中がパニックに陥り始め……。
背景 注目すべきは、ガズオ・イシグロも卒業生というイースト・アングリア大学の修士課程在学中に執筆されたこと。謎解き小説というよりは文学指向の作品。したがって魅力的な謎の解決が論理的ではなく詩的だし、詩的な表現の多い文体で読ませる小説になってしまった。

邦題 『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』
原作者 パメラ・ブランチ
原題 Murder's Little Sister(1958)
訳者 大下英津子
出版社 論創社
出版年 2022/8/10
面白度 ★★★
主人公 ロンドン・ウェストエンド所在の『ユー』誌編集部の面々だが、まあ編集長サミュエル・イーゴンと副編集長イーニッド・マーリーか。捜査はロンドン警視庁警部のウッドマン。
事件 『ユー』の読者相談という看板コラムを担当しているマーリーが自宅でガス自殺を試みた。予定通り(?)助けられて6階の編集部に出勤すると、窓の外では何かの騒ぎ。身を捩らせて窓外に出てみると、誰かが手で掴んだか押したのか、彼女は落下してしまったのだ!
背景 『死体狂躁曲』(1993年に『殺人狂躁曲』として出版)に続く邦訳第2弾(著者の4冊目で最後の作品)。ミステリ的骨格は、その落下事件が自殺・他殺・偶然事故のいずれかを解明するものだが、それ以上にファースとしても、1950年代の風俗小説としても楽しめる。

邦題 『レオ・ブルース短編全集』
原作者 レオ・ブルース
原題 Complete Short Stories of Leo Bruce(1992、2020)
訳者 小林晋
出版社 扶桑社
出版年 2022/5/10
面白度 ★★★
主人公 日本独自の短編集。B.A.パイク編の"Murder in Miniature and other stories"(1992)の28本とその後にアンソロジーに載った3本、そしてカーティス・エヴァンズが見つけた未発表作品10本の合計40本の短篇が収録されている。
事件 40本の題名を挙げるだけで字数制限を大幅に越えてしまう。「ビーフのクリスマス」のみ文庫本で28頁の普通の短編だが、それ以外は5〜10頁のショート・ショートに近い短編。内訳はビーフ巡査部長物14本、グリーヴ巡査部長物11本、その他15本。
背景 主に新聞に掲載された作品だけに極端に短いが、単なるパズルで終ってないのは流石。多様な結末が用意されており、もう少し長い短編として楽しみたかった。

邦題 『捜索者』
原作者 タナ・フレンチ
原題 The Searcher(2020)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2022/4/25
面白度 ★★★★
主人公 アイルランドに移住した元シカゴ市警刑事のカルヴィン(カル)・ジュン・フーバー(離婚した妻と一人娘アリッサがいる)。もう一人はカルに捜索を頼む13歳のトレイ・レッディ。
事件 アイルランド西部の小さな村に移住したカルは、廃屋の修繕をしながら静かに暮らしていたが、ある日地元のトレイから失踪した兄の行方を調べてほしいと頼まれた。穏やかな村の暗部を明らかにすることを嫌ったカルだが、トレイの状況を不憫に思い調査を始めると……。
背景 著者のこれまでの作品とは異なる中年男性の一種の冒険ミステリ。文庫で700頁近い大作にもかかわらず謎が単純すぎるのが弱点だが、それを補って余りあるのが、アイルランドの自然描写が素晴らしいことと、主役二人の人物造形や関係性が興味深く語られていることだ。

邦題 『ブラックランド、ホワイトランド』
原作者 H・C・ベイリー
原題 Black Land, White Land(1937)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2022/12/25
面白度 ★★
主人公 レジナルド(レジー)・フォーチュン。ホームズのライバルの一人だが、同時代の探偵ではなく後輩にあたる。身分は医師で、ロンドン警視庁犯罪捜査課の顧問。
事件 舞台は英国南部の農村。白亜の断崖や<ロングマン>と呼ばれる巨人像がある。そこに住むレジーの友人から、古代人の骨が発見されたとの知らせ。レジーが気晴らしのつもりで現場にいくと、その骨は動物のものだったが、なんと現代の少年の骨が混じっていたのだ!
背景 フォーチュン物の長編は全9作あるが、本書はその第2作(初の訳書)。見つかった骨が12年前に行方不明となった地主の息子のもので、しかも息子は他殺だったという、冒頭から実にイージーなプロットで唖然。後半は社会派的な展開でそれなりに楽しめるが……。

邦題 『エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人』
原作者 S・J・ベネット
原題 The Windsor Knot(2020)
訳者 芹澤恵
出版社 KADOKAWA
出版年 2022/7/25
面白度 ★★★
主人公 90歳のエリザベス2世。ただ手足となって活躍する人物は、若い秘書官補のロージー・オショーディと彼女の上司である秘書官サー・サイモン・ホルクロフト。
事件 ウィンザー城で、晩餐会に呼ばれたロシア人ピアニストの遺体がクロゼットから見つかった。城では箝口令が敷かれ、警察とMI5はロシアのスパイによるものと見なし捜査を始めるが、容疑者が50名もいて難航する。エリザベス女王も秘かに謎解きに参入するが……。
背景 天皇が探偵役となるミステリなど日本では考えられないが、イギリスでは本作以前にも『バッキンガム宮殿の殺人』などいくつかの作品がある。やはり表現の自由、言論の自由にまだまだ大きな開きがあるのだろう。純粋にミステリとしても、そこそこ面白い。

邦題 『殺しへのライン』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 A Line to Kill(2021)
訳者 山田蘭
出版社 東京創元社
出版年 2022/9/9
面白度 ★★★★
主人公 謎を解くのは、ロンドン警視庁顧問で元刑事のダニエル・ホーソーンで、物語の語り手は作家のアンソニー・ホロヴィッツ(本書の筆者と同姓同名)。
事件 『メインテーマは殺人』の刊行まで3ヵ月に迫ったある日、二人はチャンネル諸島のオルダニー島で開催される文芸フェスに参加することに。ところが大口スポンサーのオンライン・カジノのCEOが殺されたのだ。両足と左手を椅子に縛られたうえに喉に短剣が刺さったままで!
背景 <ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズの第3弾。マンネリを避けるためか、今回は舞台をオルダニー島に設定し、背景には環境破壊反対運動なども取り入れているが、何故被害者が異常な状態で殺されたといった謎が圧巻。安心して楽しめる謎解き小説だ。

邦題 『ホロヴィッツホラー』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 Horowitz Horror(1999)
訳者 田中奈津子
出版社 講談社
出版年 022/10/4
面白度 ★★★
主人公 ホラー系の短編9本からなる短編集。
事件 「恐怖のバスタブ」「殺人カメラ」「スイスイスピーディ」「ハリエットの恐ろしい夢」「田舎のゲイリー」「コンピュータゲームの仕事」「黄色い顔の男」「猿の耳」の9本。
背景 短編の掲載年などの書誌情報は記載されていないが、現在のような華麗な謎解き作家になる以前に、ティーンエイジを読者対象に書かれた短編を集めた作品であろう。バスタブやカメラ、夢、三つの願いが叶うものといったホラー系の短編では昔からよく使われている題材について、少しだけ独自な味付けをしている。オリジナリティを感じる作品はないが、デビュー当初から文章は平易で読みやすいことがよくわかる。

邦題 『アバドンの水晶』
原作者 ドロシー・ボワーズ
原題 Fear for Miss Betony(1941)
訳者 友田葉子
出版社 論創社
出版年 2022/12/10
面白度 ★★★
主人公 元家庭教師のエマ・ベットニー(ベット)。61歳。元教え子で現在はドーセット州の私立学園の校長であるグレイス・アラムに請われて新設学園の講師になる。
事件 その私立学園は、かつて病院だった建物を学校に転用していたものだった。だが入院中だった老嬢二人がそのまま居続けて不審な行動をするなど、不穏な空気も漂っていた。この施設の異常さに気付いたエマは、隣町にいる占い師が関係しているのではないかと疑い……。
背景 『命取りの追伸』に続く邦訳第三弾。近年の再復古ブームで注目を浴びている作家の作品。ゴシック・ロマンスと本格ミステリを融合したような作品でそれなりに楽しめるが、欲を言えば、若き女性を主人公にしたゴシック・ロマンスに徹してた方が傑作になったのでは?

邦題 『ポリス・アット・ザ・ステーション』
原作者 エイドリアン・マッキンティ
原題 Police at the Station and They don't Look Friendly(2017)
訳者 武藤陽生
出版社 早川書房
出版年 2022/6/25
面白度 ★★★★
主人公王立アルスター警察隊警部補のジョン・ダフィ。この時点では38歳。カトリック教徒。恋人はエリザベス・マカルー。二人の間には赤ん坊の娘エマがいる。
事件 麻薬密売人の男が団地でクロスボウの矢で射殺された。自警団の犯行のようだが、ダフィは事件がそう単純なものでないことを直観する。被害者の妻が何かを隠していると思ったからだが、さらに捜査を進めると、なんとダフィはハニートラップにかかり窮地に……。
背景 ダフィ・シリーズの第6弾だが、4作目から始まった「第2トリロジー」の最終作でもある。前半は彼を巡る日常がユーモラスに語られ、後半は謎解き小説となるが、その山場の描写には圧倒される。一匹狼的活躍から部下二人との共同捜査を行う警察小説に変化したのも好ましい。

邦題 『ジグソー・キラー』
原作者 ナディーン・マティソン
原題 The Jigsaw Man(2021)
訳者 堤朝子
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2022/1/20
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の連続犯罪捜査班(SCU)の警部補アンジェリカ・ヘンリー。夫と子供一人いる黒人女性。相棒は見習い刑事のサリム・ラムーター。
事件 テムズ河の河岸で轢断された人体の一部が相次いで見つかった。検死の結果、異なる男女のものであるうえに、重警備の刑務所に現在服役中の連続殺人犯”ジグソー・キラー”のシンボルが刻まれていた。この図形を知りえた関係者が模倣犯になったのか?
背景 弁護士でもある著者のミステリー第一作。スケールの大きな連続殺人テーマを取り上げているものの、脱獄方法は安易なものだし、模倣犯が犯すミッシング・リンクの謎も単純でガッカリ。評価できるのは、不気味な犯人の行動をサスペンスフルに描いている文章力か。

邦題 『阿片窟の死』
原作者 アビール・ムカジー
原題 Smoke and Ashes(2018)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2022/2/15
面白度 ★★★★
主人公 英領カルカッタのインド帝国警察の英国人警部サミュエル(サム)・ウィンダムと部下のインド人部長刑事サレンダーノット・バネルジーの二人。
事件 1921年12月ウィンダムが阿片窟で寛いでいると、警察のガサ入れが! 慌てて逃げだすも、途中で男の死体を見つけた。だが翌日、死体発見の情報はないのに、別の場所で新たな死体が見つかる。英国皇太子の訪問やガンジーらの独立運動の激化するなかでの連続殺人か?
背景 シリーズ第三弾。過去のトラウマを抱えた二人の言動が巧みに描かれていて、事件を追う話だけでない面白さがある。なお本書は2019年に行われたサンデータイムズ紙の「1945年以降のクライム&スリラー・ベスト100」に、チャンドラーの『長いお別れ』などと共に選ばれている。

邦題 『疑惑の入会者 ロンドン謎解き結婚相談所』
原作者 アリスン・モントクレア
原題 A Rogue's Company(2021)
訳者 山田久美子
出版社 東京創元社
出版年 2022/11/1
面白度 ★★★
主人公 <ライト・ソート結婚相談所>共同経営者のアイリス・スパークス(元スパイ)とグエンドリン(グウェン)・ベインブリッジ(上流階級出身の未亡人)。
事件 ある日、アフリカ出身の若い男性が入会を希望して相談所を訪れてきた。流暢な英語を話す好青年であったが、グウェンの直感は嘘つき人間であると告げていた。さらにグウェンは自宅付近でその男に出くわし、見張られていると感じた。彼の真の目的はなんなのだろうか?
背景 謎解き結婚相談所シリーズの第3弾。なお著者は国籍不明の覆面作家としてデビューしたが、戦後のロンドンを舞台にしたミステリなので「英国ミステリ」として扱った。現在ではニュージャージー州育ちのアラン・ゴードンの別名義だそうだが、面白いので当面はリスト入りのままとする。

邦題 『ロスト・アイデンティティ』
原作者 クラム・ラーマン
原題 East of Hounslow(2017)
訳者 能田優
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2022/3/20
面白度 ★★★
主人公 麻薬の売人ジャヴィッド(ジェイ)・カシーム。英国生まれのムスリム。麻薬密売容疑での逮捕後、無罪放免と引き換えにMI5の一員となる。
事件 ジェイに命じられた仕事はテロの情報を秘かにキャッチし、MI5のテロ対策室所属のエージェントに提供すること。ロンドンのモスクが人種差別主義者らに荒らされたことから、それに反撃するイスラム過激派の仲間に入り、情報入手に成功するが……。
背景 著者は1975年にパキスタンで生まれ、1歳で英国に移住しロンドン西部で育つ。したがってジェイを始めとするムスリムなどの描写は迫真性があるし、ユーモアのある語り口も楽しい。難を言えば、終盤に起きるテロの実態が安易すぎることか。

邦題 『テロリストとは呼ばせない』
原作者 クラム・ラーマン
原題 ()
訳者 能田優
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』
原作者 ジェイムズ・ラヴグローヴ
原題 The Cthulhu Casebooks:Sherlock Holmes and Shadwell Shadows(2016,2017)
訳者 日暮雅通
出版社 早川書房
出版年 2022/8/25
面白度 ★★★
主人公 シャーロック・ホームズと彼と同居することになったジョン・ワトスン。
事件 本書の著者が、突然作家H・P・ラブクラフトの血縁であることがわかり、ラブクラフトが保管していたワトスンの秘められた原稿を弁護士から託された、というのが「はじまり」。手記は1928年にワトスンが書いた物。アフガニスタンから帰国したばかりの1880年、ワトスンは連続殺人事件を追うホームズに出会い、二人は事件の背後にクトゥルーの古き神々がいることを感じる。そしてついに、地下に生息する爬虫類人間との戦いが始まり、そこにはモリアーティ教授も登場し……。
背景 ハヤカワFT文庫からのホームズ物パスティーシュ。前半はミステリ・ファンでも楽しめる内容だが、後半は、クトゥルー神話などの興味のない人間には飛ばし読みで十分か。

邦題 『祖父の祈り』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Whatever It Takes(2021)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 2022/7/15
面白度 ★★★
主人公 名無しの老人(祖父)と娘と娘の息子(少年)から成る一家の三人。
事件 物語は、未知ウィルスのバンデミックで世界は荒廃し、貧富の差が広がり治安が著しく悪化した近未来の米国のある町が舞台。一家は商店から食料品を盗んだり、フード・バンクの世話で生き延びていたが、ある日息子が、両親の虐待から逃れてきた少女を連れてきた。少女を匿っていたことが見つかると厄介な問題が発生する。祖父はその窮状からの脱出を狙うが……。
背景 近未来を舞台にしたディストピア小説。ハードボイルド作家というデビュー当時の作風から大きく変わっているが、最近は神が主人公の『神さまがぼやく夜』を書いているから意外ではないか。家庭愛をテーマにした普通小説に近く、それなりに楽しめる。

邦題 『父親たちにまつわる疑問』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Alien Quartet(2018)
訳者 武藤陽生
出版社 早川書房
出版年 2022/9/25
面白度 ★★★
主人公  私立探偵アルバート・サムスン。娘サムが父親を助ける。
事件 4つの中編(文庫本で80頁ほど)からなる連作短編集。「それが僕ですから」(サムスンの事務所に来た青年は”地球外生命体と人間のハーフ”で、盗まれた貴重な石を捜して欲しいと依頼)、「善意」(同じ青年が、刺された状態で事務所に来た!)「おまけのポテトフライ」(妻に毒を盛られたと疑う依頼人が……)、「父親たちにまつわる疑問」(同じ青年が母の遺産分割のために異父の弟を捜してと頼まれ、自分の父の秘密を娘に語るようになる)の4本。
背景 サムスン・シリーズの9作目。巻末解説にある「おかしくて愛おしい」ミステリそのもの。なお作者は現在バースに在住しているので(そして好きな作家なので)、本リストに入れている。

邦題 『デイヴィッドスン事件』
原作者 ジョン・ロード
原題 The Devidson Case(1929)
訳者 渕上痩平
出版社 論創社
出版年 2022/5/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの数学者ランスロット・プリーストリー博士。
事件 会社社長のヘクター・デイヴィッドソン卿は、設計技師ローリーを解雇する決断をし、ローリーが作成した設計図や模型を入れたケースを持って列車に乗り込んで、田舎の屋敷に戻ることに。そして駅に到着後、有蓋トラックの荷台にケースと一緒に乗り込んだが、屋敷に到着すると卿は心臓を刺されて死亡、ケースも消えていた。自殺なのか? ケースはどこに消えたのか?
背景 古典的な謎解き小説だが、誰が犯人かという謎より、いかにして殺人が行われたかという謎の解明に重点を置いている。一事不再理を取り入れたストーリー展開はユニークで評価できるが、トリック自体は杜撰な点も多い。

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