邦題 『機は熟せり』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Cometh the Hour(2016)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2017/1/1
面白度 ★★★
主人公 大河小説クリフトン年代記なので、主人公は一人ではない。ハリーとエマ・クリフトン夫妻、その息子セバスティアン、エマの兄ジャイルズ・バリントンの4人か。
事件 エマは宿敵ヴァージニアとの裁判に勝った。一方ハリーは、スターリンの所業を暴いたババコフの本の出版に成功。さらにジャイルズは東ドイツから愛人を呼び戻した。だがセバスチャンは新たなる恋を阻止され、ファージング銀行も狙われた。とはいえエマは保守党の選挙で活躍し、ついにババコフの著作はノーベル文学賞を受けるが、ジャイルズに暗雲の手が……。
背景 クリフトン年代記の第6部。1970-1978年の出来事を扱っている。連作短編小説のような書き方で、安直なプロットだが、確かにスラスラと読めてしまう。

邦題 『永遠に残るは』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 This was a Man(2016)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2017/11/1
面白度 ★★★
主人公 大河小説クリフトン年代記なので、主人公は一人ではない。ハリーとエマ・クリフトン夫妻、その息子セバスティアン、エマの兄ジャイルズ・バリントンの4人か。
事件 ジャイルズの3番目の妻カリンは一命を取り留めた。またファージング銀行会長のセバスティアンは巧みな行動で旅行会社をクック社に売り払うことに成功。ハリーは畢生の大作に着手。エマは副大臣に任命されるなど、彼らの人生は頂点を迎えようとしていたが……。
背景 クリフトン年代記の第7部で最終巻。今回は1978年から1992年までを扱っている。相変わらずご都合主義で書かれているものの、ユーモアのある語り口は巧みで、一気に読めてしまう。ハリーは労働者階級の出身だが、英国富裕層の生活実態がよくわかるのが興味深い。

邦題 『ソニア・ウェイワードの帰還』
原作者 マイケル・イネス
原題 The New Sonia Wayward(1960)
訳者 福森典子
出版社 論創社
出版年 2017/4/10
面白度 ★★★★
主人公 退役陸軍軍医のフォリオット・ペティケート。妻ソニアはロマンス物の流行作家。彼は”ヒモ”のような生活を楽しんでいる。
事件 そのソニアが、航海中のヨットで急死した。病死であったが、彼女が生きていて小説を書いて貰わないと収入がなくなる。そのためフォリオットは妻の死体を海に捨て、妻に代わって小説を書き続ける決心をした。だが帰国後、車中内で妻とそっくりの女性に出会ったのだ!
背景 著者中期の作品。イネスの作品ではアプルビイ警部物が有名だが、本書はノン・シリーズの一冊。前半の展開は倒叙物に近いが、主人公への疑惑から生じるサスペンスが少ない。逆に主人公等の言動がユーモラスで笑いを誘う。イーヴリン・ウォーのユーモアを思い出した。

邦題 『フロスト始末』上下
原作者 R・D・ウィングフィールド
原題 A Killing Frost(2008)
訳者 芹澤恵
出版社 東京創元社
出版年 2017/6/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのデントン警察の警部ジャック・フロスト。
事件 デントン署に赴任してきたスキナー主任警部の目的は、フロストを移動させること。そして不運にも人間の足部遺棄事件と連続強姦事件、スーパー脅迫事件が連続して発生し、捜査はフロストに押し付けられたのだ。署長らの嫌味に負けず、睡眠時間を削って働くが……。
背景 フロスト・シリーズの第6作にして最終巻となる作品。出版は著者の死後であった。連続して様々な事件が一気に起こり、新任の主任警部がフロストを苛める前半は、例によって吹き出す場面が続出する。だが後半になるとスキナーがこけたりして、面白さが尻つぼみとなってしまう。著者の体調不良も一因ではないか。だが最後の作品というおまけ付で★4つ。

邦題 『暗い暗い森の中で』
原作者 ルース・ウェア
原題 In a Dark Dark Wood(2015)
訳者 宇佐川晶子
出版社 早川書房
出版年 2017/6/15
面白度 ★★★
主人公 本書の語り手である作家のノーラ・ショー。26歳。高校時代の友達のヘン・パーティー(女性の独身最終の日を祝うパーティー)に出席した事から事件に巻き込まれる。
事件 パーティーに招待されたのはゲイの男性を含む5人。場所は、森の奥に孤立した別荘。その夜のパーティーは、確かにギクシャクとした雰囲気があったが、その後の私の記憶は完全に消えており、病院に収容されていた。何が起き、誰が死んだのか?
背景 新人の第一作。登場人物は少なく、舞台は森のなかの一軒家という典型的なサスペンス小説のような前半終了部から、後半は一気に終盤に突入する。そのプロットは斬新で、新人らしいオリジナリティが感じられるが、二作目以降、語り口の巧みさで勝負できるか?

邦題 『紳士と猟犬』
原作者 M・J・カーター
原題 The Strangler Vine(2014)
訳者 高山真由美
出版社 早川書房
出版年 2017/3/15
面白度 ★★
主人公 <イギリス東インド会社>の軍隊に所属する中尉ウィリアム・エイヴリーと、一応隠退したものの会社と関係を持つ謎の”探偵”ジェレマイア・ブレイク。前者は独身だが(事件後に結婚)、後者は妻を亡くして一人で生活している。
事件 エイヴリーはインド奥地で姿を消した詩人の行方を探すよう命じられた。この任務に同行するのは”ブラッドハウンド”と呼ばれるブレイク。当初反りが合わない二人だったが、詩人がいるらしい<ドゥーラ藩王国>に到着してみると、さまざまな冒険が!
背景 1837−38年の北インドを舞台にした歴史冒険小説。著者が女性であることは驚きだが、内容が真面目な歴史物であることにより驚く。ただしミステリー度が低すぎるのが残念だ。

邦題 『ラスキン・テラスの亡霊』
原作者 ハリー・カーマイケル
原題 Deadly Night-Cap(1953)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2017/2/28
面白度 ★★★
主人公 アングロ・コンチネンタル保険会社の調査員ジョン・パイパーとパイパーの旧友である新聞記者のクイン。パイパーは妻を亡くして独身中。
事件 有名なスリラー作家ペインの妻が、彼の最新作のストーリーと同じように、ストリキニーネを摂取して死亡した。自殺か他殺か? パイパーが会社社長の依頼で調査を始めると、彼女の主治医の妻も不可解な状況で服毒死したのだ、警察はその医師を逮捕するが……。
背景 ハリー・カーマイケルとハートリー・ハワードという二つの筆名を持つ著者の前者名義の第三作。多作作家の初期作品だけに、事件の人間関係が十分に描かれずに終盤に突入していくという未熟さを感じる。とはいえ結末の意外性に驚くとともに、後味も悪くない。

邦題 『凍った夏』
原作者 ジム・ケリー
原題 The Coldest Blood(2006)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2017/6/30
面白度 ★★★
主人公 沼沢地帯の都市イーリーに住む週刊新聞『クロウ』の主任記者フィリップ・ドライデン。妻は”閉じ込め症候群”で、コミュニケーションはCOMPASSという補助機器を使っている。
事件 公営アパートで閉所恐怖症の男が椅子に座ったまま死んだ。窓を開け放したまま寝たために凍死したらしい。自殺と思われたが、ドライデンが取材してみると、数々の疑問点が浮かび上がった。さらに似たような凍死者があり、二人は友達だったことが明らかになったのだ!
背景 『水時計』から始まったドライデン・シリーズの第4弾。些細な疑問から事件を見つけ出すという冒頭の展開は、それなりに興味深い。ただし語り口は地味すぎて、さすがに途中で中だるみが出てしまい、結末もある程度予測できてしまう。さらにユーモアも欲しいところだ。

邦題 『人形は指をさす』
原作者 ダニエル・コール
原題 Ragdoll(2017)
訳者 田口俊樹
出版社 集英社
出版年 2017/9/25
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁部長刑事ウルフ(ウィリアム=オリヴァー・レイトンフォークス)。過去に裁判所で容疑者に重傷を負わせたため、一時解雇されたがその後復職した。
事件
 別々の人間の体の部位を縫い合わせた一つの死体が見つかった。頭部は”火葬キラー”の異名を持つ、かつてウルフが逮捕した男のものだった。さらにウルフの元妻のもとに六人の名前を記した殺人予告リストが届く。そこにはウルフの名前もあったのだ!
背景 新人作家の作品。縫いぐるみの死体とか、予告連続殺人といった派手な犯罪を扱っている。またミッシング・リンクの謎もあるので、終盤まで一気読みが出来るが、それぞれの刑事の人間性描写はあまりに類型的・表面的なので、英国警察小説ファンとしてはさほど楽しめなかった。

邦題 『謀略の都』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 The Ways of the World(2013)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2017/1/13
面白度 ★★★
主人公 英国陸軍航空隊(RFC)元パイロットのジェイムズ・マクステッド(マックス)。元外交官サー・ヘンリーの次男で、20代後半。脇役の一人がRFC時代の部下サム・トゥエンティマン。
事件 1919年の春、第一次世界大戦後の講和条約締結のため、主要国の代表団がパリで協議を進めていたところ、ヘンリーが屋上から謎の墜落死した。早速パリに来たマックスは他殺と判断し、父親の葬式にも英国に戻らず、パリで真犯人を探し始めるが……。
背景 著者の初の三部作となる冒険スパイ小説の第一作。その第一作も訳書では上下巻700頁を越えるが、例によって語り口が巧みなので、登場人物の多い物語展開でも飽きることはない。ただ後半はご都合主義が目立ち、20世紀初頭の通俗スパイ小説風になってしまうのが残念。

邦題 『灰色の密命』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 The Corners of the Globe(2014)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2017/3/15
面白度 ★★
主人公 長大な物語は群像劇でもあるので一人に絞れないが、強いて挙げればやはり英国陸軍航空隊(RFC)の元パイロット、ジェイムズ・マクステッド(マックス)
事件 マックスの父ヘンリーの秘密を握るのはドイツのスパイ網指揮者レンマー。マックスは敢えてレンマーのスパイとなり、スコットランド最北地に抑留中のドイツ軍艦から極秘ファイルを持ち出した。だがそのファイルの解読を巡って様々な人物が……。
背景 『謀略の都』に続く第2部(全3部)。第1部の完全な続篇という流れで、冒頭からマックスが登場して、物語は軽快に進んでいく。語り口はこれまで以上に通俗的になってしまったが、ゴダードなら、宙吊り状態で第三部を御期待! という安易な終わり方はしないと思ったが。

邦題 『宿命の地』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 The Ends of the Earth(2015)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2017/5/16
面白度 ★★★
主人公 元英国陸軍航空隊の元パイロットのジェイムズ・マクステッド(マックス)。父サー・ヘンリーがパリで謎の死を遂げたことから、事件解決を決意する。
事件 亡父の不思議な行動や自己の生誕を巡る謎を解決するため、マックスはチームを組織して日本に乗り込んで来た。だがドイツのスパイ網指揮者レンマーや日本の悪名政治家戸村巌津伯爵らの謀略で行く手を阻まれた。マックスの出生の真実とは? 彼の母親は誰か?
背景 1919年三部作の『謀略の都』『灰色の密命』に続く最終巻。これだけの大河小説を無難にまとめ、さらに明治期の日本が主要舞台になっているにもかかわらず、読者に違和感を覚えさせない手腕はさすがにベテラン作家らしい。ご都合主義の方も目に余るが。

邦題 『老いたる詐欺師』
原作者 ニコラス・サール
原題 The Good Liar(2016)
訳者 真崎義博
出版社 早川書房
出版年 2017/11/15
面白度 ★★★
主人公 詐欺老人のロイとインターネットを通じて知り合った未亡人のベティ。二人とも80歳前後の高齢者だが、親睦を深め、共同生活を開始する。
事件 ロイはこれまで数々の人間を騙し、陥れてきた。ベティの遺産を奪い取るのも簡単だと考え、着々と計画を進めていく。だがベティにも学者の孫を始めとして何人もの知人・友人がいて、ロイの計画は思う通りには展開できないことが明らかになり……。
背景 新人の第一作だが、若い作家ではない。冒頭の展開からは男女のコンゲーム小説ではないかと思ったが、これは間違い。現在と過去の話が交互に語られる結構シリアルな内容で、終盤になって初めて二つの物語の有機的な結びつく。前半のサスペンス不足はかなりの減点だ。

邦題 『平和の玩具』
原作者 サキ
原題 The Toy of Peace(1919)
訳者 和爾桃子
出版社 白水社
出版年 2017/6/25
面白度 ★★★
主人公 サキの死後に出版された本邦初訳の短編集(33本が収録)。主要な題名のみ記載。
事件 「平和の玩具」「ルイーズ」「お茶」「クリスピーナ……」「セルノグラツの狼」「ルイス」「泊まり客」「贖罪」「まぼろしの接待」「バターつきパンを探せ」「バーティの聖夜」「刷り込まれて「邪魔者たち」「鶉のえさ」「謝罪詣で」「脅し」「ミセス・ペンサービーは例外」「マーク」「はりねずみ」「マッピン展示」「運命」「牡牛」「モールヴェラ」「奇襲戦術」「七つのクリーマー」「救急庭園」「腑抜け」「ヒヤシンス」とさらに4本の短編。
背景 短編の名手という定評は確かに間違いではないが、著者は軍人の家庭に生まれ、第一次世界大戦に志願して参加。1916年11月に戦死したのを知ると、単純には楽しめない。

邦題 『四角い卵』
原作者 サキ
原題 The Square Egg and Other Stories(1924)
訳者 和爾桃子
出版社 白水社
出版年 2017/12/30
面白度
主人公 

事件 


背景 


邦題 『霧の島のかがり火』
原作者 メアリー・スチュアート
原題 Wildfire at Midnight(1956)
訳者 木村浩美
出版社 論創社
出版年 2017/8/30
面白度 ★★★
主人公 ファッション・モデルのジアネッタ・ドルーリー(旧姓はジャネット・ブルック)。本編の語り手。年齢は30歳前後で、離婚した過去があり現在は独身である。
事件 新女王エリザベス二世の戴冠式が迫り、エベレスト初登頂が現実味を増した1953年5月の英国。ジアネッタは離婚から立ち直れず、休暇を取ってスコットランドのスカイ島に渡った。だがその地では二週間前に地元の娘が殺されていた。彼女は真相を探ろうとするが、第二の殺人が!
背景 『この荒々しい魔術』に続く邦訳第二弾(著者の第二作目)。著者は英国では「ロマンチック・サスペンスの女王」と評されているが、それに相応しい作品。本格ミステリーらしい筋立てで、犯人がわかる前後のサスペンスはさすが。今から見るとロマンス部分は古臭いが……。

邦題 『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』
原作者 ロビン・スティーヴンス
原題 Murder Most Unladylike(2014)
訳者 吉野山早苗
出版社 原書房
出版年 2017/4/
面白度
主人公 ディープディーン学校三年生で貴族の娘デイジー・ウェルズと香港出身で同学年のヘイゼル・ウォン。デイジーが探偵倶楽部の会長で、ヘイゼルは秘書という関係である。
事件 1930年代の英国。お嬢さんたちが通う女子寄宿学校の夕方の室内運動場で、ヘイゼルは女性教諭の死体を見つけた。誰かに押されて転落死したようなのだが、知人を連れて戻ってみると、死体は消えていたのだ。校長は何事もなかったように学校運営を続けていたが……。
背景 「英国少女探偵の事件簿シリーズ」の第1巻。明らかに女子中高校生向けのミステリーだが、大人も楽しめるのではないか? と誤解したのが失敗。死体は本当に存在したのかという謎の扱いは軽く、女子二人の言動の面白さで読ませる作品でしかなかった。

邦題 『貴族屋敷の嘘つきなお茶会』
原作者 ロビン・スティーヴンス
原題 Arsenic for Tea( )
訳者 吉野山早苗
出版社 原書房
出版年 2017/9/
面白度
主人公 

事件 


背景 


邦題 『引き潮』
原作者 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン
原題 The Ebb-Tide(1894)
訳者 駒月雅子
出版社 国書刊行会
出版年 2017/8/10
面白度 ★★★
主人公 南太平洋タヒチの浜辺にたむろする三人の食い詰めた男たち。つまりオックスフォード大学出のヘリックと商船の元船長デイヴィス、ロンドン下町育ちのヒュイッシュの三人。
事件 落ちぶれた三人は元刑務所を寝床にするほど困窮していたが、そこにデイヴィスから朗報が! 天然痘のために病死した乗組員の代わりが必要というのだ。三人はその帆船を盗み南米に逃げる計画を立てたが、出航してみると嵐に遭遇して……。
背景 スティーブンソンが継息子と共作した第三作。ただし最初の数章を除くと、ほとんどスティーブンソンが書いたそうだ。その影響か、前半は海洋冒険小説として楽しめるが、後半は未知の島に住む男が物語に入りこんで単純な冒険小説ではなくなってしまうのは、個人的には少し残念。

邦題 『三人目のわたし』
原作者 ティナ・セスキス
原題 One Step Too Far(2013)
訳者 青木千鶴
出版社 早川書房
出版年 2017/1/25
面白度 ★★★
主人公 エミリー・コールマンとキャサリン[キャット]・ブラウンという二つの名前をもつ弁護士。双子の姉。共同生活をする相手エンジェルが準主役か。
事件 エミリーは、愛する夫ベンや双子の妹キャロラインなど、すべてを捨てて家を出てロンドンに向かった。そしてシェアハウスでまったく新しい人生を踏み出すが、過去のある事件がエミリーを苛み続けた。その事件とは? なぜ家を捨てたのか?
背景 新人のデビュー作。当初はKindle版で出したところ評判になり、紙での出版になったそうだ。過去の話を少しづつ出しながら、エミリーの謎の逃亡と共同生活を語る語り口は巧みだが、意外性はそれほどでもない。著者はミステリーより家族小説を書きたかったようだ。

邦題 『嘘つきポールの夏休み』
原作者 サビーン・ダラント
原題 Lie with me( )
訳者 林啓恵
出版社 ハーパーコリンズ・ ジャパン
出版年 2017/6/
面白度
主人公 

事件 


背景 


邦題 『ダッハウの仕立て師』
原作者 メアリー・チェンバレン
原題 The Dressmaker of Dachau(2015)
訳者 川副智子
出版社 早川書房
出版年 2017/1/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドンで婦人服の仕立て師として働いているエイダ・ヴォーン。物語の冒頭では、18歳で自分の店を構えることを夢見ていた。その後男に騙されて一緒にパリに渡る。
事件 1939年春、エイダは伯爵と名乗る男と出会った。彼は優しい態度で接したので、初心なエイダはすぐに舞い上がってしまった。彼の誘いで憧れのパリに旅立つが、やがて第二次世界大戦が勃発。男は逃げてしまい、エイダはダッハウの捕虜収容所所長宅で使用人にされるが……。
背景 著者は女性史などが専門のオックスフォード大学名誉教授で、本書は初の小説。前半はサスペンス小説として、終盤は裁判小説として読めるため本欄で取り上げたが、著者が主人公へ感情移入していないのが残念。1940年代の男女差別を訴えたかった小説か。

邦題 『紙片は告発する』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Illegal Tender(1970)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2017/2/28
面白度 ★★★
主人公 スコットランドの地方都市キルクラノンの警察署に勤める警部補クリス・ヘミングスと同町の副書記官の一人ジェニファー(ジェン)・エインズレイ。二人とも30代の独身。
事件 町議会議員の娘でタイピストのルースは、職場で拾った妙なメモから、この町で不正な入札が行なわれていることを知った。だがそのことを警察に知らせるとともに、町政庁舎の同僚に話してしまったのだ。その夜ルースは殺されたが、口封じであったのか?
背景 生涯で13冊の作品がある著者の第9作。松本清張が得意とするような社会派事件を扱っている。探偵役を含む全ての登場人物が容疑者になる謎解き小説だが、意外な犯人もプロットも平板。むしろ小都市を舞台にした風俗小説として読んだ方が楽しめるか。

邦題 『冷たい家』
原作者 JP・ディレイニー
原題 The Girl Before(2017)
訳者 唐木田みゆき
出版社 早川書房
出版年 2017/10/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドンのフォルゲート・ストリート一番地に住んでいたエマ(エム)・マシューズと現在住んでいるジェーン・キャベンディッシュ。二人は容姿が似ており、20代のシングル。
事件 二人が借りた家の持ち主は、ミニマリストで完璧主義者の建築家エドワード。彼は厳しい審査をパスした者だけ、この家への入居を許していたが、何故かそこに住む女性たちには次々と災厄が訪れたのだ。この家には何かの秘密がありそうだ。エドワードとは何者なのか?
背景 本書は著者ディレイニーの第一作だが、著者は別名義ですでに4冊の作品を出している(その内の一作『美しき囮』は邦訳されている)。物語は過去と現在にこの家に住んでいる二人の女性の視点から語られるが、語り口が巧みなのは、やはり新人ではないからだろう。

邦題 『人形』
原作者 ダフネ・デュ・モーリア
原題 The Dollland and Other Stories(日本独自)
訳者 務台夏子
出版社 東京創元社
出版年 2017/1/13
面白度 ★★★★
主人公 14本の短編からなる日本独自の短編集。比較的著者の初期作が多い。
事件 「東風」(傑作!)「人形」(作家デビュー前に書かれた短編)「いざ、父なる神に」(神父の人間性にビックリ!)「性格の不一致」「満たされぬ欲求」「ピカデリー」「飼い猫」「メイジー」「痛みはいつか消える」「天使ら、大天使らとともに」「ウィークエンド」「幸福の谷」「そして手紙は冷たくなった」「笠貝」の14本。
背景 著者の傑作集第3弾。バラエティーに富んだ短編集だが、なんといっても印象に残るのは「いざ、父なる神に」と「天使ら、大天使らとともに」に登場する牧師ホラウェイ師。厚顔無恥で利己的な男をこれほど冷静に描き切るとは、やはりスゴイ作家だ。

邦題 『修道女フィデルマの挑戦』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 日本独自の編集だが、ほとんどが"Whispers of Dead"(2013)からなる
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2017/12/22
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの修道女フィデルマ。モアン王国の王女で、法廷弁護士にして裁判官の資格をもつ。学問所に入学した時の十代のフィデルマや卒業試験を受ける若いフィデルマが登場。
事件 6つの物語からなる短編集。「化粧ポウチ」は入学直後に彼女のポウチが盗まれたという最初の事件。「痣」は卒業試験での謎解き。「死者の囁き」は死因不明の若い女性の死体を巡る最もミステリーらしい短編。「バンジー」は死を告げるバンジーの声の正体は? 「消えた鷲」は古文書からローマ軍団の鷲の青銅を見つけるが……。「昏い月昇る夜」は消えた川船を探す話。
背景 日本独自に編集された短編集の第4弾。なんといってもフィデルマの魅力が上手に描かれている。謎解きとしては平凡だが、短編歴史ミステリーだからやむを得ないか。

邦題 『嘘の木』
原作者 フランシス・ハーディング
原題 The Lie Tree(2015)
訳者 児玉敦子
出版社 東京創元社
出版年 2017/10/20
面白度 ★★★★
主人公 博物学が好きな14歳の少女フェイス・サンダリー。尊敬する父は牧師で高名な博物学者。
事件 時代は19世紀中葉。その父が翼のある人類の化石を発見したとする情報に対して、それは捏造という噂が流れ、一家は世間の目を逃れるべくヴェイン島に移住した。だが噂は島にまで届いており、なんと父は不可解な死を遂げたのだ。フェイスは父の死の謎を解こうと……。
背景 2015年英国のコスタ賞大賞と児童文学部門賞を同時受賞した作品。ジャンル分けすれば、YA向けのファンタジーとなるが、ファンタジー的設定は、嘘を食べるという”嘘の木”のみで、殺人や冒険もあって、まずはミステリーとして楽しめる。さらに小説としては、当時の女性の生き方・考え方、男性から視る女性像なども描かれていて大変興味深い。

邦題 『素性を明かさぬ死』
原作者 マイルズ・バートン
原題 Death Leaves No Card(1939)
訳者 圭初幸恵
出版社 論創社
出版年 2017/10/30
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の警部アーノルド。ただしシリーズ物としての主人公は、元海軍省情報部員で、現在は犯罪研究家のデズモンド・メリオン。本作では風邪のため登場していない。
事件 ある冬の週末、叔父の招待を受けて、電気が来ていない片田舎の<別荘>を訪れた若きバジルは、バスタブの縁に片脚を引っかけた全裸で息絶えていた。浴室は内側から鍵が掛かった密室状態で、死因は不明。アーノルドが乗り出し、浴室の傍に不審な自動車の存在を知るが……。
背景 著者は多作家で知られるジョン・ロード(長編だけで77冊)の別名。バートン名義でも63冊もの長編を書いている。本書の謎は密室の作り方より、どのような手段で殺されたかという点。平易な文章で一気に読めるが、ハウダニットの謎が最後に解かれると脱力してしまう。

邦題 『渇きと偽り』
原作者 ジェイン・ハーパー
原題 The Dry(2016)
訳者 青木創
出版社 早川書房
出版年 2017/4/15
面白度 ★★★
主人公 オーストラリア連邦警察官のアーロン・フォーク。三十代の独身。かつての友人の葬儀に出席のため、メルボルンから故郷キエワラに帰ってきた。地元のレイコー巡査部長が協力。
事件 旧友ルークの死は、妻と長男を殺し、自分は自殺したと思われていた。しかし赤ん坊のみ生かされていた不自然さが残り、フォークはルークの両親より真相究明を頼まれる。ルークには過去に女友達の死に関係していたのでは、という疑惑が持たれていたが……。
背景 英国生まれで、英国や豪州でジャーナリストとして活躍していた著者の第一作。大干ばつの豪州の田舎を舞台にしていることが珍しい。丁寧な語り口や結末の意外性など評価すべき事も多いが、最大の欠点は主人公の魅力が不足していて、楽しい読書にはならないことだ。

邦題 『アーサー・ペッパーの八つの不思議をめぐる旅』
原作者 フィードラ・パトリック
原題 The Curious Charms of Arthur Pepper(2016)
訳者 杉田七重
出版社 集英社
出版年 2017/4/25
面白度 ★★
主人公 69歳の男やもめのアーサー・ペッパー。一年前に妻ミリアムを亡くす。二人の子どもは娘ルーシーと息子ダン。娘は学校の先生で、息子はオーストラリアに移住して独立。
事件 アーサーは、妻の一周忌の直前、妻が隠していたブレスレットを見つけた。そこには象、虎、花、本、パレット、指輪、ハート、指ぬきの八つのチャームがついている。秘められた妻の過去を知る手掛かりと考えたアーサーは、まず象のチャームにあった電話番号に電話をすると……。
背景 一言で言えば心暖まるエンタテイメント小説。ミステリー度はかなり低いが、でも八つのチャームから妻の前歴を調査するというプロットは広義のミステリーと言えなくもない。ただ妻の意外な過去が明らかになったとはいえ、残念ながら妻の人間性はさっぱり理解できない。

邦題 『閉じられた棺』
原作者 ソフィー・ハナ
原題 Closed Casket(2016)
訳者 山本博・遠藤靖子
出版社 早川書房
出版年 2017/6/25
面白度 ★★★
主人公 謎解きをするのは、エルキュール・ポアロ(ただしクリスティ株式会社公認の二代目ポアロ)とスコットランド・ヤードの刑事エドワード・キャッチプール。
事件 時は1929年。ポアロとキャッチプールは、アイルランドの豪壮な子爵邸で再会した。児童文学作家で前子爵夫人のレディ・プレイフォードに招待されたからだ。その夜彼女は、余命わずかと言われている秘書に全財産を遺すと発表をしたが、その秘書は不可解にも殺害され……。
背景 『モノグラム殺人事件』に続く公認のポアロ新シリーズの第二弾。冒頭の遺言書書き換えに始まり、頭を強打されて撲殺と思われた被害者が実は? という展開は興味深いし、犯人の意外性も十分だが、奇妙な動機は、どう考えてもあり得ない。

邦題 『完璧な家』
原作者 B・A・パリス
原題 Behind Closed Doors(2016)
訳者 富永和子
出版社 ハーパーコリンズ・ ジャパン
出版年 2017/3/25
面白度 ★★★★
主人公 結婚前はハロッズに勤めていたが、現在は32歳の主婦グレース・エンジェル。ダウン症の妹がいる。夫ジャックは40歳のハンサムな弁護士。
事件 ロンドンのリージェンツ公園で二人は出会った。障害児の妹がいることを知ってもジャックはプロポーズし、二人は半年も待たずに結婚。彼は虐待女性の弁護を専門とする著名な弁護士で、順風満帆の結婚生活が始まるはずが、実は彼にはもう一つの顔があったのだ!
背景 新人の第一作。サイコ・スリラーで、英国ではベストセラーになった。現在と過去を交互に描きながら、現在に収斂させる物語展開はよくあるパターンだが、サスペンスが最後まで落ちない筆力はさすが。主人公の反抗が少し平凡なのが残念だが……。

邦題 『雪と毒杯』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 The Will and the Dead(1960)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2017/9/29
面白度 ★★★
主人公 世間から隔絶されたホテル内での殺人を扱ったミステリーで、名探偵は登場しないので、登場人物全員が容疑者であり、主人公である。
事件 クリスマスが迫るウィーンで欧州オペラ界の歌姫アントニア・バーンが亡くなった。彼女の死を看取った関係者はチャーター機でロンドンへ帰途に就くも、悪天候で北チロルの雪山に不時着。8人全員が辿り着いたのは小さな宿だったが、そこで彼女の遺言状が公開されると……。
背景 修道士カドフェル・シリーズでお馴染みの著者が、ピーターズ名義で書いたミステリー第二弾。それ以前から本名イーディス・パージター名義で普通小説や歴史小説を書いていたので、人物描写などは上手いが、ミステリーとしての設定は弱い。ブレイクする前の習作程度の出来か。

邦題 『アガサ・レーズンと禁断の惚れ薬』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Witch of Wyckhadden(1999)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2017/9/20
面白度
主人公 

事件 


背景 


邦題 『ピカデリーパズル』
原作者 ファーガス・ヒューム
原題 The Piccadilly Puzzle and Other Stories(1889)
訳者 波多野健
出版社 論創社
出版年 2017/10/30
面白度 ★★
主人公 短めの長編2本と短編3本からなる日本独自の作品集。
事件 トップの長編「ピカデリーパズル」は謎解き小説の先駆的作品といえる。霧深いロンドンのホテルの玄関前で、毒殺された女性の死体が見つかった。被害者は誰なのか? 19世紀末なので、簡単には被害者を特定できない。そのため事件は二転三転し、という展開となる。「緑玉の神様と株式仲買人」「幽霊の手触り」「紅蓮のダンサー」の3本は短編。そしてラストが再び短めの長編「小人が棲む室」という構成である。
背景 ミステリーの歴史に関心のあるマニアならば読むべき作品と断言できるが、一般のミステリー・ファンには、やはり陳腐な三文小説という評価は変わらないであろう。

邦題 『真紅のマエストラ』
原作者 L・S・ヒルトン
原題 Maestra(2016)
訳者 奥村章子
出版社 早川書房
出版年 2017/1/25
面白度 ★★★★
主人公 美術品競売会社ブリティッシュ・ピクチャーズ絵画部のアシスタント、ジュディス・ラシュリー。20代後半の知的美人だが、途中で会社を首になり、ヨーロッパに向かう。
事件 ある日、競売に出される絵画が贋作ではないかとジュディスは調査をするが、何故か解雇されてしまう。以前からホステスのアルバイトをしていたが、当座の生活費を受ける約束の常連客の男性と南仏へ旅行に行くことにした。だが、そこでその男が死亡し……。
背景 歴史小説などを書いていた著者の初ミステリー。欧米ではセックス描写が評判になったようだが、悪女物というかノワール系の作品。前半は巻き込まれ型サスペンスの展開だが、途中から悪女の成長物語になっていく。プロットは安易だが、小説の独創性は認められる。

邦題 『クラウド・テロリスト』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Cloud Collector(2015)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2017/8/1
面白度 ★★★
主人公 暗号解読の専門家でNSAのエリート局員ジャック・アーヴァインと英国MI5のアラブ課職員で、完璧なバイリンガルでもあるサリー・ハニング。
事件 アーヴァインは中東のテロリストを炙り出すためのプロジェクト「サイバー・シェパード」を立ち上げた。一方サリーはドイツからの情報で、同時多発テロの被害を最小限に抑えることに成功した。そして二人は次なるテロを抑えるため共同して、テロの主犯を追うが……。
背景 サイバー空間での謀略サスペンス小説だが、相手のサーバーに潜入して情報を盗み出すといったテクニカルな話はさほど面白くない。だがCIAやMI5といった英米の組織のトップたちが、足の引っ張り合いや責任逃れをする組織内謀略サスペンスとしては楽しめる。

邦題 『過去からの声』
原作者 マーゴット・ベネット
原題 Someone from the Past(1958)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2017/11/30
面白度 ★★★
主人公 作家志望の記者ナンシー・グラハム。殺された女性雑誌編集長サラ・ランプソンは、ナンシーの元同僚で親友であった。
事件 ナンシーは久し振りにサラに再会し、意外な告白を受けた。過去に付き合あった男の一人から、殺害予告の脅迫レターを受け取ったので、誰が書いたのか見つけてほしいと。だがその翌日サラは射殺され、第一発見者はサラの元恋人で、現在はナンシーの恋人の画家であったのだ!
背景 『飛ばなかった男』だけが邦訳された著者の約60年ぶりの翻訳第2弾。原書は当時のCWA最優秀長編賞を受賞している。設定は単純なうえに会話も巧みなので、読みやすい。ただし主人公が恋人のために証拠隠滅を図る行動などは共感しにくく、減点の対象になろう。

邦題 『放たれた虎』
原作者 ミック・ヘロン
原題 Real Tiger(2016)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2017/9/15
面白度 ★★★★
主人公 MI5の落ちこぼれ部員たちの群像劇的な話だが、強いて挙げれば<泥沼の家>のリーダー、ジャクソン・ラムか。下品で口汚いが、事態の分析力は鋭い。
事件 <泥沼の家>メンバーの一人、ラムの秘書キャサリンが何者かに拉致された。犯人からの突然の指示を受けた部員のカートライトは、彼女の身の安全と引き換えに、内務省内の保安局に厳重に保管されている情報を盗み出そうとするが……。
背景 <窓際スパイ>シリーズの第三弾。相変わらずプロットは狡猾で、ユーモアのある語り口も巧みで、読み応えは十分。特に誘拐に係る謎は面白い。また後半の内部権力闘争も読ませるが、終盤を派手なドンパチで締めくくったので、マンガ・スパイ小説になったのが惜しまれる。

邦題 『われらの独立を記念し』
原作者 スミス・ヘンダースン
原題 Fourth of July Creek(2014)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2017/6/15
面白度 ★★★
主人公 米国モンタナ州テンマイルの家庭福祉局に勤めるピート・スノウ。虐待やネグレクトなどの問題を抱えている家庭を巡回して援助を行っている。
事件 時代は1980年。ピートは、小学校から連絡を受けて、不衛生な少年と面会した。彼は家族とともに山中で、世間から隔絶した生活をしていた。支援の必要性を感じたピートは、深い森の中の家を訪ねると、その少年の父親から銃を向けられたのだ!
背景 2015年度のCWA最優秀新人賞受賞作。犯罪が起こり、主人公ピートが自分の家庭問題で悩むなど、ミステリーらしい雰囲気はあるものの、読者を楽しませる謎はほとんど無いのが欠点。当時の米国の田舎を舞台にした風俗小説として楽しむ作品か。

邦題 『魔女の水浴』上下
原作者 ポーラ・ホーキン
原題 Into the Water(2017)
訳者 天馬龍行
出版社 アカデミー出版
出版年 2017/12/10
面白度 ★★★
主人公 多視点で語られるサスペンス小説なので、明らかな主人公はいない。
事件 舞台は、のどかな田園に囲まれ、そこを貫いて川が流れる英国の小さな町ベックフォード。だが”溺死のプール”と呼ばれる水遊び場を巡る伝説・事件を本に纏めようとしていた作家ダニエラが謎の死を遂げたのだ。事故死・自殺・他殺のどれにあたるのか? 何事かを隠している地元警視とロンドン警視庁から左遷された女性警部が捜査を開始するが……。
背景 第一作『ガール・オン・ザ・トレイン』が英米でベストセラーとなった著者の第二弾。本作も米国ではベストセラー入りしている。その影響か、日本では”超訳”の出版社から翻訳出版された。確かにスラスラと読めてしまうが、ミステリーとしては小道具の使い方が平凡。

邦題 『貧乏お嬢さま、恐怖の館へ』
原作者 リース・ボウエン
原題 Heirs and Graces()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年 2017/5/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『007逆襲のトリガー』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 Tigger Mortis(2015)
訳者 駒月雅子
出版社 KADOKAWA
出版年 2017/3/24
面白度 ★★★
主人公 ご存知007こと英国秘密情報部の諜報員ジェームズ・ボンド。
事件 ゴールド・フィンガー事件解決後、ボンドはMより、ドイツのニュルブルリンクのカーレースに出場する英国人レーサーをソ連の陰謀から守る指令を受けた。現地に行くと、韓国人実業家のシンが、ソ連の秘密組織スメルシュと接触している。シンの執務室にボンドが侵入してみると、なんとソ連が米国のロケット開発に対する妨害行為をしている証拠を見つけたのだ!
背景 イアン・フレミング財団公認のボンド・シリーズの続編。著者は若い頃よりボンド・ファンであったが、フレミングの遺稿の一部を取り込んで、本物のように物語を巧みに作っている。才人の名にふさわしい出来栄えだが、もちろんフレミングの面白さを越えているわけではない。

邦題 『わたしはヘレン』
原作者 アン・モーガン
原題 Beside Myself(2016)
訳者 熊井ひろ美
出版社 早川書房
出版年 2017/8/15
面白度 ★★
主人公 特にいないが、強いて挙げれば一卵性双生児の姉ヘレン。
事件 ヘレンが7歳の夏、あるゲームを思い付いた。服装や髪型を双子の妹エリーと交換して、お互いになりすます。母親を驚かせるのが目的であったが、家に帰ってみると見知らぬ男性が。なんと、先年夫を亡くした母親の新しい同棲相手であったのだ。動揺したヘレンはゲームを止めようとするが、エリーは納得しないし、母親も二人の取替えにまったく気付いていないのだ!
背景 著者の第一作。本書のミソは双子の入れ替わりという設定で、着想は悪くないものの、所詮は短編小説で使うべきものだろう。それを文庫本で500頁を越える長編小説に仕上げたので、語り口を工夫しているものの、サスペンス小説としては中だるみが生じてしまったようだ。

邦題 『湖畔荘』上下
原作者 ケイト・モートン
原題 The Lake House(2015)
訳者 青木純子
出版社 東京創元社
出版年 2017/8/31
面白度 ★★★★
主人公 物語は1910年代、30年代、2000年代を行き来するので、一人に決められない。1910年代は高名な女流ミステリー作家アリスの母エリナ、30年代はアリス、21世紀は刑事のセイディ。
事件 ロンドン警視庁刑事セイディは、担当事件を新聞社にリークしたため謹慎処分となった。コーンウォールの祖父の家で過ごすうち、打ち捨てられた屋敷、湖畔荘を偶然発見。そこで70年前に起きた赤ん坊消失事件(迷宮入り)に取り組み始めた。その屋敷の持ち主はアリスで……。
背景 著者の5冊目の翻訳。かなり複雑なプロットの作品だけに、驚愕の結末を含めて驚きに満ちている。語り口は、これまでのゴシック・ロマンス風から謎解きミステリー風に変わっている。ただし”偶然”を多用するプロットには、やはり多少シラケる部分もある。

邦題 『神火の戦場 SAS部隊ナイジェリア対細菌作戦』
原作者 クリス・ライアン
原題 Hellfire()
訳者 石田享
出版社 竹書房
出版年 2017/
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『蘭の館』
原作者 ルシンダ・ライリー
原題 The Seven Sisters(2014)
訳者 高橋恭美子
出版社 東京創元社
出版年 2017/7/21
面白度 ★★★
主人公 現在の部は、ダブリエーズ家長女で自分の過去を探り始める翻訳家のマイア・ダブリエーズ。一方1920年代の主役は、コーヒー農園主の一人娘イザベラ(ベル)・ボニファシオ。
事件 レマン湖のほとりに立つ館<アトランティス>。館主は世界中から赤ん坊を迎え、この館で養育している。その養父が突然死亡。養父は天球儀に養女各人の名前と出生地らしい座標を遺していた。長女マイアはリオに飛んで、自分の出生の秘密が詰まる<蘭の館>を訪ねるが……。
背景 歴史ロマンス小説の第一巻。セブン・シスターズという副題があるように、7人の養女の過去と養父の秘密が徐々に明らかになると思われる。創元推理文庫から出たので本リストに入れたが、謎解きは少なく、伝奇小説とも言い難い。リオのキリスト像設立を巡る歴史物語か。

邦題 『寝た犬を起こすな』
原作者 イアン・ランキン
原題 Saints of the Shadow Bible(2013)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2017/5/15
面白度 ★★★
主人公 シリーズ物なので、ジョン・リーバス(現在はゲイフィールド・スクエア警察署の部長刑事)だが、同署の警部シボーン・クラークも主役級の活躍をする。
事件 女子学生が運転する車が起こした衝突事故。現場の不自然さに気付いたリーバスは、同乗者がいたと推理するが、入院中の女子学生は、なぜか口を開かなかった。一方内部監察室のマルカム・フォックスは、若きリーバスが所属した署で起きた隠蔽事件を洗い出していたが……。
背景 リーバス・シリーズの第19作。現在と過去の事件が語られているが、落ち着いた語り口や変化に富むプロットは健在で、安心して楽しめる。ただしリーバスは一度引退した身。北欧のライバル警察官に比べると、彼の言動にインパクトが多少欠けているのが残念!

邦題 『スパイたちの遺産』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 A Legacy of Spies(2017)
訳者 加賀山卓朗
出版社 早川書房
出版年 2017/11/25
面白度 ★★★★
主人公 元英国情報部員のピーター・ギラム。今は高齢でフランスの片田舎で引退生活をしているが、かつてはジョージ・スマイリーの下で働いていた。
事件 ある日ピーターは、英国情報部から呼び出された。<ウィンドフォール>作戦に従事していたアレック・レーマンとその恋人エリザベスはベルリンの壁で東ドイツ側に射殺された。だが二人の子供たちは、射殺された原因は情報部にあると訴えたのだ。昔の資料は消えており……。
背景 ベストセラーとなった『寒い国から帰ってきたスパイ』の前日譚であり、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の後日譚となるスパイ小説。英国では著者のストーリー・テリングが絶賛されているが、まさにその通り。サスペンス豊かで巧みな語り口には圧倒される。

邦題 『ドラゴン・ヴォランの部屋』
原作者 J・S・レ・ファニュ
原題 The Room in the Dragon Volant(日本独自の編集)
訳者 千葉康樹
出版社 東京創元社
出版年 2017/1/13
面白度 ★★
主人公 短編4本、中編1本からなる日本独自の短編集。
事件 「ローバート・アーダ卿の運命」(悪魔と取引したアーダ卿の人生は?)「ティーン州のある名家の物語」(重婚を隠した男の妻は? 『ジェン・エア』に影響を与えたかもしれない短編)「ウルトー・ド・レイシー」(絞首刑になった男の霊の復讐譚)「ローラ・・シルヴァー・ベル」(一種の妖精譚)「ドラゴン・ヴォランの部屋」(唯一の中編。ナポレオン戦争直後、謎の美人伯爵夫人と出会った英国青年が奇怪な犯罪に巻き込まれていく冒険小説)。
背景 唯一の中編は怪奇物ではなく、当時流行っていたセンセーション・ノベルなので、極めて読みやすいが、今日から見るとプロットが幼稚であるのは否めない。残念。

邦題 『代診医の死』
原作者 ジョン・ロード
原題 Dr Goodwood's Locum(1951)
訳者 渕上痩平
出版社 論創社
出版年 2017/7/30
面白度 ★★★
主人公 事件の実際の捜査担当はスコットランド・ヤード犯罪捜査課の警視ジェームズ・ワグホーン。最終的に謎を解くのは数学者のランスロット・プリーストリー博士。
事件 地方都市パタムに住むグッドウッド医師は、例年通り1か月の休みをとるため代診医を募集した。ロンドンで大きな診療所の医師である独身のソーンヒルが選ばれたが、赴任直後、胃潰瘍に罹っていた患者が急死した。一方その近辺で謎の焼死体が見つかり……。
背景 著者の晩年に書かれたシリーズ作品の一冊。プロット中心のミステリーだが、クリスティの某有名作品と比較されることが多い。確かに意外性はあるものの、無理も目についてしまう。なお本書の初訳は、ROM(2014/3/31)に掲載された。

邦題 『魔女王の血脈』
原作者 サックス・ローマー
原題 Brood of the Witch‐queen(1918)
訳者 田村美佐子
出版社 アトリエサード
出版年 2017/10/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺しのディナーにご招待』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 Death Before Dinner(1948)
訳者 青柳伸子
出版社 論創社
出版年 2017/5/30
面白度 ★★
主人公 シリーズ探偵であるロンドン警視庁犯罪捜査課警部のロバート・マクドナルド。
事件 マルコ・ポーロという文筆家クラブのディナー・パーティが、ロンドンのソーホーにある地下食堂で開かれた。招待者は新規会員となるはずの8人の文筆家。だが正式会員は誰も現われず、8人はペテン師トローネに騙されたと判断したが、なんとトローネは、パーティー散会一時間後、配膳台の下から死体で見つかったのだ!
背景 本邦紹介の第7作。著者の長編は、別名義の作品も含めると全部で71冊になるそうなので、やっと10%が翻訳されたことになる。地味な作風ながら私の好みなので、さらに翻訳されてほしいが、本書に限っていえば、登場人物の描き分けが不十分で、あまり楽しめなかった。

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